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新しい聖女様は自分が聖女とは気付かない
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「おかあしゃまー!妹が出来たって本当ー!?」
「母上!おめでとうございます!いつ生まれますか!?」
娘が息子を引き連れて、てちてちと一生懸命に歩いてくる。息子は娘が転んでもすぐ支えられるように見守りつつやってくる。
「まだいつ生まれるかはわからないのだわ。性別もまだわからないの」
「「えー!」」
不満そうな二人の様子もまた可愛い。
「父上にはもう報告したのですか?」
「もちろんまだよ。屋敷にいないもの。お父様が帰ってきたら、紙吹雪でも散らして出迎えて教えてあげましょう?」
「クラッカー!」
「クラッカーはお耳が痛くなっちゃうからダメ」
「「えー!」」
そんなこんなで、私と息子と娘は旦那様を待つ。しばらくすれば領内の視察から旦那様が帰ってきた。息子と娘がそれぞれの乳母に抱っこされながら作った紙吹雪を宙に舞わせる。突然の大歓迎に戸惑う旦那様に子供達は言った。
「おとうしゃまおめでとうー!」
「母上もおめでとうございます!」
「え、なになに?なにがあったの?」
「まだ性別はわからないけど、新しい兄弟ができましたー!」
息子の言葉に旦那様は私の方を向く。頷いてあげれば泣いた。息子と娘の出来た時、生まれた時も泣いてたなぁと思う。
「レティシアー!ありがとう、ありがとうー!」
「もう、アドルフ様ったら。私の方こそ、いつもありがとうございます」
「おめでとうー!」
「おめでとうございまーす!」
はしゃぐ息子を旦那様は抱き上げて抱きしめる。
「レアンドルは本当に良い子だな。新しい兄弟もアイリスのように可愛がってくれるかい?」
「もちろんです!」
「優しい息子を持ってお父様は幸せだ!」
私は元気な娘を抱き上げる。
「アイリスも、お兄様を見習って良いお姉様になるのよ?」
「うん!あたち、おにいしゃまみたいにいっぱい抱っこして、いっぱい好きっていって、いっぱい一緒にお昼寝しゅるの!」
「ふふ、今から楽しみね」
「おめでとうございます、元気な女の子です!」
「ありがとうなのだわ。少し疲れたから休むのだわ」
「ありがとう、レティシアー!」
「ふふ、アドルフ様は泣き虫なんだから!」
手を伸ばして旦那様の涙を拭う。それでもなお涙がこぼれ落ちてくる。
「おかあしゃま、この子の名前は?」
「アナスタジアよ」
「アナスタジア!アナスタジア、おねえしゃまですよー」
乳母に抱っこされつつ、一生懸命に妹に語りかける娘が可愛い。
「おかあしゃま、アナスタジアが手を握ってくれたー!」
「それは良かったのだわ。さっそく仲良しね」
「えへへー」
娘が可愛い。癒される。そして同じく乳母に抱っこされている息子はそわそわし出した。
「レアンドルもアナスタジアに話しかけて良いのよ。せっかくだし触ってあげて」
「アナスタジア、お兄様だよ。元気に生まれてきてくれてありがとう。良い子だね」
レアンドルはアナスタジアの頭を撫でる。アナスタジアは御構い無しに泣き声を上げているが、レアンドルは満足げに微笑む。
「可愛いなぁ…アイリスはもちろん可愛いけど、アナスタジアもすごく可愛い。どうしよう」
「どうしよう?」
よくわかってないのにレアンドルを真似して首をかしげるアイリスに、レアンドルは胸を押さえた。
「妹が二人とも可愛い…ここが楽園か…」
「ふふ、家族五人が揃えばどこでも楽園なのだわ!」
幸せいっぱいの空間に、私は安心して少し眠った。
レアンドルはもちろん、アイリスもアナスタジアにとって良いお姉様となった。
「アナスタジアは良い子でしゅねー!」
「あうー」
もうすぐ一歳になろうとするアナスタジアにいつも引っ付いて見守ってくれているレアンドルとアイリス。アナスタジアはいつも片方の手をレアンドルかアイリスと繋ぎ、片手で積み木遊びをしている。それをレアンドルとアイリスはひたすら賢い賢いと褒めていた。
