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第三章

No.49 油断

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少し、侮っていたか。噂通りガーディアンは他の国のナーチャーよりも、数段質が高い様だ。

あの時は、この能力を何も知らなかった。そのせいで油断した。だから簡単に片付ける事が出来たが、今回はやはりそうも行かない様だ。

適度に距離を置き、触れられる事を拒み、致命傷を負わせても止まる事無く攻撃を更に浴びせる。
直接身体に触れなければ、倒せない。冷気での攻撃はやはり、ディスターのオーラによって遮られた。


「なぁんだ、強いじゃん。」

「そりゃどうも。」


薄い笑みを浮かべる二人。
アルビノの青いドレスは、自身の血が混ざって紫色に変わっていた。肩や腕、腹や足などの至る部分はディスターの熱に溶かされ、血の気の無い肌が露わになっている。


「おじさんは私に触れられない。だけど、私もおじさんに触れようとすればこうなる。」


ため息混じりにそう言って、右腕を上げた。だがそこに右腕は無い。つい先程アルビノの右腕がマドズのオーラに取り込まれ、切られてしまったところだった。

切られた右腕はマドズの足元で悪臭を放ちながら溶けている。それが溶かされ切られる前に、アルビノの腕の断面から新しい腕が再生し始めた。


「満身創痍だよ。ああ、服の話ね。女の子なんだから手加減して欲しいなぁ。」

「ふん、よく言うぜ...!」


満身創痍はこちらの方だ。外面に目立った傷は無いものの、マドズはもう限界に近かった。
この餓鬼、なんて力してやがるんだ。
常にフルで能力を発動していなければ、少しでも気を抜く様な事があれば、あっという間にディスターのオーラを突破されてしまう。

クラドとカトレナは?ヒューラはもう済んだか。もうこちらへ向かっているだろうか。いや、まだ早い。向かうよりも先に連絡が入るはずだ。
どれ位の時間が経ったのだろう。もう数時間は交戦している気がする。たが、きっとまた数分程しか経っていないのだろうな。
二人が来るまで、持ち堪えられるか。


『同盟軍全兵士に報告。』


無線が鳴った。クラドの声だ。
耳を傾ける暇はない。が、アルビノはどうぞと手をやった。


『ヒューラを発見、だが始末する前に自決、もしくは何者かに殺された。恐らく後者であると思われる。』

『何だと?一体誰に!』

『わからない、姿は無かった。ヒューラが情報を吐いた途端、まるで猛毒に侵される様に溶けていった。状況は?』

『大蜘蛛はまだ何匹も残っています。撤退する気配も無い。』

『操りも解かれていません!』

『了解、現在ガーディアンのマドズがガーロンの組員アルビノと交戦中、俺達がこれから応援に向かう。ヒューラの情報によるとミジュラのナーチャーが黒幕にいる。この基地内にいる可能性が高い。』

『了解、捜索します!』


そのやり取りを、二人共静かに聞いた。
ヒューラが何者かに殺された。そして指揮者を失ったにも関わらず、大蜘蛛は今も戦い、操りも未だ解かれない。


「だからあっさりと俺達を通したんだな。」


舌打ちをして、アルビノを睨み付ける。
ヒューラは囮だったのだ。表の指揮者。
それを裏で操る黒幕は、他にいる。
アルビノは意地悪い笑顔を浮かべた。


「一体誰だ?ガーロンか?」

「さあ、私は何も言わないよぉ。本当、制約の猛毒を入れていて正解だったな。裏切る気力も無いと思ってたけど。」

「制約の...何だと?」


マドズが眉を顰め、聞き返した頃にはアルビノは既に目の前まで移動していた。
今までで一番、凄まじい冷気を発しながら。

しまった。クラドとカトレナがこちらに向かっているのだから、当然到着する前に早急に決着をつけたいだろう。
マドズは完全に反応が遅れてしまった。


「くそっ!」

「うふふ、捕まえたぁ。」


両腕をがっしり掴み、アルビノが笑った。
マドズのディスターが押し負けた。アルビノの冷気に侵され、段々とオーラの熱が引いて行く。

もう、今更捩じ伏せる事は不可能だ。これまでか。
遠くからクラドとカトレナの気配を感じた。あと十数秒もすればここへ着いただろう。ギリギリのところで油断してしまった。


