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対決!王国騎士編
023 一番弟子、返事を聞く
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「私も参加する……」
朝礼が始まる前の教室でヴァイスはそう言った。
いつもみたいに眠たそうな顔で。
「あ、ありがとう! これからよろしくね!」
「うん……。じゃ、朝礼が始まるからまた後でね……」
それだけ言うとヴァイスは教室の隅っこの席についた。
なぜ参加する気になったのかも言わず、これからどうするのかも聞かず。
「相変わらずダウナーな子だねぇ……。あんなんで実技試験を突破できたとは思えないけど、事実あたしたちは同じクラスにいるんだ」
「そうですね。授業が終わったら校庭に集合です。ヴァイスさんの実力は放課後見せてもらうとしましょう」
授業中、デシルはもちろんのこと、オーカも起きていた。
授業自体はあまり聞いていなさそうだったが、早くみんなで修行したいという気持ちが眠気を吹き飛ばしたのだろう。
ヴァイスは今日もうとうと。たまに完全に寝込んで注意されることが多かった。
なので終礼後、ルチルに三人目のメンバーはヴァイス・ディライトだと報告すると意外そうな顔をしていた。
「ふぅむ、ヴァイスくんか。意外な人選に驚いたよ。いやまあ確か実技は三位だったから当然と言えば当然の人選なのかな」
「ルチル先生は的当ての試験をずっと監督してたんですよね? ヴァイスさんはどんな魔法で石柱を攻撃したんですか?」
「えっと……うーん、すまないハッキリとは覚えていないんだ。申し訳ない……。ただ、とても驚いた記憶がある」
「ヴァイスさんの魔法にですか?」
「うん、なにか特殊な魔法を使っていた気がするんだけど、その後にデシル君が来ちゃったから記憶が吹っ飛んでしまったよ。もちろん成績はすぐ紙に書いたから、採点ミスは起こしていないと思ってくれたまえ」
「そうですか。ありがとうございます。直接ヴァイスさんに聞いてみようと思います。まだあんまりお話も出来ていないので、いい機会です」
「うん! 何か私に手伝えることがあったらいつでも言ってくれたまえ。模擬戦の相手でも出来ることならなんでもするよ」
ルチルと別れ、デシルとオーカはまだ机に突っ伏しているヴァイスを起こして校庭に向かう。
いつも通り人のいない校庭の端っこの方を占拠すると、王国騎士との親善試合に向けての修行を開始した。
「王国騎士さんとの試合はたまにルールが変わるものの、基本は一対一らしいです。ですので三人の連携やチームワークを気にする必要はありません。もちろん、同時ではないにしても同じチームとして戦う以上、同じ目標に向かって心を一つにしていくのが良いと思います。ただ、鍛えるべきは個々の力です」
「個々の力か……。具体的に何をすればいいんだろう。毎日基礎訓練はしてるしなぁ」
「オーカさんの場合は、私も以前何回か言ったように戦い方に動きをつけるべきだと思います」
オーカの戦い方では素早い相手にまるで対処できないことが、以前のルチル戦で判明していた。
デシルはこの弱点を実技の授業中や放課後の修行中に指摘していたが、あまり改善はみられていない。
「あたしってさぁ、こうどっしり構えて戦いたいのよね! 最高火力に最高防御、ちまちました戦い方は性に合わなくてさ」
「でも、今のままでは攻撃も当たりませんし、防御があっても反撃できない的になっちゃいます」
「うぅ!! なかなかデシルちゃんってハッキリものを言うよね……」
「あっ! ご、ごめんなさい……。師匠みたいなことをつい……。本物の師匠はもっとずけずけ言うのでもっと怖いですけどね」
「えぇ……ちょっと会いたくなくなったかも、なんてね。確かに私も課題は見えてた。でも、どうしてもそれを克服した姿がイメージできないのよねぇ」
