秘密の多い彼との関係を切れない私の話

下菊みこと

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危ない彼との仲直りのお話

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私は国一番の商家の一人娘だった。

早くに両親を亡くすと、商いは叔父が継いだ。

けれど叔父は、遺産は丸ごと私に渡してくれた。

継いだのは本当に商いだけ。

そんな叔父は今、商いを上手くやっていて自力で富豪になっている。

一方で私は、資産運用をして不労所得だけで贅沢な生活を送れるようにした。

そんな私には五年前から恋人がいる。

恋人は秘密の多い人で、どこで働いているとか家族のこととか、一切教えてくれない。

デート代はいつも彼が出してくれるし、生活費は折半だし、結構な頻度でプレゼントもくれる。

けれど彼自身のことは、聞いても曖昧に濁されて何も教えてくれない。

そんな明らかに怪しい彼との関係を切れない私は、きっと人から見れば滑稽だろう。

それでも彼が好きなのだ。

たとえ、知らない美女と二人で仲睦まじく歩く姿を見ても…彼が好き。



















「ただいまー!」

「おかえりなさい、クリス」

「エレナ、はいこれ」

「…これは?」

「いつも家事を任せちゃって悪いからさ、プレゼント」

彼がくれたのは、可愛らしいネックレス。

「さっそくつけてみせてよ」

「うん」

つけてみせれば、彼は満面の笑み。

「超絶可愛い!」

「そうかな」

「そうだよ!」

こうして言葉を交わすだけで、幸せを感じる。

彼はどうなんだろうか。

あの美女が本命で、私には何かの目的で近付いただけ?

だとしても、私から別れは言い出せなくて。

いっそ、彼の方から捨ててくれればと…そう思って、一世一代の大勝負に出た。

「あのさ、クリス」

「なに?エレナ」

「結婚とか、考えてる?」

「…え?」

「私と結婚したい?」

面倒くさい女だなぁと思われるだろうか。

捨てられるだろうか。

クリスは気まずそうな顔をした。

「あの、俺…」

「ううん、いいの。ごめんね」

「エレナ、俺さ」

「別れたくなったらいつでも言ってね」

「え…」

彼は私のことを見つめる。

貴方から言ってくれれば、いつでも別れるつもりだと…そんな私の態度に驚いたのだろうか。

「…エレナ、大切な話をしていいかな」

「?」

「俺は、裏社会の人間だ」

「!?」

「マフィアなんだ、俺」

彼が言うことには、彼はマフィアの幹部で。

なのにカタギの私に一目惚れしてしまったのだと。

だから、身分を偽って私に近づいて…そして私と両想いになって、付き合ったのだと。

今まで色々なことを秘密にしていたのは、私を守るためだったと。

そして、こんな話を聞いてしまったからには…本当に結婚するか、この世とおさらばするかだと。

「…マジですか………」

「マジ。ごめん」

「…結婚しましょうか」

「うん…ごめん…」

「…話してもらえてよかった」

私の言葉にクリスは顔を上げる。

「え?話して良かったの?」

「だって、おかげで結婚できるし」

「え、結婚喜んでくれるの?」

「だって、好きだし」

「…!」

でも、出来ればもうちょっとロマンあるプロポーズとか欲しかったかな。

私がそう呟けば、彼はどこから取り出したやら薔薇の花束と婚約指輪を差し出してきた。

「結婚してください!」

「…ふ、ふふ。うん、いいよ」

「エレナー!!!」

「でも、今日一緒にいた人はいいの?」

「え!?見てたの!?ただの同僚だから大丈夫!」

ただの同僚かぁ。

そっかぁ。

それでよかったと思ってしまう辺り、やっぱり私に彼から離れるなんて無理なんだろう。

「じゃあ、早速婚姻届を出しに行こうか。いや、まずは叔父さんたちにご挨拶?」

「叔父様は商いで忙しいから、挨拶に行くなら時間かかるよ」

「でもこういうのはやっぱりちゃんとしないと!」

「私は貴方のご家族にご挨拶しなくていいの?」

「俺は君と同じで天涯孤独の身の上だし、マフィアの方のファミリーのことなら会わせる気はないよ。危ない奴らだからね」

色々知らないことばかりだ。

知ることができて嬉しいと思う私は手遅れなんだろう。

「じゃあ、今度二人で叔父様のところに挨拶に行く?」

「うん!」

彼は人懐こい笑みで私を抱きしめる。

「今まで色々黙ってて本当にごめんね」

「うん、いいよ」

「愛してる」

「私も」

こんなやり取りにさえ幸せを感じてしまうのだから、もう仕方がない。

諦めて彼に全てを委ねる他ない。

「ありがとう、話してくれて」

「俺こそ、結婚してくれてありがとう」

「ふふ、不束者ですがよろしくお願いします」

「こちらこそだよ」

ぎゅっと抱きしめ合う。

「あ、でも一応教えておくね。今日の同僚、男だから」

「…え?」

「華奢で美形だから、女装も得意なんだよね。潜入調査にカップルのフリはしたけど、本物の男。ほら、写真も見せてあげる」

「え…え、本当だ!」

「華奢だけどちゃんと男だろ?」

「うん!」

ほっとした。

やっぱり彼女…いや、彼のことは気になってたから…。

でもこれでもう安心だ。

「私、男の人に嫉妬してたんだね」

「嫉妬してくれたのー?えー、嬉しい。エレナ大好き」

「ふふ、嫉妬されたのに喜んでくれるの?」

「エレナからの嫉妬ならもう大歓迎!」

「そっか」

なんだか、私は…思っていたよりずっと、彼に愛されていたらしい?

「ねえ、私のこと好き?」

「愛してる!」

「そっか…一人で勝手に諦めててごめんね。私も愛してる」

「エレナー!」

ぎゅうぎゅう抱きしめられて、ぎゅっと抱きしめ返す。

そして後日、本当に叔父に挨拶に行き婚姻届を出した。

心底幸せそうに届けを教会に出す彼に、私も余計に幸せになってしまった。
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