物語はいつもゼロから始まる

4話 二千年後

 浮遊島中央部、帰還場リターンスポット前。
 人々は、倒れ込む一人の人間に群がっていた。ここで人が倒れ込んでいるのは珍しい事では無かったが、倒れ込んでいる人が問題だった。

「奴は…強過ぎる…」

 倒れ込んでいたのは金左衛門、フードテイカー協会二番手の実力者。
 しかし、金左衛門は今現在、大規模な調査隊を率いて下界におり、この場所には居ないはず。
 ーー何故、彼がここに居るのか。
 民衆はそれが疑問だったが直ぐに察した。

「うゔ…」

 着ていた袴は切り裂かれ、生身の肉体が出てる状態。腰に下げていた武器も今はなし。やっとの思いで発した声も掠れてほとんど聞き取れない。金左衛門は瀕死の状態だった。

 「これを…届けてくれ…け、決して開けるな…」

 最期の命を振り絞り、金左衛門は民衆に箱を渡す。途端、金左衛門は息を引き取った。

「これ、なんだよ…」

「あの金左衛門がやられただと？」

「これはニュースだ！ビックニュースだ！」

 民衆はまるで祭りごとでもあるかの様に騒ぎ立た。
 中央部は、金左衛門の死をきっかけに混乱状態に陥ってしまうのだった。

◆◇◆

 古蔵の中、剣に触るサクラ。
 力を吸われる感覚に襲われた少女は、その場に膝をつく。

「大丈夫？」

 少年が、優しく少女の肩に手を置き問いかける。

「面目無い。大丈夫じゃ」

 直感的に何かヤバいものと悟った少女は肩に置かれてた手を取り続けざまに言う。

「帰ろう。拙者、ここは何かイヤな感じがするのじゃ」

 その言葉を聞くと少年は微笑を浮かべ、もう片方の手で剣を握る。

「ほら、俺なら平気でしょ？多分なんか俺は特別なんだよ」

 唖然、目を見開く少女。古蔵の鎖を砕く現象に剣に触れても何ともない現象。少女はあっけに取られた。

「拙者、お主を見くびっていたでござる」

  笑みを浮かべる少女と苦笑いをする少年。
 少年が大剣を両手に握り直すと、少女は軽く頷いた。
 瞬間、甲高い音が古蔵に響く。ガラスと剣が擦れた音、少女は耐えに耐えかねて膝から崩れ落ちた。

「抜けた！」

 少年が達成感に満ちた笑みで少女の方を振り返ると、彼女は少し不機嫌だった。

 「どーしたの？何で睨んでるの？」

 少年の問いに少女は頬を膨らませ一言だけ。

「何でもないのじゃ」

「いやー！何さ！」

 その時だった。古蔵が激しく揺れ出し上の棚から物が落ち始める。

「イズヤさん！一旦逃げましょう！」

 少女は少年に脱出を促すが、少年はその場を動こうとしない。

「何してるんですか！早く！」

 急かす少女に少年は振り返り

「サクラだけ行け！俺はケースの女の子を守る」

 それを聞き頭を抱える少女は少しの間の後、少年の元へと駆けていく。
 
「お主だけじゃ、守れないじゃろ…」

「サクラ…」

 少年は少女と息を合わせ、ガラスケースを守る。
 落下物の大半は少女が刀で切り裂き、揺れでぶつからないように少年は一所懸命に押さえ込む。
 やがて、揺れが止むと少年達は背中合わせに座り込んだ。

「終わった…」

「良かったのじゃ…」

 2人が休んでいたのも束の間。

「ここは…？」

驚異、ガラスケースに破られた形跡があり声の先は上。
 2人は、視線を上にずらすとそこには銀髪赤眼の女の子が浮かんでいた。

「ど、どーゆーこと！？」