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わたくしの親友の不満がとうとう爆発したお話
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「リリス、あんたいい加減にしなさい。あんな浮気男さっさと捨てなさいよ」
唯一味方してくれていた友人にまで言わせてしまい、申し訳なさから顔を下げてしまう。
「うん…だよね…でもまだ好きなの…」
「…え、あそこまでされてまだ好きなの?」
「そうなんだよぉ…好きなんだよぉ…ぐすん」
「バカねぇあんた。そんなだから浮気なんてされるのよ」
わたくしの唯一の味方、唯一の親友、ルシア。
彼はわたくしよりもわたくしのことを思って、わたくしのために怒ってくれる。
「アダムのクソ野郎はエヴァ様とお似合いだってみんなに言われて、いいご身分よねぇ?あんたはその間、アダム様に見合わないから別れろって、お前は悪役令嬢だって暴言を吐かれてるのに」
「両親を亡くして、中継ぎで伯爵家を継いだ叔父夫婦に邪魔だからと殺されそうになったエヴァ様は実際、可哀想だし助けてあげないといけなかったのはわかるけど…彼女を溺愛するアダム様を見るのは悲しい」
「そりゃそうでしょ。悲しいに決まってるわよ。大体屋敷に上げて溺愛する必要まであった?さっさと叔父夫婦の尻尾掴んで治安維持部隊に突き出せばいいじゃない」
「その証拠集めが難しいんだって…エヴァ様の証言だけじゃダメみたい」
「それは百歩譲っていいとしましょう。その状況で引き取って溺愛とかクソだけど、まあ置いておきましょう。別れ話しようとすると露骨に話題逸らされたり、聞いてもらえても却下されるのが最悪なのよ!どっちなのよ!私の可愛いリリスを取るのか、エヴァを取るのかはっきりしなさいよ!」
そう言ってルシアは地団駄を踏む。
「絶対あんたの実家との繋がり目当てよね…あんたの家は歴史ある子爵家、あいつの家は金だけが取り柄の新興貴族、それも男爵家。でもあの男の結納金なんてなくてもあんたの実家は傾かない。あんたは別に婚約破棄していいのよ」
「いやまあ、それは…うん、そうよね。わたくしの家は困らないわ」
わたくしの言葉にルシアは頷いた。
「そう。だからあんたの意思次第ではどうとでもなるのよ」
「うん…でも、やっぱりまだ好きなの…」
「…そう。でもね、あんたはこのまま結婚しても幸せになれないわよ。そんなの…あんたを心から愛する、あんたのお父様やお母様も悲しむわ」
「そう…だよね。でも…今更婚約解消して、いい相手が見つかるかもわからないし…」
そう言ったわたくしの頬をルシアはむにょんとつまむ。
「あんたはこのルシア様の唯一無二の親友なんだから、もっと自分に自信を持ちなさいよね!」
「ふふ、そう言ってもらえるのは嬉しい」
「嬉しいのはいいけど、自信は本当につけなさいよ。あんたの欠点は自分への自信のなさなんだから。さて、どうやって婚約を解消するか考えなきゃね」
「いやだからまだアダム様が好きで…」
「諦めなさい」
ぴしゃりと言い切られた。
「あの男は、エヴァばかりを構ってあんたを見ない。あんたはただの都合のいい女よ」
「うん………」
「他に、いい男はいっぱいいるわ。ほら、目の前にもいるじゃない!」
「ルシア…」
ルシアは、可愛い物好きかつ女言葉で身に纏うのもドレスだが、れっきとした男の子だ。
この国の、国王陛下の二番目の子。
ルシアン様。
…まあこのことは公然の秘密だし、彼は国王陛下お気に入りの公妾の生んだ子で国の法律上王位継承権は元々ないし、母である公妾の実家の伯爵家の後継だし、その辺りの色々でストレス溜まりすぎて女の子趣味に走ったから、もういっそ女の子に生まれてくればよかったのにと彼を男に生んだ神を憎むレベルだけど…。
そんな彼がこうも言ってくれるなら…。
「わかった…諦める」
グズグズとまた泣きそうになればルシアにデコピンされた。
「泣く必要ないわ!喜んで捨ててやりなさい!」
「うん…」
そうと決まれば、どう別れるかだけど。
「…とりあえず、これ見てみて」
他でもない、ルシアの発明品の一つである過去を映す魔術(ルシアは天才肌で色々な魔術を生み出している)でこっそり撮っておいた、エヴァ様を慕う男たちが私にアダム様と別れろと罵声混じりで脅してくる映像を流した。
「…なるほど」
「別れる理由になるよね…ちょっと過激だけど…」
「有利に別れられそうじゃない。やってやるわよ!」
ここまで来たら腹を括るしかない…頑張ろう!うん!
