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愛とその罪

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「運命の番、ねぇ…」

獣人族の支配するこの国では、私達人族は虐げられる存在。なのに。

「よりにもよって、龍人族に目をつけられるとは…」

なぜか今日、私はこの国のトップである、龍人族の〝運命の番〟だと言われました。

「何かの間違いじゃないですか?」

「いや、間違いない。この胸の高鳴りは、運命の番に出会えたからに違いない」

「ああそう…」

別に、運命の番は同じ種族が相手とは限らないとは有名な話だ。犬族の獣人と猫族の獣人の運命の番なんてよく聞く。人族が運命の番なんて話もまあまあ聞く。でも、この国を治める一族の龍人族の番が人族の私って…。

「…お互いのために、やめておいた方が良くないですか?」

「いやだ!せっかく運命の番に出会えたのに!結婚してくれ!」

「そうはおっしゃいましても」

多分おそらく、お互いに幸せにはなれないと思う。

「とりあえず、君のご家族に挨拶をしよう」

「いませんよ、天涯孤独の身の上なんでね」

「え…その若さで…?」

「私の両親と幼かった弟は、獣人族に目をつけられましてね。暴行されてそのまま。私は、その獣人達に売り飛ばされ、別の獣人の奴隷として扱われてます。意味は…わかるでしょう?」

まあ、つまり、そういうことだ。

「…」

「…」

「…すまない」

ぽそっと謝られた。と思ったら頭を下げられた。

「え、や、やめてください!貴方がしたことじゃないでしょう!」

「俺たち龍人族のせいだ。獣人族を優遇するあまり、人族に目を向けてこなかった。まさか、そんな非道極まりない事態が横行しているなんてっ…!!!」

「…」

その涙は、本物なのだろう。自分の運命の番が、という気持ちもあるだろうけれど、人族に申し訳ないとも思ってくれている。

「…人族の環境を整える。少しでも差別を減らす。約束する。…それまでは、嫌かもしれないが、俺の庇護下に来てくれないか。君を守りたい。人族がそんな扱いを受けない環境を整えたら、そのあとは…俺のそばを、離れても良いから」

「…わかりました」

「本当か!?ありがとう!ありがとう!」

お人好しなこの人が人族を救おうとして他の獣人達に虐められるくらいなら、私が目に見える的になってあげよう。そう思った。

のだが。

「番様、今まで苦労なさっていたんですねぇ…」

なぜか、彼の屋敷の中は人族だらけだった。

「あ、驚きました?龍人族が人族を使用人にしているなんて、とか?」

「は、はい」

「龍人族の人はみんなそうなんですよ」

「え?」

「支配される側の人族を憐れんで、出来る限り囲い込み守ろうとされているんです。ただ、龍人族の皆様が人族を保護すればするだけ獣人族の反発がすごくて。その分他の人族が…申し訳ないです」

なるほど…なるほど?

「ただ、近々法律で人族への差別を禁止する動きになってまして。制定されて、施行されるまでもう少しの辛抱ですね」

「え…」

そこまで龍人族は動いている?それなのに、彼はそれでもなお私を囲い込み救おうとしてくれたのか。

「まあただ、罪滅ぼしの意味もあるらしいですけどね。元々人族の国だったこの土地を、人族の王家を滅ぼし奪ったのも龍人族ですから。獣人族を優遇する国にしたのもね」

「…」

「まあでも、その前は逆に人族が獣人族を虐げていたそうですから。これでおあいこですかね」

「…そう、ですね」

おあいこ。そう言われても、両親と幼かった弟を奪われてハイそうですかとは思えないけど。

ほとんどの獣人族はみんな憎いけど。

…龍人族は、どうだろう。

自問自答したところで、答えは出ない。

ただ、初めて会った龍人族が彼だったからか、嫌な印象は持たなかった。






















「番様、そろそろご飯に致しましょうか」

「はい」

「食堂へ行きましょう!」

私の担当の侍女さんに連れていかれて、ご飯を食べることになった。

彼はそこにはいない。

「番様。旦那様は今、人族のための様々な法律を作るためすごく忙しいのです。一緒にはいられませんが、旦那様の番様への愛は疑われないでくださいね」

「…はい」

ちょっとだけ。

ほんとちょっとだけ、何故か寂しいと思ってしまった。






















彼の屋敷に来て一週間。今まで奴隷として扱われていた私は、ここにきてからお姫様のように大切にされていた。

食事は美味しいし、床ではなくベッドで寝れる。お風呂も毎日入れて、清潔な衣服ももらった。…いつかこの屋敷を出る時、私は外の世界に耐えられるだろうか。

「番様!旦那様が人族を守る法律を全て制定出来たとおっしゃっていました!法律の施行は一年後だそうです!あともう少しで人族は自由ですよ!」

私の担当の侍女さんがそう言って嬉しそうに報告してくれる。

この生活があと一年続くのか。…私、感覚狂わないかな。大丈夫かな?

