ほしとたいようの診察室

おにぎりマーケット

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回想、はじめまして

嵐は突然に

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「じゃあ、お疲れ」


久しぶりに白衣姿じゃない優先生を見た気がする。

「お疲れ様です! ゆっくり休んでくださいね」

19時頃、優先生は帰路に着いた。





俺も、当直業務に移ろう。

そう思って、カルテの整理をしていた。

最近入院してきた子の受け持ちを持ったけど、初めての症例で治療も悩みながらの実施だった。

パソコンで論文をかき集めながら、夕食のパンを片手でかじる。

優先生から借りた、小児の主な病気をまとめた参考書もまだ読み込んでいる途中だ。

右手に付箋、左手にパンを持ちながら、静かな医局で1人、作業に没頭しはじめる。




時刻は19時20分。



PHSに緊急の電話が入った。

けたたましいくらいの音に、ドキッとしながら、ワンコールで電話に出る。

「はい、小児科医局です」


「小児の当直の先生へ。至急。10分後救急車入ります。13才女児、腹部損傷。心停止。応援願います」



夜間救急の外来へと走る。

慌しく受け入れ準備をしていると、続報が入った。


「心拍再開、小児の澤北先生乗ってます」


?!


帰ったんじゃないの?!



思いがけず、救急車がドクターカーになっていたらしい。

救急車が到着し、救急隊が情報を流す。


「患者は13才女児、白河咲、学校近くの道で倒れているところを澤北先生が発見。その後、心停止、呼吸停止。AED使用。10分後に心拍再開。現在、血圧80/40、蘇生バック使用でサチュレーション88%」


制服姿の女の子が処置室へと運び込まれた。

救急車からは優先生と、おそらく一緒に救命作業にあたった男性が降りてきた。

すかさず、優先生が気管挿管を実施する。



その横顔は、深い後悔の色が見えるようだった。




「優先生、この子……」


制服は、昼間健康診断で行った桜堂大学附属の学校のものだった。

俺が息をのむのと同時に、


「……昼間、俺が診た中等部の子だ」


と。優先生は呟いた。

俺は腹部のエコーをかけ、モニターに目を凝らす。

内臓に損傷が見られることが明らかになる。

……おそらく、虐待……腹部に強い力での暴力をうけたようだ。身体のあちこちに浮き出ている内出血も酷い。新旧、さまざまな内出血が、着衣したら見えないところに刻まれていた。

……それだけ、バレないように狙って、日常的に暴力を浴びせたのだ、この子に。


処置室には言いようもない怒りが、立ち込めていた。


すぐさま、彼女は手術室に運び込まれて、開腹手術となった。





その間に、学校や警察、児童相談所と、さまざまなところへと連携がなされていく。


「白河さんの担任の井田と申します。学校の方は僕から連絡を入れて、今後の話し合いなど協力していきます」


そう言って丁寧に頭を下げたのは、優先生と救急車を降りてきた男性だった。

なんと、桜堂附属の先生で、しかも彼女の担任だったらしい。


井田先生もまた、突然生徒が命の危険にさらされたことに動揺があったに違いない。



「主治医は俺が持つ」



きっぱりと言ったのは、優先生だった。

優先生と井田先生は同い年くらいに見えた。
それもそのはず、2人は旧知の仲だというから、驚きである。


そんな偶然が重なりに重なって……彼女の命は助かったわけか。


「わかりました、何かサポートできることがあれば、言ってください」


俺はひとまずそう告げて、当直業務へと戻った。
きっと優先生が、明日からまたとんでもなく忙しくなることが予想された。



……手術は無事に終わる。一命を取り留めた彼女は、ひとまずICUで全身管理となった。



優先生は彼女の手術が終わり、状態を確認してから、2度目の帰路となった。
0時を回り、日付はすでに変わっていた。



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