「そうですね……。ならばこういうのはどうでしょうか」
デシルはサッと手を振って地面から土のゴーレムを出現させた。
それは以前ルチルが作った物より軽く機敏そうに見えた。
「オーカさんはそのまま、手数を増やすんです。地魔法が得意ならばゴーレム生成なんて簡単ですし、すぐに覚えられます。オーカさんの動きが鈍くても、ゴーレムたちにかく乱させれば攻撃を当てられる確率は高くなりますし、相手からすれば狙うべき敵も増えて攻撃を分散させざるを得ません。つまり、相対的に防御力も高まります! 一石二鳥!」
「あたしのスタイルを変えずにゴーレムを使うか……。いい案だと思うんだけど、実はあたしゴーレムの生成はからっきしなんだ……」
「ええっ!? あれだけすごい地魔法を使えるのにですか!?」
「どうも自分勝手な性格なもんで、他にまで気が回らないんだ……。せっかく考えてくれたのにごめん!」
「いえいえ、気にしないでください! ルチル先生みたいな強いモンスターにも立ち向かえるようなゴーレムが作れないならまだしも、初歩的なゴーレムが作れないのは技術ではなく精神的な問題です。きっと一人で戦うことが当然だと心に深く刻まれているんです。意識を変えるのには時間がかかります。他の方法を探しましょう」
「一人で戦うことが当然か……。まあ、あたしって確かにそうかもね。今まで友達もいなかったし……」
「でもオーカさんはもう一人じゃありません。私たちがいます。学園生活を普通に過ごしていたらいつの間にか出来るようになってますよ。オーカさんの才能は本物なんですから!」
「デシル……。うぅ……涙は卒業までとっとこうと思ってたのに……ぐすっ……」
「三年あるんですからもうちょっと泣いていいような……。とはいえ、今のままではオーカさんは的です。何か他の作戦を考えましょう」
「えーん! 正直に言いすぎー! でも、確かに泣いてもいられないんだよね。親善試合には一年全員が来るし、みんなの前で無様な姿はさらせないよ!」
「そうこなくっちゃ! 代案としてはあの赤い岩を全身まとう魔法……赤石巨人の強度はそのまま岩部分を薄くして鎧くらいにまで小型化するとかどうでしょう。名付けて赤胴の鎧!」
「小さい分小回りが利くと……。でも、それ結構難しいよ? 硬さを維持したまま小型化って一回り魔法の技術が進まないとできないことさ。もちろんやってみるけど今からで間に合うか……」
「そうですね……。他にも腕だけ赤石巨人にして不意打ちとか小細工はあります。相手の足元の土を柔らかくして足を埋めて動けなくするとかも」
「動けなきゃあたしのメテオは避けられない……いいね! そういう攻撃の選択肢はどんどん増やした方が良い! 将来的にいつどんな状況で戦うかはわからないしね!」
「はい! 手札は多いに越したことはないって師匠も言ってました! まあ、増やすと今度はどれを的確に使うかという判断力が試されるとも言ってましたが、まだ私たちはどんどん増やす段階です!」
「うんうん、じゃあ他にもなにか……」
クスクス……クス……。
消え入りそうな笑い声がデシルとオーカの動きを止めた。
その笑い声の主を思い出すまでにそう時間はかからなかった。
「ヴァイスさん、すいません! あの、忘れてたとかじゃなくて、ただ熱中してただけでして……」
「そ、そうだよ。次はヴァイスの番だっていま言おうとしてたところさ! なっ?」
「気にしないで……。今の笑いはあなたたちと来てよかった……って笑いだから」
ヴァイスはまた小さな声で楽しそうに笑う。
はつらつとした彼女の笑顔を二人は初めて目撃した。
それは目が離せなくなるような魔性の魅力を秘めた笑顔だった。
「あのっ、ヴァイスさんってなにか得意な魔法はありますか? 教えていただければ私が何かアドバイスできると思います」
「では……お言葉に甘えて……。ちょっと驚かせてしまうかもしれないけど……」
