セフレじゃなかった

下菊みこと

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前編

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人目につかない待ち合わせの場所。そんなホテル街の路地裏での目の前の光景に、目眩がした。怖いけど、逃げ出したいけど体が動かない。

今日、楽しい時間を過ごすはずだった相手は自分の血で血塗れになっていて。

いつも優しい彼は、返り血で真っ赤に染まっていた。

「…おいで、リリー」

優しく微笑みそう言ったのは、私のセフレであるシリル。

「あの、えっと…」

「大丈夫、君には痛いことはしないから」

「そ、その…あの…」

「いいから、おいで?」

シリルの声が低くなった。これ以上怒らせるのはまずいと分かっているけど、身体はまだ言うことを聞かない。

「それとも、こいつのこと見捨てて逃げる?」

そう言われてなお、私は動くことができない。

そんな私に、シリルは言った。

「…浮気なんて、いい度胸してるよね」

「え?」

「俺よりこんな奴の方がいいの?この国最強の魔術師の俺より、錬金術師見習いのちっぽけな男を選ぶの?」

シリルの言葉に、何か良くない勘違いが発生している気がした。

「あの、選ぶも何も、どちらともセフレでしかないけど…?」

「…???」

シリルは言葉の意味を理解できないと言った風に首を傾げる。そして言葉の意味を理解したのだろう、不快そうに顔を歪めた。

「俺のこと、セフレって言った?お前、好きでもない付き合ってもない男に抱かれてたってこと?」

「そりゃあ…セフレなので…?」

「で…この男もお前のセフレ?」

「…に、なる予定だったけど」

「まだ一度も触られてない?」

私がこくりと頷けば、少しだけ表情が和らいだシリル。

「あと何人セフレいるの」

「今はシリルとその人だけだけど…」

「前は?」

「シリルとシ始めた時には他のセフレとは縁が切れてて…その前は、三人くらい…」

我ながら爛れてるなとは思うけど、私の仕事はちょっと特殊なのだ。私の仕事は祈り屋。人々の願いを神に届けるのがお仕事。

たまにメチャヤバなお仕事が舞い込む時もあるため、ストレスが尋常じゃない。やることやらないとちょっと精神が持たないのだ。

「…そう、わかった」

何がわかったなんだろう。

「そのセフレ候補とは、付き合うつもりは?」

「ない」

「俺と付き合うつもりは?」

「…」

ないけど、ないって言ったら殺されそうな雰囲気。

「…ね、ちゃんと俺と付き合おう?そしたらこいつは見逃してあげる」

人質とは卑怯な。

「ちゃんと記憶を消した上で治癒して解放してあげるからさ、ね?」

「…付き合います」

「よろしい」

そしてシリルは私のセフレ候補だった人に対して、私に関する記憶を消して、治癒して解放してあげた。

セフレ候補だった人は、記憶が虫食い状態の中混乱した顔で何も言わずにその場から立ち去った。

私はと言えば、シリルに恋人繋ぎをされてそのままホテルに連行された。

「…じゃあ、俺たちは今日から晴れて付き合えた恋人同士だね」

「ソウデスネ」

「シャワー行こうか」

強い力で引っ張られて、シャワールームへ直行。割と雑に服を脱がされて、シャワーをぶっかけられた。最初は冷たかったけど、ちゃんと適温になったシャワーになんとも言えない気持ちになる。

「綺麗にして、全部塗りかえようね」

勘弁してほしい、本当に。
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