「リリス、いらっしゃい。よく来てくれたね」
「リリス様、お久しぶり」
「はい。お久しぶりです」
「うふふ、突然だけど私も交ぜてちょうだい」
アダム様とエヴァ様に向かってぎこちなく笑う。
アダム様もエヴァ様もそんな私に首をかしげるが、そこにルシアはわざとらしく交ざった。
今日は両家の親族も集まるパーティーの場。
別にルシアがいてもおかしくないのだが…アダムとエヴァ様は何故か顔を顰めた、一瞬だけど。
「わたくしの気持ちが、少しはわかったかしら…」
「え?」
「いえ、なんでもありませんわ」
私はさくっとアダム様のご両親にも挨拶をして全員に見て欲しいものがあるとお願いした。
両親もアダム様のご両親も、アダム様とエヴァ様も承諾してくれて、今日のパーティーの主催はアダム様のご両親だったのでそのままこの場で例の映像を流すことになった。
『いい加減にアダム様と別れろ!』
『エヴァ様にとってアダム様に嫁ぐのが一番の幸せだ!邪魔をするな!』
『自分の幸せしか考えられないクズめ!悪役令嬢っていうのはお前のような女のことを言うんだな!』
暴言、罵声、脅迫のオンパレード。そして終いにはゴミを投げつけられる様まで見せて映像を終了する。
「…なんだ、これ」
アダム様は驚いた顔でこちらを見るが、こっちこそなんですかと問いたい。
わたくしを虐げたエヴァ様を慕う男たちとその家族は、ばっちり顔と声が入った映像に青ざめる。
「エヴァ…?君がやらせたの………?」
「わ、私こんなの頼んでない…!むしろみんなには、リリス様にいつも優しくしてもらってるってちゃんと言ったのに…!!!」
混乱するアダム様とエヴァ様。
両家の両親は大人の話し合いをするらしく部屋を移った。
パーティーは当然お開き。
エヴァ様を慕う男たちは、家族に連れられてわたくしに頭を下げてから帰って行った。
残されたわたくしたちは困った顔で見つめあったが、いきなりアダム様とエヴァ様が私に頭を下げた。
「ごめんなさい、こんなことになっていたなんて知らなくて!!!」
「必ずこのことは償う、だからどうか別れるなんて言わないで!!!」
ええ…と思いつつも二人に頭を下げられるとどうしたらいいかわからない。
そこでルシアが言った。
「いい加減にしなさいよクソ野郎、クソ女!これ以上あんたたちの勝手にリリスを巻き込まないで!」
「それは…」
「リリス様…私…」
そうしているうちに両親が戻ってきて、とりあえず今日はこのまま帰ることになった。
わたくしを見送ろうとするアダム様を私の両親がお断りして、冷たい雰囲気のまま馬車に乗る。
両親には、ああいうことはもっと早く言えと馬車の中で怒られた。
そして抱きしめられて、わたくしはようやく泣けた。
この婚約は、結局どうなるのだろう。
結局のところ、わたくしとアダム様の婚約はまだ協議中だ。
ただエヴァ様を慕う男たちから改めて謝罪され、彼らはなんとやったことがことだということで貴族裁判にかけられることになったらしい。
刑事罰が下るのは確定だそう。
エヴァ様からも改めて謝罪があった。
エヴァ様は、結局世俗を捨て教会で出家するらしい。
最初からアダム様を頼らずそうしてくれれば…なんて思ってしまった。
アダム様からも改めて正式に謝罪があった。
わたくしの彼らにされたことを、重く受け止めているらしい。
だからわたくしは別れたい、彼は別れたくないとのことでまだ婚約は協議中。
でも、そんな中で今日アダム様が私を訪ねてきた。
「…リリス、本当にごめん。でも」
「あの、アダム様」
「なに?」
「わたくし、一旦冷静になって考えたらやっぱりアダム様のこと許せません」
「…そっか」
意気消沈した様子のアダム様。
彼に気持ちを正直に伝える。
