異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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愛した推しがヒロインと無事くっついたので

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リコリス。公爵家の娘として生まれた、非常に優秀な女の子。

その正体は、所謂テンプレ転生悪役令嬢である。彼女は前世で善行を働いて生きてきた中で、突然の事故によって命を落とした。

そんな彼女は善行の結果、神様に気に入られて死後好きな世界に転生する権利を得られた。

そしてこの世界で目が覚めた。大好きな乙女ゲームの世界。

しかし、彼女はヒロインではなく悪役令嬢に転生していた。まあ、神様のアフターケアなどそんなものだろう。

「ふふ、むしろ好都合ですわ」

彼女は一人呟く。

ずっと最推しだった攻略対象者、エドモン。

侯爵家の後継である彼と婚約者になれた彼女は、それで十分だった。

いつか無慈悲に捨てられるとしても、それでも彼を幸せにできるならなんでもよかった。

「我が公爵家の後継にはお義兄様がいますし、わたくしに何かあっても大丈夫ですわよね!ふふ、エドモン様を世界一幸せにしてみせますわ!」

彼女は愛に真っ直ぐだった。
















「エドモン様、遊びに来ましたわ!」

「リコリス!いらっしゃい!今日もお散歩からかな?」

「ええ!エドモン様とお庭のお花をみたいのです!」

「ふふ、わかったわかった。リコリスは本当に花が好きだね」

「可憐で素敵でしょう?」

エドモンは大人しいタイプで、自分からは外に出ない。だからリコリスは、婚約者のわがままと称して毎日のように一緒に庭をお散歩している。

エドモンが病気で体調を崩すイベントをキャンセルするためだ。

なぜならエドモンが感染症にかかることによって、エドモンは助かるが母に病気が移って母を亡くし、エドモンは父から冷遇されるようになるからだ。

そのイベントをキャンセルするため、体力をつけさせる。

「はい、エドモン様。あーん」

「あーん…んー!リコリスの料理は美味しいね!」

「エドモン様、ありがとうございます!ほら、もう一口」

「あーん!こうしてリコリスに食べさせてもらうの、大好き!」

散歩だけではない。好き嫌いの激しく栄養の偏った食事をするエドモンのために、リコリスは毎日料理を作り、手ずから食べさせている。味にも工夫しているので、エドモンはリコリスの料理の虜だ。