前に突き出したヴァイスの左手から黒いオーラが吹き上がる。
「私……闇魔法が得意なの……」
朝礼が始まる前の教室でヴァイスはそう言った。
いつもみたいに眠たそうな顔で。
「あ、ありがとう! これからよろしくね!」
「うん……。じゃ、朝礼が始まるからまた後でね……」
それだけ言うとヴァイスは教室の隅っこの席についた。
なぜ参加する気になったのかも言わず、これからどうするのかも聞かず。
「相変わらずダウナーな子だねぇ……。あんなんで実技試験を突破できたとは思えないけど、事実あたしたちは同じクラスにいるんだ」
「そうですね。授業が終わったら校庭に集合です。ヴァイスさんの実力は放課後見せてもらうとしましょう」
授業中、デシルはもちろんのこと、オーカも起きていた。
授業自体はあまり聞いていなさそうだったが、早くみんなで修行したいという気持ちが眠気を吹き飛ばしたのだろう。
ヴァイスは今日もうとうと。たまに完全に寝込んで注意されることが多かった。
なので終礼後、ルチルに三人目のメンバーはヴァイス・ディライトだと報告すると意外そうな顔をしていた。
「ふぅむ、ヴァイスくんか。意外な人選に驚いたよ。いやまあ確か実技は三位だったから当然と言えば当然の人選なのかな」
「ルチル先生は的当ての試験をずっと監督してたんですよね? ヴァイスさんはどんな魔法で石柱を攻撃したんですか?」
「えっと……うーん、すまないハッキリとは覚えていないんだ。申し訳ない……。ただ、とても驚いた記憶がある」
「ヴァイスさんの魔法にですか?」
「うん、なにか特殊な魔法を使っていた気がするんだけど、その後にデシル君が来ちゃったから記憶が吹っ飛んでしまったよ。もちろん成績はすぐ紙に書いたから、採点ミスは起こしていないと思ってくれたまえ」
「そうですか。ありがとうございます。直接ヴァイスさんに聞いてみようと思います。まだあんまりお話も出来ていないので、いい機会です」
「うん! 何か私に手伝えることがあったらいつでも言ってくれたまえ。模擬戦の相手でも出来ることならなんでもするよ」
ルチルと別れ、デシルとオーカはまだ机に突っ伏しているヴァイスを起こして校庭に向かう。
いつも通り人のいない校庭の端っこの方を占拠すると、王国騎士との親善試合に向けての修行を開始した。
「王国騎士さんとの試合はたまにルールが変わるものの、基本は一対一らしいです。ですので三人の連携やチームワークを気にする必要はありません。もちろん、同時ではないにしても同じチームとして戦う以上、同じ目標に向かって心を一つにしていくのが良いと思います。ただ、鍛えるべきは個々の力です」
「個々の力か……。具体的に何をすればいいんだろう。毎日基礎訓練はしてるしなぁ」
「オーカさんの場合は、私も以前何回か言ったように戦い方に動きをつけるべきだと思います」
オーカの戦い方では素早い相手にまるで対処できないことが、以前のルチル戦で判明していた。
デシルはこの弱点を実技の授業中や放課後の修行中に指摘していたが、あまり改善はみられていない。
「あたしってさぁ、こうどっしり構えて戦いたいのよね! 最高火力に最高防御、ちまちました戦い方は性に合わなくてさ」
「でも、今のままでは攻撃も当たりませんし、防御があっても反撃できない的になっちゃいます」
「うぅ!! なかなかデシルちゃんってハッキリものを言うよね……」
「あっ! ご、ごめんなさい……。師匠みたいなことをつい……。本物の師匠はもっとずけずけ言うのでもっと怖いですけどね」
「えぇ……ちょっと会いたくなくなったかも、なんてね。確かに私も課題は見えてた。でも、どうしてもそれを克服した姿がイメージできないのよねぇ」
「そうですね……。ならばこういうのはどうでしょうか」
デシルはサッと手を振って地面から土のゴーレムを出現させた。
それは以前ルチルが作った物より軽く機敏そうに見えた。
