異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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悪役令嬢に転生しましたので、その病気代わって差し上げます

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『君とならなんでも乗り越えられる』

そんな気障ったらしい名前の乙女ゲーム。

病弱で世間知らずなヒロインが、紆余曲折ありつつ悪役令嬢の婚約者と仲良くなり、悪役令嬢から婚約者を略奪する物語。

ついでに病気も乗り越えるのがトゥルーエンド、病気は治らないけどヒーローとくっつくのがノーマルエンド、病気で途中退場がバッドエンド。

悪役令嬢の婚約者を必ず略奪するヒロインはレオナ。

可哀想だけど婚約者に馴れ馴れしくされて悔しいとはいえヒロインを虐めるので、半分自業自得な悪役令嬢はベアトリーチェ。

「で、悪役令嬢ベアトリーチェに転生したと」

はぁ、とため息をついて鏡を見る。

「どう見ても、ベアトリーチェの幼い頃だよなぁ」

うん、間違いようもない。

乙女ゲームの特別特典のファンブックに描かれていた幼い頃のベアトリーチェそのものだ。

くそぅ…まあ、でも、やりようはいくらでもある。

うん。


















前世では、親からネグレクトを受けていた。

必要最低限の世話以外放ったらかしで育った私は生命力が強かったのか、それとも運が良かったのか。

が、幸いなことに子供好きだが男嫌いな叔母が私の状況を知ると引き取って育ててくれた。

十七歳の時のプレゼントに買ってもらったのが、先述の乙女ゲームである。

「あー…叔母さん、ごめんよぉ…」

私は、そんな叔母の目の前で突然の心臓発作で死んだ。

溺愛してくれていた叔母は、さぞ泣いたことだろう。

「ごめんよぉ…ごめんよぉ…」

泣いても仕方がないが、叔母のことを思い出すといつも泣いてしまう。

まあ、とにかく。

そんな前世の記憶がベアトリーチェちゃん五歳にはある。

母のお腹の中にいた頃から、この意識と記憶はあったので…本物のベアトリーチェちゃんを乗っ取った、とかはないはず。

最初からベアトリーチェちゃんは私自身なのは幸いだ。

「ぐすん。叔母さん、本当にごめん…」

さて。

叔母さんのためにも、せめて今世は幸せになって長生きしなければ。

叔母さんは毎日、私に幸せになりなさいと言っていたもの。

じゃあどうするか。

…どうしよう。

「とりあえず、今回のベアトリーチェちゃん五歳は乙女ゲームの設定から外れてはいる」

そう、ろくでもない高飛車でわがまま傲慢な性格ではないし…むしろ私は使用人にすら逐一お礼を言うこの世界の貴族にしては『いい子ちゃん』である。

それに勉強も運動もしない黒豚令嬢だったのが、前世の知識チートで勉強は完璧、暇すぎてスポーツに手を出したので普通の体型の褐色肌の美少女となった。

あとはなぁ…家族との関係も原作と違って良好だし、生まれながらの婚約者からも嫌われてないし…。

「あとはヒロインに対する対策くらい?」

対策さえ出来ちゃえば終わりだよね。

四方八方丸く収まりそう。

うん、じゃあどんな対策を取る?

「うちは裕福で歴史ある公爵家。ヒロインは乙女ゲームには珍しく裕福な成金侯爵家。そしてヒロインの家とうちはなにやら先代同士のあれこれで関わりがある様子。恩を売る言い訳にはなるかな?」

