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不快な男

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さて、話し込んでしまって夜も遅いしそろそろ寝ようというところで、大聖堂内が騒がしくなった。

「…なんだか騒がしいですね?」

「賊が入り込んだか?」

「え、そんなことあるんですか?」

「たまにな。でも、普段なら即座に高位の神官が魔法で取り押さえるんだが。それが出来ない相手というと…政治的な力を持つ貴族、とかか?」

…まさかとは思うが。イザベルの、元婚約者とか?イザベルも同じことを考えたようで、顔を見合わせる。

「イザベル。夜も遅い、お前は寝ていろ」

「ユルリッシュ様は?」

「…賊を潰してくる」

「わ、私も行きます!」

出来ればそれはやめてほしいんだよな。元婚約者なら最悪だし、賊なら危険だ。

「イザベルには会わせたくないんだが」

「…それでも付いて行きたいです」

…本人がそう言うなら仕方がない。

「…俺の後ろにいろ。前には出るな。話はしなくていい。…それでいいか?」

「はい!」

イザベルを背に庇いつつ、大聖堂の広間に来た。

広間で神官たちが大勢集まって、誰かを宥めていた。その誰かは…案の定、イザベルの元婚約者だった。

「いいから聖妃様と話をさせろ!」

「落ち着いてください!」

「そんな態度をとっていいのか!?うちは教会にも多額の寄付をしているんだぞ!」

「そんなに興奮した状態では聖妃様に会わせることは出来ません!」

「うるさい!いいから早く出せ!」

うるさいクソガキめ。そんなに唾を飛ばして騒いで、大聖堂が汚れるだろうが。

「おい、そこのガキ」

「…聖王猊下!」

「妻に話があるなら俺が聞く。言ってみろ」

イザベルを背中に庇いつつ話を一応聞いてやる。…つもりだったのだが、俺の背に隠れたイザベルを目敏く見つけやがって、怒鳴りつけてくる。

「イザベル!お前のせいで僕は散々だ!」

「えっと…」

「イザベル。相手にするな。俺が構っておいてやるから、お前は後ろにいろ」

「はい…」

俺はクソガキを睨む。

「イザベルのせいで散々?なんでそう思うんだ」

「今まで付き合いがあった連中が、お前が聖妃になった途端『浮気して聖妃様を傷つけた上、聖妃様に捨てられたバカな男』と言って僕から離れていったんだ!」

「自業自得じゃないか」

クソガキは怒りで我を失っている。もはや神官たちや俺のことは目に入っていない。イザベルだけをジトリと見つめている。…目玉抉ってやろうか?

「両親も僕を叱りつけてきて今関係が最悪になってる!ジュリーとの結婚式も、両家の親以外誰も来てくれなかった!祝福されないどころか、今では嘲笑の的だ!全部お前のせいだ!お前が聖妃になんてなるから!」

「…」

「…ふ、ははははははっ!」

そこで限界。つい笑ってしまった。あまりにも逆恨みが過ぎる。一周回って面白い。ただ、さすがにクソガキも俺が豪快に笑うのには反応した。

「…な、なにがおかしいんですか!」

「だってお前、それは逆恨みってやつだろう。恥ずかしい男だな、お前」

こんな奴と結婚せずに済んでよかったな、イザベル。

だが、俺が面白がっていたのが悪かったのか…奴は怒りに任せて、言ってはいけないことを言った。

「…本当は、俺との婚約期間中浮気していただろう!婚約を破棄してほんの少しで婚約、その後一週間で結婚なんておかしい!本当は僕とジュリーのように浮気してたに決まってる!慰謝料を返せ!」

…俺の妻を、自分と同レベルだと宣ったな?

「…イザベルを、お前のような不誠実な人間と一緒にするな」

魔力を操作して、子供姿から大人姿への変わる。クソガキに少し、現実を見せてやろう。
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