僕だけが違う能力を持ってる現実に気付き始める世界

夏目きょん

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第33話 人類の特権

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  甲高い金属音が辺り一面を駆け巡った時、少年はそれを目の当たりにした。
 そこには、片手の上腕で剣聖の一太刀を止める獣族の姿。

「弱ったと言っても流石にまだダメか」

 獣族の腕は限りなく金属に近い強度を誇り、剣聖の一太刀など軽く止めてしまった。
 しかし剣聖も、そこまで計算内。直ぐに太刀を捨て胸元から黒光りをする短刀二本を取り出した。

「今度はそう上手く行くかな?」

 剣聖は二本の短刀を恐ろしい早さで交差させ、攻撃を繰り出す。その攻撃はもはや弾丸を凌ぐほどの速さ。
 獣族はすぐに上腕で防御に入るが、反エネストーンで出来た剣聖の短刀はエネストーンで形成されている獣族の上腕をいとも簡単に葬った。
 そして、最大の難点であった再生も反エネストーンの影響で行われる事は無く獣族は片腕を失い大量出血を起こしていた。

 「っ!小賢しい真似を」

 舌を鳴らし剣聖を睨みつける獣族は自らの腕を自身の顔のヒゲを使い止血する。
 
「そのヒゲ便利だな」

 剣聖は止血する獣族を見て挑発をかける。すると、獣族も挑発に乗り直ぐに残った片腕で攻撃を仕掛けてきた。

ーーかかった!

 剣聖の作戦はこうだ。
 挑発をする事により我を失わせ、残った腕で襲ってきた獣族の腕を切り返り討ちにし、戦闘不能の状況を作る。
 
 剣聖は襲ってきた獣族の腕を作戦通り切ったはずだった。

 「…っ!」

 外傷を負ったのは剣聖の方だった。
 眼前で全てを見ていた少年は驚きただただ立ち尽くした。
 剣聖を襲う寸前の獣族は側から見ると我を忘れてるように見えた。だが、違った。
 獣族は我を忘れたフリをしたのだ。それを知らない剣聖は右手に持った短刀を大きく振り腕を切り落とした。その瞬間恐ろしく速度で体勢を変え、剣聖の背中に獣族が蹴りを入れたのだ。
 
「すまない…先走り過ぎた」

 蹴り飛ばされた剣聖は自身の驚異的なまでの身体能力で体勢を立て直し致命傷は逃れた。
 少年はすぐに剣聖が回復するまでフォローに入る。

「相手は俺だ!」

 少年がそう言った時だった。
 背後から囁き声が聞こえた。

「今の狙いはお前じゃない」

 そしてもう眼前には獣族の姿は無かった。
 背後から聞こえる剣聖の呻き声でようやく少年は居場所に気づく。
 すぐに後ろを向き、剣聖を蹴る獣族に一太刀振るが、先ほど同様もはや権威を纏ったとしても鉄製の太刀は通用しない。

「お前先から鬱陶しいんだよ」

 同時、少年の正面腹部に獣族は蹴りを入れた。
  瞬間、飛び去る少年は何十メートルも木々の間を通り抜け飛ばされる。

「クソっ!」

 直ぐに体勢を立て直し、獣族の所へ向かおうと思った時だった。
 豆粒のように小さな二つの影が見えた。勿論それは獣族と剣聖だ。
 しかし、問題は二人の立ち位置にあった。
 あの時と同じだったのだ。獣族は剣聖の頭を踏みつけていた。
 少年の中の記憶がフィードバックする。

ーーあんな思い…。もうしたくもないしするつもりもない…!!

 その時。少年の身体中から大量の権威が沸き出て手元に弓と矢を形成したのだ。
 少年は無意識のうちに、左手で持った弓に右手に持った矢をつけ獣族に向け放った。
 放たれた矢は軽く銃弾の速度を凌駕し光おも凌ぐ速度で獣族目掛けて一直線に飛ぶ。
 
「なんだ!」

 見えるはずのない矢を野生の本能か何かで検知した獣族だったが、体はそれを避ける事は出来なかった。
 矢は獣族の腹部を抉り去っていった。
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