異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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異世界〝から〟悪役令嬢が転移してきた

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私こと白石心優(しらいしみゆう)二十歳。

不思議体験に今絶賛巻き込まれ中です。

なにごとかと申しますと…。

「あら?わたくし…確か…聖女を階段から突き落とした罪で、幽閉されて…魔力を奪われた後…暗い何もないなんの音もしない部屋に閉じ込められて、発狂しそうになって、それで…ここは?」

今読んでいた悪役令嬢ざまぁ聖女万歳系の漫画で悪役令嬢のあまりの悲惨なラストに可哀想すぎて号泣していたら、発狂死寸前だった悪役令嬢が異世界〝から〟転移してきました。

「あ、えーっと」

突然のことに頭が回らない私。

対する悪役令嬢クリスティアーヌは。

「貴女が…助けてくださいましたの?」

「え、いや、そういうわけではないけど…この状況は私も把握できてないけど…もしよかったら、今から助けようか?」

「え?」

「この世界は、多分貴女が元いた世界じゃないの。だから、私が貴女をしばらく養ってあげる!…っていうのはどう?」

「…よくわからないけれど、わかりましたわ。よろしくお願いします」

ということで、悪役令嬢との二人暮らしが始まった。

















私は両親を最近亡くしており、両親の遺産で大学に通って生活している。

両親はかなりのバリキャリでしかも節約が趣味の人たちだったから、人々が思う遺産額より多くのお金が入っていた。

だからアルバイトをせずとも生活できるし、奨学金がなくとも大学に通える。

…のだが、私は中学生ごろからの趣味がネット小説を書くことで。

ありがたいことに出版とかも何度かさせていただいてるから、印税もあって遺産以外の貯蓄もある。

さらに両親の遺産はお金だけでなく賃貸マンションとかもあって、ぶっちゃけ不労所得だけで〝二人で〟生きていける程度には毎月お金が入ってくる。

ということで、私は大学に通いつつ興味のある分野の勉強をしつつ悪役令嬢クリスティアーヌを養っている。

「クリスティアーヌちゃん、ご飯できたよー」

「ありがとうございます、ミユウさん」

「うんうん、お礼が言えてえらいね。じゃあいただきます」

「いただきます」

クリスティアーヌは発狂死寸前まで追い込まれたせいで高飛車な態度はしなくなり、非常に大人しく怯えたがりな女の子になっていた。

でもファンタジー系異世界の貴族の学園でトップクラスの成績だっただけはあり、頭はよく知識はある。

しかも転移特典なのか日本語は読み書きできるようで、クリスティアーヌちゃんは日々の生活には困っていないようだ。

現代社会の知識を身につけさせるため、今は外にはあまり出さずに現代社会が舞台の漫画を片っ端から読ませている。

だいぶ現代社会の知識も身についてきた。

「でも、クリスティアーヌちゃんは本当に優秀だねぇ。一ヶ月かけて教えたら家事を全部完璧にできるようになって、今では家事は分担して二人でやっていけるようになったし」

「いえ、優秀だなんて…一ヶ月も掛かってしまいましたわ」

「十分十分!クリスティアーヌちゃんのおかげで毎日お家はピカピカで、お洋服はシワ一つない!私はご飯作るだけで済むようになったしー、本当に助かる!ありがとう、クリスティアーヌちゃん!」

「ま、まあ…!うふふ、そんなに褒められたのは初めてですわ。ありがとう」

クリスティアーヌちゃんは悲惨な幼少期を過ごしてきた悪役令嬢だ。

いっぱい褒めてあげたい。

いっぱい愛してあげたい。

いっぱい大切にしてあげたい。

「でもミユウさん。お金の心配は、本当にないんですのよね?わたくしまで養ってくださって…ミユウさんが心配ですわ」

「いいのいいの!貯金はたくさんあるし、毎月不労所得も入ってくるからそれだけで生活できるし、大学の費用も貯金から出せるし、私の印税もあるし!」

「ふふ、それは頼もしいですわ。でも無理はなさらないでね。いざという時は追い出してくださって構いませんわ」

「そんなことしないよ!生活費は心配しないで、本当に大丈夫だから!今回もほら、今月からまた新しく本を出版してもらったし!また印税も入るから!」

「ふふ。わたくしね、ミユウさんの書かれた本はとても面白くて大好きですの。この本もお気に入りですわ。絶対絶対売れますわよ」

嬉しいことを言ってくれるクリスティアーヌちゃんを抱きしめる。

「クリスティアーヌちゃん、ありがとう!」

「ミユウさん…わたくしこそ、本当にありがとう」

ちなみに。

クリスティアーヌちゃんの国籍、戸籍、住民票、マイナンバーカード問題なのだが。

転移してきた時に、必要書類が全部用意されていた。

神様か誰かの仕業だろうか?

