異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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どうして

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どうして彼女が死ななければならないと思いますか?

目の前の男は俺を嘲笑う。

「…聖女様を害したから」

「あっはっは!まあそうですね。そうですよ」

ケタケタと笑う男が不快だ。

「何がおかしい?」

「貴方は異世界の存在をご存知ですか?」

「は?」

イセカイ…異世界?

「知らないけど…そんなものあるのか」

「ありますよ。貴方が知らないだけで、宇宙には無数の世界があるのです」

「それと彼女のなにが関係ある?」

「とある世界では、ここより文明が発展していてね、乙女ゲームというものが存在します」

「?」

首を傾げる俺に男は言う。

「この世界はね、とある乙女ゲームにハマった下級女神が作ったものなんです。乙女ゲームには悪役令嬢という存在がいて、その悪役はゲームの最後には不幸のどん底…ここまで言えばお分かりですか?」

「…!」

つまり彼女は女神の楽しみのため、最初から不幸になるためだけに存在していたとでも言うのだろうか。

「…ざけんじゃねぇ」

「ん?」

「女神がどうこうなんて知ったこっちゃねぇ!なんで彼女がんな、女神の娯楽のための生贄みたいなこと…っ」

「ですよねぇ、ですから取引致しましょう」

「取引…?」

男は…悪魔は嗤った。

「一度だけ時間の巻き戻しを行います。君だけが今回の生の記憶を有した状態でね」

「…対価は」

「全てが終わった後の貴方の魂」

「わかった」

「おや、即決ですか」

当たり前だ。彼女を助けられるなら俺の命なんか安い。

「なぁ、彼女を助けるのに必要なことを教えてくれないか?俺バカだから…どうしたらいいかだけ教えてくれよ」

「手っ取り早いのは、邪魔な人間の殺害ですかねぇ」

「…」

なら、やれることは全部やろう。

「ありがとう。時を戻してくれ」

「ふふ、上手くやってくださいね。あの駄女神の悔しがるところがみたいのです」

意識がふと落ちた。

目が覚めると、王城だった。

俺は歩く。

現状どうなってるかなんて気にしない。

庭で彼女を見つけた。

「…本当に綺麗だ」

憂げな表情も可愛いが、笑えるようになればもっと可愛いだろうに。

さて。

俺が殺すべきは、彼女を虐待する彼女の家族。

そして王太子となる彼女の婚約者…聖女と浮気して彼女を追い詰めた兄。

そして、聖女。

「…さて、どうやろうかね」

とりあえず、毒物を採取しないと…と思って思い出した。

俺は王家の中では落ちこぼれ。

その理由はギフト。

この世界では女神からギフトと呼ばれる特別な力を与えられる。

王族としては有用ではないギフトをもらった俺だが…今となっては役に立つ。

『ねえ、第二王子殿下。貴方は落ちこぼれなんかではありません』

『は?』

『その力は、きっと誰か大切な人を守るために…いつかきっと役立ちます』

『…ありがとう』

懐かしいことをふと思い出した。

そうだ、彼女のその言葉があったから俺は…ほんの少しだけ、救われたのだ。

優しい人。

貴女に嫌われる方法だとしても、俺は大切な人を守るために…この力を使います。

「生成…完了」

俺のギフトは、薬物の生成。

応用すれば毒物も作れる。

それも、無味無臭無着色のものでも。

こんな使い方したのも、そもそもこんな使い方を思いついたのも今初めてだが…思いついて良かった。

毒物をワインに入れて、彼女の従者に『兄から』『彼女の親への』プレゼントだと言って渡す。

「…これで」

しばらくして、彼女の両親の訃報が入った。

彼女の父の爵位を継いだという彼女の叔母は、ひとりぼっちになった彼女を引き取って大層可愛がるようになった。

彼女には笑顔が増えた。

二人ぼっちの家族だが、本当に幸せそうだ。

「次は兄…」

ああでも、兄は殺す必要もなくなったのだ。

何故なら、彼女の両親の毒殺の犯人だと思われたから。

兄は元々彼女をよく思っていなくて、それを露骨に態度に出していた。

だから毒殺なんて短絡的なことをしたと大人は思ったらしい。

毒の出所はわからないまま、兄は廃嫡され捨てられた。

まさか無能な俺が暗躍していたなんて、誰も気付きはしなかった。

「…次は聖女」

俺はある日、王城を抜け出して一人で聖女のいる教会に忍び込んだ。

もしかしたら誰かに見つかったかも知れないし、見つかってないかも知れない。

どちらでもいい。

「こんにちは、聖女様。いや、こんばんはかな」

「え、え、王子様?」

「そんなに驚くなよ。ほら、お菓子を持ってきたんだ。ジュースもある。どうぞ」

毒入りのジュースも、何も混ぜてないお菓子も。

聖女は王子様のくれたものだからと疑いもせず食べる。

その直後うめいて死んだ。

目撃者は俺だけ。

俺は静かに王城に戻った。

「…ふぅ」

幸か不幸か、結果的に俺の起こした事件はどちらも俺が犯人とはバレなかった。

俺は王太子になれる器でもないので、父とは歳の離れた王弟である叔父…優秀なギフト持ちで性格もいいその人が王太子になった。

叔父の子も優秀なのでこれで良かったんだろう。

兄はあれからしばらくが立つと、スラム街で野垂れ死したらしいと噂になった。

これで全部終わった。

最期のつもりで、彼女の様子を見に行く。

彼女は両親を亡くし元婚約者まで亡くなったというのに、晴々とした笑顔で叔母と暮らしていた。

それを見れて、それだけで十分だと思った。

彼女はこの先、叔母の跡を継いで女公爵になるらしい。

婚約者は誰に決まるだろう。

…できればその幸せをずっとそばで見ていたかった。

「こんばんは」

「こんばんは、悪魔。女神は悔しがっていたか?」

「それはもう。君は本当に良い働きをしてくれました」

「俺はこれからどうなる?」

「私のものになりますね」

いつのまにか背後にいた男は、前会った時より楽しげに笑う。

「彼女は…幸せになるだろうか」

「ええ。あの駄女神がこの世界を放棄しましたから、次はこの世界を私が管轄します。ここまで頑張ってくれた君のため、彼女は悪いようにはしないと誓いましょう」

「…驚いた。あんた、悪魔じゃなくて神様だったのか?」

「ええ、あの駄女神の弟です。犬猿の仲ですがね」

なるほど。

なら彼女は不幸にはならないだろう。

「…ありがとう」

「それはこちらのセリフです。我々神は人々を弄ぶことは禁じられているのに、あの駄女神がやらかしてくれて弟として大変困っていたのです。君に託して良かった」

「俺はこれからあんたのものになるらしいが、まずどうすればいいんだ?」

「君の魂を今からいただきます。君は私に仕える天使に生まれ変わります。あとは天使として働いてくれればそれで」

「そうか」

男が指を鳴らすと、俺は一度死んだ。

そしてこの魂は天使として生まれ変わった。

「では、私の天使に最初の命令を」

「…」

「天使として彼女のそばで、その生涯を見届けなさい。彼女が危うい時には助け、そうでない時には祝福を与えなさい」

「え」

「彼女は駄女神に運命を捻じ曲げられて来ましたから。これからは幸せに過ごす権利はあるでしょう」

どうやら、まだ彼女を見守れるらしい。

「…拝命しました」

「ではお行きなさい」

俺はその後、幸せな生涯を送る彼女を見届けることになった。

その後も神に仕えているが、忙しいながらも毎日を楽しく送っている。

そんな中で時々、次の彼女の人生もこっそり見守るのが俺の新しい趣味である。
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