異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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最初から決まっていたことだった

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ある日、皇子様に求婚された。

「僕と婚約してください」

私は。

『俺かよー!?』

と内心修羅場だった。














何から説明したものか。

まず、私は転生者である。

地球という世界の日本という国で育った、厨二病真っ盛りの男の子だった。

トラックに撥ねられて転生というテンプレの後、転生先ではなんと女の子になっていた。

そこまでは、まだいい。

『俺、馬鹿だから子供のフリとかしないで0歳時時点で喋りまくって歩く練習とかしてたんだよな』

そう、子供のフリをせず喋りまくる赤子。

泣かない赤子。

教えてもないのに算術が出来る赤子。

歩き出すのも早かった。

子供にしては絵も上手い、字も上手い、なんなら簡単な刺繍や編み物もできる。

歌も上手い、楽器もギターなら弾ける。

こんなの神童として崇められるか、忌み子として捨てられるかの二択。

『で、結果捨てられたんだよな』

ただし救う神あれば拾う神あり。

私の両親は私を密かに捨てようと画策していたが、なんと本家筋の公爵様が「血の繋がりもあるし、神童だし放っとくよりもらったほうがお得」と義理の娘として引き取ってくれた。

おかげでスラム街に捨てられずにすんだぜいえーい!

その後私は前世の知識フル活用。

冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、食器洗い機、自動掃除機などを開発。

『開発って言っても、原理なんて習ってないから科学技術は使ってないんだけどな。その代わりにこっちの世界で使われる〝魔術〟を駆使したわけ』

魔術の要は想像力と魔力。

魔力さえあれば、想像できる全てを実現できる。

魔力さえあれば、ね。

で、私は想像力はまあ前世の日常で家電に触れていたので問題ない。

あとは魔力なのだけど…私は生まれつき魔力も多かったから家電複数台製造を毎日続けるくらいなら朝飯前だった。

『で、公爵様は…お義父様は俺の商品を大々的に売り出して、公爵家は、ひいては皇国そのものも貿易でますます潤って栄華を誇ったってわけ。んでもって俺という特殊個体を生み出した元の家…伯爵家もご褒美にボーナス金もらってたっけ』

ということで、結果的に誰の損にもならない異世界転生となったわけだけど。

私はそんなこんなで、マナー以外のお勉強は必要ないと判断されて基本家電を増産する時間とマナーのお勉強の時間以外は自由。

とはいえこの国は娯楽が少ない。

少なすぎる。

ということでトランプにチェスにボードゲームに卓上ロールプレイゲームに囲碁に将棋に麻雀に、全部流行らせてやった。

『結果的に様々な流行を作った公爵家のお姫様としてちやほやされることになったんだよなー』

ちなみに女の子の身体になれるまでには五年かかった。

異世界そのものには割と早く馴染んだのに。

やっぱり異性になるってしんどい。

恋愛対象は、未だに女の子なのか男の子なのかわからない。

だって子供だから、どっちにもムラムラしないし。

『でもまあ、皇国にも公爵家にも実家にももう十分すぎるくらい貢献というか孝行?したよな。領民たちにも』

だから。

まあ、しょうがないかな…なんて。
















さて、私の話はした。

次はなにから説明したものか。

まず、我が皇国には特殊な事情がある。

【魔女の呪い】

先先先先先代の公爵様(うちとは別の家)が、魔女の誘惑を跳ね除けたらとんでもない呪いをかけられた。

それは…【そちら様の公爵家に女の子が生まれた場合、皇子様が婚約者と婚約破棄して、そちら様の子供と真実の愛を結ばない限りそちら様の公爵家の娘は死ぬ】っていう呪い。

『は?と、思うだろ?俺も思ったよ。でもさぁ、なんか魔女様頭乙女らしくて、自分が誘惑できないなら別口で萌えを勝ち取ろうっていう頭パッパラパーだったわけ』

意味わからん。

で、まあ皇国によく尽くしてくれる公爵家だったから…皇国も無視できなくて。

呪いを解こうと最初は努力したけど、魔女が強すぎて無理ってことで。

まあ結果的に皇子様が人身御供になって、偽物というか仮初の婚約者を用意して…婚約破棄して公爵家の姫君と婚約し直すって形をとるようになったわけ。

『…バカじゃね?』

いや、まあ、人の命には変えられないしいいんだけどさ。

で、皇子様に仮初の婚約者として選ばれたのが私ってわけです。

『俺ってマジついてないわー…』

まあただ。

振られるのが確定な分利点もあり。

振られるのが確定という最大のデメリットに目を瞑ればまあ、悪くない。

利点というのは、まず振られるのが確定だから第二皇子妃教育とか受けずに済むので自由だぜ!ということ。

第二皇子妃教育はそちら様の公爵令嬢が受ける。

『でもって振られた暁には、俺個人にボーナス金貰えるんだよな。もう皇国にも公爵家にも実家にも十分孝行したから、気分良くボーナス金貰えるし』

ちなみにボーナス金は、貴族のご令嬢が一年は遊んで暮らせる額。

多いか少ないかは受け取る人の感性なのだが、私的には多いかな?

