エステル家のお姫様は、今日も大切に愛される。

下菊みこと

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ヴァンパイヤ

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「おっと、そなた達の相手は我らがしようではないか」

そこに、美しい男が現れた。人狼達の動きが止まる。

「ヴァンパイヤの一族が長、アーベント。貴様ら人狼を、相手してくれよう」

人狼達は一瞬、一瞬だけ足を止めてしまった。

が、狂信者達はそんな主の様子にも気付かないで、アーベント…ではなく、ジェイドの方へ襲いかかった。

「ふん。三下ばっかりが相手かよ。まあ、峰打ちで勘弁してやるさ。恨みはないからな」

ジェイドは剣の形の魔道具を取り出す。そして己の魔力を纏わせて、それで星見教の狂信者達を次々と薙ぎ倒し気絶させていった。

それを見て人狼達は…負けを悟った。

負けを悟ったので…アーベントに捨て身の猛攻撃を仕掛けた。せめて、アーベントだけでも仕留めたかった。人狼は強いのだと、見せつけたかった。

「ふん…」

アーベントは、その攻撃を全て受けた。身体中あちこちを、人狼達に噛み砕かれた。

…が。

「天使に先程、これでもかと血を捧げてもらった故な。この程度では死なん」

アーベントは、アンリエットから血を捧げられていた。それも、アンリエットが貧血で倒れるほどに。

ジェイドもジャンヌも止めたのだが、いかんせん本人の意思が固くどうしようもなかったのだ。

代わりに今、ジェイドの持ち込んだ治癒魔法の魔道具で治療を受けているのでしばらくすれば回復するとは思われるが。ちなみにこちらの魔道具も、アンリエットの爪を触媒として一級品である。

「では、反撃と行こう」

アーベントがそう言うと、地面に滴ったアーベントの血から無数の槍が飛び出した。アーベントの…ヴァンパイヤの、血を操る術である。

血で出来た鋭い槍は、人狼達の身体を容赦なく貫いた。

『天使の血』を捧げられた、アーベントの完全勝利だった。










「…ぐううううううっ!!!」

ほぼ即死の人狼達の中で、唯一生き残ったのは族長であろう狼ただ一匹。

「言いたいことがあれば聞こう」

「何故…何故貴様らヴァンパイヤは我ら人狼を棄てたのだ!」

人狼のその言葉に、アーベントは大きく目を見開いた。そして、悲しげに呟いた。

「なるほど、そこから誤解が始まっていたのだな。そなたら人狼が何故我々を敵視しているのか理解出来なかったのだが…そういうことであったか」

「…?」

「我らヴァンパイヤは、人狼を棄てたという認識はない。長く貢献してくれたそなたらを、奉仕種族という任から解放したつもりでいたのだ」

「………は?」

あまりにも、間抜けな声が出た。つまり、人狼は、我らは、勝手な勘違いでヴァンパイヤと敵対して…勝手な勘違いで、深手を負わせることさえ出来ずに自滅したと、そういうことか?

「ふざけ、ふざけるなっ、ふざけるなっ!ふざけるなぁっ!!!」

三日月の夜に、狼の慟哭がこだました。月が赤く濡れて、人狼の一族の終わりを告げた。
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