本来なら不健康なはずのエドモンは、健康体そのものになった。

「リコリス、ここはこうやって解くんだよ」

「エドモン様の説明はわかりやすいですわ!私、魔術の勉強も楽しくなってきましたわ!」

「リコリスは頭がいいから、すぐに魔術も使いこなしそうだね」

リコリスはエドモンの体調を整えつつ、エドモンの好きな勉強や読書にも付き合った。

自分の要求だけを押し付けることはなかったのだ。

挫折はあえて経験させたが、母を亡くすイベントやその他のトラウマは、リコリスがフラグを折った。


















そして時は過ぎ。

「エドモン様を愛で始めてから早数年。もう十五歳になってしまいましたわ。学園生活も始まりますし、そろそろ潮時なのかしら…」

「リコリス、どうしたんだい?」

「お義兄様!すみません、少し考え事をしておりましたの」

「なにかあるなら相談に乗るよ?」

「いえ、大丈夫ですわ。ありがとうございます、お義兄様」

リコリスは元は従兄だった義兄…リオルに微笑む。

「ふふ、お兄様は心配性ですわね」

「愛する妹のことだもの。心配もするよ」

「わたくしはむしろお義兄様の方が心配ですわ。まだ婚約者を作らないなんて」

「義父上と義母上と、家を継ぐため養子になる時に約束したからね。恋愛結婚させてほしいって」

「だからって…まあ、いいですわ。早くいい人が見つかるといいですわね」

リコリスの言葉に、にこりと微笑むリオル。

リコリスはそれに一瞬ときめく。

「も、もう!お義兄様はお顔がいいんだからそんなに笑顔を振りまいたら周りの女の子たちが可哀想ですわ!婚約者がいても思わずときめいてしまいますもの!」

「ふふ、それはリコリスも?」

「わたくしは…エドモン様がいますもの!」

「それは残念」

本当は少しときめいた、なんて言えませんわ…。

ちらっとリオルを見るリコリス。

優しい目でこちらを見る義兄に、なんとなくそわそわしてしまうのを隠すためエドモンの元へ急いだ。

―…そして、学園生活が始まった。物語の幕が上がる。

当然のように入学してきた平民出身のヒロイン。

名前をエマ。

彼女の周囲からの評価は愛らしい女の子。

誰もが彼女を愛した。

…エドモンも。

「すまない、リコリス…僕は、エマを愛してしまった」

「ごめんなさい、リコリス様…!私もエドモン様を愛してしまったのです…本当にごめんなさい!」

「…わかり、ました。わたくしは、身を引きます。エドモン様…愛していました、お幸せに」

「リコリス…」

「リコリス様…」

リコリスは家に帰ると、部屋に閉じこもり泣いた。

ひとしきり泣くと、両親と義兄に事の経緯を伝えてエドモンとの婚約をなるべく円満に解消したいと伝えた。

結果両家の両親が話し合って、婚約は白紙に戻すことになった。

そしてリコリスの進言により、なんと公爵家にエマを養子として迎えて…エドモンとの結婚を後押ししたのである。

両家の両親やエドモンとエマはそれを良しとした。

しかしリオルはそれに不満顔だ。

「リコリス、大丈夫かい?無理はしていない?こんな…ここまですることないのに…」

「大丈夫ですわ、お義兄様。わたくしの幸せはエドモン様の幸せですの!」

「…エドモンは…あれだけ、これだけリコリスに尽くしてもらっておいて…どうしてこんな仕打ちができるんだ…」

「お義兄様、本当にいいの。これがわたくしの幸せですわ」

「リコリス…っ」

リオルはリコリスを抱きしめる。

「え、お義兄様っ!?」

「私と婚約してくれ、リコリス」

「え!?」

「私なら絶対にリコリスを幸せにするから!だから!」

「え、え!え?」

リコリスは混乱する。

そこにリオルは畳み掛ける。

「ずっと君が好きだった。だから婚約者を作らなかったんだ。もちろん君の不幸を願っていたわけじゃない。ただ他の女性を愛せなかった…君の幸せは祈っていた。でもエドモンは他の女を選んだ!なら私が君を幸せにしたい!!!」

「お義兄様…」

「君がどれだけエドモンに一途だったかは知っている。君がどれだけエドモンに尽くしたかも知っている。だから今度は私が君に尽くそう。リコリス…私の全身全霊を以て、君を幸せにする。だからどうか、私を選んでほしい」

真剣な表情のリオルに、リコリスは頑なだった心を動かされた。

「では…お義兄様…ではなく、リオル様。どうかわたくしと婚約してくださいますか?」

不意打ちの逆プロポーズにリオルは一瞬面食らったが、微笑んで言った。

「喜んで。私と結婚しよう、リコリス」

「はい!」

その日の夜、リコリスとリオルは両親と話し合った。

そして無事婚約は成立した。

リコリスとリオルはその後、穏やかな時を一緒に過ごした。

少しずつお互いに信頼と愛情を育み、やがて結婚した。

二人の間にはやがて三人の子供が生まれ、リコリスとリオルはお互いを尊重して愛し合う幸せな夫婦となった。

一方で、エドモンとエマは…二人は熱い燃えるような愛をお互いに捧げあっていた。

しかし結婚してからは、エドモンはふとした時に『リコリスだったらこうしてくれた』『リコリスだったらああしてくれた』とエマに理不尽な不満を持つようになった。

しかし時すでに遅し、その時にはリコリスはリオルとおしどり夫婦となっていた。

エドモンはエマへの不満を抱えながら、しかし表には出さずエマを愛した。

エマはエマで、近くでリオルとリコリスのやりとりを見て『もし旦那様がリオルお義兄様だったら』『もし学生の時にリオルお義兄様を選んでいたら』と不満を抱えながら、それを隠してエドモンに愛されていた。

やはり一途な愛情こそが、人を幸せにするのかもしれない。
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