短編の中でも独断と偏見で詰め合わせ

下菊みこと

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お兄様は私が守る!だって妾の子だからって一人だけ差別するなんておかしいもん!ーイレギュラーは、お兄様の運命を変えるー

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レオノーラ・ヌヴェーヌ公爵令嬢。彼女はこの世界に生まれ落ちたこの日、世界中の誰もに祝福された。

中央教会の聖王猊下曰く「彼女はこの世界の命運を変えることも出来る〝イレギュラー〟である」との神託が下ったらしい。

イレギュラーとは、〝運命の書〟と呼ばれるこの世全ての出来事を過去現在未来に渡って記された書物に一切の記述がない存在である。

イレギュラーはその特異性から、〝運命の書〟の筋書きを書き換えてしまう。それは良い方にも転がるし、悪い方に転がる可能性だってある。が、基本的には民衆からも権力者からも歓迎される存在だ。だって、運命に抗う力そのものなのだから。

「イレギュラーがとうとう生まれた!こりゃめでたい!」

「今日は一日お祝いだー!おめでとう!」

「おめでとうイレギュラー!」

世界中がお祭り騒ぎになる。普段ならこの後すぐに、権力者達はどうやってイレギュラーを自分の支配下に置くかを考えて、民衆達はどうやってイレギュラーを仲間に引き入れるかを考える。

だが、レオノーラはジョフロワ皇国の公爵令嬢として生まれた。今回はヌヴェーヌ公爵家の独り勝ちである。

幸い、ヌヴェーヌ公爵家の領地経営は盤石なことで有名であり、評判も良いためむしろ民衆からは歓迎の声が聞こえる。権力者達はどうヌヴェーヌ公爵家に媚びるかと頭を悩ますことになったが。

「ヌヴェーヌ公爵家はしばらくは安泰だろう。後はどう媚を売ったものか…」

「それこそレオノーラ様の婿にうちの派閥の子息を是非差し出したいけれど…」

「ヌヴェーヌ公爵はそれを許すだろうか…」

さて、そんなレオノーラは無事イレギュラー…異世界風に言うならば、〝聖女様〟〝神の愛し子〟のようなものだが、そのような存在としてすくすく育った。

結果彼女は。

「うわぁーん!お父様のばかー!なんでレオナルドお兄様にだけ意地悪なのぉー!」

この世界に次代の魔王として生まれたはずの少年の、未来を書き換え始めていた。

レオナルド・ヌヴェーヌ。公爵家の長男である彼は、しかし妾の子であった。しかも、レオナルドの母は産後の肥立ちが悪くレオナルドを遺して逝ってしまった。レオナルドは、妾である母を愛していた父から相当恨まれた。そして、正妻である義母からは虐待を受ける。

当然のように、公爵家の後継は次男であり正妻の子であるレオポルトに決まる。さして才覚もない甘やかされただけの愚鈍なレオポルトは権力にものをいわせて、優秀なことで有名な目の上のたんこぶである兄レオナルドを虐め倒す。そして、二人が成長したある日レオナルドの愛する初恋の人をレオポルトが手に掛けたことでレオナルドは〝魔王〟として覚醒。

愛する初恋の人以外の、何もかもを壊して殺して、独りぼっちで勇者に殺され死に絶える。

〝運命の書〟は中央教会にて厳重に保管されており、現世の人間は聖王も含め誰も見られないためレオナルドが将来魔王として君臨することは誰も知らないが、そんなレオナルドに妹が、それも〝イレギュラー〟として生まれたのはやはりこの世界の神の現世への介入と見て取れる。

「レオナ、お父様をあまり困らせてはいけないよ」

そうレオノーラを諌めるのは庇われているレオナルド本人。

本来ならレオナルドは、孤独な幼少期を過ごすはずだった。しかしイレギュラーである可愛い妹は、いつもてちてちとレオナルドの後をついて回る。レオナルドはすっかりただのシスコンと化し、魔王になる素養…孤独と怨念とは無縁になっていた。

