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第三章

No.52 おやすみ

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仰向けに倒れ込むリリィ。
その身体が地面に当たってしまう前に受け止めるギル。息を呑みながら二人に駆け寄るシンとカレン。
ガン・キューブを構えたまま身体を硬直させるリアムとララ。
倒れたまま、自分と同じく目を見開いてその様子を見るラジャーンとルイジェ。

それがカトレナが角を曲がって到着した際、最初に目に映った光景だった。


成功した。
ギルの能力は、今度こそ操りを解いた。
誰もがそう確信した。

閃光を胸に受けた瞬間、リリィの身体はギルと同じ様に白い光を発した。それは三人に囲まれた今も尚、輝いている。


「リリィ、大丈夫か!?」

「ああ、目を開けてリリィ!」


シンと、カレンの言葉が聞こえた。
ギルは何も言わず、表情を強張らせながらただリリィの反応を待っている。
ラジャーンとルイジェがいる辺りで、カトレナは足を止めた。


「リリィ...」


この場からリリィの顔は見えない。だがギルの強張った表情が緩み、安堵した様にそう呟いた事で、結果はわかった。

リリィは目を開けた。そして、微笑んだ。

複雑に入り混じった様々な感情が、その微笑みを見た事によって溢れ出した。
わっと泣き出しながら、カレンがリリィの手を強く握った。


「よかった...本当によかった!」


シンもギルも、目に涙を溜めていた。
その向こう側で、リアムとララがようやく動き出し、互いに拳を当てる。ラジャーンとルイジェも、顔を見合わせて笑った。

カトレナも、意図せず自身が笑みを浮かべている事に気付いた。


ーーーーが、それも刹那の内であった。


「....!!」


声にならない声を上げ、苦しみ出すリリィ。
喉を潰した黒紫色が、異様な音を立てながら蠢き出したのだ。


「カ、カトレナさん!!」

「どけ!」


シンがそう叫んで振り返る前に、カトレナはシンを横に押して代わった。
黒紫色は今やカレンが握った手の指先にまで届いていた。
沸騰し、幾つもの気泡をあげるリリィの侵された肌。それを見て、カトレナはすぐに理解した。

ヒューラと全く同じ症状。
このままでは、“あれ”と同じ様に体内の全てを侵されて液体と化すだろう。


「リアム、ララ!来い!!」

「は、はい!」


対処法など何もわからないが、それでもこのまま放って置くわけには行かない。
ギルは何も言われずとも理解し、抱いていたリリィの身体を急いで(だが、そっと)地面に寝かせた。

カトレナももう限界間近であったが、突破してしまう事も覚悟にヒーリスを発動し、リリィの胸へ手を当てた。
リアムとララもすぐに到着し、カトレナと同じく手を当てて治癒に集中する。


『報告、大蜘蛛が全部...いきなり苦しみ出して破裂して行った!他はどうなっている!?』

『本基地内も同じく!』

『こっちもだ。一体何があった!?』


鳴り響く無線も、シンとギル、カレンの耳には入らなかった。他の者達も、そうであったかもしれない。

それ程に、緊迫した状況だった。


(駄目だ、これは...)


症状を止まらせる事は出来る。が、治す事は出来ない。不可能だ。
少しでも手を緩めてしまえば、またすぐに動き出してしまうだろう。

カトレナは顔を顰めた。リアムとララも、恐らく同じ気持ち、同じ表情を浮かべていると感じた。

そして他の者達は、それを伝えられずとも伝わってしまった様だ。治せるものでは無いと、そう察してしまった。


「操りが解かれた場合、作動する様に仕組まれていたものだろう。」


後ろから声がした。マドズを抱えたクラドがそこにいた。が、誰も振り返らない。誰も何も口に出さない。
クラドも返答を望んではいなかった。


「リリィ、リリィ、リリィ...」


ひたすら名を呼び、咽び泣くカレン。
その横にいるシンもギルも、マスクの下で涙を流していた。

操りを解いたのに。ようやく、やっと!
やっとリリィが帰って来たのに!

あまりにも惨い。あまりにも。


すると、リリィがゆっくりと起き上がった。
シンはそれを止めるのでは無く、支えた。

リリィはカレンの手を払った。
そして、驚くカレンの胸ぐらを掴んで自身に引き寄せたのだ。

数センチの距離で、リリィとカレンが見つめ合う。誰もがその行動の意味を理解した。 


「みて、カレン。私の中を。」


カレンはその声を確かに聞いた。
意図する前に、カレンの意識はリリィの中へと入って行った。







『ヒューラじゃない...あなたね。』

『さあ、お話するのよ。』


虚ろな目をして椅子に座る老人。
跪くリリィと、その横に立つ白衣の女。
リリィの感情がカレンへと伝わる。
黒幕はこの研究員、ソフィア。ヒューラは心の折れた表の指揮者でしか無い。

また、場面が切り替わった。
場所は変わらない。が、先程と違いヒューラは椅子に座ったまま情け無く震えている。ソフィアと呼ばれる女の目が不気味に光っている。


『四年ほど前になるかしら、開拓の為に森を切り開いていた時にね。私は地面の奥底に何か気配を感じたのよ。全く何かわからなかったけど、とりあえずその場所を掘ってみたわ。何十メートルもね。』


そう言ってつらつらと話し出すソフィア。
更に震え出すヒューラ、驚愕するリリィ。

その三人を、少し離れた場所からカレンは見続けた。到底、信じられぬ話だ。黒幕はミジュラのナーチャーでは無い。ミジュラそのものなのだ。


すると、そこで場面が止まった。
一時停止された画面の様に、そのまま時が止まったのだ。

何故?一体何が?
そう思ったと同時に、カレンの意識は強引にカレンへと引き戻された。




「おやすみ、リリィ。」


視界が正常に映る前に、声が聞こえた。
誰だろう。聞き覚えのある声だ。だけど、それが誰かはわからなかった。

リリィに何かあったのかな。
だからいきなり引き戻されたのだろうか。

そして、その“わけ”は映った。


「リリィ!!!」


シンと、ギルの声が重なる。

カレンの視界は真っ赤に染まっていた。
すぐ近くにリリィの顔があったはず。
だが、その場所に顔は無かった。

シンの腕の中で、リリィは無惨にも胴体だけとなっていた。リリィの頭は血飛沫を撒き散らして跡形も無く破裂した。


「ガン・キューブだ!」

「向こうから...」


誰かと、誰かが、そう言う。
誰かが、その方向へと走る。

だが三人の時は止まっていた。
ただただ、胴体だけのリリィが、絶命したにも関わらず猛毒に侵されて液状と化して行く姿を見つめた。

リリィは眠った。




我々は勝利した。
同盟軍は見事、ラギス軍を根絶やしにした。

そして黒幕の正体も、リリィとカレンによって見事に掴む事が出来た。






「まず、一人目。」


見つけられず、来た道を戻って行くクラドの背を見据えながら、ゾーイが呟いた。


「あと、三人。」










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