魔女が奴隷を買ってみた

下菊みこと

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奴隷は主人を愛してる

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私はコーネリア。魔女を名乗る者。そんな私は今、奴隷商に欠損奴隷を押し売られそうになっている。







私は元々ただの平民の孤児だった。しかし成長するにつれ聖魔力を発現し、またその魔力量が多かったため特別に貴族の通う学園に特待生として入れられた。

そこで、事もあろうに私は王太子殿下に恋をした。告げるつもりはなかった。ただ、好きだった。でも、私の不躾な視線は王太子殿下の婚約者、公爵令嬢のニーナ様がすぐに気付いたらしい。

王太子殿下とニーナ様は非常に仲睦まじく、もはや溺愛と言っていいほど王太子殿下はニーナ様にのめり込んでいた。だから、そんなニーナ様が私に王太子殿下を取られないか不安だと泣けば、当然私の処遇など決まっていた。

王太子殿下は、国中の平民の孤児を私費で検査して聖魔力を持つ者がまだ三人ほどいる、魔力量もコーネリアより多い者もその内一人だけだがいる、しかも男なので〝英雄〟に祭り上げられると国王陛下に直談判。国王陛下も「聖魔力がある者がまだいるからと申すならば、そちらをきちんと養育してみよ」と言って、その子達が学園に入り私は学園を去った。

未来の王太子妃ニーナ様の地位を脅かさんとする下劣な魔女は〝失楽園の紋〟を押して娼館へ送ってしまえと王太子殿下の手の者に攫われそうになったが、何故かニーナ様の護衛騎士が現れて助けてくれた。そして現れたニーナ様は、ぽろぽろ泣きながらごめんなさいと言った。こんなことになるとは思わなかったと。

そして、ニーナ様が王太子殿下を説得して〝失楽園の紋〟は無しにただの国外追放処分となった。失楽園の紋は、魔法を一切使えなくなるモノ。聖魔力しか取り柄がない私にとってはある意味奴隷印より厄介だ。だから、本当にニーナ様には感謝している。私が王太子殿下に恋をしたのが悪いのに、私を最後まで気遣って国外へ出た時のためのしばらく分の生活費まで援助してくれた。ただ、平民の私は金貨のじゃらじゃら入ったお財布を持ち歩くのはかなり怖かった。

だから、私は隣国の田舎にたどり着くとすぐにニーナ様から貰ったお金で、大きくて広くて古いけど頑丈で立派で地震にもおそらく耐えられるであろう屋敷を買った。今はもう、誰も使わないらしいので。元々は貴族の別荘だったらしいが、使わないからと売却されていたのだ。そう、そんな立派な屋敷を余裕で買えるほどのお金をニーナ様は下さっていた。正直その金銭感覚は怖い。

屋敷の中はつい最近までは人の手が入っていたとわかる綺麗な状態。前オーナーの持っていた高級そうな家具、食器、紳士服やドレスなどの衣服も付いていた。屋敷はそれも合わせての値段だったのに、一括で買えるとか本当にニーナ様本当にありがとうございます。

ただ、いつまでもニーナ様からのお金に頼っていたらいつか破綻するのでその田舎町で聖魔力による病気や怪我、欠損の治療をすることにした。

そのためにまず、綺麗なドレスを魔法を使って自力で着替えた。微妙にサイズが合わないので、サイズも魔法で整えた。聖魔力は、他の属性の魔法と違って想像力が全てだ。便利な魔法である。そして置いてあった化粧品で軽くメイクをする。薄化粧程度に。髪型もセットすると、外に出た。

そして、屋敷を買った女を見てみようと集まった町の人達に聖魔力を見せ、病気や怪我、欠損を治した。特に欠損が治った人々からの感謝は凄まじく、お金はないからとしばらく分の食料を貰った。これでしばらく分の衣食住は確保である。そして私は魔女を名乗り、対価さえくれれば治せるものは治すと宣言した。







で、冒頭に繋がった。私のことはすぐに近隣に広まり、スラムから出てきたような孤児達や、お金を持たない老婆、貴族や裕福な商人まで色々な人が頼ってきた。

お金のない孤児達や老人達には労働力を対価としていただいた。具体的に言うと、その日の分の洗濯やお掃除、食器洗いや料理、庭の手入れなどをお願いしていた。それも一日分で解放する。お駄賃という名目で金貨一枚も渡した。しばらく分の食費にはなるだろう。強く生きて欲しい。