『そもそもお義父様からもらったお小遣いも使わずに貯めてるし、将来への備えはバッチリ!』

まあ言ってみれば第二皇子殿下と私は、そちら様の公爵様の娘さんへの人身御供だ。

第二皇子殿下は皇族だから風評被害はなかろうが、こちらはヒソヒソされるに決まってる。

次の婚約は探さないと来ないだろう。

そして私に探す気はない。

『ということで、お金を貯めて自立する!あとは他に実現してない商品…ゲーム機とかを実現して、そっちの売上で一人独身貴族として人生謳歌するぜ!』

その方が、他の婚約を探すより現実的だろう。

そもそも私、性自認も女か男かもわからないし、恋愛対象が女か男かもわからないし。

だから、まあ。

「謹んでお受け致します」

「…!ありがとうございます!」

人身御供役、やってやろうじゃないか!

















さて、婚約は無事お義父様と皇帝陛下の許可の下取り交わされた。

そちら様の公爵令嬢の同意も得てる。

その中でいくつかの他の取り決めもあった。

まず、婚約しているという〝状況〟のために二日に一回私は皇子様とお茶会しなきゃいけなくなった。

そして皇子様はそちら様の公爵令嬢…ええいややこしい、ソフィー様を真実愛さなければいけないのでそちらとも二日に一回会うらしい。

『うえー。皇子様…アッシュって呼べって言われたからそう呼ぶか。アッシュ過剰労働じゃーん』

アッシュに合掌。

南無。

さて、それと誕生日やらイベントやらの贈り物もし合うことになった。

まあそれはいい、どうせお義父様の財布から出る金だ。

プレゼントを選ぶのも実質お義父様だし。

『でも気になるのがな…』

最後の最後の取り決め。

もしソフィー様をアッシュが真実愛した上で婚約破棄した後。

アッシュが私のことも望むなら〝側妃〟になれってお話。

ないと思う。

ないと思うけど、先代もそういうあれこれあったらしいし…最初に決めといた方がいいらしい。

『なお俺の拒否は意味を為さなかった』

親の意向が全てだからなぁ…まあいいけど。

「ということでよろしくお願いしますね、リリー様」

「こちらこそよろしくお願いします、ソフィー様!」

にこやかに手を差し出す美少女に、思わず思いっきり笑顔で手を握り返す。

やっぱり私女の子が好きなのかな。

周りの大人も、ソフィー様も面食らってる。

平然としてるのは第二皇子殿下…じゃなかった、アッシュくらいだ。

「巻き込んでしまってすみません。よろしくお願いしますね、リリー」

「アッシュこそよろしくお願いします!」

にこっと王妃様譲りの美貌を誇るアッシュに微笑まれて、やっぱりドキッとする。

え、もしかして私両性愛?

『まあそれならそれで二度美味しいからいいか』

両性愛も別に悪いことじゃないし。

ということで、奇妙な三角関係?が始まった。














そんなある日、お茶会でばったりソフィー様と会った。

「ソフィーっ様!」

「わっ…びっくりした…リリー様?どうされました?」

「いや、せっかく同じお茶会に呼ばれたから、お茶会始まる前にイチャイチャしとこうと思って」

「イチャイチャ?」

「あ、間違えた。仲良く、ね」

やばい心の声が漏れた。

間違えても〝俺〟とだけは言わないように教育されているが、時々心の声が漏れる。

いけないいけない、今の私は公爵令嬢なのだから。

「え、待って。ソフィー様肌スベスベ!髪ツヤツヤ!元々美少女なのにすごーい!」

「えっと…うふふ、そこまで褒められると照れますわ。リリー様もお美しいですよ」

「いやいや、たしかに不細工ではない自覚はあるけどソフィー様と比べたら天と地の差ですよ!ソフィー様素敵ー!」

「え、え、え、あ、ありがとう…そこまでストレートに褒められますとなんだか…恋敵と思えませんわ」

「恋敵もなにもアッシュはソフィー様のものでしょう。それよりソフィー様が可愛くててえてえ!」

「て、てえてえ…」

「尊いという意味です!」

「は、はぁ…」

ということでゴリ押しで、押しに弱いソフィー様と〝お友達〟になった。

…なったよね?















そしてまたある時。

定期的なアッシュとの二人きりでのお茶会の席で。

「そもそも、君は第二皇子妃教育を受けさせても即座にクリアだと思いますよ。マナーも完璧ですし、それ以外の教養だとかは全て貴族学園の教授レベルですし」

「あー…まあねえ」

言われてみればそれもそうだ。

第二皇子妃教育がないのは利点でもなんでもなかった。

くそぅ…やられた。

「アッシュはお勉強、どのくらい進んでるんです?」

「幼い頃の兄上と同じ程度には、とは言われていますね」

「ああ、皇太子殿下…」

なお皇太子殿下は、ソフィー様のお家のゴタゴタに巻き込まれてない。

普通に皇太子になって、普通に婚約者と仲良くて、普通に幸せそう。

まあ、その裏では色々苦労してらっしゃるとは聞くけど。

「なんか、不公平だよな」

「?…リリー?」

「いや、なんか、アッシュばっかり苦労してて…お…私、面白くないです」

「…!」

アッシュは正直、皇太子殿下の倍は苦労してる。

アッシュが悪いわけじゃないのに。

好きになる〝べき〟子が決まってて、将来私を振るのも確定事項。

将来を勝手に決められてて…第二皇子だから、皇太子殿下より重圧が少ないかと言われたらそうでもない。

本当に、可哀想なくらい苦労してる。

「アッシュ、なにか辛いこととかあったら愚痴くらいは聞きますからね」

「…君は、どうしてそんなに人に優しく出来るんです?」

「はい?」

優しい?