なら、やれることはある。

【身代わり魔術】

相手の不幸を肩代わりする魔術だ。

そして私にはそれが使える。

乙女ゲームのトゥルールートでヒロインが病気を乗り越えたのも、主人公を虐めた罪滅ぼしにベアトリーチェちゃんが身代わり魔術を使って病気になったからだ。

ということで、両親に直談判した。

「あの子が可哀想だから、肩代わりしてあげたいの…勉強も満足にできていないのでしょう?私はもう勉強も完璧だし…」

「いや、だからってお前が身代わりにならなくても…」

「お願い、お父様…」

「うっ…治る見込みはあるのか?」

「しっかり療養すれば、あの子ならともかく私の魔力量なら貴族学園入学には間に合うわ」

そう、ヒロインと比べてベアトリーチェちゃんの魔力量は破格だ。

だから大丈夫、死にはしないし物語本編前には治る。

ということで、ヒロインレオナの代わりに病気を引き受けることにした。











「ベアトリーチェ様、本当にありがとうございます!おかげさまでお勉強も遊びもできます!」

「良かったわね、レオナ様」

「はい!」

にこやかにレオナを可愛がりつつ、心の中で舌打ちする。

舐めてた、この病気まじで辛い。

身体中痛いし苦しい。

魔力量を考えれば絶対貴族学園入学時までには治るはずだけど…辛い。

とはいえレオナの前では平気なふりをする。

「頑張ってベアトリーチェ様の分まで勉強しますね!」

「ええ、頑張って」

そして常識を身につけて、私の婚約者に近寄らないのよ。















「ベアトリーチェ、大丈夫か?」

「パリスー、辛いよぉ」

「よしよし、ベアトリーチェは本当に優しいな」

私がヒロインレオナの病気を肩代わりしたのは、貴族社会では周知の事実となっていた。

私は義理堅い心優しい姫君と有名になった。

婚約者も、そんな私には優しい。

「大丈夫、俺がいるからな」

「パリスー」

ここぞとばかりに【推し】であった婚約者に甘えまくる。

あー、幸せ。
















そして。

私は貴族学園入学直前に病気を克服した。

ヒロインも常識を学んだだろうから大丈夫だろうと思っていた。

ところが。

「パリス様ー、一緒にお昼にしませんかー?」

「婚約者と食べるからいいよ。ベアトリーチェ、行こう」

「ええ、そうね」

なんとレオナは非常識なままだった。

なんのために身代わりになったと思ってる!

まあただ、レオナの非常識な行動は私が虐めるまでもなく周りから非難されていたので、その度に溜飲は下げられたのだけど。

しかも私はレオナのために身代わり魔術を行使した。

そんな私に対してのこの非常識さ。

悪者、悪役令嬢は自然とレオナの方になった。












「酷い酷い!私がヒロインなのになんで!?」

「…」

「ベアトリーチェ様、パリス様を返してよ!」

あー、転生ヒロインだった。

なるほど。

なんか納得した。

「辛かった病気から解放されてよかったと思ったけど、こんなことなら我慢してればよかった!」

「あー…そう…」

ごめんね。

でもあんたの方が悪質だよ。

「こうなったら…」

レオナは懐からナイフを取り出す。

…いや、え?

「実力行使でパリス様を返してもらうから!」

不意を突かれて刺されそうになった瞬間だった。

「ベアトリーチェ!」

パリスが突然現れてレオナを抑え込んでナイフを奪ってくれた。

「パリス、どうして…」

「パリス様、どうして!?」

「二人が東屋で話し合ってるって聞いて、嫌な予感がしてきたんだ」

「パリス…ありがとう」

「ベアトリーチェ…無事で良かった」

抱きしめ合う私とパリス。

レオナは悔しそうに唇を噛む。

その後レオナは貴族学園を退学になった。

貴族の子女が貴族学園を卒業できない。

これは社会的に死んだも同然だ。

「一方で私はその後、幸せに卒業式を迎えて今日無事に結婚式も迎えると」

なんだかすごいことになったなぁ。

まあ、幸せだからいいけど。

「ベアトリーチェ」

「パリス」

「愛してる」

「私もよ」

なんたって前世からの【推し】ですから。

ということで、結婚式も無事にすみ私は晴れて悪役令嬢を卒業して、幸せなお嫁さんになったのでした。
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