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第四章

No.54 霊園

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本部の裏側、そこにある林を抜けた所に、セルビリア専用の霊園がある。
緑に囲まれた、見晴らしの良い場所だ。

最初に目に入るのは、様々な供物が置かれた大きな球体の(紋章にあるものと同じ龍が描かれている)モニュメント。その裏に、幾つもの墓石が見える。

いつも人気の少ないこの場所は今、レイドール国での戦い、アルビノの襲撃、そしてラギス国での戦いで殉職した騎士達の葬儀を終え、何人もの人々が訪れていた。




「お疲れ様。よく頑張ったわね。」


薄い墓石に語りかけ、その下に眠る彼女の髪と同じ色の花を供えるニーナ。
薄ピンク色の可愛らしい花が風に揺れる。ニーナはその様子をジッと見据えた。


「あっちでまた両親と花屋さんでも開いて過ごしなさい。やっぱりあなたに戦いは似合わないわ、シャリーデア。」


最後の方は、込み上げる感情に喉が震えた。
ブロウィはニーナのすぐ後ろに立ち、その様子を黙って見ていた。

懐かしい光景が脳裏に蘇る。
あの頃はガーディアンという組織も無く、クラドはただの一般騎士だった。
同期の三人で泣いたり笑ったり怒ったり、平和な日々を過ごしていたな。

サボって行きつけの花屋に行き、シャリーデアと話し込むクラドの耳を何度つねって仕事に戻らせたか。その度にシャリーデアは笑いながら手を振っていたな。

そんなシャリーデアも、戦争を経てガーディアンに。あの問題児のクラドも、ガーディアンの副リーダーとなった。
時が過ぎ去るのは早いものだ。
シャリーデアの墓石と肩を震わすニーナの後ろ姿から目線を逸らし、ブロウィは辺りを見渡した。


勝利の裏には、いつだって悲劇がある。
この、目の前にあるのもその内の一つ。
そして同様の悲劇が、墓石の数だけある。

ふと、ブロウィの視界に三つの影が止まった。
遠目で顔も表情も判別出来ないが、それでも誰と誰と誰の姿かわかった。


「...行ってあげて。」

「...ああ。」


同じく、ニーナも三人を見ていた。
優しくも悲しげな微笑みをブロウィに向け、ニーナは短くそう言った。
ブロウィは浅く頷くと、もう一度シャリーデアの墓石に目を閉じ、そして三人の方へと向かって行った。















真っ白な百合の花は、リリィの透き通った美しい銀髪を連想させた。
その花を墓石に供え、カレンは目を閉じた。
何を想い、何を語りかけているのか。それは誰にもわからないが、後ろにいるギルとゾーイも同じくそうし、そして同じ想いを浮かべていると感じた。