「それじゃあ、バイバイ。」

「マドズ!!!」


アルビノの声と、クラドの声が重なる。
そして刺す様な冷たさが、触れられた両腕から順に身体の中を駆け巡って行った。

アランは何と言っていたっけ?細胞を壊死させるがどうとか言っていたな。こんな感覚なんだ。まるで眠る様だ。

アルビノの顔が赤色に包まれ、胴体を残して消える場面を最後に見た。そしてそのまま、マドズは闇の中へと意識を落とした。



「カトレナ、治癒を!!」

「わかっている!」


もう一発、アルビノの残された胴体に赤い銃弾を撃ち込む。胴体は右腕と腹に穴が空いた状態で吹き飛んだ。
クラドは倒れ込むマドズの前を通り過ぎ、アルビノの死体の前で立ち止まって何度も何度もガン・キューブを撃ち込んだ。


「マドズ、返事をしろ、おい!」


カトレナが焦って声を荒げる姿など、なかなか見られる事は出来ないだろう。
うつ伏せに倒れたマドズの身体を持ち上げて仰向けにし、残す限りの力を両手に集めた。
心臓は、辛うじてだが動いている。だが極めて危ない状態だ。


「マドズは?」

「かなり危ない。が、生きている。」


最早原形を留めていないアルビノの肉塊を鋭く睨み付けながら、クラドが低い声で言った。カトレナの返事を聞いても尚、その殺気は緩まない。


「クラド、取り敢えずマドズにディスターを分け与えてくれ。そいつはどうやったって殺せないだろう。」

「...わかった。」


段々と人の形になって行く肉塊。ここまでしても再生するのか。クラドはもう一発だけ肉塊に撃ち込み、カトレナとマドズの方へ走った。

フルマスクを取ると、本当に生きているのかと疑う程に青白いマドズの顔が現れた。だが確かに息をしている。生きている。

マドズの額に手を当て、クラドはディスターを発動させた。マドズの中へ、ゆっくりゆっくり流し込んで行く。


「あれぇ、嘘。おじさん生きてるの?」


皮膚の無い、ただの人の形をした肉が言った。瞼も何も無い大きな眼球が三人の姿を捉え、感心した様に顎を上げる。


「ああ、義手かぁ。確かにあんまり手応えなかったもんなぁ。失敗、失敗。」

「黙ってろ。お前は必ず殺す。」


治癒に全神経を集中させながら、カトレナが冷たく低い声を出した。駄目だ、殺意を混じらせてしまえば、治癒は上手くいかない。
シャリーデアがいてくれれば。あの子ならば時間を掛けずにマドズを安全な状態まで治せるだろう。


「殺す?あはは、何度でもどうぞ。気が済むまで殺したらいいよぉ。」

「貴様...!!」

「カトレナ、放っておけ。頼んだ。」


思わず殺気を出すカトレナに、クラドが言った。立ち上がり、アルビノの方を向く。
アルビノは完全に元の姿になっていた。


「ごめんだけど、もう行かなくちゃ。お兄さん達も行かなくちゃいけないでしょう?お互い忙しいものね。」

「同盟軍が完全包囲している。何処へ行くのか知らないが、ここから逃げ切れると思っているのか?」

「思うよ、ねぇホラー。」


アルビノがそう言うと、扉も何も無い後ろの壁から男が出て来た。
若い男だ。シンやリリィより少し上か。
目にかかる黒い前髪の隙間から、瞳孔の開いたオレンジ色の目がクラドを見た。


「ホラー、何処行ってたの?」

「ババアを見て...アルビノ、服!!」

「うるさいなぁ、見ないでよ。」

「貴様、何者だ?ガーロンか。」


クラドに銃口を向けられ、殺気を込めた問いをかけられているにも関わらず、ホラーは急いで上着を脱ぎ、素っ裸のアルビノへと渡した。(その間、目は瞑っていた。)


「ありがと。それじゃあ、お兄さん。また今度遊んでね。」

「アルビノの服を脱がせたのはお前か?絶対殺すからな...絶対食ってやる!」


ご機嫌に手を振るアルビノと、鋭い殺気を込めてクラドを睨み付けるホラー。そして二人は何も無い壁の中へと入って行った。

クラドは追い掛けも近付きもしなかった。
ホラーという男はかなりの手練れだ。目を見ただけでそれを理解した。
撤退するならば、それでいい。今の状態で戦っても勝ち目は無かった。


「...マドズは。」

「取り敢えずは、大丈夫だ。」

「わかった。俺が担いで行くから、カトレナは急いでリリィの方へ向かって。」

「了解した。」


短く返事をするカトレナ。その額は汗に塗れていた。苦手である上に、ただでさえ身体に負担のかかる治癒。カトレナはもう限界が近そうだ。
視線を交わせ合い、頷き合う。クラドとマドズを残して、カトレナはリリィ達の方へと向かった。








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