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第三章

No.50 おまたせ

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『同盟軍全兵士に報告。』


その無線が鳴ったのは、リリィがイルヤにソード・レックを突き刺した一分後だった。
解放されたリリィは、五人へ矢の如く攻撃を浴びせた。大蜘蛛はあと七匹にまで減らせたというのに、そこから更に減らす事は困難になっていた。


「操りも解かれていません!」


カレンが震える声でそう返事した。
ヒューラは囮。無関係では無いだろうが、重要な存在では無かったという事か。

これで、ギルの封印にかける他無くなった。誰かが黒幕のミジュラのナーチャーを見つけ出して始末するなど、無茶な希望は持てなかった。


「坊主!カレンとギルを守れ!」

「やってますよ!!」


ラジャーンの言葉に、シンが返した。
厄介な邪魔者は、ラジャーンとルイジェ。その二人さえ殺してしまえば、あとの三人などいつでも殺せる。リリィはそう判断したらしい。
七匹の大蜘蛛はシンとギル、カレンへ。
リリィはその他の二人へと向いた。

ギルはリリィを解放する一瞬の機会に備え、大蜘蛛に対しての攻撃は出来る限り無し。カレンも自分のすべき事をわかっていた。黒幕である人物の居場所を、正体を突き止める事だ。だが、この状況ではなかなか集中出来ずにいた。

よって、七匹の大蜘蛛は殆どシンが一人で相手をしていた。
幻覚をかけたままの状態でいる為に、能力を今まで使わなかった事が役に立った。まだ、まだ限界は先だ。
少しくらいの無茶は出来る。そして、無茶をすべき状況である。

シンは意識を集中させた。
マドズとの訓練を思い出した。
結局、一度も成功はしなかった。が、レイドールで、そしてラギスで経験を積んだ。能力の覚醒条件が強い想いなのであれば、能力のプログレスにも関わるはずだ。

ギルも、カレンも成長している。
ならば、自分だってそうであるはずだ。


「シン、危ない!!」


ギルの声が聞こえた。
七匹の大蜘蛛が一斉にシンへと襲い掛かる。
が、シンは限界まで待った。まだ、まだ。そして武器の発動を解き、ようやく目の前まで来た大蜘蛛達へ狙いを定めた。

ギルには、シンが爆発した様に見えた。だが爆発したのはシンのオーラだった。
今まで攻撃を避け続けていたシンは、全く動かなかった。が、そのオーラに触れた大蜘蛛は、その攻撃がシンの身体に届く前に溶け出したのだ。その少し後ろにいた大蜘蛛にもオーラは手を伸ばし、貫いた。

一瞬にして、七匹の大蜘蛛を倒した。
一段階、シンは覚醒したのだ。
周りも自身も、それを確信した。
見ろ、見ろマドズ!やってやったぞ!と、その場にはいないマドズに、声に出さずそう言った。



「ぐあっ!!」

「ラジャーンさん、ルイジェさん!」


シンを見て感心した一瞬の隙。それをリリィは見逃さなかった。ラジャーンとルイジェの方へ手をやり、凄まじい威力の拒絶を放ったのだ。

ラジャーンとルイジェは壁に勢い良くぶち当たったが、能力を発動していた為死には至らなかった。
それでも、臓器の幾つかをやられた。二人は血を吐きながら、その場に突っ伏した。


「くそ、すまない...!」


苦しげにそう言い、ぼたぼたと口から血を垂らすルイジェ。起き上がれない。ラジャーンも同じく動けないらしい。

リリィはゆっくりと三人に向いた。
その顔は懇願していた。
何を、とまでは、わからないが。

ギルとカレンの前に、シンが立った。
大きな赤い渦を纏って。リリィも同じく、青い渦を纏っていた。

カレンの頬に涙が伝った。こんな、こんな場面は見たくなかった。闘志を持って対峙する二人の姿なんて、見たくなかった。


「お願い、ギル。リリィを救って。」

「勿論だ。なあ、シン。」

「ああ、必ず。俺達の想いは変わらずそれだ。リリィ、よくわかっただろう?」


リリィは初めて、笑った。ほんの少しだが、呆れた様なリリィらしい微笑を浮かべたのだ。
絶望意外の表情を久し振りに見られた。
ああ、それだけで充分だ。


二人が同時に前へ出た。
身体よりも先にオーラがぶつかる。
今度は、シンは押し負けて吹き飛ばされる様な事にはならなかった。
代わりに、二つのオーラは横に弾けた。

互角。いや、やはりリリィの方が強いか。
ただのオーラの張り合いならば互角だが、リリィの拒絶には敵わなかった。それだけは避ける他に無い。
今覚醒したばかりのシンは、刹那の気の集中だけでオーラを飛ばす事は不可能だった。

ーーーーだが。


「なっ...リリィ!?」


思わず、シンは攻撃を止めた。
リリィがいきなり血を吐いたからだ。
そうか、もうずっと能力をフルで発動しっ放しだったのだ。そろそろ限界が来てもおかしくない。
いや、限界などとっくに突破していた。操りは疲労を表に出す事無く、血を吐くまで酷使したのだ。


「リリィ!!」


片膝をつくリリィを見て、思わずカレンが駆け寄ろうとした。が、リリィはそんなカレンへと手を向けた。


「カレン、危ない!」


ギルがカレンへと走る。
が、それよりも先にシンが前に立った。
両腕を前に出し、放たれた拒絶を受け止める。
後ろへ吹き飛ぶ事は無かったが、シンはその場に両膝をついて血を吐いた。衝撃と、そして限界。


「ギル、ギル!!早くするんだ!!」

「わかってる...!」


催促するルイジェの声が聞こえる。泣きながらシンに駆け寄るカレンと、焦りながらガン・キューブを構えるギルの姿が見える。

駄目だ、間に合わないだろう。必死に出来る限りの抵抗をしたが、それも虚しくリリィの手は再度三人へと向けられる。


(お願いよ、誰か...)


私を殺して。今すぐに!
その声は誰にも伝わる事も無く。
リリィの伸ばされた腕へと残された全てのヒーリスが集い、そして掌からそれは飛ばされた。


ーーーーが、それは何かに阻まれた。

その存在に気付いたのは、リリィが最初だった。



「待たせたな、ギル。」

「遅くなってごめんね。」


背後からの二つの声に、皆一斉に振り向いた。
ガーディアンの黒コート。その手には青い線の入ったガン・キューブが構えられている。その銃口からリリィに撃ち込まれたものは、拘束シールド。

リアムと、ララだ。


「やれ、ギル!!」


カレンに抱えられながら、シンが叫んだ。
ああ、言われずとも。無言で頷き、ギルは拘束されて動けずにいるリリィへと歩み寄った。

久し振りに、間近でちゃんとリリィを見た。
見た事も無い程ぐしゃぐしゃで、涙と鼻水に塗れた冷静沈着なリリィらしくない顔だ。
ギルは思わず笑ってしまった。


「お待たせ、リリィ。」


そう言った時の、リリィの泣き笑い。
リリィへ操りをかけた者への怒り。
あの時、自分の力不足のせいで解放出来なかった激しい後悔。

その全てを脳裏に焼き付け、ギルは白い光を纏いながら引き金を引いた。









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