不意に、カレンが立ち上がった。
そして二人を見る。

髪をおろしたカレンは驚く程大人びており、まるで別人の様。その姿を最初に見た瞬間、ギルの心の中は人知れず少し蠢いた。

カレンは無言で、悲しげに微笑んだ。
ギルとゾーイも、無言でそれに応える。
言葉も無く、きっと明確な意味も無い。それでもその笑顔は、必要なものだった。



「ブロウィさん。」


近付いて来るブロウィに、ゾーイが気付いた。
ギルとカレンも気付き、一礼する。
三人の前に立ち、ブロウィは笑顔(には到底なっていないもの)を浮かべた。


「...シンは?」

「本部に。葬儀にも出ていません。」

「そうなのか。」


問い掛けに答えたギルの声は、聞き慣れていたものとは違った。目の前にいる三人の教え子達は、別人の様に変わっていた。


「...その、リリィは...」


残念だったな。彼女(彼)は良くやった。
この霊園で、何度そう言っただろう。
何人にそう言い続けて来たのだろう。

もごもごと、口を動かす。情け無い。
在り来たりな、何度も言って来た言葉が今のブロウィには何故か言い出せなかった。


「リリィの仇は必ず。」


驚いた事に、そう言ったのはカレン。
ブロウィは思わず目を丸くした。
カレンの目の周りは泣き腫らして赤くなっているが、その目の奥は強かった。

リリィの後ろを着いて行ってばかりだった、自分に自信の持てない女の子。そのイメージはこの瞬間に取っ払われた。

三人共、きっとシンも、悲しみに暮れる時間はとうに過ぎたのだろう。残された感情は怒りや憎しみ、前に進む強い意思。

ブロウィは何も言えなかった。
感心の上に、恐怖が覆い被さった。

ふざけてばかりで自分に叱られっ放しだったギルとゾーイ。二人はもはや、顔付きすら違っている。この短期間で、人はそこまで変われるものなのだろうか。

彼らはまだ16の歳。
本当ならば、まだ子供扱いされる年齢だ。


(クラドも、そうだったな...)


ああ、そうだ。あいつも、ガーディアンに所属してから一ヶ月程経って久し振りに顔を合わせた時、こんな気持ちになった。
そこまで変われるものなのか、と。確かにあの時もそう思ったな。

この子供達もまた、こうやって戦いの渦に飲み込まれて行くのだろう。


「無理はするな。残された者の気持ちは良くわかっただろう。それを与えてしまう側になってはいけない。」

「わかってます。もう誰も死なない。」

「その為に僕達、強くなるって決めたんです。」


ギルとゾーイが、そう言った。
力強く、前を向いて。
それを見て、慰めの言葉をかけよう等、失礼な行為であったとブロウィは感じた。そんなものは不要。彼らが待っているのは行動だ。


「...ガーディアンに所属してから二ヶ月程。本当にお前達は大きくなった。シンも、リリィもそうだ。」


共に頑張ろう。と。
三人は強く頷いた。少しの笑みを含めて。


「シャリーデアさんの墓石は...?」

「あそこだ。ニーナがいる。行くか?」


ニーナはまだ、シャリーデアの墓石の前にしゃがみ込んでいた。そして、もう一人。遠目でもその人物がカトレナだとわかった。
行くかと言う問いに、カレンとギルが頷く。
が、ゾーイは頷かなかった。


「ゾーイは、戻るか?」

「うん、シンの様子を見に行くよ。」

「そっか...じゃあ、シンによろしくな。」


ギルの声は不安げだった。それは何故かを、ゾーイは良く理解していた。
無言で頷き、ゾーイは三人に背を向けた。

シンは葬儀にも顔を出さなかった。ずっと、本部の訓練所に閉じこもっているのだ。きっと今現在も。

項垂れているのか、蹲っているのか。
感情をあまり人目に出さない彼は、もしかしたら一人で泣いているのかも知れない。


「いや、違うと思うよ。ギル。」


ゾーイは歩きながら、呟いた。
彼は考えているんだ。ずっと、ずっと。
過去の事と、その瞬間の事と、これからを。
シンはそんなに弱い人間じゃあ無い。
君達なんかよりもずっと“真実を見る努力”をする男だよ、と。


墓石を通り過ぎ、モニュメントが見えた。そしてそれも通り過ぎる。
すると向こう側から、護衛と共にグランスが歩いて来る姿が見えた。
一本道。どうやったって互いを確認する。

が、グランスはまるでゾーイの存在に気付いていないかの様に通り過ぎた。一度も顔を見る事無く。

あまりの対応に、周りの護衛達は少し怪訝そうな表情を浮かべている。ゾーイは声を出して笑ってしまった。

駄目じゃないか。そこは父親らしく、生死を賭けた戦いから生き延びた息子に、何か一言くらい声を掛けないと。

もう、声を掛けたくないどころか、顔も見たく無いのだろうな。

これからだと言うのに。
本当に君が僕の顔を見たくも無いと心から思うのは、これからなのに。

すれ違う者達に会釈をしながら、ゾーイは本部へと戻って行った。










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