貴族や裕福な商人からはお金をたんまりと貰った。ただ、今までの治療費など切羽詰まってそうな貴族や商人は少しだけいただく程度に留めた。

それが人が良い魔女と評判となり、結果奴隷商が押し売りに来る事態となった。可哀想な奴らなので買ってくださいと。

まあ、将来のための蓄えは充分ある。生活費ももちろんある。むしろ対価として貰った金貨は今や有り余る。仕方ない。買うか。

連れてこられた欠損奴隷達を全員買って、奴隷商が帰ると欠損を癒した。奴隷達は顔色を変えて大いに喜んだ。そして私にひれ伏し忠誠を誓う。いや、大げさ…。

どうせ広い屋敷に一人なので、奴隷達一人一人に使用人用の部屋ではなく前オーナーの家族達が使っていただろう部屋を与えた。遠慮しないよう部屋の衣服を着用することを定め服のサイズはこちらの魔法で調整した。

奴隷達のお仕事を洗濯やお掃除、食器洗いや料理、庭の手入れなどと定め、やらせる。幸いにもすぐに覚えてくれた。ただ、何も持たない孤児や老人達からの対価をどうするか。考えて、考えて、私へのマッサージをしてもらうことにした。








魔女として生きることに慣れ、裕福な生活を送るようになり、何年か経った。

奴隷達の奴隷印を聖魔力で搔き消し、奴隷登録も抹消して、今は普通の使用人達として雇っている。孤児だった私はみんなを家族のように大切に思っている。

そんな私は何故か、ここに来たばかりの頃に買った欠損奴隷だったうちの一人、アルバートに壁ドンされている。

「リア、好きだ。リアも俺が好きだろう。いい加減に俺と付き合え」

「な、なんでアルが好きなんてわかるんですか!?」

「俺たちが運命の番だからだ」

アルは狼の獣人。獣人と言っても、その血は薄いらしく狼の耳としっぽが生えた普通のお兄さんだ。

「人族には番なんて感じ取れません!」

「それでも、俺が好きだろう」

そう、私はアルに惚れている。でも、恋に破れて魔女になった私は素直になれない。

「わ、私は恋なんてしません…」

「なら愛してくれ」

そっと震える唇に口付けされる。嫌じゃない。でも、また恋をするのは怖い。

「…今日はここまでにしておくか。俺の運命。愛おしい人。どうか最後は、俺を選んでくれ。使用人としても、家族としても、恋人としても、夫としても。俺はアンタを満足させられる」

「…ずるいです」

ぽんぽんと頭を撫でられ、私はアルを睨む。しかしアルはどこ吹く風だ。

そんな時、今ではメイド長を任せるテレサが走ってきた。

「リア様!隣国の王太子殿下が、血塗れの王太子妃殿下を連れて治してほしいと!」

「!?」

ニーナ様…ニーナ様!!!

私は走った。私の顔を見て何かを喚く王太子殿下など捨て置き、死にかけの…弱々しい命がか細い糸でギリギリ繋がったようなニーナ様に必死に聖魔力を使う。魔力量は多い方なのに、魔力をいくら使ってもなかなか治らなかった。こんなの初めてだった。

それでも諦めずに、ただ大好きなニーナ様を助けたくて、今のこの幸せをくれたニーナ様が死ぬのが嫌で、副作用の強い、魔力を回復する薬まで飲んで魔法をかけ続ける。するとニーナ様の身体から黒いモヤが抜けて、その瞬間からようやく魔法が効いた。ニーナ様のお怪我は全て治り、ニーナ様は目を覚ましてくれる。

「ニーナ…ニーナ!」

王太子殿下は泣いて喜び、ニーナ様は状況を掴めずぽかんとしていた。私はニーナ様に抱きついてよかったよかったと甘えて、ニーナ様はあらまあと頭を撫でてくれた。







数日間、うちに滞在して王太子殿下とニーナ様は国に帰った。ニーナ様を害したのはどこぞの侯爵様らしい。ニーナ様の後釜に自分の娘を据えたかったとか。その娘も、ニーナ様に嫉妬して呪いを掛けていたらしく、それがあの黒いモヤだった。侯爵家は一族全員晒し首となるらしい。厳しい罰だが、見せしめの一環なのだろう。

数日間、うちに滞在した王太子殿下とニーナ様の仲睦まじい様子を見て、なんだか心の中の蟠りが溶けて消えるような気がした。そして、王太子殿下とニーナ様を見送った後アルにまた迫られる。

「リア。俺を選べ」

「うん。私、アルが好き」

ぽろりと言葉が落ちた。アルは目を丸くした後、抱きしめてキスしてくれた。私はそれからしばらくして、幸せな花嫁になった。
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