女公爵は軽薄に笑う

下菊みこと

文字の大きさ
4 / 33

女公爵は本性を魅せる

しおりを挟む
「あらあら…知らずに喧嘩を売ったの?可哀想」

「ふふ、ご主人様。彼が知らないことなどわかっていたでしょう?」

「うふふふふ」

「な、なんだよ…なんなんだよ…!」

「我らがターブルロンド皇国は、人間と交わった神たちが子孫のために残した国よ」

「そ、それは神話の話だろうが!」

「ええ。正しくは神ではなく化け物たちですからね」

「はあ!?」

「例えば私の家はエルドラドの黄金を守っていた邪竜の家系よ。特に私は先祖返りだから、邪竜の姿にもなれるわ。ここではあまりにも狭いから、変身してはあげないけれど」

「じゃ、邪竜…?そんな、バカな…」

「私は天使の家系ですね。まあ、ご先祖様は天使とは名ばかりの極悪非道だったそうですが。私も先祖返りですから、天使の羽根くらいは出せますよ?ほら、こんな風に」

化け物が白い羽根を広げた。本物…なのか。

「ひっ…」

「ついでにいうとね、我らがお姫様の家系…皇族は、私の家系とは別の系譜の竜種よ。極東の国にいらした頃は竜神として崇められていたらしいわ」

「…っ!」

「つまり貴方は、この国に手を出した時点で終わっていたのよ」

最初から負けなんて、なんで俺は欲をかいてこんな国に来てしまったのか…。

「…た、助けてくれ!なんでもするから!頼む!」

「んー…そうねぇ…まあ、貴方が私のカジノにちょっかいをかけていた証拠でも差し出してくれたら、命までは取らないけれど…」

「机の!一番上の引き出しだ!そこにある書類がある!」

「あら、ありがとう。リュカ」

「はい。…これですか?」

「そ、そうだ!だから許してくれ!」

「…ふーん。住民たちからの陳情書、ね。なるほど、カジノのせいで治安が悪化?よく考えたわね。実際には全く逆で、カジノのおかげで街が潤い治安が良くなってきたというのに」

「住民たちからの陳情書、というのが悪質ですねぇ」

「わ、悪かった!認める!それが偽造なのは認めるから!」

「…。リュカ。治安部隊に連絡。その書類を証拠として提出」

「はい、ご主人様」

「牢屋で一生反省していなさい」

「い、一生…?」

「公爵家のカジノにちょっかいをかけておいて、牢から出てこれると思って?まあ、ある意味牢は安全よ。私の手を離れるのだから」

一生牢など考えたくもないが、この化け物たちに殺されるくらいなら、その方がマシだ。

「わ、わかった…わかりました…」

「うふふ。素直は好きよ」

「治安部隊は今からゲートを広げて来てくださるそうです」

「あ、そうそう。アレキサンドライトは私が貰うわ。いいわね?」

「はい…」

俺はもう戦意を喪失していた。そのまま治安部隊とやらに捕まって、監獄の牢に閉じ込められた。

「はぁ…全く。普通の人間たちにとって私達が異質なのはわかるけれど、あんまりな反応をされると傷付くわ」

「ご主人様。そんな顔をなさらないでください。…あの人間、一発チェーンウィップで叩いておけばよかったな」

「ああ、そういえばあの人本人には暴力を振るってなかったわね。一発ハリセンで叩いてもよかったかも…なんてね?」

アンジェリクが戯けてリュカにウィンクしてみせると、リュカの表情は穏やかになる。

「ふふ。ご主人様がお気になさることなど何もありませんからね?」

「ええ。ああ、そうだ。せっかくここまで来たんですもの。美味しいカフェがあるそうよ、寄って行きましょう?」

「いけません。もうティータイムは楽しんだでしょう。夕飯が入らなくなります」

「はーい…せっかくリュカと一緒に楽しめると思ったのに…」

「それはまた別の機会に。さあ、帰りましょう、ご主人様」

「ちぇっ」

リュカが馬車を走らせる。アンジェリクは先程、リュカに庇われて抱きしめられた時の温もりを思い出してクフフと小さく笑う。アンジェリクはその胸の温かさの理由を、幼馴染との友情の延長線だと勘違いしたままだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...