美しき妖獣の花嫁となった

下菊みこと

文字の大きさ
17 / 76

ある神官の独り言

しおりを挟む
俺はパウロ。

聖神教のしがない神官。

それもとある男爵領の田舎村で育ち、そこの教会で神官をやっているので他の神官たちからは出ずっぱりだと思われている。

だがこの村の教会は特殊で、やることが他の地域の神官より責任が重い。

なんてったって、この国を支える『妖獣様』に餌を与える任務があるからな。

「男爵家が買った死罪に値する罪人を、妖獣様の元まで届けねばならない」

神が創りたもうた妖獣様は、加護増し増しだからこの国には無くてはならない存在だ。

妖獣様がいるからこの国は存続していると言っても過言ではない。

妖獣様の存在を知る者はほとんどが畏怖の念はあっても敬愛の念は抱かない。

だが俺は神官として、神が創りたもうた妖獣様には敬意を払っているつもりだ。

そしてもう一人、敬愛とは違うが妖獣様を気にかけていた女の子がいた。

「リーシュちゃん、元気かなぁ」

妖獣様のお嫁様になったリーシュちゃん。

リーシュちゃんはこの男爵領を治める男爵様の娘御なのに、幼くして母を亡くし腹違いの妹に虐められていた。

俺は知っていたのに助けてあげられなくて、でもそんな俺が自分が情け無いと泣いていたらリーシュちゃんは慰めてくれた。

優しい子だった。

だから妖獣様の話を聞くといつも可哀想だと気にかけていて。

「神様がリーシュちゃんを妖獣様のお嫁様に選んだ気持ち、わかるなぁ」

リーシュちゃんほど純粋で優しい子だったら、自分の愛し子を任せるのにぴったりだと思うのも納得。

それにリーシュちゃんは妖獣様に嫁いでしまえば虐待してくる父親や妹、止めてくれない継母から離れられる。

浮気者の婚約者ともおさらば出来るのだから損はないはず。

妖獣様とは餌を渡す時に軽く挨拶する仲だから、そんな思われているほどおっかない人ではないと知っているから俺としては安心。

「あとはリーシュちゃんと妖獣様の相性次第だけど」

妖獣様は穏やかで大らかだし、リーシュちゃんは物言いが素直だけど優しい子だし。

まあ、大丈夫だろう。

「…ってことで、今日も張り切ってお仕事しますか」

今日は妖獣様に餌を届ける日。

餌は定期的に数人ずつ与える。

罪人たちを縄で括って連れ出す。

いやだ離せと喚き声が聞こえるが無視。

俺と同じく男爵領の教会で働く他の神官たちも協力してくれて、罪人たちの抵抗を許さず山を登る。

「やっとついたー」

妖獣様のお家にやっとの思いでたどり着く。

玄関のドアをノックする。

「はーい」

返事がして、出てきたのはもちろん妖獣様。

子猫のミネットちゃんもいつも通り出迎えてくれる。

そして、もう一人。

「あ、パウロさん。他の神官様も!」

リーシュちゃんも、元気そうな顔を見せてくれた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。 そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。  私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?  自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狼な俺のフィアンセは、98歳〜真実の目で本性を見る少年は、老婆な婚約者を溺愛する

ジュレヌク
恋愛
人の内面を動物の姿として捉える魔眼を持った少年、ウォルフ。 家族にすら言えぬ秘密を抱え生きてきた彼の前に現れたのは、白銀の髪を持つ、シワシワの老婆に見える8才の少女、オトミー。 魔力を抑える眼鏡を掛けないでも、『人』として見える彼女に惹かれた彼は、老婆にしか見えない彼女を溺愛していく。 そして、婚約者となった彼女に自分の秘密を告白した時、彼女からも、ある秘密を教えてもらうことになる。 魂で繋がる2人の少年少女。 天才の名を欲しいままにする彼らの『ほのぼの』や『てんやわんや』なお話。

【完結】愛で結ばれたはずの夫に捨てられました

ユユ
恋愛
「出て行け」 愛を囁き合い、祝福されずとも全てを捨て 結ばれたはずだった。 「金輪際姿を表すな」 義父から嫁だと認めてもらえなくても 義母からの仕打ちにもメイド達の嫌がらせにも 耐えてきた。 「もうおまえを愛していない」 結婚4年、やっと待望の第一子を産んだ。 義務でもあった男児を産んだ。 なのに 「不義の子と去るがいい」 「あなたの子よ!」 「私の子はエリザベスだけだ」 夫は私を裏切っていた。 * 作り話です * 3万文字前後です * 完結保証付きです * 暇つぶしにどうぞ

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

処理中です...