ほしとたいようの診察室

おにぎりマーケット

文字の大きさ
39 / 62
回想、はじめまして

のんちゃんの味方

しおりを挟む




その日を境に、のんちゃんは俺を少しずつ頼りにして、懐いてくれるようになった。





数日後、のんちゃんの熱が下がった。


下がったと思えば、いろんなことをする力は強くなるわけで。



「叶恵さん……と、実習生の」


「あ、こ、湖出蒼音です! 」


「ごめん、よろしく。なんでもいいから抑えてて」


「了解です」


「わ、わかりました」


「ちっくんしない! いや、やだーーーー!!」



採血も点滴の刺し直しも一苦労。

抑える係はだいたい2人くらいいないと無理だった。


「ゆうせんせ、きぃーらーいいーーー!!」


「はいはい、嫌いで結構。消毒するぞ」



2人に固定された腕はびくともしない。
抑えててアザにならないうちに、とバットの中の注射器とスピッツを確認する。


「ちっくんやめてーーーーー!! もうきらいっていわないからー!!!」


のんちゃんの懇願を聞き流し、細い血管に目を凝らす。


「叶恵さん、どっちの腕が良さそうだ?」


「うーん、左ですかね」


駆血帯をサッと巻いて、左腕、肘の内側に照準を合わせて、浅く針を刺す。針がブレないように、慎重に、


「うわぁーーーん!!」


「こらこら、暴れない」


「いたいーーーー!いやーーー!!」



……素早く。
スピッツ2本を採ると、圧迫しながら針を抜いた。


「はぁ……鼓膜が破れそうだ…… はいほら、もう終わりだ」


アンパンのキャラクターがついた絆創膏を、細い腕にペタッと貼り付け、叶恵さんにいつもの血液検査に回すようにお願いする。



「ゆうせんせ、ッヒック……だいきらい……ック」



アンパンのキャラクターは好きらしい。
まじまじと丸いキャラクターを見つめていたが、俺を嫌う言葉は忘れない。

まんまるのほっぺをぷっくりと膨らませて……怒っているアピールをしているらしい。


「なんとでも言え。よく頑張ったな」


頭を撫でると、またメソメソと涙を流す。


「うう……きらいなんだもん。もうちっくんじぇったいしないもん…………」


こうなると、後が面倒だということは、ここ数日でわかってきたことだった。


「あーー……」


先に仲直りの提案をしておくことにする。


「ほら、仲直りは? 今日はのんちゃんの好きなお洗濯の絵本にするか?」


ここ最近は、寝る前に絵本を読むことにしている。その予約を持ち掛けた。


「ゆうせんせ、なかよしになってもつぎも、ちっくんするからやだ」


のんちゃんとの関係はできはじめたところだった。

元気で利発なところもあり、言葉や発達は少しゆっくりだが、理解力があるところもわかってきていたから、落ち着いた時にしっかり言葉を交わすようにしていた。

その分、下手なことも言えないが。

ベッドサイドに置いてある椅子に座ると、のんちゃんにゆっくりと話しかけた。



「ちっくんは、のんちゃんの体の味方になってくれるんだ、味方ってわかるか?」


「わかんない」



ふるふると首を振るのんちゃん。まだ絆創膏のアンパンを、丸くなぞって見つめていた。


「こっち見て、のんちゃん」


のんちゃんが、言われたようにまじまじと俺の目を見る。


「のんちゃんの体を、病気から守ってくれるんだよ。血を採れば、のんちゃんの体の様子がわかる。体に入れる時は、どうしても痛いけれどな。痛いだけで、悪いやつじゃないんだ。ほんとーうに悪いやつは、のんちゃんのここ、見えないところにいて、のんちゃんの体にいたずらするんだよ」


人差し指で、のんちゃんの胸の真ん中を突いた。いっぱい泣いた目で、のんちゃんがその指を見つめて、自分の胸を触った。


「ふーん……」


のんちゃんは、少し考え事をするように唇を尖らせる。


「……ゆうせんせも、のんちゃんのみかた?」


思いもよらぬ返事に、こちらが舌を巻く。
のんちゃんは、そうやって理解して考える力がある。


「うん、そうだ。のんちゃん、かしこいな」


そっと頭を撫でると、ちょっと照れたように笑う。……多少、機嫌が治ったようだ。


「じゃあ、また寝る前に来るから。お洗濯の絵本、ちゃんと持ってきといてな」


もう一度頭を撫でると、のんちゃんは早速絵本を用意しようと動き出した。




よし、今日は上手く立ち直れたな。とほっとする。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...