「アイリスもアナスタジアも可愛いねぇ。お兄様は二人を愛してるよ」
「えへへー」
「きゃっきゃっ!」
アイリスはアナスタジアに対しては一丁前にお姉様として振舞っているが、レアンドルに対しては甘えん坊の妹だ。そんなアイリスがまた可愛くて仕方ないレアンドルである。
「…三人とも、寝たね」
「そうですね、アドルフ様」
「レティシア、久しぶりに二人きりで夜空でも眺めようか」
「ふふ、はい」
子供達が寝静まると、アドルフ様に誘われて庭に出た。夜空はとても美しい。
「アドルフ様。聖女様に婚約者を奪われて、イジメの冤罪をかけられた私を拾ってくださってありがとうございました。家族からも見捨てられ、行く宛のなかった私に唯一手を差し伸べてくださったアドルフ様はまさに救世主でした」
「急にどうしたの?」
「なんだか、あんな絶望の中にいたのでこんなにも幸せな今が少し信じられなくて。言葉にすれば安心できるかなって」
アドルフ様は私を見つめる。
「大丈夫。これが現実だよ。君は今、僕と結婚して子宝にも恵まれて幸せに暮らしてる。もう、何も心配いらない」
「アドルフ様…私、アドルフ様に愛されて本当に幸せです。ありがとうございます」
「僕こそ、叶わないと思っていた君への初恋が実って毎日が幸せだよ。ありがとう。心からの愛と感謝を君に捧ぐよ」
「ふふ」
アドルフ様から頬に、額に、瞼にキスをされる。そして鼻先に、唇にも口付けをされ、抱きしめられた。
「なにがあっても、君と子供達は守る。必ずこの幸せを繋いでいく。だから、不安になった時には僕に言って。僕が全部、安心に変えてあげるから」
「はい、アドルフ様」
そういえば、とアドルフ様に尋ねる。
「私は結婚して以来屋敷に閉じこもっているので、なんの情報も入っていないのですが」
「うん?」
「私の元婚約者と聖女様はお付き合いに発展したのでしょうか?」
「あー。聞く?」
「はい」
驚いたことに。元婚約者と聖女様はお付き合いしたは良いものの、子供が出来て予定より早く結婚したらしい。それだけでも結構な問題なのに、一応ということで魔術で子供と元婚約者の血の繋がりを調べたら親子ではないと結論が出た。聖女様は男誑しなので、まあそういうことだろう。二人は結局離婚したらしい。
「そして、神様は聖女の奔放さに呆れて聖なる力の守護を他の…もっと真面目に生きている優しい女性に移したんだ」
「へえ」
「聖女ではなくなった彼女を相手にする人は居なくなった。今は、スラム街に流れていったと聞いているよ。君の元婚約者は見る目がない男だと言われて婚活も難航しているね」
「あらまあ」
新しく聖女になった女性はラッキーだなと思う。この国における聖女とは、幸せにすればするだけ国全体への加護が与えられるためみんなから大切にされるのだ。
「新しい聖女になった女性はね。たくさんの人から傷つけられたから、今は旦那様の屋敷に閉じこもっているんだ。教会も経緯は知っているからその方がいいだろうと認めてくれたんだよ」
「そうなんですね。本人は幸せなんでしょうか?」
「国への加護が過去最大規模の強さだから、それだけ幸せでいてくれてるんだと思うよ」
「それなら良かった。国のためにも、新しい聖女様がこれからも幸せでいられると良いですね。巡り巡って私達にも加護が与えられますし」
「…大丈夫。必ず、これからも幸せが続くよ」
アドルフ様の自信満々な言葉に安心する。
「そんなに新しい聖女様は満たされた環境にいるんですね。本当に良かった」
「そうだね。よかったね」
頬にまたキスをされた。
「さあ、そろそろ部屋に戻って眠ろうか。少し冷えたから、ホットミルクも用意しようね」
「はちみつたっぷりでお願いしますね」
「わかってるよ。…本当に、愛してる」
「ふふ、私もです」
アドルフ様に肩を抱かれて部屋に戻る。温かな手の温度に、ひどく安心した。
「母上!おめでとうございます!いつ生まれますか!?」
娘が息子を引き連れて、てちてちと一生懸命に歩いてくる。息子は娘が転んでもすぐ支えられるように見守りつつやってくる。
