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回想、はじめまして
のんちゃんの味方
しおりを挟むその日を境に、のんちゃんは俺を少しずつ頼りにして、懐いてくれるようになった。
数日後、のんちゃんの熱が下がった。
下がったと思えば、いろんなことをする力は強くなるわけで。
「叶恵さん……と、実習生の」
「あ、こ、湖出蒼音です! 」
「ごめん、よろしく。なんでもいいから抑えてて」
「了解です」
「わ、わかりました」
「ちっくんしない! いや、やだーーーー!!」
採血も点滴の刺し直しも一苦労。
抑える係はだいたい2人くらいいないと無理だった。
「ゆうせんせ、きぃーらーいいーーー!!」
「はいはい、嫌いで結構。消毒するぞ」
2人に固定された腕はびくともしない。
抑えててアザにならないうちに、とバットの中の注射器とスピッツを確認する。
「ちっくんやめてーーーーー!! もうきらいっていわないからー!!!」
のんちゃんの懇願を聞き流し、細い血管に目を凝らす。
「叶恵さん、どっちの腕が良さそうだ?」
「うーん、左ですかね」
駆血帯をサッと巻いて、左腕、肘の内側に照準を合わせて、浅く針を刺す。針がブレないように、慎重に、
「うわぁーーーん!!」
「こらこら、暴れない」
「いたいーーーー!いやーーー!!」
……素早く。
スピッツ2本を採ると、圧迫しながら針を抜いた。
「はぁ……鼓膜が破れそうだ…… はいほら、もう終わりだ」
アンパンのキャラクターがついた絆創膏を、細い腕にペタッと貼り付け、叶恵さんにいつもの血液検査に回すようにお願いする。
「ゆうせんせ、ッヒック……だいきらい……ック」
アンパンのキャラクターは好きらしい。
まじまじと丸いキャラクターを見つめていたが、俺を嫌う言葉は忘れない。
まんまるのほっぺをぷっくりと膨らませて……怒っているアピールをしているらしい。
「なんとでも言え。よく頑張ったな」
頭を撫でると、またメソメソと涙を流す。
「うう……きらいなんだもん。もうちっくんじぇったいしないもん…………」
こうなると、後が面倒だということは、ここ数日でわかってきたことだった。
「あーー……」
先に仲直りの提案をしておくことにする。
「ほら、仲直りは? 今日はのんちゃんの好きなお洗濯の絵本にするか?」
ここ最近は、寝る前に絵本を読むことにしている。その予約を持ち掛けた。
「ゆうせんせ、なかよしになってもつぎも、ちっくんするからやだ」
のんちゃんとの関係はできはじめたところだった。
元気で利発なところもあり、言葉や発達は少しゆっくりだが、理解力があるところもわかってきていたから、落ち着いた時にしっかり言葉を交わすようにしていた。
その分、下手なことも言えないが。
ベッドサイドに置いてある椅子に座ると、のんちゃんにゆっくりと話しかけた。
「ちっくんは、のんちゃんの体の味方になってくれるんだ、味方ってわかるか?」
「わかんない」
ふるふると首を振るのんちゃん。まだ絆創膏のアンパンを、丸くなぞって見つめていた。
「こっち見て、のんちゃん」
のんちゃんが、言われたようにまじまじと俺の目を見る。
「のんちゃんの体を、病気から守ってくれるんだよ。血を採れば、のんちゃんの体の様子がわかる。体に入れる時は、どうしても痛いけれどな。痛いだけで、悪いやつじゃないんだ。ほんとーうに悪いやつは、のんちゃんのここ、見えないところにいて、のんちゃんの体にいたずらするんだよ」
人差し指で、のんちゃんの胸の真ん中を突いた。いっぱい泣いた目で、のんちゃんがその指を見つめて、自分の胸を触った。
「ふーん……」
のんちゃんは、少し考え事をするように唇を尖らせる。
「……ゆうせんせも、のんちゃんのみかた?」
思いもよらぬ返事に、こちらが舌を巻く。
のんちゃんは、そうやって理解して考える力がある。
「うん、そうだ。のんちゃん、かしこいな」
そっと頭を撫でると、ちょっと照れたように笑う。……多少、機嫌が治ったようだ。
「じゃあ、また寝る前に来るから。お洗濯の絵本、ちゃんと持ってきといてな」
もう一度頭を撫でると、のんちゃんは早速絵本を用意しようと動き出した。
よし、今日は上手く立ち直れたな。とほっとする。
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