元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中

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ダムドー峠 ~ヤマネコと星空のシチュー~

第14話 山道の出会い

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 フラウ村を出て数時間後――セフィラたちはクラグラ山脈の山中にいた。

 クラグラ山脈は標高こそ大して高くないが、山全体に植物が生い茂って薄暗く、視界が確保しにくい。
 戦争中に作られた物資運搬用の山道を外れると、一気に遭難の危険性が増す場所だ。

 逆に言えば、物資運搬用の山道さえ見失わなければそうそう迷わない。
 大きな馬車が通ることを前提にした山道は、かなり広い上に地面が踏み固められている。

「山を登るのは簡単で、道を少し外れたら簡単に身を隠せるほど植物が生い茂っている……。悪い人たちが隠れるための場所としては、最適なのかもしれませんね」

 山道を進むガルーに向けて、背中の上のセフィラがつぶやく。

「ゴルドンが言っていた人攫いの話か。まあ、そんな奴らがいたら成敗してやるが、この山道を我の素早い足で駆け抜ける間に、そんな奴らに偶然出会うかと言われれば……」

「うーん、そんな偶然ありませんよね。それに誰かを人攫いって断定するには、それこそ犯行の現場を抑えないといけませんし、そんなのどんな確率かって話で……」

「いやああああああああーーーーーーっ!! 誰か助けてーーーーーーっ!!」

 二人の会話をさえぎったのは、若い女の叫び声だった。
 これには流石のセフィラたちも驚きを隠せない。

「まさか……本当に人攫いが出たのか?」

「と、とにかく声のする方に行きましょう……!」

 声は山道に沿って進んだ先から聞こえた。
 風のように全速力でガルーは駆ける。

「……むっ、見えました! 前方に武装した男二人と女の子です!」

 セフィラが見たのは、金髪の少女が網に絡め取られ、二人の男に引きずられていく光景。
 それはまさに人が攫われていく犯行現場に他ならなかった。

「我の咆哮ほうこうで男どもを無力化する」

 ガルーは大きな口を開け、吼える!

 ダークスケルトンをバラバラにした時と違い、音を飛ばす方向を絞っている。
 そうすることで少女には影響を与えず、男たちのみを攻撃するのだ。

 ガルーの咆哮は男たちを体内から揺さぶり、逃げる隙も与えず気絶させた。

「……対象の無力化を確認。周囲に敵影てきえいありません!」

 セフィラは安全を確認したのち、ガルーの背中から降りて少女に駆け寄る。
 そして、彼女に絡まった網を手持ちのナイフで切って外していく。

「大丈夫ですか? 今この網を外しますから!」

「あ、ありがとうございます……!」

 少女の意識はハッキリしていて、衣服はボロボロだが大きな怪我もなかった。
 セフィラたちはとりあえず胸を撫で下ろす。

「よしっ、網が外れました! どこか痛いところはありませんか?」

「擦り傷がちょっとヒリヒリします……。でも、骨が折れたりはしてないみたいです」

「では、擦り傷を消毒して薬を塗りますね! えっと、応急手当の道具はトランクの……あった!」

 まず水筒の水で傷口を洗い、消毒液を染み込ませたガーゼで傷口に優しく触れる。
 その後、軟膏なんこうをやさーしく伸ばして擦り込みすぎない程度に広げる。

「はいっ! これでもう安心です!」

 セフィラの幼い外見からは想像もできない手際の良さに、少女は目を丸くする。

「助けていただいた上に治療まで……! 本当にありがとうございます!」

「いえいえ、当然のことをしたまでですっ」

 危ない目に遭った後だが、少女の精神は安定している。
 そう判断したセフィラは、彼女から事情を聞くことにした。

「この男の人たちに捕まっていたようですが……何があったんですか?」

「こいつらは人攫いなんです……! 私はとある目的のために一人旅をしていて、その道中にこいつらに捕まり……この山のアジトまで運ばれてきたんです。それからはアジトに監禁されていて……今さっき隙をついて逃げ出したんですけど、すぐにバレて捕まっちゃって……」

 そこまで言って、少女はハッとした表情を見せる。

「あなたも早く逃げた方がいいです! 奴らは子どもばっかり攫って、売りさばこうとしているんです! 私は見た目が幼いからって、大人なのに子どもと間違われて攫われたんですけど、アジトには今もたくさんの子どもたちが捕まっていて……。うぅ……私を追いかけてきたこの2人が帰らなかったら、きっと他の仲間が追いかけてくる……!」

 少女の体は震え、透き通るような青い瞳も揺れている。
 そんな深刻な空気の中、セフィラはあまり重要ではない部分がどうしても気になった。

「……失礼ですが、おいくつでしょうか?」

「私は二十歳です……」

「ええっ!? うっそぉ!? 二十歳ぃ!?」

 セフィラの敬語も崩れるほどの驚き……!
 目の前の少女は誰がどう見てもセフィラの一か二歳上、つまり十歳くらいにしか見えない。

(これだけ間近で目と目を合わせて会話をしても、八歳の私より十二歳も年上とは思えない……! 身長だって私より拳一つ分くらい高いだけで、声もとっても若々しいし……)

 ただただ呆然ぼうぜんとするセフィラ。
 ガルーも無言で驚いている。

 その沈黙が気まずかった少女は、逆にセフィラに尋ねる。

「あの……あなたの方はおいくつなんですか?」

「えっと、八歳です……」

「ええっ、八歳!? ありえない……大人っぽすぎますって!」

「えへへ、よく言われます……!」

 セフィラはセフィラで内面や行動は子どものそれではない。
 驚かれるのにも慣れている。

「と、とりあえず話を戻しますね! えっと、この山に人攫いのアジトがあるのはわかりました!」

 セフィラは話を強引に戻し、少女にこれからの行動を伝える。

「子どもたちを攫った上で売っているということは、今この瞬間も子どもたちをどこかに運ぼうとしている可能性もある……。なので、あなたを安全な場所に送り届ける前に、アジトにいる人攫いの無力化を優先します。しばらくの間、一緒に来てもらえますか? あと、アジトの場所も教えていただきたいです」

「えっ、でも、大人びてても体は小さいわけで、あなたに人攫いを倒せるとは……」

「安心しろ、ここからは我の出番だ」

 あまり目立たないよう、離れたところで待機していたガルーが声を出す。
 この女性と一緒に移動するには、大きい状態のガルーに乗ってもらうしかない。
 だから、あえて黒柴犬ではなく普段の姿で出てきた。

「我は神獣ガルム――名はガルーだ。驚かせてすまないが、今は遠回しな話をしている状況ではない。これから我の背中に乗り、アジトを目指す。ちなみに本物の神獣なので安心するのだ。人攫いなど簡単に倒せる」

 できる限り驚かせたり、怯えさせたりしないように話すガルー。
 しかし、ガルーを見た女性はその瞳いっぱいに涙を溜め……ボロボロと泣き始めた。

「す、すまぬっ! 泣かせるつもりはなかったのだ……! よしっ、今から怖くない姿になるぞ……!」

「やっと……やっと会えた……神獣様……!」

 女性は胸の前で手を組み、祈るようにガルーを見上げた後……セフィラの方に視線を向けた。

「そして……あぁ、神獣の世話係様っ!!」

「私のことまで知ってるんですか……!?」

 セフィラにはこの女性と会った記憶がない。
 完全に初対面だと思っていた。

(一体この人は何者……!?)
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