短編の中でも独断と偏見で詰め合わせ

下菊みこと

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悪役令嬢として断罪された私が、辺境伯のお爺様の後妻にされたと思ったら孫のように可愛がられたお話。

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ジョゼット・イザベル・ノアイユ。ノアイユ公爵家の末っ子長女として清く正しく生きてきた彼女は、ある女性の登場によって全てを失った。

聖女サオリ。異世界から突然現れた彼女は、神の愛を一身に受けその奇跡を使い沢山の人を癒して人気を集めた。

婚約者から愛される兄三人や、自分の婚約者である王太子を含むたくさんの貴公子を瞬く間に虜にしたサオリ。ジョゼットは彼女や彼女の信奉者たちにキレていた。あまりにも節操がないと。

ジョゼットはサオリに毎日のように懇々とお説教をする。婚約者のいる男性に簡単に近寄るなという至極真っ当な指摘であり、本来ならジョゼットが責められる謂れはない。

しかしジョゼットはやがて、お決まり通り兄たちや婚約者である王太子を含めたたくさんの貴公子達に断罪された。彼女は聖女を傷つけた罪で王太子との婚約は破棄され、謹慎処分を受けた。もちろん、ジョゼットの両親はジョゼットの兄たち三人を叱りつけたしジョゼットの味方だったが、婚約破棄は立場上どうしようもなかった。

そして、騒動が落ち着いた頃。王太子と聖女であるサオリの二人が結婚し、聖女が王太子妃となることが決定した。皆から祝福される二人。

一方でジョゼットは悪者扱いで傷物扱い。もちろん兄たち三人の婚約者達は味方してくれるし、ジョゼットに理解を示してくれる貴族女性はたくさんいたがそれだけだった。

そんなジョゼットは、とある歳のいった辺境伯の後妻にされることとなった。ジョゼットはいっそ首都から遠く離れた辺境伯領に行けるのは救いだとすら思えていた。

そして嫁入り。結婚式は行われなかった。しかし、辺境伯やその息子、孫達はジョゼットを何故か温かく迎え入れてくれた。

「ジョゼットさん、よくきたね。都会の喧騒は疲れるだろう。まずはゆっくり休もう」

「ジョゼット。君が父の後妻になってくれてありがたい。父をよろしく頼む」

「お姉ちゃん、僕のこと覚えてる?おばあちゃんと僕を前に助けてくれたよね!お姉ちゃんがおばあちゃんになるなんて不思議だけど、よろしくね!」

ここでジョゼットは思い出す。去年、辺境伯領で類を見ない魔獣の大規模なスタンピードが起こった際に、ボランティアとして参加し被災者に治癒魔法を掛けまくり、その中にこの坊やが居たと。なら、この坊やの側にいた重症の老婆が辺境伯夫人だったということだ。彼女を癒したのもジョゼットである。なるほど歓迎されるわけだ。辺境伯は、最初からそのつもりで後妻に迎えてくれたのだろう。

「…これからよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく頼むよ。とりあえず食事にしよう。ここで獲れる魔獣のジビエはとても美味しいんだよ。危険も多い領地だが、その分恵みもあるからね」

「はい…!」

一度は腐りかけたジョゼットだが、温かく迎え入れてくれた辺境伯達に感謝して心を新たに強く生きることを決意した。

「ジョゼットさん、この書類を頼むよ」

「はい、おじいちゃん!」

ジョゼットは夫を客人の前以外ではおじいちゃんと呼ぶようになった。夫の強い要望である。そしてジョゼットは、夫の手伝いを積極的に行う。その姿勢に辺境伯家の面々はますますジョゼットに好意的になった。

「ジョゼット。走り回って疲れただろう?妻の焼いたクッキーをみんなで食べよう。父上も、そろそろ休憩してください」

「そうだなぁ。ジョゼットさんと一緒になら休もう」

「ふふ、おじいちゃんたら。今行きます!」

結果ジョゼットは辺境伯家で愛され、元の明るさを取り戻していた。

そして、ジョゼットには当然辺境伯家からある程度のお小遣いが渡される。しかしジョゼットは、贅沢はしない。辺境伯夫人として必要最低限の買い物はするが、それ以外は別のことに使った。

