母娘

有里

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誘拐犯「中川美弥子」

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その日、私の精神状態はとても良くありませんでした。

母子家庭で育った私は、裕福とは無縁の人生を送って来ました。
食事は、決して充分とは言えない量で常に空腹でしたし、パートを掛け持つ母と過ごす時間はあまりなく、気がつけば家で1人の事が多かったです。
身体の弱かった母は、無理がたたり私が10歳の頃に他界し、身寄りの無い私は保護施設に預けられる事になりました。

私は、もともと快活なタイプの人間では無かったので施設に馴染めるわけもなくその空白を埋めるように勉強に打ち込むようになりました。
何より、良い学歴があれば貧乏とは無縁になれると思ったからです。

高校を卒業すると同時に施設をでて、高校時代にコンビニのバイトで貯めたお金で一人暮らしをはじめました。
今にも壊れそうな古いアパートで、奨学金と夜間のバイトでギリギリの生活でした。

夜間のバイトは、都内のクラブのボーイをしていました。
ホステスの方が給料は良かったですが、それほど外見に自信がある訳でもなかったので。
それに、会話を持たせる自信もマメさもありませんでした。


そこまで話して、面会時間は終了になった。

ふぅと、一息着くと静かに、中川美弥子は席を立ち職員に連れられて面会室を出ていった。
私も、彼女に一礼して面会室をでた。

彼女は、少し前にお茶の間を騒がせた「誘拐事件」の被疑者で私の取材対象だ。
隣人の乳児を誘拐して戸籍を偽装し、10年間我が子の様に育てていた、というものだ。

彼女の出生背景や、誘拐児童の実母の人柄など、メディアが1週間ほど取り上げると、世間の熱は他の話題に移っていった。

ニュースでこの事件を目にした時、他人事ではない気がして、どうにか彼女に会えないかと考え、取材という形をとることに決めた。
しかし、私は別に出版社の人間ではない。
ただのお金を持った主婦だ。
でも、彼女は、もう1人の私のような気がしたから。
事件への興味と彼女への援助として、話題性のある事件だし、本にすればそれなりに売れるだろうと、そのお金を彼女の出所後の生活に当ててもらえればと思ったのだ。

車へ戻ると、大まかに聴いた内容をノートにまとめて私は拘置所を後にした。
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