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回想、はじめまして
のんちゃんのきもち
しおりを挟む一足先に病院に戻り、夕方の回診を行う。
のんちゃんの病室に入ると、真っ先に言った。
「ゆーせんせーは?」
今日も絵を描いていた。何を描いているのかはわからないが、クレヨンを熱心に動かしているのだけは見えた。
「優先生、あとでくるよ。今日はのんちゃんに絵本読んだら、お家に帰るって」
「ふーん……」
ここ2週間くらい、夜間になにかあったら駆けつけていたのは優先生だったから、少し寂しいのかもしれない。
「今日は、夜なにかあったら、陽太先生が来るよ」
「せんせー、きてくれるの?」
「うん。来るよ。ご飯前にもしもしさせて」
のんちゃんは、少し緊張したように頷く。
前みたいに拒否はないけれど、慣れない医師には緊張気味になることに気づいた。
ステートを手で温めると、のんちゃんの胸にそっと当てる。のんちゃんは、じーっと、俺の手元を覗いている。
肺の音に異常は無さそうだ。
「……怖い?」
聞いてみたら、のんちゃんは首を振る。
「よし、いいよ。じゃあお母さん指出して」
胸の音を聴いたあとは、モニターで酸素濃度を測る。
こちらも、問題はなさそうだ。
「ん。大丈夫だね。健康」
手元のカルテにメモをして、落としてる点滴をチラッと見た。1時間後……優先生がちょうどのんちゃんの部屋に来る頃に、点滴が終わるだろう。
情報をカルテに書き込んでいると、ふと、のんちゃんが呟いた。
「……こわくない」
「……え?」
「やさしいからこわくない」
笑ってもいないし、泣いてもいない。のんちゃんの、凪いだような表情は初めて見た。
きっとここ数日、思うことがたくさんあったのだろう。
「……何が一番怖い?」
手元のカルテをしまい、のんちゃんと目が合うようにしゃがんだ。
「ちっくんとね、……おこられたとき」
小さな唇をツンと尖らせて、そう言った。のんちゃんの表情は、万華鏡のようにころころ変わる。
「落ち込んでるの?」
そう聞くと、みるみるうちに、のんちゃんの目が潤んでいき……。
頷きながら静かに涙をこぼした。
そうか、怖かったのか。
思えばあの時、のんちゃんは俺にも叱り飛ばされてるし、優先生にも説教をくらっていたのだ。
無理はないか……まだ5歳だし。
それにしても、豪快に怒鳴った優先生に、『きらい』って言うんだから、そっちもすごい根性だと思うけど。
「怒るのは、のんちゃんの命がとっても大事だからだよ」
諭すように言ってみたけれど、その意味がわかるのはもっと先だと思い、言葉を考え直す。
そっと頭を撫でながら、これだけは伝えておくことにした。
「大丈夫。みんな、のんちゃんのことが大好きだよ」
ティッシュで涙を拭いてあげると、のんちゃんは言った。
「ゆうせんせーも? ……よーたせんせいも?」
初めて本気で怒られて、突き放された感じがあったのだろう。
もう一度、のんちゃんの目を見て、しっかりと伝えた。
「うん。優先生も、俺も。のんちゃんのことが大好きだよ」
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