「まだいつ生まれるかはわからないのだわ。性別もまだわからないの」
「「えー!」」
不満そうな二人の様子もまた可愛い。
「父上にはもう報告したのですか?」
「もちろんまだよ。屋敷にいないもの。お父様が帰ってきたら、紙吹雪でも散らして出迎えて教えてあげましょう?」
「クラッカー!」
「クラッカーはお耳が痛くなっちゃうからダメ」
「「えー!」」
そんなこんなで、私と息子と娘は旦那様を待つ。しばらくすれば領内の視察から旦那様が帰ってきた。息子と娘がそれぞれの乳母に抱っこされながら作った紙吹雪を宙に舞わせる。突然の大歓迎に戸惑う旦那様に子供達は言った。
「おとうしゃまおめでとうー!」
「母上もおめでとうございます!」
「え、なになに?なにがあったの?」
「まだ性別はわからないけど、新しい兄弟ができましたー!」
息子の言葉に旦那様は私の方を向く。頷いてあげれば泣いた。息子と娘の出来た時、生まれた時も泣いてたなぁと思う。
「レティシアー!ありがとう、ありがとうー!」
「もう、アドルフ様ったら。私の方こそ、いつもありがとうございます」
「おめでとうー!」
「おめでとうございまーす!」
はしゃぐ息子を旦那様は抱き上げて抱きしめる。
「レアンドルは本当に良い子だな。新しい兄弟もアイリスのように可愛がってくれるかい?」
「もちろんです!」
「優しい息子を持ってお父様は幸せだ!」
私は元気な娘を抱き上げる。
「アイリスも、お兄様を見習って良いお姉様になるのよ?」
「うん!あたち、おにいしゃまみたいにいっぱい抱っこして、いっぱい好きっていって、いっぱい一緒にお昼寝しゅるの!」
「ふふ、今から楽しみね」
「おめでとうございます、元気な女の子です!」
「ありがとうなのだわ。少し疲れたから休むのだわ」
「ありがとう、レティシアー!」
「ふふ、アドルフ様は泣き虫なんだから!」
手を伸ばして旦那様の涙を拭う。それでもなお涙がこぼれ落ちてくる。
「おかあしゃま、この子の名前は?」
「アナスタジアよ」
「アナスタジア!アナスタジア、おねえしゃまですよー」
乳母に抱っこされつつ、一生懸命に妹に語りかける娘が可愛い。
「おかあしゃま、アナスタジアが手を握ってくれたー!」
「それは良かったのだわ。さっそく仲良しね」
「えへへー」
娘が可愛い。癒される。そして同じく乳母に抱っこされている息子はそわそわし出した。
「レアンドルもアナスタジアに話しかけて良いのよ。せっかくだし触ってあげて」
「アナスタジア、お兄様だよ。元気に生まれてきてくれてありがとう。良い子だね」
レアンドルはアナスタジアの頭を撫でる。アナスタジアは御構い無しに泣き声を上げているが、レアンドルは満足げに微笑む。
「可愛いなぁ…アイリスはもちろん可愛いけど、アナスタジアもすごく可愛い。どうしよう」
「どうしよう?」
よくわかってないのにレアンドルを真似して首をかしげるアイリスに、レアンドルは胸を押さえた。
「妹が二人とも可愛い…ここが楽園か…」
「ふふ、家族五人が揃えばどこでも楽園なのだわ!」
幸せいっぱいの空間に、私は安心して少し眠った。
レアンドルはもちろん、アイリスもアナスタジアにとって良いお姉様となった。
「アナスタジアは良い子でしゅねー!」
「あうー」
もうすぐ一歳になろうとするアナスタジアにいつも引っ付いて見守ってくれているレアンドルとアイリス。アナスタジアはいつも片方の手をレアンドルかアイリスと繋ぎ、片手で積み木遊びをしている。それをレアンドルとアイリスはひたすら賢い賢いと褒めていた。
「アイリスもアナスタジアも可愛いねぇ。お兄様は二人を愛してるよ」
「えへへー」
「きゃっきゃっ!」
アイリスはアナスタジアに対しては一丁前にお姉様として振舞っているが、レアンドルに対しては甘えん坊の妹だ。そんなアイリスがまた可愛くて仕方ないレアンドルである。
「…三人とも、寝たね」
「そうですね、アドルフ様」
「レティシア、久しぶりに二人きりで夜空でも眺めようか」
「ふふ、はい」
