エステル家のお姫様は、今日も大切に愛される。

下菊みこと

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同人誌即売会

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さて、ウラリー王国では年に二度、春と秋に聖都の大聖堂内で同人誌即売会が開かれる。

なんでそんなことになっているかというと、数百年前の聖女様が「コミケが恋しい」と発言したから、とのこと。

聖女。神が時折特別な力を与える対象である。なぜか女子に限られて、なぜか必ず前世の記憶とやらを思い出す本当に特別な存在だ。

神の与える特別な力の他に、前世の記憶とやらで異世界の知識を与えてくれるため本当に大切な存在である。

で、その同人誌即売会にて、何故かアンリエットとジャンヌは売り子として堂々と活動していた。護衛数人も連れてはいるが、護衛というより売り子のお手伝いと化していた。

「一度参加してみたかったの!わがままを聞いてくれてありがとう、みんな!」

「…アンリエット様が楽しいならそれで」

「すっごく楽しい!!!」

食い気味に反応するあたり、本当に楽しいらしい。しかし、ここで閉じた状態で側に置いてあった魔道具の日傘が反応した。

「アンリエット様、少しだけお休みください。興奮し過ぎです」

「…はーい」

そして、アンリエットの書いた百合小説は案外人気が出ていた。

多目に刷っとけと思ってそれなりの量作っておいたのだが、一日目に買ってくれた数人が口コミを広げてくれて、二日目、そして今日である最終日には売り尽くせそうな勢いだ。

「ふう」

一休みするアンリエット。だが、確かな達成感にやはりどうしても心踊る。ついついニマニマとしてしまう頬を押さえる。

ちなみにこの同人誌即売会、貴族も平民も垣根を越えての交流会でもある。このイベントが始まってから、貴族と平民の間の溝は浅くなったと言われている。

そして、そのコミケを恋しがった聖女様はなんとエステル公爵家出身だったとかなんとか。

「ふふ、こんなイベントにも参加できるようになるなんて。ジェイド様には感謝しなきゃ」

「おや、それはそれは」

聞いたことがある声にアンリエットが顔を上げれば、そこにはジェイド。

「ジェイド様!?」

「やあ!君が面白いことをしているとジスランに聞いて、せっかくだから来たぜ!俺にも三冊くれよ。布教用と保存用と読む用」

「ど、どうぞ!」

「あとジスランの分も三冊くれ。同じく布教用と保存用と読む用ね」

「はい!」

合計六冊渡せば、ジェイドは笑った。

「本当は、ジスランも自分で来たかったってさ。でも、まだまだこの時期は忙しいからな。来年も参加するのか?」

「わかりません…」

「なら、ぜひ来年も書いて売りに来てくれ。ジスラン、来年こそはと息巻いてるからさ」

「は、はい!」

「あとはい、今日の飴玉だ」

アンリエットの手のひらの上に飴玉の雨を降らせたあと、じゃーねー、とひらひらと手を振って行ってしまったジェイド。アンリエットはそんなジェイドと、ジェイドに本を買ってくれと頼んでいたジスランに胸が熱くなる。来年も参加できるならそうしよう。アンリエットはそう思った。
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