「ナナミ」

「ロキ様」

その時。法律の制定を急いでいて忙しかったという彼が、初めて私の借りている部屋に来た。

「今まで、勝手に連れてきておいて放置してすまなかった。これからは少しは時間を作れるから、毎日一緒にティータイムを過ごそう」

「え、お忙しいのに…」

「君との時間を大切にしたい」

…そんな言葉に嬉しくなる私は、きっと彼に悪感情は抱いていない。

獣人族に、家族を奪われたのに。

これは家族への、裏切りだ。

「…はい」

それでも、彼を拒否できない。

「よかった!じゃあ、早速今日の三時からティータイムを共に過ごそう!」

「はい」

これも全て、運命の番だからなんだろうか。

…なんて、言い訳をしてみても。

家族がこっちを恨めしそうにみている気がして。






















「今日のおやつは、人気店のチーズケーキだ!」

「美味しそうですね。いただきます」

「いただきます」

彼は、食べながらこちらを伺ってくる。

「どう…だろうか?気に入ったか?」

「とっても美味しいです」

「それは良かった!」

彼との日々は、穏やかだ。運命の番だからだろうか。彼は私に過保護で、でも自由にさせてくれて、だけど心配症で、そしてとても甘い。

でも。

「…明日、法律が施行されますね」

「…そう、だな」

「…今まで、本当にありがとうございました」

頭を下げてお礼を告げる。彼は泣きそうな顔で私の頭を上げさせる。

「いいんだ。頭を上げてくれ」

「…すごく、穏やかな日々でした」

「そうだな…俺は、すごく幸せだった」

「…」

私もです。そう言いたい。でも、家族が、それを許してくれない気がした。

「…結婚、してくれないか」

ダメだと、わかっている。そんな、プロポーズ。それでも、私はすごく嬉しくて。だからこそ。

「ごめんなさい…」

私一人、家族を犠牲に幸せになるなんて、できない。

「…そう、か。…忘れてくれ」

「…はい」

本当は、彼が好き。いつからかなんてわからない。もしかしたら、初対面で獣人なんかを信頼してしまった時点でもう好きだったのかも。

でも、それは許されない、だから。

「…番様!」

その時、私の担当の侍女さんが声をあげた。

「番様、どうか後悔のない選択を!ご家族は番様を恨んだりなどしておりません!」

「え」

「ごめんなさい、夜、聞こえてしまったんです!番様のご家族への懺悔を!番様、旦那様への恋心は決して誰にも責められません!どうか!」

「…」

「ご家族への懺悔?」

ああ…ダメ。ダメ。

「番様は、旦那様を好きだと!でも、獣人に殺されたご家族にそれでは申し訳ないと!心を封じていらっしゃるのです!」

そんな風に言われたら、知られたら、またロキ様に甘えたくなっちゃう。

「…そう、なのか?ナナミ」

「…」

「なあ、ナナミ」

ロキ様が私の目を真っ直ぐに見つめる。

「もし、それが罪だというのなら。俺も一緒に背負う。一緒に恋をして、一緒に地獄に落ちよう。だから…俺の手を取ってくれないか。俺も一緒に、恨まれるから。一緒に懺悔を続けるから。俺のそばに、ずっといてくれ」

「…ロキ様っ!」

結局私は、彼に抱きついて、彼の手を取った。






















その後、この国はかなり荒れた。人族と獣人族が法律上、対等になったから。それでも、年月をかけてなんとか国は落ち着きを取り戻した。時間が解決してくれたのもあるけれど、龍人族の優れた統治のおかげとも言える。

私はロキ様の妻になって、五人の龍人族の子を産んだ。男の子も女の子も、みんなとても可愛い。

私は、家族に懺悔することは忘れない。お墓すら持たない、どこに骨があるかすらわからない。そんな家族に、ただただ今の幸せを懺悔する。

そうして罪を抱える私を、ロキ様は支えてくれる。一緒に懺悔して、一緒に罪を抱えてくれる。

だから私は、幸せだ。その幸せは、罪だけれど。それでも私は、とても幸せなのだ。

「お母様!みて、お花で栞を作ったの!お母様にあげる!」

「ありがとう、ミーナ」

「母上、今日は剣術の先生に褒められたのです!」

「おめでとう、キース」

「お父様にも甘えて欲しいんだが」

「お父様も大好きー!」

この幸せを、ずっと感じていたい。そう心から願った。
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