「わたくし、本当はエヴァ様に嫌われていたでしょう?だからエヴァ様はあんな…」
「ちょっと待って、それはない。親族に殺されかけ凍え切ったエヴァの精神を癒したのは他でもない君だ」
「え」
「俺は屋敷に匿うことと証拠を探ることしか出来なかった。エヴァを励まして、心の傷を癒したのは君だ。エヴァはあの男たちに君は危害を加えるようお願いしたとか、そういうことは本当にしてない。貴族裁判でも彼らは勝手にやったと主張している」
それはないだろう。
そもそも彼女は会うたび自然と元気になっていったと思うのだけど。
やっぱり彼女の心を癒したのはアダム様だと思う。
「俺も君に救われた」
「え」
「幼い頃からなんでも出来て、なんでも持っていて、だから人生を退屈に感じていた俺が初めて…愛したのが、君だ。幸せにしたいと思った。君に出会えて俺は本当に幸せだった」
…なんの話だろう。
そんなの初めて聞いた。
「君は気弱すぎるところがあるけれど、そこも可愛かった。守ってあげたいと思った。一緒にいるだけで満たされた…でも、俺はそんな君に甘えすぎたんだな。何も言ってこないからと放置して、可哀想だからとエヴァを構って…結果君を傷つけた」
そんな風に…思っていたなら……どうしてもっと早く言ってくれなかったのか。
この恋が枯れる前に言って欲しかった。
「だから俺は君を手放したくない」
「…」
「けれど、俺が君を幸せにできないなら…君を縛り付けるべきじゃないんだろう」
アダム様は切なげな表情で私を見つめる。
「本当にごめん。君が俺を許せないなら、甘んじて婚約の破棄を受け入れる」
「…いや、婚約の破棄だなんて。表向きには円満に解消にしましょうよ」
「いや、きちんと俺の有責で婚約を破棄しよう。賠償もする」
「…では、それでお願いします」
こうして、わたくしとアダム様の婚約は破棄されるに至った。
多額の賠償金が払われた。
アダム様の家はお金持ちだからそれで家が傾くことはなかったけれど、それだけ多額の賠償金だった。
「完全勝利ね、リリス!」
「んー、まあ」
「なによ、まだ彼が好きなの?」
「いや、一度冷静になったら恋心は枯れた」
「ならなによ」
ルシアにこぼす。
「もっと円満に解消した方がよかったのかなって。みんなの人生が狂ったから」
「そんなの自業自得でしょ」
そうかな。
うん、そう思うことにしよう。
「そうだね」
「そうよ?それでね、私の可愛いリリス」
「ん?」
ルシアはわたくしに跪く。
そしてわたくしの左手をとって、指輪を薬指に嵌めた。
「え…」
「好きよ。私と、結婚してもらえないかしら」
急な求婚に戸惑う。
ルシアはそんなわたくしを優しく見つめるだけ。
でも…迷っている時点で答えは出てるか。
「…わたくし、多分まだルシアのことそういう意味では好きじゃないけど……」
「!」
「でもなんか…幸せにしてくれそうって、思う。ルシアの気持ちに、甘えてもいい?」
「うん、もちろんよ!全身全霊で愛するわ!」
ぎゅっと抱きしめられて、これでよかったのかなぁと思う自分と良かったと思う自分とがせめぎ合う。
この半年後には、むしろ一年後に待ち構えるルシアとの結婚式が楽しみになるほどルシアにゾッコンになるとは知らずに。
唯一味方してくれていた友人にまで言わせてしまい、申し訳なさから顔を下げてしまう。
「うん…だよね…でもまだ好きなの…」
「…え、あそこまでされてまだ好きなの?」
「そうなんだよぉ…好きなんだよぉ…ぐすん」
「バカねぇあんた。そんなだから浮気なんてされるのよ」
わたくしの唯一の味方、唯一の親友、ルシア。
彼はわたくしよりもわたくしのことを思って、わたくしのために怒ってくれる。
