短編の中でも独断と偏見で詰め合わせ

下菊みこと

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エレノアは今日も自由に生きる

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「エレノア、婚約を解消して欲しい」

「…まあ。ルイ様、どういうことですの?」

「他に愛する人が出来たんだ」

エレノアは目を見開いて驚いたが、次の瞬間には嬉しそうに微笑んだ。

「そうなんですのね!応援しておりますわ。ルイ様、幸せになってくださいまし」

「エレノア…ありがとう。茨の道だろうけれど、頑張るよ」

「はい!」

目の前の恋に溺れたお花畑は、もう要らない。エレノアは、ルイに対して見切りをつけるのが異常に早かった。

「この馬鹿者が!エレノア嬢との婚約を解消したいだと!?まさか、エレノア嬢にまでそんな世迷言を言っていないだろうな!?」

「世迷言ではございません、父上!すでにエレノアにも理解を得ております!私はルナと結婚すると決めました!」

「エレノア嬢の家は公爵家であり、国一番の大金持ちだぞ!?なんてことをしてくれたんだ!もし賠償を請求されたり、悪評を流されたら…嗚呼…」

「大丈夫です、エレノアは理解を示してくれましたから!」

どこまでもお花畑な息子に、ルイの父はどこで育て方を間違えたのかと頭を抱えた。

「…もうよい。そのルナという平民の娘と結婚すれば良い」

「ありがとうございます、父上!」

「その代わり、自分の私財を全て使ってエレノア嬢に最大限の誠意を見せろ」

「…わかりました。そう致します」

ルイは、エレノアは理解を示してくれたのに慰謝料を払わなければいけないのかと不満に思った。だが、いずれ自分はこの侯爵家を継ぐのだからお金には困らないだろう。しぶしぶ承諾する。そして、自分の私財を全てあててエレノアへ慰謝料を支払った。

幸か不幸か公爵家からそれ以上の慰謝料を請求されることはなく、またどうしてもお互いの醜聞にはなってしまったが公爵家から悪意ある噂が流されることはなかった。しかし、ルイは慰謝料を払い無一文になったところで父に告げられる。

「お前は廃嫡だ。お前の弟に爵位を継がせる。もう二度と私の息子を名乗ることは許さん」

「父上!?何を…!私は私財を全て慰謝料に使ったのですよ!?無一文で放り出すおつもりですか!?」

「ルナとかいう平民の娘と結婚するのだろう?一緒に働いて生きていけばよい。お前たち、この馬鹿者をつまみ出せ」

「父上!?父上ー!」

ルイの父は使用人たちに命じてルイを追い出した。ルイはその後、ルナという平民の女性の元へ行く。ルイを心から愛していたルナは、廃嫡されたルイを受け入れた。ルナが一人で営んでいた薬屋を、二人で盛り立てていくことになる。

ルナは元々腕の良い薬師で、その薬を求める人は多くルイを養うのはお安い御用だった。しかしルイはルナに甘えず、薬師としての勉強まで始めてルナの役に立つべく店にも立つ。そんなルイに改めて惚れ直すルナ。二人の愛は、たしかに本物であった。

「…ふーん。つまんないの」

エレノアは、ルイのその後を追った調査報告書を見てそのままゴミ箱に捨てた。小説とかでは結局は平民の女に見捨てられて、ざまぁみろというのが常なのに。エレノアがあの場で怒らず、むしろ嬉しそうに笑えたのはそれを楽しみにしていたからだ。

「真実の愛ねぇ…」

エレノアには理解出来ない言葉。だが…幸せそうに笑い合う二人の様子を描いた絵までご丁寧に付けられた報告書を見ると、そんな言葉がぴったりな気がした。

「…お金にも困っていないようだし、幸せそうだし。私の負けね」

なんとなく悔しい。でも、この二人には幸せになって欲しいと思った。だって、エレノアは結局最後までルイを愛してあげることが出来なかったから。ルイが他の女性を選んだのは、少なからずエレノアにも理由があることは理解している。それでも、政略結婚なんだから我慢しなさいよとは思ったが。

「あーあ…フリーになっちゃったし、侯爵家のボンクラにフラれたみっともない女とか陰口叩かれてるし。これからどうしようかな」

実家は兄が継ぐ。両親も健在だ。だが、さっさとお嫁さんに行かないと、いつまでも小姑が家にいては兄の妻となった義姉に申し訳ない。

「元々お父様からお小遣いを結構もらってて、必要ない分は新規事業への投資なんかにあててたからお金は結構あるのよねー。その上慰謝料ももらえたから、結構余裕はあるし」

…ふと閃いた。お嫁さんに行かなくても良いじゃないか。

「領地を、開拓しましょうか」

エレノアは、決めたら早かった。

「お父様、お兄様!私、貧乏な借金持ちの伯爵から爵位を買い取りましたの!」

「そうなのかい?じゃあ、我が娘は女伯爵様だ」

「領地はどうしたの?可愛いエレノア」

「他に領地を買い取りたいという方がいらっしゃったのでお譲りしましたわ!私の買い取り価格で借金は返済できて、領地を売ったことである程度の貯金もできたそうですの。領地を買った方も嬉しそうでしたわ。みんな幸せ三方良しですわね!」