GJ。

ということで、クリスティアーヌちゃんがうちにいてもなんの問題もない。

「あ、食事の最中にごめんね。食べよう食べよう」

「は、はい!そうですわね、食べましょう」

クリスティアーヌちゃんとの日々は、楽しいことばかりだ。

だが、時々異世界出身故にまだまだ齟齬も発生したりする。













「あの…ミユウさん…これは、なんですか?」

「今夜の晩御飯!卵かけご飯だよ!」

「生卵を炊いた米にかけるなど正気ですか!?」

「あ、大丈夫大丈夫。日本は衛生管理しっかりしてるから腹下したりしないよ。食べてみそ」

「ええ…?」

恐る恐る食べるクリスティアーヌちゃん。

一口食べると、表情が変わった。

「…美味しい!」

「でしょー」

こういう異世界出身故の齟齬もやりとりしてて楽しい。

クリスティアーヌちゃんの驚いた表情も美味しそうに食べるところも可愛いし。

















「美味しそうな料理ですね、ミユウさん。鶏肉を卵で綴じた食べ物ですか?」

「そう!人呼んで親子丼!」

「…ネーミングセンスが………惨い…」

確かに卵と鶏肉だから親子丼って、聞き慣れてないと惨いと感じるかも。

「ちなみに他人丼もあるよ!今度食べよう!」

「は、はい…」

若干引き気味だが、食べるとやっぱり表情が変わるクリスティアーヌちゃんは可愛い。
















「これは…なんですか?」

「馬肉のユッケ」

「生…肉?」

「大丈夫大丈夫、食べてみそ」

「…いただきます!」

悍ましいものを見る目だったが、やっぱり食べると表情が変わるクリスティアーヌちゃん。

よしよし、だいぶ日本に染まってきたな。

















「夏休みだー!」

「よくわかりませんが、おめでとうございます!」

「一緒にいっぱいお出かけしようね、クリスティアーヌちゃん!」

「…!はい、ぜひ!」

ということで、クリスティアーヌちゃんと大学の夏休み中遊び歩いた。

遊園地、動物園、水族館、プール、温泉、食い倒れ旅行など。

たくさんの楽しい思い出を作った。

けれど、やっぱり終わりというものは訪れるもので。

「あれ?クリスティアーヌちゃん…透けてる!?」

「ああ…どうやら奇跡の時間は終わりのようですわね」

「え、帰っちゃうの…?」

「どうやらそうらしいですわ」

クリスティアーヌちゃんはやがて光に包まれ、浮かんだ。

「さようなら、ミユウさん。とっても楽しかったです」

「………うん、私もとっても楽しかった!」

「大好きですわ、ミユウさん」

「私も大好き!」

そしてクリスティアーヌちゃんは帰っていった。














クリスティアーヌちゃんがいた痕跡は、跡形もなく消えた。

書類ももうない。

戸籍も消えている。

国籍も住民票もマイナンバーカードも。

なにもない。

「でも、私の中で思い出だけは残ってる…」

そして。

あの漫画の単行本で、クリスティアーヌちゃんを主人公にした番外編が描かれた。

原作者さん曰く、夢で見た光景を番外編にしたらしい。

その夢は、私が先日見たクリスティアーヌちゃんの夢とよく似ていた。

その内容は。

「発狂死寸前だった悪役令嬢クリスティアーヌが、異世界〝から〟現代社会に転生して、幸せに暮らした。そんなクリスティアーヌが元の世界に戻ると、現代社会で暮らしていた間に散々貯め込んだ魔力を使い幽閉された部屋から逃げ出した。そしてその後は、他国を転々としながら困っている人々を助けて回り…彼女は心優しい巫女姫として多くの人々から愛されるようになった………か」

賛否両論あった番外編。

むしろ否定的意見の方が多かったくらいだけど…。

「クリスティアーヌちゃん、幸せになってくれてよかった…」

多くの人々から愛されるようになったクリスティアーヌちゃんは、やがて一人の男性と恋に落ちた。

クリスティアーヌちゃんが助けた、飢饉で苦しんでいた小国の王子様。

一途で優しい彼にクリスティアーヌちゃんは嫁いだ。

そして国を持ち前の魔力で豊かにして、人々から崇められて、夫から愛されて、子供達も生まれて…幸せになってくれた。

「よかったね…クリスティアーヌちゃん、よかったね…!」

泣く私。

ひとりぼっちの部屋は寂しいけれど、本当に良かった。













「よお」

「大地、どうしたの急に」

「いや、なんか最近やけに寂しそうな顔してるなーと思って来てみたら急に元気そうな顔に戻ったからさ」

「心配してくれてたの?」

「そりゃあ幼馴染だからさ。でももう大丈夫そうだな」

よかったよかったと笑う幼馴染に、抱きつく。

「え、おい、急にどうした?」

「元気は出たし今は落ち着いてるけど、広い家での一人暮らしはやっぱり寂しいからさ…ハウスシェアしない?」

「お前ん家に住めばいいの?」

「うん、お願い」

「今も俺は実家済みで、どうせお隣さんだし生活は変わんないからね。いいよ」

ひとりぼっちになって、クリスティアーヌちゃんが来てくれて、またひとりぼっちになって。

今度は大地が来てくれた。

次はもう、ひとりぼっちにならないように。

「ところでさ」

「うん?」

「私たちが付き合える可能性ってある?」

「お前が俺を好きになってくれるなら100%だけど?」

「まだ恋愛感情で好きとは言えないけど、そのうち好きになるから付き合って」

最低な私の告白に、大地は笑った。

「お前最低、寂しいだけじゃん」

「まあね」

「でもいいよ。惚れた女の可愛いわがままは叶えてやらないとな」

「…え」

「俺は昔から好きだよ、お前のこと」

無駄にイケメンな幼馴染は、珍しく情け無い顔をしつつ赤面してそう言った。

「やばい」

「ん?」

「今の顔で恋に落ちたかも」

「まじ?」

「まじ」

ということで、ハウスシェアもとい同棲してお付き合いをすることになった私たち。

事実上婚約状態で、大学を卒業したら籍を入れる予定。

大地のご両親も応援してくれて、父と母にもお墓で報告した。

それもこれも、全ては寂しかったのを埋めるためだったけど…それを許してくれた大地には感謝。

そして、両親を亡くして意気消沈していた私の心を救った上で寂しくしてくれたクリスティアーヌちゃんにも感謝。

ともかくクリスティアーヌちゃんもあちらで幸せになり、私はこちらで幸せになり。

大団円となったのでした。
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