「アダムのクソ野郎はエヴァ様とお似合いだってみんなに言われて、いいご身分よねぇ?あんたはその間、アダム様に見合わないから別れろって、お前は悪役令嬢だって暴言を吐かれてるのに」
「両親を亡くして、中継ぎで伯爵家を継いだ叔父夫婦に邪魔だからと殺されそうになったエヴァ様は実際、可哀想だし助けてあげないといけなかったのはわかるけど…彼女を溺愛するアダム様を見るのは悲しい」
「そりゃそうでしょ。悲しいに決まってるわよ。大体屋敷に上げて溺愛する必要まであった?さっさと叔父夫婦の尻尾掴んで治安維持部隊に突き出せばいいじゃない」
「その証拠集めが難しいんだって…エヴァ様の証言だけじゃダメみたい」
「それは百歩譲っていいとしましょう。その状況で引き取って溺愛とかクソだけど、まあ置いておきましょう。別れ話しようとすると露骨に話題逸らされたり、聞いてもらえても却下されるのが最悪なのよ!どっちなのよ!私の可愛いリリスを取るのか、エヴァを取るのかはっきりしなさいよ!」
そう言ってルシアは地団駄を踏む。
「絶対あんたの実家との繋がり目当てよね…あんたの家は歴史ある子爵家、あいつの家は金だけが取り柄の新興貴族、それも男爵家。でもあの男の結納金なんてなくてもあんたの実家は傾かない。あんたは別に婚約破棄していいのよ」
「いやまあ、それは…うん、そうよね。わたくしの家は困らないわ」
わたくしの言葉にルシアは頷いた。
「そう。だからあんたの意思次第ではどうとでもなるのよ」
「うん…でも、やっぱりまだ好きなの…」
「…そう。でもね、あんたはこのまま結婚しても幸せになれないわよ。そんなの…あんたを心から愛する、あんたのお父様やお母様も悲しむわ」
「そう…だよね。でも…今更婚約解消して、いい相手が見つかるかもわからないし…」
そう言ったわたくしの頬をルシアはむにょんとつまむ。
「あんたはこのルシア様の唯一無二の親友なんだから、もっと自分に自信を持ちなさいよね!」
「ふふ、そう言ってもらえるのは嬉しい」
「嬉しいのはいいけど、自信は本当につけなさいよ。あんたの欠点は自分への自信のなさなんだから。さて、どうやって婚約を解消するか考えなきゃね」
「いやだからまだアダム様が好きで…」
「諦めなさい」
ぴしゃりと言い切られた。
「あの男は、エヴァばかりを構ってあんたを見ない。あんたはただの都合のいい女よ」
「うん………」
「他に、いい男はいっぱいいるわ。ほら、目の前にもいるじゃない!」
「ルシア…」
ルシアは、可愛い物好きかつ女言葉で身に纏うのもドレスだが、れっきとした男の子だ。
この国の、国王陛下の二番目の子。
ルシアン様。
…まあこのことは公然の秘密だし、彼は国王陛下お気に入りの公妾の生んだ子で国の法律上王位継承権は元々ないし、母である公妾の実家の伯爵家の後継だし、その辺りの色々でストレス溜まりすぎて女の子趣味に走ったから、もういっそ女の子に生まれてくればよかったのにと彼を男に生んだ神を憎むレベルだけど…。
そんな彼がこうも言ってくれるなら…。
「わかった…諦める」
グズグズとまた泣きそうになればルシアにデコピンされた。
「泣く必要ないわ!喜んで捨ててやりなさい!」
「うん…」
そうと決まれば、どう別れるかだけど。
「…とりあえず、これ見てみて」
他でもない、ルシアの発明品の一つである過去を映す魔術(ルシアは天才肌で色々な魔術を生み出している)でこっそり撮っておいた、エヴァ様を慕う男たちが私にアダム様と別れろと罵声混じりで脅してくる映像を流した。
「…なるほど」
「別れる理由になるよね…ちょっと過激だけど…」
「有利に別れられそうじゃない。やってやるわよ!」
ここまで来たら腹を括るしかない…頑張ろう!うん!