私が?

「…もし私が優しいとしたら、優しくしたくなるだけのことをしてもらったからとか、優しくしたくなる相手だったからとかでしょう。誰にでも彼にでも優しいわけじゃないですよ」

むしろ私自己中だし。

「………なら、僕は特別だと?」

ああ、そういう話?

まあ、特別か特別じゃないかで言うなら。

「特別ですよ、ソフィー様もアッシュもね」

どっちも、多分私は〝好き〟だ。

だから特別優しくする。

それだけ。

だと言うのに、それを聞いたアッシュは目をまんまるにして。

その後、ひとしきり笑ってから言った。

「…兄上の愚痴、聞いてくれます?」

「もちろん!」

「大体あの人、有能すぎるんですよね。皇太子としてはそれでもいいのですが、人としては働き過ぎです。ワーカーホリックでしたっけ?それですよ」

「わー、周りの心配とか気にしないタイプー」

「そうなんです!いくら僕が兄上を心配してても…」

その日以降のお茶会は、愚痴という名のブラコン自慢と、すごく優秀な兄を持ったが故の苦労話の時間になった。

















ソフィー様とは会うたびイチャイチャして、アッシュとは愚痴という名のブラコン自慢を聞いてやって、ついでに頑張り過ぎな皇太子殿下に逐一「弟が心配してるんだぞ」って圧をかけて…。

そして十八歳、貴族学園の卒業式。

ついにこの日がやってきた。

「リリー!君との婚約破棄を宣言する!そしてソフィーとの婚約をここに誓う!」

「…アッシュ様………」

「謹んでお受け致します」

ということで魔女に捧げる〝物語〟は無事終幕。

私はアッシュと婚約破棄して、ソフィー様はアッシュと婚約して、みんな幸せハッピーエンド。

卒業式も無事終了。

私は晴れて独り身?になり、貴族学園の卒業生という箔もつけて、さてボーナス金を受け取ろうとお義父様と王宮にあがったら。

「は?側妃になれ?」

「その、私、リリー様と疎遠になりたくなくて…」

「愛おしいソフィーもそう言っているし、僕もリリーと疎遠になりたくないのです。教養とか爵位とかももう十分ですし、いいでしょう?」

いや、よくないが。

とはいえ、最初の取り決めのせいで断れないしなぁ…。

「ちなみに…ボーナス金って…」

「側妃になるにしろ、今まで苦労をかけた分としてそちらは出ますよ」

「よかったー!」

はっ!

はしたないって怒られる…!

ちらっとお義父様を見るが、何故か怒る様子はなくむしろ微笑ましそうに笑った。

「よかったな、リリー」

「は、はいお義父様」

「だが今のはちょっとはしたなかったかな?」

「は、反省します…」

ということで側妃として今後もソフィー様とアッシュと一緒にいられることになった。

ついでにボーナス金ももらった。

ただ、今回のボーナス金も含めて将来のための蓄えであるお金が使い道がなくなってしまった。

側妃になるならお金の心配ないし。

ということで私は、その分のお金で【皇太子殿下の時間】を〝いただいて〟、皇太子殿下にマッサージを受けさせた。

だってアッシュが皇太子殿下に対してめちゃくちゃ心配そうなんだもん。

そうするとソフィー様とアッシュからお礼を言われて、それが気分よくて時々皇太子殿下にマッサージを受けさせる…受けていただくのが習慣になった。














そして今日。

私とアッシュの結婚式。

ソフィー様とアッシュの結婚式は一年前に済んでいる。

豪華ですごかったし、ソフィー様がめちゃくちゃ可愛かったんだよなぁ。

今目の前にいるアッシュも、なかなかかっこいいけどね。

「リリー、行きましょうか」

「はい、アッシュ」

「…ソフィーのことは真実愛していますが、君のことも好きですよ」

「うわぁ不純」

「自覚はあります」

クスクスと笑い合う私たち。

バージンロードはお義父様と歩くことになる。

実家の親は呼ばれてるだろうけど近寄っては来ないだろうな。

ここまで来るのになんだかんだあったけど…。

「なんか、幸せだなぁ」

「これからもっと、幸せにしますよ。君も、ソフィーも」

「あ、そこはソフィー様優先で」

「それはもちろんですが…君はぶれませんね」

「まあね」

ということで、アッシュにはソフィー様のついでに私のことも幸せにしてもらおうと思います。
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