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回想、はじめまして
附属学校の内科検診
しおりを挟むそれから数日間、のんちゃんは大人しかった。
薬も点滴も、ごねることはあったけど、暴れて拒否することはしなかった。
別人のように落ち着いたのんちゃん。
ミトンなしで点滴しても、抜去することはなかった。
しかし、口数は少なくなったらしい。
優先生との夜の絵本の時間だけは、目を輝かせていたけれど、それ以外の時間は黙々と絵を描いたり、1人で遊んだりしていた。
……
そして、のんちゃんの事件から3日後。
その日の勤務は、例の桜堂大学附属校の健康診断へ行く予定だった。
附属校の校医は大学病院の先生で担う、ということだ。
病棟で朝の回診を済ませ、午前の処置や外来を済ませると、休む暇もなく午後から健康診断へ。
生徒を直接診る、内科検診を担当することになっていた。
いわゆる、お腹や背中に聴診器を当てて、音を聴くやつである。
小児科からは優先生と俺が、内科からは同期の吹田先生と他に2人の先生、産婦人科からも1人、先生が駆り出されていた。
桜堂大学附属校は、中高一貫校なので、学年は6学年。全校で生徒は500人ほど。
医師1人に対して、約80人の生徒を3時間以内で診るような形だった。
診察会場は広い部屋だった。カーテンで仕切られた簡易的な診察室が6つ並んでいる。
だいたい2分に1人か……と考えていると、優先生から飲み物を手渡された。
「早く、正確に。基本を忘れずに。これも大事な仕事だ」
礼を言って、言葉ごと受け取る。
「じゃ、またあとで」
優先生はそう言うと、『2番』の自分のブースに消えていった。
ブースの中は、机と椅子、簡易ベッドが用意されていて、簡単な診察室になっていた。
白衣を羽織り、名札を首から下げる。
補助で入ってくれる看護師さんに挨拶をして、簡単な打ち合わせをする。
それからすぐに、健康診断が始まった。
……
健康診断は滞りなく済み、終了後に優先生と合流した。
優先生は、今日の子どもたちの名前が載った名簿を見ながら、険しい表情をしていた。
「……どうかしましたか?」
「虐待の疑いがある子がいてな。学校側と相談して、児相に通報した」
学校での検診だ。そういうことも、ごく稀にある。見ると、中等部2年生の女の子だった。
「腹部のエコーはかけてみたが……少し気になってな」
言いつつ、エコー写真を取り出す。
覗き込むと、異常は無さそうだったが。
「……身体のアザ、酷かったですか?」
「あぁ、それも着衣すると見えないところに。担任と少し話してから戻るから、先に病院戻っててもらえるか?」
「わかりました。あ、でも優先生、今日は……!」
ここのところ、のんちゃん以外の優先生の受け持ちの子どもの容体が、少し良くない。予定外の入院になる子もいた。
のんちゃんがおとなしい分、他の子どもたちにも目と手は回るが、充分とは言えないし、なにより仕事が膨大だった。
優先生は病院で寝泊まりして、気づいたら10日くらい家に帰ってなかったから、俺は優先生の体の方が心配だった。
いつものことなのだろう。
優先生は相変わらずタフなので、なんとも思ってないように仕事をこなしていたが。
「わかってる。ありがとう。病院戻って、のんちゃんに絵本読んだら帰るよ。あの一件から恐ろしく聞き分けがいいから」
今日は、俺がこのまま当直で、優先生は日勤だった。今日だけでも早めに帰って休んで欲しいと思っていたのだ。
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