「リリス、いらっしゃい。よく来てくれたね」
「リリス様、お久しぶり」
「はい。お久しぶりです」
「うふふ、突然だけど私も交ぜてちょうだい」
アダム様とエヴァ様に向かってぎこちなく笑う。
アダム様もエヴァ様もそんな私に首をかしげるが、そこにルシアはわざとらしく交ざった。
今日は両家の親族も集まるパーティーの場。
別にルシアがいてもおかしくないのだが…アダムとエヴァ様は何故か顔を顰めた、一瞬だけど。
「わたくしの気持ちが、少しはわかったかしら…」
「え?」
「いえ、なんでもありませんわ」
私はさくっとアダム様のご両親にも挨拶をして全員に見て欲しいものがあるとお願いした。
両親もアダム様のご両親も、アダム様とエヴァ様も承諾してくれて、今日のパーティーの主催はアダム様のご両親だったのでそのままこの場で例の映像を流すことになった。
『いい加減にアダム様と別れろ!』
『エヴァ様にとってアダム様に嫁ぐのが一番の幸せだ!邪魔をするな!』
『自分の幸せしか考えられないクズめ!悪役令嬢っていうのはお前のような女のことを言うんだな!』
暴言、罵声、脅迫のオンパレード。そして終いにはゴミを投げつけられる様まで見せて映像を終了する。
「…なんだ、これ」
アダム様は驚いた顔でこちらを見るが、こっちこそなんですかと問いたい。
わたくしを虐げたエヴァ様を慕う男たちとその家族は、ばっちり顔と声が入った映像に青ざめる。
「エヴァ…?君がやらせたの………?」
「わ、私こんなの頼んでない…!むしろみんなには、リリス様にいつも優しくしてもらってるってちゃんと言ったのに…!!!」
混乱するアダム様とエヴァ様。
両家の両親は大人の話し合いをするらしく部屋を移った。
パーティーは当然お開き。
エヴァ様を慕う男たちは、家族に連れられてわたくしに頭を下げてから帰って行った。
残されたわたくしたちは困った顔で見つめあったが、いきなりアダム様とエヴァ様が私に頭を下げた。
「ごめんなさい、こんなことになっていたなんて知らなくて!!!」
「必ずこのことは償う、だからどうか別れるなんて言わないで!!!」
ええ…と思いつつも二人に頭を下げられるとどうしたらいいかわからない。
そこでルシアが言った。
「いい加減にしなさいよクソ野郎、クソ女!これ以上あんたたちの勝手にリリスを巻き込まないで!」
「それは…」
「リリス様…私…」
そうしているうちに両親が戻ってきて、とりあえず今日はこのまま帰ることになった。
わたくしを見送ろうとするアダム様を私の両親がお断りして、冷たい雰囲気のまま馬車に乗る。
両親には、ああいうことはもっと早く言えと馬車の中で怒られた。
そして抱きしめられて、わたくしはようやく泣けた。
この婚約は、結局どうなるのだろう。
結局のところ、わたくしとアダム様の婚約はまだ協議中だ。
ただエヴァ様を慕う男たちから改めて謝罪され、彼らはなんとやったことがことだということで貴族裁判にかけられることになったらしい。
刑事罰が下るのは確定だそう。
エヴァ様からも改めて謝罪があった。
エヴァ様は、結局世俗を捨て教会で出家するらしい。
最初からアダム様を頼らずそうしてくれれば…なんて思ってしまった。
アダム様からも改めて正式に謝罪があった。
わたくしの彼らにされたことを、重く受け止めているらしい。
だからわたくしは別れたい、彼は別れたくないとのことでまだ婚約は協議中。
でも、そんな中で今日アダム様が私を訪ねてきた。