嬉しそうに微笑んだエレノアに、兄が言った。

「しかし、名ばかりの女伯爵では箔が付かないだろう」

「ええ。ですからあの瘴気にまみれて砂漠になった、あの土地をくださいませ。それ以外は要りませんわ」

エレノアの言葉に驚く父と兄。

「あそこは生物が存在出来ない環境だよ?我が公爵家には莫大な資産と広大な領地がある。あそこにこだわる必要はない」

「可愛いエレノア、考え直さない?」

「いえ、私は一から領地開拓をしたいんですの。むしろ、ぴったりの場所ですわ!大丈夫、すぐに立派な領地にして独り立ちしてみせますわ!」

「それより旦那様を探して欲しいのだけど…」

「並行して行いますわ!」

楽しそうなエレノアに、二人とも顔を見合わせてため息をついた。こうなると、エレノアは止められない。

「わかったよ。でも、瘴気を祓うまであまり近づかないようにね」

「はーい、ですわ!」

そしてエレノアは、早速普段なら絶対立ち寄らない〝冒険者ギルド〟に大金を持って向かった。

「これはこれは、お嬢様。いらっしゃいませ。今回はどのようなご用件でしょうか?」

初めて会うのに自分の顔を知っているギルドマスター。まあ、エレノアの立場ならそれも当然だろう。特に不快には思わなかった。

「超広範囲に、瘴気を祓う聖魔法を使って欲しいの。瘴気を祓う聖魔法を使える魔法使いや賢者を集めてくれない?報酬は弾むわ。とりあえず、これを前金として受け取って」

エレノアが合図をすると、すかさず控えていた使用人が大金の入った袋をギルドマスターに渡す。

「神聖金貨がこんなにたくさん…ええ、わかりました。承ります。ですが、前金と言わずこれで全額として受け取りましょう」

「いいの?」

「多すぎるくらいです。おい、お前ら。今すぐ片っ端から魔法使いと神官と賢者を集めて来い。報酬は一人につき神聖金貨一枚。そんな顔をするなよ。人件費を差し引いてもギルドにとってはすごい利益になるぞ」

「ふふふ」

ということで、とうの昔に砂漠と化した領地は一日で瘴気から解放された。今回召集されたギルドメンバー達も、ギルドにも充実過ぎる報酬が払われたため不満も持たれない。むしろ感謝された。あとはこの砂漠をどうするかである。

「生き物が一匹も居ないなら、好き勝手していいわよね」

エレノアは得意の土魔法と水魔法を駆使して、広大な砂漠に大きな湖を数カ所作った。そして、土魔法で土壌を改良し様々な木の種を蒔いて、水魔法で適度な水をやる。さすがに聖王猊下の使うような時の魔法は持ち合わせないので、木の芽が出るまで何日も通い甲斐甲斐しく育てる。

「はやく大きくなってね。きのみを採れるのを楽しみにしているわ。さて、並行してお屋敷や平民達の暮らす街も作らないと」

その間に、〝女伯爵のためのお屋敷〟や〝平民達にあげる住まい〟も作る。さすがに家を建設するような技術はないので、大工に頼んだ。家を建てられるような地面ではないと言われれば、ちょうど良さそうな土壌に改良して再度頼み込んで建ててもらえることになった。

「居住区もあるし、お店を出すための商業スペースも確保してあるし、農業をやれるスペースは残してあるし、後は完成を待つだけね」

完成まで一年ある。その間に婚約者を探すことにした。

「…いっそ、彼みたいに平民から婚約者を探してみようかしら」

「やめとけやめとけ。ロクな目に遭わねぇよ」

「やっぱりオスカーもそう思う?」

「思う。ルイのクソ野郎が幸せそうにしてんのは、本当に運がいいと思うぜ?」

「そうよねー…うーん…」

エレノアの部屋に上がり込んできた幼馴染。遠縁の親戚である伯爵家の次男、オスカー。エレノアと非常に相性が良く、仲が良い。

「オスカー、私、いっそ貴方との方が上手く行く気がするのよね」

「あ?俺?」

「そう。私達、相性最高じゃない?」

「その言い方は別の意味に聞こえるからやめろ」

「別の意味って?」

きょとんとするエレノアに、オスカーは一瞬目眩がした。可愛すぎる。

「いや…悪い。なんでもない」

「そう?まあいいわ。それでね、貴方伯爵家の次男だし、私は女伯爵だし、爵位は問題ないでしょう?お金なら私が保証するし、私達仲も良いし、貴方とならきっと笑顔の絶えない幸せな家庭を築けるわ」

「…お前はそれでいいのかよ」

「貴方だから良いのよ」

その気もない癖に、ものすごく勘違いさせるような言葉を連発するエレノアにオスカーは頭を抱えたくなる。好きな子の前では格好付けたいのでしないが。

「…俺としては願ったり叶ったりだけど?」

「じゃあ決まりね!お父様に報告に行きましょう?」

「はいはい。俺のお姫様はわがままですこと」

「もう!このくらい良いじゃない!」

婚約は普通〝これくらい〟で済むことではないが。

その後、オスカーとの婚約は無事に両家に認められて、オスカーはエレノアの婿に入ることになった。結婚はエレノアのための屋敷が完成する来年を予定している。なんとか婚約期間中にエレノアを落とすべく、オスカーはエレノアに猛烈にアタックすることになった。エレノアは中々自分の想いに気付かないが、いつのまにか両片思いになり周囲の人間はその甘酸っぱさに身悶えすることになる。
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