女公爵は軽薄に笑う

下菊みこと

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女公爵は動物園を視察する

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アンジェリクはリュカを連れてエルドラド公爵家直轄の動物園の視察に来た。

「うふふ。入場口での接客は丁寧でいい感じだったわね」

「そうですね。さあ、まずはどこから行きましょうか?」

「マヌルネコ!マヌルネコの展示に行くわよ!」

「最初から目玉の動物を見に行ってどうするんですか…」

アンジェリクは猫好きである。この動物園ではネコ科エリアが最も力を入れられている。

「だめ?」

「ダメではありませんが…イヌ科エリアか鳥類エリアから行きませんか?」

「じゃあハシビロコウ見に行きましょう、ハシビロコウ」

「ええ。行きましょう、ご主人様」

早速鳥類エリアに向かうアンジェリクとリュカ。

「あ、見て、リュカ。フクロウよ、可愛らしいわ」

「ご主人様は猛禽類がお好きですか?」

「可愛らしいんだもの。ほら見て、羽がふわふわ。目もくりくりでなかなかの美人…美鳥?だわ」

「たしかにあのフォルムは愛おしいですね。まあ、猛禽類なので油断なりませんが」

「ふふ。あ、鷹だわ。鷹狩りとかもいいわよね」

「今度やってみますか?」

「自分で猟銃使った方が速いからやめておくわ」

「さすがはご主人様」

仲良く並んで動物園を楽しむアンジェリクとリュカだったが、ふとある展示を見たアンジェリクが叫び出す。

「ちょっと待って!鶴だわ!鶴よ!報告受けてないわよ!?」

「ご主人様、この間瀕死の鶴を保護して一時的に預かるとご連絡があったはずですが?」

「え!?嘘、私それOKしたの!?」

「してましたよ」

「いやー!ベアトリス皇女殿下に報告してないー!きっと寝ぼけてたのね、私!もー!」

リュカはアンジェリクの慌てぶりに少し驚く。

「なにか問題がありましたか?」

「ベアトリス皇女殿下は鶴が好きでしょう!?きっと知ったら見たいと言われるはずだわ!一時的に預かるってことはいつか自然に返すのよね!?帰ったらすぐにベアトリス皇女殿下に手紙を出さないと!」

「…そういうことでしたか。気付かず申し訳ありませんでした」

「リュカはなにも悪くないわ…あーあ…ショック…」

「ご主人様…」

「はぁ…はやくハシビロコウを見て癒されましょう…」

「そこまで落ち込んでないようでなによりです」

意外と元気なアンジェリクにほっとしつつもちょこっと呆れるリュカ。そんなリュカに構うことなく癒しを求めて彷徨うアンジェリク。

「ハシビロコウはどこかしら…あ、ペリカン。可愛らしいわ」

「ペリカンがいるということは、ハシビロコウの展示も近いはずですね」

「そうよね、仲間だし。…え、あ、リュカ、リュカはやく!こっちよ!」

「ご主人様!?」

アンジェリクが駆け出した。リュカは何事かと後を追う。

「ほら、見て!ハシビロコウが!飛んでる!」

「え?…飛んでる…飛ぶのか…短い飛行でしたね」

「可愛かったぁ…ハシビロコウ飛ぶんだぁ…ね、リュカ、すごかったわね!」

「はい、すごかったですね。ご主人様」

未だにキラキラと目を輝かせるアンジェリクに、リュカは愛おしさが募る。それに気付かないフリをして、アンジェリクに微笑みかける。

「次はイヌ科エリアに行きましょうか」

「私狐がみたいわ!狼もいいわね!」

「ええ。では行きましょう」

イヌ科エリアは鳥類エリアよりも大盛況である。はぐれないように、手を繋ぐアンジェリクとリュカ。アンジェリクはにまにまとにやけているが、リュカは何も言わない。

「リュカ、たぬきよ!まん丸くて可愛らしいわ!」

「フォルムだけみるとむしろネコ科っぽい気がするんですがね」

「なんでイヌ科なのかしら?」

「おや、リカオンですね」

「しゅっとしたフォルムがたまらないわよね」

「美しいですね」

「コヨーテがいますよ、ご主人様」

「待って、美人…美犬過ぎない?猫派としては由々しき事態だわ」

「そこで狼の出番ですよ」

「くぅっ…ここでイヌ科に屈するわけには…」

「犬派はいいですよ…とても良い沼ですよ…」

「犬派兼猫派を名乗ろうかしら…」

「それがよろしいかと」

そんなこんなでイヌ科エリアを楽しんだアンジェリクとリュカは手を繋いだままネコ科エリアに向かう。ネコ科エリアもイヌ科エリアに負けないほど大盛況である。

「やっぱりネコ科エリアも混んでるわね。従業員達が頑張ってくれているみたい。助かるわ。この動物園も今のところ合格点ね」

「ええ。あ。トラですよ、ご主人様」

「わあ、可愛い!やっぱりネコ科はいいわね!」

「イヌ科も可愛らしいのですがね」

「リュカはイヌ科が好きね」

「ええ、好きですよ」

「私、やっぱりイヌ科も好きだわ。ネコ科が一番だけれど」

「!…それは良かった」

にこりと微笑むリュカに、微笑み返すアンジェリク。手を繋いでいることもあり、周りからはカップルに間違えられているかもしれない。

「あ、ジャガーだわ!可愛い!」

「あちらにはヒョウもいますよ、ご主人様」

「パラダイスだわ…あ、ライオン!可愛い!」

はしゃぐアンジェリク。対してリュカはきょろきょろと辺りを見回していた。

「あ。…ご主人様」

「なあに?リュカ」

「マヌルネコの展示を見つけましたよ」

「本当に?行きましょう!」

リュカと手を繋いだまま走り出すアンジェリク。

「わあ、本当にマヌルネコだわ!可愛い!」

「もっふもふですね。あ、ジャンプした」

「可愛いー!あ、近寄ってきた。威嚇してる?可愛い!」

「あっちにいる子は爪とぎをしていますね」

「本当だ!立ってるー、可愛いー!」

「ふふ」

年相応にはしゃぐアンジェリクに、リュカは癒される。

「おや、あちらはマヌルネコの子猫のようですね」

「え、子猫!?どこどこ?」

「ほら、こちらです」

「んー?…あ、小さくて見えなかったわ!遠くにいる子ね!」

「ええ。可愛らしいですね、ご主人様」

「本当に可愛い!」

「しばらく見ていきますか?」

「もちろん!」

しばらくの間マヌルネコの展示に釘付けになったアンジェリクとそれを見守るリュカ。

「はぁ、可愛かった。次の展示に行くわよ、リュカ」

「はい、ご主人様」

ようやく先に進むアンジェリクに、リュカは黙ってついて行く。

「あら、チーターだわ!可愛らしいわね」

「ピューマもいますよ、ご主人様」

「可愛いー!あ、そうだわ。お土産物店でマヌルネコのぬいぐるみ買ってもいいかしら?」

「もちろん構いませんよ」

「うふふ。…そろそろ時間も時間だし、帰りましょうか」

「はい、ご主人様」

こうしてアンジェリクとリュカはお土産のぬいぐるみを買って、ホテルに帰った。
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