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本編

2話 薄れ行く罪悪感

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家を出ると、すぐに自転車にまたがった。今日は三連休初日、渋滞の可能性を考えれば、自転車で向かった方が断然早く着くのだ。

「・・っ!・・っ!」

汗を滴らせながら脇道を抜け、発売しているエクスビション社へ向かう。

「やっと、つ、いた・・!」

自転車を近くの駐輪所に止め、息を切らせ、それでもなお走り続けやっとの思いでエクスビション社にたどり着いた。

「おーい!横井!こっちこっち!急げ!」

「ああ!わりぃわりぃ、遅れた」

友達の佐藤さとう向井むかいが手を振って呼び寄せる。
佐藤は何処か不満そうな顔で俺を見つめていた。

「どうした?佐藤・・?」

「どうしたじゃねーよ!4時間も最前列で待たせるとか正気か?!俺はただ・・」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

プルルルル♪プルルルル♪   ガチャッ。

「もしもし、向井?」

「横井・・?どうしただよこんな遅くに12時だぞ?」

「わりぃわりぃ、あのさお前んちの近くのエクスビション社に俺の代わりにならんどいてもらえない?すぐ行くから!」

「えぇ。やだよ・・。眠いし。」

「今度映画代奢るから!ね?ね?ね!」

「わかったわかった。少しだけだからな・・?早く来いよ!」

「おう!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そう。俺は昨日眠たかったし、長い時間並びたく無かったから、友達の向井を騙して並ばせた。

「俺はただ親切心で、30分くらい並ぶつもりだったのにぃよ!お前は・・。お前ってやつは、4時間も夜中に並ばせやがってっ!!映画代だけじゃ割にあわねぇ!移動料金、飯代全て奢れ!」

「えぇ~やだよ・・。」

俺は向井は友達の中では割と平穏で優しい奴だったから、その優しさにつけ込んで並ばせたんだが、やはり向井でも、4時間も並ばされたら怒る様だ。

「そっか・・。じゃあ俺はここを譲らない。」

「はぁ?!」

向井は完全に怒っている様だった。
確かに、俺も同じことされたらそいつを恨むだろう。4時間立ちっぱなしの成果が1000円くらいだったのだから。

「最後列に並んできなぁ~♪まぁ、このゲームはゲットできたとしてもVRはゲットできないだろうな~♪」

俺は天秤に『列順』と『奢り代』をかけた。
専用VRは300名以外に持つ事のできない非売品だ。
価格をつけるとすると、10万は軽くする品物だ。
それに比べ映画代、移動代、食事代。
全て合わせたとしても2万。

「わかった、わかった。奢る奢る!全部奢ってあげるから、頼むよ!」

「おっけー、決まりな?じゃあ俺は家に帰って寝るとするかぁ~・・。どっかの誰かさんのせいで寝てないんでね!」

「くっ、嫌みかよ!」

今考えると向井には悪い事をしたと思う。
夜中にいきなり外に並ばせて
しかも
4時間もの間。
しかし
4時間外で並んだら2万円。時給に直すと5000円。立ってるだけで大金を得られるなら割に合うのかもしれない。と思うと、向井に向けた罪悪感は薄れていった。





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