白百合は白百合でも、温室ではなく山で逞しく咲き誇るタイプです

下菊みこと

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読み友

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「それでですね、悪役たる彼女がヒロインをパンっと引っ叩くんです」

「わあ、すごいことするね」

「それで彼女は言うんです。私に説教したいなら、まず私に追いつきなさいと」

「へえ?なるほど」

「そうしてヒロインは皇后になることを目指し始めるのです」

…あ。もうこんな時間。

「すみません、皇帝陛下。もうそろそろ赤藤様のところに行かなきゃですよね」

「え?…うわぁ、もうこんな時間?君があまりにも楽しそうに語るから、つい聞き続けてしまったよ」

時計を見ると困ったような表情を浮かべる皇帝陛下。

「あの、よかったらこの本、お貸ししますよ」

「え?いいのかい?君のお気に入りなんだろう?」

「お気に入りだからこそです。読み友が欲しかったので」

「読み友…私は一応君の夫なんだが…まあ、いいか」

「今度来る時には是非語り合いましょうね!」

「わかったわかった。敵わないな…無邪気過ぎる…」

「?」

「それとユーバーヘープリヒ。読み友と言うからにはそんな『皇帝陛下』なんて他人行儀な呼び方ではなく、もっとステキな呼び方をしてくれるのだろう?」

「え」

「そうだなぁ。私は君をユリと呼ぼう」

「え」

「君は私をなんと呼んでくれる?」

えっと…トレラント・ターフェルルンデ様だから…。

「…ラン様?」

「…おや、嬉しい。君はレン様ではなくラン様と呼ぶのだね。他の誰からも呼ばれたことのない略称だ」

「えっと…?」

「特別、だね?」

「?」

「…これだけ粉をかけても反応しないとか、やっぱり余程の天然とみた」

「ラン様?」

「じゃあユリ。明日の赤薔薇のお茶会、楽しんでおいで」

「はい、ラン様!ありがとうございます!」

「ただしなるべく変なトラブルには巻き込まれないようにね」

「私は観客席側なので大丈夫だと思います!」

「…まあ、あの赤薔薇達が君たち白百合以下を相手になどしないか。おやすみ、ユリ」

「おやすみなさい、ラン様」

こうしてラン様と読み友になったのでした。

ところで、赤薔薇のお茶会というのは、その名の通り赤薔薇様が主催されるお茶会です。これから私たち妃は、月に一度、順番にお茶会を開きます。今月は赤薔薇様、来月は白薔薇様、という風に。元々は妃同士の交流を深めることを目的としていたそうですが、今や後宮内のそれぞれの権威を誇示することを目的とされています。後宮物語っぽくて美味しいです!

ということなので、今日はこのくらいにして寝ましょう。おやすみなさい。明日から後宮を思う存分楽しめますように。
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