異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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悪役令嬢に転生したのでさっさと撤退致します!

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ルーヴルナちゃん十五歳。

とある春の日、唐突に前世の記憶を思い出しました。

「悪役令嬢ルーヴルナになってるー!?」

これは〝詰んだ〟なと即理解しました。

何故なら。

「人気同人乙女ゲームの悪役令嬢ルーヴルナは、どの〝ルート〟をヒロインが選ぼうと【悪役令嬢】になる…ヒロインが選ぶお相手がルーヴルナの婚約者となる」

ゲームの設定上そうなっていた。

そして悪役令嬢ルーヴルナちゃんは今年の冬に婚約者が決まり、来年の春に乙女ゲームの舞台となる学園に入学する。

そして聖女であるヒロインに嫌がらせをして貴族籍剥奪の上国外追放…冗談じゃない。

かくなる上は。

「撤退致しますわー!」

私は早々に戦線離脱を決め込んだ。

私に甘々なお父様とお兄様に頼み込んで、来年の学園への入学は急遽他国への留学に変えてもらった。

そして肝心の婚約者は内定程度に留めて、婚約をはっきりとは結ばないようにしてもらった。

これで冬が来ても大丈夫!

春が来ても大丈夫!

ということで私は自由の翼を手にした。











冬、婚約者が内定した。

我が国の魔術師団長でもある辺境伯の息子のグエンだ。

彼には私の留学先の国の血が流れている。

母親がその国の出身なのだ。

だからグエンも、私と一緒に留学することになった。

「…なんでや」

そんなつもりじゃなかったのにー!!!

でもまあ、そうと決まれば仕方がない。

今日はグエンとの初顔合わせの日。

さて相手はどう来るかな。

「…えっと、は、はじめまして」

「お初にお目にかかります、ルーヴルナですわ。グエン様、留学にあたって色々と迷惑をかけてしまうと思いますがよろしくお願い致しますわ」

「え、あ、えっと…う、うん!き、きみは…なんだか噂とは違うね」

「傲慢で高飛車な娘という噂ですの?それともぶくぶくと肥え太った豚という噂ですの?どちらも正しく〝過去の私〟そのものですわ」

「え」

きょとんとするグエンに微笑む。

「来年の留学に間に合うように、今年の春からダイエットとお勉強を頑張りましたの」

「そ、そっか!き、君はとっても努力家なんだね」

「あら、それはグエン様にも言えることですわ」

「え」

「数々の魔道具をその若さでたくさん開発なさったとか。辺境伯家は錬金術より魔術を重んじるようですが、グエン様の才能は兄君の魔術の才能すら上回ると私は思っていますの。そんな方が私の婚約者に内定だなんて、将来が楽しみですわ。私と結婚したあかつきには、ぜひ凄腕の天才錬金術師として私にその才能を支えさせてくださいませ」

ま、ヒロインが割り込んできて婚約破棄にならなければの話だけど。

「ぅっ…うぅ…」

「ってええ!!?グエン様どうなさいましたの!?」

「錬金術師として僕を褒めてくれる人がいるなんて…すごく嬉しい…嬉しくて涙が…」

「まあまあ、グエン様ったら。辺境伯家ではどうか知りませんけど、外の人はみんなグエン様の才能を欲しがっているくらいですのよ」

「嬉しい…!!!」

そういえばグエンは引っ込み思案で暗い性格のヤンデレイケメンキャラだっけ。

錬金術師として認められたくて頑張るけど、家では評価してもらえなくてどんどん悪い方向に行くネガティブな美男子。

本来ならヒロインがそれを支えて家族をギャフンと言わせる発明をして、ヒロインと結ばれるんだっけ…?

…まあ、どの道私が自由を手に入れた時点で物語は崩壊してるしいいよね!

私はグエンと仲良くなることにした。
















春が来た。

グエンと共に留学した。

そこでは高飛車で傲慢な振る舞いは控え…控えたというか前世の記憶を取り戻してから恥ずかしくてそんな振る舞いはしていないが…ともかく、むしろ我が身に有り余る魔力をグエン様の母の祖国である留学先で人助けのために使いまくった。