「オーカさんはそのまま、手数を増やすんです。地魔法が得意ならばゴーレム生成なんて簡単ですし、すぐに覚えられます。オーカさんの動きが鈍くても、ゴーレムたちにかく乱させれば攻撃を当てられる確率は高くなりますし、相手からすれば狙うべき敵も増えて攻撃を分散させざるを得ません。つまり、相対的に防御力も高まります! 一石二鳥!」
「あたしのスタイルを変えずにゴーレムを使うか……。いい案だと思うんだけど、実はあたしゴーレムの生成はからっきしなんだ……」
「ええっ!? あれだけすごい地魔法を使えるのにですか!?」
「どうも自分勝手な性格なもんで、他にまで気が回らないんだ……。せっかく考えてくれたのにごめん!」
「いえいえ、気にしないでください! ルチル先生みたいな強いモンスターにも立ち向かえるようなゴーレムが作れないならまだしも、初歩的なゴーレムが作れないのは技術ではなく精神的な問題です。きっと一人で戦うことが当然だと心に深く刻まれているんです。意識を変えるのには時間がかかります。他の方法を探しましょう」
「一人で戦うことが当然か……。まあ、あたしって確かにそうかもね。今まで友達もいなかったし……」
「でもオーカさんはもう一人じゃありません。私たちがいます。学園生活を普通に過ごしていたらいつの間にか出来るようになってますよ。オーカさんの才能は本物なんですから!」
「デシル……。うぅ……涙は卒業までとっとこうと思ってたのに……ぐすっ……」
「三年あるんですからもうちょっと泣いていいような……。とはいえ、今のままではオーカさんは的です。何か他の作戦を考えましょう」
「えーん! 正直に言いすぎー! でも、確かに泣いてもいられないんだよね。親善試合には一年全員が来るし、みんなの前で無様な姿はさらせないよ!」
「そうこなくっちゃ! 代案としてはあの赤い岩を全身まとう魔法……赤石巨人の強度はそのまま岩部分を薄くして鎧くらいにまで小型化するとかどうでしょう。名付けて赤胴の鎧!」
「小さい分小回りが利くと……。でも、それ結構難しいよ? 硬さを維持したまま小型化って一回り魔法の技術が進まないとできないことさ。もちろんやってみるけど今からで間に合うか……」
「そうですね……。他にも腕だけ赤石巨人にして不意打ちとか小細工はあります。相手の足元の土を柔らかくして足を埋めて動けなくするとかも」
「動けなきゃあたしのメテオは避けられない……いいね! そういう攻撃の選択肢はどんどん増やした方が良い! 将来的にいつどんな状況で戦うかはわからないしね!」
「はい! 手札は多いに越したことはないって師匠も言ってました! まあ、増やすと今度はどれを的確に使うかという判断力が試されるとも言ってましたが、まだ私たちはどんどん増やす段階です!」
「うんうん、じゃあ他にもなにか……」
クスクス……クス……。
消え入りそうな笑い声がデシルとオーカの動きを止めた。
その笑い声の主を思い出すまでにそう時間はかからなかった。
「ヴァイスさん、すいません! あの、忘れてたとかじゃなくて、ただ熱中してただけでして……」
「そ、そうだよ。次はヴァイスの番だっていま言おうとしてたところさ! なっ?」
「気にしないで……。今の笑いはあなたたちと来てよかった……って笑いだから」
ヴァイスはまた小さな声で楽しそうに笑う。
はつらつとした彼女の笑顔を二人は初めて目撃した。
それは目が離せなくなるような魔性の魅力を秘めた笑顔だった。
「あのっ、ヴァイスさんってなにか得意な魔法はありますか? 教えていただければ私が何かアドバイスできると思います」
「では……お言葉に甘えて……。ちょっと驚かせてしまうかもしれないけど……」
前に突き出したヴァイスの左手から黒いオーラが吹き上がる。
「私……闇魔法が得意なの……」
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