そして、イレギュラーによって変わった少年がもう一人。

「レオナルド兄上、そんな甘い表情で窘めてるつもり?…レオナ!いい加減にしなさい!父上は未だにレオナルド兄上に八つ当たりするしかできない能無しなんだから少しくらい好きにさせてあげなさい!」

「レオポルト、お前が一番手厳しいよ」

呆れた顔でいうレオナルドに、レオポルトは言って当然だと胸を張る。レオノーラの存在は、レオポルトにも影響を与えていた。

ある日レオポルトは、レオノーラに接する〝優しい兄〟の姿を見てギャン泣きしたのだ。なんで僕にはそんな風に接してくれないのかと。レオナルドはそれを受け反省し、レオポルトにとっても〝良き兄〟となった。

優秀なレオナルドの後を追いかけ始めたレオポルトは、運命の書に記されたようなクソ野郎には育たなかった。ブラコンでシスコンなのが玉に瑕だが、基本的には思いやりのある見目も良い秀才である。思いやりが兄妹だけでなく使用人達にも向くあたり、レオナルドよりも優しいと言える。

「…」

兄妹達のなんとも言えないやり取りに、父である公爵はもはや何も言えなくなる。段々と自分が恥ずかしくなるがもう遅い。もう遅いが、それでも。

「…レオナルド」

「はい、父上」

「すまなかった…」

この日とうとう、公爵は謝罪の言葉を口にした。

「お父様、ごめんなさいしたの?」

「レオナルド兄上、どうする?」

「…」

この謝罪に、レオナルドは顔をぐしゃりと歪めた。無邪気なレオノーラと懐いてくるレオポルトに大分癒されたとは言え、心に傷を付けられたことに変わりはない。謝罪ひとつで許せることではないのだ。

「父上」

「ああ」

「俺は貴方を許しません」

「…!」

鋭い眼光に、ぞっとするような寒気を感じた公爵。

「…けれど」

レオナルドはその目を伏せた。

「貴方は亡き母上が愛した方だ。それに、俺をここまで育ててくれた。感謝しています。だから」

レオナルドは、今にも泣きそうな不器用な作り笑顔を浮かべた。

「毎日、母上との思い出話をしてください。俺は母上が正直恋しい。どんな人か、知りたい」

公爵は、レオナルドと同じような表情で頷いた。

「…わかった。それで許してくれとは言わない。マリーとの思い出話を、毎日必ず聞かせると約束する」

結局、レオナルドは公爵を許すとは言わなかったし言えなかった。それでも、二人の関係は一歩前進した。

「…父上って情けないよな、レオナ」

「レオポルトお兄様、意地悪言っちゃだめよ」

それを側から見るレオポルトとレオナには、公爵の方がレオナルドよりよほど子供に見えていた。















「…レオポルトではなく、レオナルドを後継にですって?」

「すまない、だがレオナルドの方が公爵としての素養があるように見える」

「あの子はまだ幼いからそう見えるだけですわ!妾の子に跡目を継がせるなどあってはなりません!」

公爵夫人は、公爵に声を荒げる。それでも、公爵はもう腹を決めていた。

「すまないが、これは決定事項だ。妾の子とは言っても、レオナルドも公爵家の長男で間違いはないし、レオナルドの母は伯爵家の娘で平民ではないし…」

そこでインク入れが公爵の頭を掠めた。

「私は侯爵家から嫁入りしたのですよ!?それも、公爵家から求められて政略結婚で!その子であるレオポルトが優先されるべきですわ!」

公爵夫人の言うことももっともである。完全に、正妻との後継を作る前に妾に妊娠させた公爵が悪い。というか諸悪の根源は公爵の浮気ではなかろうか。

「だが、レオポルトはレオナルドに遠慮がある。それは、やはり優秀な兄を見て自分が爵位を継ぐことに申し訳なさを感じているからで、このままの状況は却ってあの子達には良くない。優秀な方を跡目にするのもよくあることだろう」