グエンの魔道具を活用して、ね。

結果留学先では、〝聖女〟と崇められることとなった。

「ルーヴルナ様ー!今日もありがとうございます!」

「ルーヴルナ様の魔力と天才錬金術師殿の発明で今日も我が国は平和です!」

「うふふ、私は有り余る魔力を魔道具に流しただけよ。本当にすごいのはグエンなんだから!」

「る、ルーヴルナ!あんまり褒めないで、照れる!」

「あらあら、可愛らしい人」

もちろんグエンも〝天才錬金術師〟として讃えられた。

そして留学先のこの国で【留学】に来たにも関わらず【特別な称号】を国王陛下直々にいただいてしまった。

その名も【姫巫女】【魔道具卿】。

厨二病全開ね。いいけど。

「まあでも、照れちゃうし…なんでこんなに感謝されるかわからないけど、魔道具を作った甲斐があるよ」

「あら、貴方の発明はこの国を豊かにしたのよ?」

「そ、それはルーヴルナが魔力を注ぎ込んでくれたからで…僕一人では…」

「ねえグエン、聞いて。貴方の発明が人を救ったのよ?もっと貴方は自分を誇っていいの」

「ルーヴルナ…」

人助けの一部を具体的にいうと、例えば痩せて収穫量が減った土地への支援。

グエンの魔道具に私の魔力を注ぎ込むことで、そこの土を栄養満点にしてその年の収穫を豊作にしたり、その後も百年は豊作が続くよう魔道具に魔力をさらに注ぎ込んだり…。

水害の多い地域にはグエンの魔道具を水辺に設置して、私が百年分の魔力を注ぎ込んだ。それにより水の量を魔道具が調節してくれるようになり、結果人々は水害から解放された。

冷害に苦しむ地域には、グエンの魔道具に私の魔力を百年分注ぎ込んでドームを作った。ドームは無色透明ですり抜け可能。でも一定の温度を保ってくれる優れ物。

山火事などの被害が多い地域には、同じくグエンの魔道具に私の魔力を百年分注ぎ込んでドームを作って…火事が起きたら自動で水が降り注ぎ鎮火するようにした。これでだいぶマシになったらしい。

とまあこのように、グエンの魔道具はこの国を救ったのだ。

ついでに私も。

ちなみに私の規格外の魔力はどうか許して欲しい。

同人乙女ゲームの【悪役令嬢】であるルーヴルナは、ラスボスなので強強に設定されているのだ。

「でも、こうなるとこの国での居心地の方が良くなっちゃうわね」

「今更国に帰るのもなぁって思っちゃうよね」

「称号までいただいたしね、魔道具卿」

「…ひ、姫巫女様だってそうだろ」

お互い軽口を叩いて、クスクス笑う。

こんな日々がずっと続けばいいのに。















そして、留学先から帰る年になった。

「はぁ、残念」

「帰りたくないね」

「ずっとここに居たいなぁ」

そんなことを言いつつ、私たちは国に帰った。

すると―…

「姫巫女様!魔道具卿!どうか我々をお救いください!」

「え」

「え」

「聖女様が余りにも我儘放題の無法振りのため、神が怒って聖女様のご加護を奪ってしまわれたのです!このままでは国が…!!!」

待っていたのは祖国の大臣たち。

そんな方々から助力を乞われ、私たちは留学先でやったのと同じようにグエンの魔道具と私の魔力を使って人々を助けて回った。

結果、祖国でも姫巫女と魔道具卿と呼ばれることになってしまったのだが…祖国を見事に救えた上にむしろ栄えさせられたのでそれは良いとして…。

「で、聖女様は?」

「その…もう聖女の資格がないと審判が降りまして…国を結果的に混乱させた者ですから、平民に戻して市井に戻すのも…ちょっと…どう扱ったものか…」

「うーん」

何かいい案はないか…あ。

「ご加護を奪われただけで魔力はあるなら、グエンの魔道具に魔力を吸わせる装置にしたら?その分国の安寧に寄与したってことである程度の生活は保障してあげたりして」

我ながらゲスな提案だが、別に魔力を注ぎ込んでも痛みとか疲れとかはないし、そのまま市井に戻すのも色々危険だし…いい案じゃない?

「なるほど…さすがは姫巫女様!ではそのように手配致します!」

「いくら国を混乱させた張本人とはいえ、本当にある程度の生活の保障はするのよ?」

「承知しております!では!」

ということで、多分おそらくきっとめいびー、転生性悪ヒロインだったのであろう【元聖女様】は迷惑をかけてしまった国のためにそこまでキツくはない強制労働が確定したのでした。













「…ふぅ、疲れた」

「お疲れ様、グエン。今日も魔道具開発頑張ったわね」

「うん、大事な奥さんのためだからね」

「まだ奥さんじゃないわ。婚約者よ」

「正式に婚約したのだし、来月には結婚式なんだからいいじゃないか」

グエンと私は結局婚約した。

そして今日も姫巫女様と魔道具卿として崇められている。

「あー、早く結婚したいなぁ」

「楽しみね」

「うん」

グエンは魔道具卿として留学先でも祖国でも認められた結果、ネガティブな要素が抜け落ち今では影のないイケメンとなっている。

なのでヤンデレ要素も無くなった。

そのおかげで私は真っ当にグエンに愛されている。

「…聖女様の騒動とかもあって色々精神的には疲れたけど、なんだかんだで今は幸せだわ」

「そうだね、僕も」

寄り添って、ぎゅっと抱きしめ合う。

「ずっとこの幸せが続きますように」

「そうね…」

その願いが、叶いますように…。
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