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結局のところ未練はあった

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「愛してる」

「はぁ…」

「この間はすまなかった、けど本当に浮気じゃないんだ」

「そうですか…で、後輩さんの悩みは解決したんですか?」

「えっと…」

彼は目をそらす。

「…悩みなんて口実で、俺と仲良くなりたかっただけだと言われた。君から俺を奪いたかったと」

「でしょうねぇ」

「君の言った通りだった。嫉妬するななんて言ってすまなかった」

「…で、どうするんですか?」

「え」

彼と無理矢理目線を合わせて、聞く。

「私と別れて、その後輩さんと付き合いますか?」

「なっ…」

「なに驚いた顔してるんですか。相手は、たまにしか会えない恋人より優先した女の子ですよ。それも一つの選択肢では?」

彼はショックを受けたような顔をする。

「それはっ!た、たしかに君とのたまにしかないデートの時間にずっと彼女からの悩み相談のことを考えていたのは悪かったと思ってる!でもそれは、後輩に頼られたから…下心はなかった!ただ先輩として良いところを見せたかっただけなんだ」

「へー」

自分で思ったより、平坦で冷たい声が出た。驚いた彼は固まるが、私自身も驚いて一瞬固まる。でも、なんとか気を取り直して続ける。

「でも、貴方は魔法省のエリート幹部なのですし後輩さんじゃなくても狙う女性は多いでしょう?」

「それは」

「私と別れても、女性には困らないはずです」

「俺はそれでも、君が良いんだ!」

彼は頑なに別れを拒否するけれど、私としてはもういい加減にしてほしい。

「このやり取り、何回目かわかりますか?」

「え」

「貴方が他の女性のアプローチに引っかかって、そのたびに別れ話に発展してますよね」

「でも、下心は本当になかったんだ!間違いも犯してない!愛してるのはいつだって君だけだ!」

「そういう問題じゃないんですよ」

少し…というか大分イラッとする。

「貴方が女性からのアプローチを受けているのを見て、私がどう思うかとか考えないんですか?」

「それは」

「もし、もしも私が他の男性から目に見えてアプローチ受けてたらイラッとしませんか?それに私が油断して引っかかっていたら?たとえ間違いは犯していないとしても、愛してるのは貴方だけと言われても、思うところはあるでしょう?」

「…」

彼は俯く。そして、泣きそうな顔で私に言う。

「…君を、そんなに傷つけてすまなかった。でも、別れたくない。本当に君が好きなんだ…君は、もう俺とは無理か?」

「…はい」

傷ついたような顔をする彼。けれど、頷いてくれた。

「わかった。…今まですまなかった。さようなら」

「…さようなら」

私達はこうして別れた。











一人で、部屋でワインを飲む。今日は彼からもらったお高めのワインを全部開けて部屋から撤去してやると決めた。その分すごい量を飲むことになるけど。

「そりゃあ、愛する人が他の女に絡みつかれたり、ずっと他の女のこと考えてたりしたら嫌にもなるわよ!」

ワインは元々好きじゃなかった。ビールの方が好みだ。けど、無理して彼に合わせてた。それと…彼はワインを飲む姿が様になるから、それを見るためにワインに慣れようとしていたのもある。

「さっさと忘れて、他に良い人を見つけてやるんだから!」

そう思うのに。酔ってふわふわした頭には、彼の優しい笑顔が浮かぶ。あんな男でも、愛していたのだと思い知らされた。











「よ!あいつと別れたんだってー?」

「最悪…あんた第一声がそれとかなんなのよ」

「だって魔法省の幹部のあいつと、魔女コミュニティトップのお前が付き合った時点ですごい噂になってたのに。急に別れるんだもん」

「…ふん」

「次は俺と付き合ってみ?幸せにしてやるよ」

魔女コミュニティの副長である、部下兼幼馴染の言葉に思わず固まった。

「…は?」

「俺、昔からお前のこと好きだったんだよね。気づいてなかった?」

「いや、え?」

「だからさ」

幼馴染に手を引かれて、壁際に追い詰められた。両手で退路を塞がれる。

「俺にしとけよ。俺ならお前を泣かせないから」

いつもふざけてばかりのお調子者の幼馴染。そんなコイツの真剣な表情に、頭が酔った時のようにふわふわしてしまう。

「あの、でも」

「今はまだあいつが好きなままでいい。その未練ごとお前を愛してやる」

「けど」

「俺のこと恋愛感情では好きじゃないの、ちゃんと知ってる。でもこれから先少しずつ、幼馴染としてじゃなくて恋愛感情で好きになってくれたら俺はそれでいいからさ。今は多くは求めないから。それじゃダメか?」

こんな真剣な表情の幼馴染は、魔道具の作成や新しい魔法の開発の時しか見たことがない。それだけ真剣に、私との将来を考えてくれているのはわかる。

「…傷心につけ込むなんて卑怯だわ」

「卑怯で結構。今までどれだけ手を伸ばしても届かなかったお前が、やっと手に入るかもしれないんだ。形振り構ってられるか」

「…バカ。こんな女の何処がいいのよ」

「強がっても瞳が濡れてる可愛いところとか?」

「バカ!」

いつだってバカをやって笑い合えていた幼馴染は、私を強く抱きしめる。

「なあ、付き合ってくれる?」

私は幼馴染の腕の中でそっと頷いた。

「…よかった。絶対幸せにするから」

そんな幼馴染の言葉と私の頭を撫でる手に何故か酷く安心して、彼への未練で雁字搦めになっていた心が解けていくのを感じながら大泣きした。
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