魔女が死にました

下菊みこと

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ベアトリーチェ

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「ところでお前、名前は?」

「エカテリーナよ。リーナでいいわ」

「リーナ。お茶が入った」

「…芳しい紅茶ね。百合茶かしら」

「正解だ」

「これ、おばあちゃんが好きなのよね。私も結構好きよ」

「…そうか」

リーナは自分の髪を指先で遊ばせながら言います。

「それで、今日はどんな話を聞かせてくれるの?」

「…。そうだな。ここ一年の、ベアトリーチェの話を」

「そう」

そして、長くて短いお話が始まります。

ー…

俺はレン。黒猫で、人間に捨てられて弱っているところをベアトリーチェに助けられた。ベアトリーチェは老い先短いからと言って俺に自害を禁じた。なんとなく、俺がベアトリーチェの死後にどうするかわかっていたんだろう。

そんなベアトリーチェの俺への命令は二つ。あと一年しかないベアトリーチェの命が尽きるまで、ベアトリーチェを看病すること。そして死後の処理。

そんな春のある日のこと。

日差しが心地よく、さわやかな春の日。

カゴを持って、庭に出る。花を集める。ベアトリーチェの病はとても痛いらしい。これは痛み止めになる花だ。いっぱいいっぱい、摘んでやろう。

俺にお礼を言い、摘んできた花を自分で調合するベアトリーチェ。痛み止めを飲むと、微笑んで改めてお礼を言ってくれる。老婆だというのに、その笑顔はとても綺麗で。ああ、ベアトリーチェ。この時間が、ずっとずっと続いてくれたなら。

夏のある日のこと。

日差しが暑い、蒸し蒸しとした夏の日。

春から比べ、寝込むことが多くなったベアトリーチェ。今日も俺は、ベアトリーチェの為に痛み止めになる花を摘む。この庭は魔法の庭。季節に関係なく花を摘める。

自分で花の調合をすることが難しくなったベアトリーチェ。一緒に調合をすることが多くなった。俺はもう自分一人でも薬を調合できる。ベアトリーチェは俺の調合した薬を飲むと微笑んだ。ああ、ベアトリーチェ。この時間が、ずっとずっと続いてくれたなら。

秋のある日のこと。

日差しが柔らかい、少し肌寒い秋の日。

ベアトリーチェは、最近起き出さない。まだ生きてる。けれど、自分では何もできない。今日も俺は、ベアトリーチェの為に痛み止めになる花を摘む。ベアトリーチェは、意識はまだある。痛みだけでも、楽にしてやりたい。

俺の調合した薬を飲ませる。でも、なかなか飲み込めないので何度も何度も無理矢理口に突っ込んで飲ませる形になってしまった。すまない、ベアトリーチェ。それでもベアトリーチェは俺に微笑んで。ああ、ベアトリーチェ。この時間が、ずっとずっと続いてくれたなら。

そして、昨日。冬の日のこと。

日差しが差さない、雪の降る冬の日。

ベアトリーチェは、もう、意識も朦朧としている。痛み止めもいらないだろう。よかった、最期は楽に逝けるだろう。

ベアトリーチェの手を握る。緩やかな死を見守ることしかできない俺を許してくれ。もうベアトリーチェは微笑まない。ああ、ベアトリーチェ。この時間が、ずっとずっと続いてくれたなら。

ー…

「愚かな話だろう。ベアトリーチェの痛みを知っていたのに、それが長く続くように願うなんて」

「それは私も同じことよ。おばあちゃんに少しでも長く生きて欲しかった。しかも、私なんて貴方と違って側にいてあげられなかった」

「…お前、お貴族様だったんだろう。両親がアレな奴らだったなら、仕方ないさ」

「それでも、もっと早く家から逃げ出せてたら、間に合ったのに…」

「…ベアトリーチェは、滅多に家族の話をしなかったが」

「…」

「唯一楽しそうに話していたのは、自分によく似た孫のことだった」

「…え」

「…泣くなら泣け。胸を貸してやる」

「…っ、お、ばあちゃ…っ」

さてさて、この主従の関係はどうなることやら。
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