治癒魔法を使う治癒術師と、魔獣と戦う術を持つ魔法剣士を育てる魔法学校を小規模ながら辺境伯領に建てたのだ。

寄宿舎学校であるそこには、先の魔獣のスタンピードで親を失った孤児達の中で才能のある者だけが集められた。

そこでは、職員達も先の魔獣のスタンピードで被害に遭った者たちを集めたため、子供達を愛する者ばかりで虐待は一切ない。美味しい食事、十分な睡眠、広い個室に個別のお風呂も用意される。そして、憎い魔獣のスタンピードに備えるための治癒術師や魔法剣士になれる未来が約束されていた。

子供達は皆ジョゼットに感謝した。もちろん職員達もジョゼットを尊敬する。そして、そのジョゼットの行動に多くの貴族が賞賛の言葉を贈った。

それは、遠く離れた首都でも同じこと。

サオリは自分を〝虐めた〟ジョゼットが褒め称えられるのに納得がいかない。ジョゼットの兄達三人にお願いして何かないかと寄宿舎学校を探るが何も出てこない。サオリはジョゼットへの一方的な憎しみを募らせていく。

そんな中でサオリは聖女として励むが、何故かいつのまにか奇跡の力が衰えていた。サオリは焦る。そう、神は身勝手なサオリよりも献身的に夫や領民のために尽くすジョゼットに興味を移していたのだ。

サオリはついに、ジョゼットの自分を〝虐めた〟過去の罪を引き合いにもう一度断罪しようとする。しかし、さすがにそれは無理がある。サオリの信奉者である貴公子達も少しずつサオリから離れた。もちろんジョゼットの兄達三人や、サオリの夫となった王太子も同じである。

結果、サオリは神から完全に見放され奇跡の力を失った。サオリは表向きには療養を理由に離宮に押し込められた。

反対に神から愛されるようになったジョゼットは、新たな聖女として覚醒した。王太子から寵妃として皇宮に来ないかとふざけたお誘いがあったが断り、兄達三人からの謝罪も無視して辺境伯領でこれまで通り過ごす。ただ、国内で聖女の力が必要な時は中央教会を通して積極的に働いた。

辺境伯家にはもう世継ぎがいる。その上みんなジョゼットに優しい。寄宿舎学校の生徒たちもジョゼットに懐いてくれる。

ジョゼットは、夫から白い結婚を証明して離縁するという選択肢も貰ったが断った。最後まで夫と添い遂げて、もし再婚するにしてもそれを考えるのはその後と決めていた。そんな頑固なジョゼットに、夫はゆったりと笑っていた。

やがてその日が来ても、夫はやはり笑っていた。そんな夫にジョゼットも笑顔で見送った。さて、ジョゼットはまだ歳若い。残された彼女はどうするのかと辺境伯家の面々は心配していたが、彼女はなんと聖女として中央教会にて出家した。夫は生涯辺境伯だけだと。

辺境伯は死後、聖女に心から愛された幸せ者だと皆から羨ましがられることとなった。

ジョゼットはその後も、天の迎えが来るまで生涯清く正しい聖女として人々のために尽くした。ジョゼットの兄達三人は可愛がっていたはずの妹から嫌われて許してもらえない現実に、自分の仕出かしたことをようやく、ようやく理解した。そして王太子は聖女として生きる彼女の姿に、逃がした魚はあまりにも大きかったのだと打ちのめされることになった。

ジョゼットの献身で国は安泰だったが、王太子は生涯妻にも子供にも恵まれず弟がその跡を継ぐこととなる。ジョゼットの兄達三人も妻となった女性たちから白い目で見られ円満な家庭を持つことは出来なかった。ジョゼットはこっそりと、ざまぁみろと笑っていたがこれは秘密の話である。
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