子供達が寝静まると、アドルフ様に誘われて庭に出た。夜空はとても美しい。
「アドルフ様。聖女様に婚約者を奪われて、イジメの冤罪をかけられた私を拾ってくださってありがとうございました。家族からも見捨てられ、行く宛のなかった私に唯一手を差し伸べてくださったアドルフ様はまさに救世主でした」
「急にどうしたの?」
「なんだか、あんな絶望の中にいたのでこんなにも幸せな今が少し信じられなくて。言葉にすれば安心できるかなって」
アドルフ様は私を見つめる。
「大丈夫。これが現実だよ。君は今、僕と結婚して子宝にも恵まれて幸せに暮らしてる。もう、何も心配いらない」
「アドルフ様…私、アドルフ様に愛されて本当に幸せです。ありがとうございます」
「僕こそ、叶わないと思っていた君への初恋が実って毎日が幸せだよ。ありがとう。心からの愛と感謝を君に捧ぐよ」
「ふふ」
アドルフ様から頬に、額に、瞼にキスをされる。そして鼻先に、唇にも口付けをされ、抱きしめられた。
「なにがあっても、君と子供達は守る。必ずこの幸せを繋いでいく。だから、不安になった時には僕に言って。僕が全部、安心に変えてあげるから」
「はい、アドルフ様」
そういえば、とアドルフ様に尋ねる。
「私は結婚して以来屋敷に閉じこもっているので、なんの情報も入っていないのですが」
「うん?」
「私の元婚約者と聖女様はお付き合いに発展したのでしょうか?」
「あー。聞く?」
「はい」
驚いたことに。元婚約者と聖女様はお付き合いしたは良いものの、子供が出来て予定より早く結婚したらしい。それだけでも結構な問題なのに、一応ということで魔術で子供と元婚約者の血の繋がりを調べたら親子ではないと結論が出た。聖女様は男誑しなので、まあそういうことだろう。二人は結局離婚したらしい。
「そして、神様は聖女の奔放さに呆れて聖なる力の守護を他の…もっと真面目に生きている優しい女性に移したんだ」
「へえ」
「聖女ではなくなった彼女を相手にする人は居なくなった。今は、スラム街に流れていったと聞いているよ。君の元婚約者は見る目がない男だと言われて婚活も難航しているね」
「あらまあ」
新しく聖女になった女性はラッキーだなと思う。この国における聖女とは、幸せにすればするだけ国全体への加護が与えられるためみんなから大切にされるのだ。
「新しい聖女になった女性はね。たくさんの人から傷つけられたから、今は旦那様の屋敷に閉じこもっているんだ。教会も経緯は知っているからその方がいいだろうと認めてくれたんだよ」
「そうなんですね。本人は幸せなんでしょうか?」
「国への加護が過去最大規模の強さだから、それだけ幸せでいてくれてるんだと思うよ」
「それなら良かった。国のためにも、新しい聖女様がこれからも幸せでいられると良いですね。巡り巡って私達にも加護が与えられますし」
「…大丈夫。必ず、これからも幸せが続くよ」
アドルフ様の自信満々な言葉に安心する。
「そんなに新しい聖女様は満たされた環境にいるんですね。本当に良かった」
「そうだね。よかったね」
頬にまたキスをされた。
「さあ、そろそろ部屋に戻って眠ろうか。少し冷えたから、ホットミルクも用意しようね」
「はちみつたっぷりでお願いしますね」
「わかってるよ。…本当に、愛してる」
「ふふ、私もです」
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そりゃあ、再び自分に力が戻っているとは気づかない❣️アドルフ様が、その事告げているのに判ってない聖母様(*≧艸≦)))︎💕︎︎只々、可愛い子供達と幸せに暮らせて大満足なんでそんなこったどうでもいいですものね❣️ꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
感想ありがとうございます。そう、家族全員で幸せなので外のことなどどうでもいいのです!
母親の語尾が所々変なのが独特ですね。
子供が真似しないのが不思議。
感想ありがとうございます。変ですか、すみません。個性だと思っていただければと思います。