何をお前が偉そうに言っているのかとは思うが、公爵の言葉にも一理ある。…だからこそ、公爵夫人はさらにキレた。

「貴方が!貴方がそれを言うの!」

手当たり次第にそこら辺のものを全部公爵に投げつける公爵夫人。

「お母様!」

そこに、レオノーラが突如現れた。…窓から。

「レオナ!?なにをしているのです!?」

「お母様が悲しんでる気がして、でもメイド達が止めるから強行突破した」

「レオナ…」

「ちなみに母上、僕もいます」

「レオポルト…優しい子達ですね、ありがとう」

そこにもう一人、窓から入ってきた。

「…義母上」

「…!」

憎きレオナルドの登場に、公爵夫人の顔が強張った。それでもレオナルドは続ける。

「父上と母上が、すみませんでした」

「…え」

「父上と母上は、せめて義母上と父上の間に子ができるまで大人しくしていればよかったのです。それが出来なくて、俺なんかが生まれたから公爵家はおかしくなってしまった」

「…」

「けれど、それでも。義母上と少しでも歩み寄りたい。もちろん、俺の存在自体を受け入れられない義母上に俺を公爵家の跡取りと認めろとは言いません。というか、俺はレオポルトに跡目を継がせるつもりですし」

その言葉にレオナルドとレオノーラ以外の者は言葉を飲んだ。レオナルドには公爵家を継ぐ意思はない。それは兄に憧れるレオポルトにはショックだし、継がせる気になった公爵にもショックだった。だが、公爵夫人が一番ショックを受けていた。勝手に〝敵〟と見なしていたのは自分だけだったと。

「でも、俺の存在自体を受け入れられないところからのスタートだとしても、いつか家族になりたい。本当は目の前から消えて差し上げた方が良いのは分かっていますが、それだと俺が餓死しますし。死ぬ気はないので、ならば俺が自立して冒険者になるまでの間に家族になれたらな、なんて…甘い考えで、申し訳ない。でも、俺はそう思っています」

公爵夫人はとうとう泣き崩れた。泣いて泣いて、顔を上げるとレオナルドの頭を少しだけ撫でた。

「私は多分、純粋な気持ちで貴方を愛することはない」

「ええ、知っていますよ。義母上」

「…それでいいの?」

「もちろんです」

こうして、レオナルドが魔王になる道は潰えた。
















十年後、レオノーラは貴族の子女の通う学園で様々な貴公子のトラウマフラグを潰して回り、レオポルトは公爵家を継ぐための勉強に明け暮れていた。そんな二人の大好きな兄が、冒険者仲間と共に帰ってきた。

「レオナ、レオポルト。ただいま」

「お帰りなさいませ、お兄様!」

「お帰り、兄上」

冒険者仲間は、本来魔王レオナルドを倒すべく立ち上がった勇者となるはずだった青年リカルド。レオナルドが魔王にならなかったことによって、魔王によって家族を失う悲劇に遭わなかった彼は今ではレオナルドの大親友だ。

「しかし、イレギュラー様は相変わらずのちんちくりんだなぁ」

「なんですって!?リカルド!今日という今日は許さないわよ!」

「かかってこい、一瞬でのしてやる」

「このー!」

レオノーラはリカルドに懐き、リカルドもレオノーラをからかうものの可愛がっている。レオナルドとレオポルトとしては、是非この二人にくっついてほしいのが正直なところ。しかし、公爵家の一人娘であるレオノーラと平民のリカルドではなかなか身分が難しい。そこに手を差し伸べたのは、他でもないレオノーラが助けた貴公子達だった。

「リカルドをうちの養子にすればいい。うちとしても、身内から公爵令嬢…しかもイレギュラーの婿を出せるのはありがたい」

「リカルドの両親は旅の商人だろう。うちで取り立ててやって、大きな商家にしてやろう。そうすれば口煩い連中も声が小さくなる」

「リカルド君には魔物退治で助けられてるしぃ…その功績を称えて勲章も授与させようかなぁ」

彼らの助力によって、リカルドとレオノーラの婚約は秒読み段階だ。二人が知ったらどうなるだろうか。

「やられたー。魔封じの手錠なんて卑怯だぜー」

「ふふ、リカルドなんて私にかかればこんなものよ!」

わざと負けてやり棒読みで負け惜しみを言うリカルドに、レオノーラは勝ち誇る。

そんなレオノーラに、兄二人は甘く微笑んだ。
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