「…リリス、本当にごめん。でも」
「あの、アダム様」
「なに?」
「わたくし、一旦冷静になって考えたらやっぱりアダム様のこと許せません」
「…そっか」
意気消沈した様子のアダム様。
彼に気持ちを正直に伝える。
「わたくし、本当はエヴァ様に嫌われていたでしょう?だからエヴァ様はあんな…」
「ちょっと待って、それはない。親族に殺されかけ凍え切ったエヴァの精神を癒したのは他でもない君だ」
「え」
「俺は屋敷に匿うことと証拠を探ることしか出来なかった。エヴァを励まして、心の傷を癒したのは君だ。エヴァはあの男たちに君は危害を加えるようお願いしたとか、そういうことは本当にしてない。貴族裁判でも彼らは勝手にやったと主張している」
それはないだろう。
そもそも彼女は会うたび自然と元気になっていったと思うのだけど。
やっぱり彼女の心を癒したのはアダム様だと思う。
「俺も君に救われた」
「え」
「幼い頃からなんでも出来て、なんでも持っていて、だから人生を退屈に感じていた俺が初めて…愛したのが、君だ。幸せにしたいと思った。君に出会えて俺は本当に幸せだった」
…なんの話だろう。
そんなの初めて聞いた。
「君は気弱すぎるところがあるけれど、そこも可愛かった。守ってあげたいと思った。一緒にいるだけで満たされた…でも、俺はそんな君に甘えすぎたんだな。何も言ってこないからと放置して、可哀想だからとエヴァを構って…結果君を傷つけた」
そんな風に…思っていたなら……どうしてもっと早く言ってくれなかったのか。
この恋が枯れる前に言って欲しかった。
「だから俺は君を手放したくない」
「…」
「けれど、俺が君を幸せにできないなら…君を縛り付けるべきじゃないんだろう」
アダム様は切なげな表情で私を見つめる。
「本当にごめん。君が俺を許せないなら、甘んじて婚約の破棄を受け入れる」
「…いや、婚約の破棄だなんて。表向きには円満に解消にしましょうよ」
「いや、きちんと俺の有責で婚約を破棄しよう。賠償もする」
「…では、それでお願いします」
こうして、わたくしとアダム様の婚約は破棄されるに至った。
多額の賠償金が払われた。
アダム様の家はお金持ちだからそれで家が傾くことはなかったけれど、それだけ多額の賠償金だった。
「完全勝利ね、リリス!」
「んー、まあ」
「なによ、まだ彼が好きなの?」
「いや、一度冷静になったら恋心は枯れた」
「ならなによ」
ルシアにこぼす。
「もっと円満に解消した方がよかったのかなって。みんなの人生が狂ったから」
「そんなの自業自得でしょ」
そうかな。
うん、そう思うことにしよう。
「そうだね」
「そうよ?それでね、私の可愛いリリス」
「ん?」
ルシアはわたくしに跪く。
そしてわたくしの左手をとって、指輪を薬指に嵌めた。
「え…」
「好きよ。私と、結婚してもらえないかしら」
急な求婚に戸惑う。
ルシアはそんなわたくしを優しく見つめるだけ。
でも…迷っている時点で答えは出てるか。
「…わたくし、多分まだルシアのことそういう意味では好きじゃないけど……」
「!」
「でもなんか…幸せにしてくれそうって、思う。ルシアの気持ちに、甘えてもいい?」
「うん、もちろんよ!全身全霊で愛するわ!」
ぎゅっと抱きしめられて、これでよかったのかなぁと思う自分と良かったと思う自分とがせめぎ合う。
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