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期末試験編

063 一番弟子、初クエストに挑む

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「みんな久しぶり~。元気してた?」

「はい! ラーラさん!」

 自由騎士団『深山の山猫』所属のBランク自由騎士、ラーラ・ラービットが学園にやって来た。
 今日は先日受けたモンスター討伐依頼をこなすため、四人で王都の外に向かうのだ。

「三人とも確かに元気そうね~。私はちょっと疲れてるけど、まあ手を抜いたりはしないから安心して」

 クランベリーマウンテンの事件以降、『深山の山猫』はしばらく活動が止まっていた。
 事件の詳細を記した報告書の作成やら現地を捜索して逃げた敵の手掛かりを探すなど、優先すべき仕事ができてしまったからだ。
 おかげで普段している仕事や予定に入っていた仕事はキャンセルして他にやってくれる騎士団を探すか、合間に詰め込んで行わなくてはならなくなった。
 副団長であるラーラが忙しく働いていたのは容易に想像できる。

「大変な時期なのに、私たちの依頼遂行クエストに付き合ってくださってありがとうございます」

「なんのなんの! もう今は落ち着いてるし、疲れてるからこそ若い子からエネルギーをもらわないとね~。ん~」

 デシルに抱き着いて頬ずりするラーラ。
 なるほど、確かに疲れているなぁ……と三人は思った。
 ここは自分たちが率先してクエストを進めていくべきだ。

「では、今回のクエストの内容を確認しますね。倒すべきモンスターは三種で、最も危険なものでダークベア三体、他は……」

 デシルが一通り依頼書を読み上げていく。
 討伐対象モンスターはデシルにとっては大して危険ではない。
 出現地域も王都からさほど遠くなく、移動に大きく時間を取られることはないだろう。
 それに試験前は授業の数が減り、休みが多くなる。
 外出許可を申請しておけば、泊りでクエストをこなしてもいい。
 焦って早く進めるよりも、余裕のある予定を組む方が大事だ。

「ふむふむ、ダークベアにシャドウウルフにブラックスパイダーね。いや、結構危ないの選んだわね~。黒いモンスターって大体強いから、油断ならない相手よ。まあ……私くらいになると一人でも……倒せるはず……よ」

 依頼書を熟読するラーラ。
 ただ、倒せるかどうか不安だからそうしているわけではない。

「デシルちゃん、この三つの依頼をどうやって選んだか覚えてる?」

「えっと、上から順番です! こういうこと言うと舐めてるように聞こえるかもしれませんが、学園ギルドで紹介されてる依頼で敵の強さを警戒する必要はないかと思いまして……」

「まあ、デシルちゃんの場合なら敵の強さをどうこう考える必要はないわね。他の二人も並の三年レベルだし、上から選ぶのは間違いないと思う。むしろ、あなたたちがやらないとこの依頼が余るかもね。ちょっとレベル高いし。それで、討伐対象の強さ以外のことは気にしてる?」

「うーん、討伐対象の三体のモンスターの出現地域が近いかどうかは確認しました。三つの依頼を素早くこなすなら、あまり離れたところにいる三体を対象にしたらいけないかなと思いまして」

「正解よ! 同時に討伐依頼をこなすならモンスターの出現地域が近いものを選ぶべき! いろいろ理由はあるけど、単純にいちいち移動するのは時間の無駄なのよね~。他には?」

「ほ、他には……その目的地までの行き方とか!」

「それも大事よね~。まだある?」

「ごめんなさい! それくらいです!」

「あ、謝る必要はないわよ。今回が初めてのクエストなんだから。では、先輩からかわいい後輩に依頼を受ける時、そして受けた後にするべきことを教えましょう!」

 まず、その依頼が自分にできるかどうかは当然考える必要がある。
 今回討伐するモンスターはデシルを戦力に含めていれば余裕のある相手なので、これはクリアしている。
 次に報酬が仕事の内容に釣り合っているか。
 これも問題ない。上から選んだだけあってこの三つをこなせば十分期末試験突破に必要なポイントが手に入る。
 出現地域も近く、移動経路も調べてある。ここまでは完ぺきだ。

「三体のモンスターの特徴も調べているようね~。感心感心! でも、それ以外にも周辺に出現するモンスターの情報も一緒に調べておくべきよ。こっちが狩りたいのはその三体だけでも、場合によってはいろんなモンスターがお構いなしに襲い掛かってくるわ」

「あっ、確かに!」

 モンスターが出現する地域というのは基本的に何種もモンスターが住み、独自の生態系を築いている。
 低ランクの弱いモンスターを狩りに行ったつもりが、その弱いモンスターをエサにしている高ランクモンスターがたくさんいる地域でした、なんてことになれば命を落としかねない。
 その地域の生態系や地形も把握しておくのがベストである。
 ギルドにはいろんな情報が集まっているので、受付に言えばよく討伐依頼が出ている地域の情報は手に入る。

「あとは聞き込みね。依頼書に書かれている事だけが真実じゃないの。ギルドにいる他の自由騎士の話を聞いたり、その土地に住む人の話を聞いたりね。まあ、学園ギルドで他の学生に聞くのはあまり効果がないと思うから、これはプロになってからでいいわ」

「学生だとまだそこまで豊富な経験がある人は少なそうですしね。それに今はみんな忙しい時期ですし」

「そういうことね。でも、現地の人の話は聞いておくべきよ。最近聞いたこともないような唸り声が森から聞こえてきたーとか、見たこともない足跡を見たーとか、そういう場合は他からモンスターが紛れ込んでたりするから警戒しないといけないわ」

「やる事って多いんですね……。勉強になります!」

「まっ、プロでも全部が全部完璧にやってる奴は少ないけどね~。要するに依頼をこなして生きて帰ってくればいいのよ! 下調べが不十分な状態でも働かないといけないこともあるし、どんなに準備してもイレギュラーは存在するわ! そういう時は生き残ることだけを考えること! あなたたちはそれができるって、私知ってるけどね」

 クランベリーマウンテンでの三人の活躍をラーラは覚えている。
 正直彼女たちの戦闘能力に関しては信用しきっているので、後は経験だけだ。
 あらゆる状況を経験して覚えていけば三人娘はさらに強くなる。

「長話になっちゃったけど、覚えていてくれると嬉しいわ。さあ、そろそろ行こうじゃない。目指すは『ジスル樹海』よ。頑張って疲れてる私に楽させてよね~、なんて!」

 真面目な話をした後は楽しい話を。
 ラーラは移動中に騎士団で起こった面白い事件の話をいくつも披露した。
 真剣にやらねば命を落とす職業だが、楽しむことも必要だと後輩たちに教えるために。
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