俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中

文字の大きさ
6 / 25
第1章

第6話 パッツパツで草

しおりを挟む
「ああ、やっとここに戻って来れた」

 フングラの樹海にある澄んだ水の池。
 そのほとりに転がっている岩の上には、乾き切ってパリパリになった衣服があった。

「これを洗った水のおかげか、それとも岩のおかげか……パリパリだけどカビてはいないな。流石に全裸で樹海の外に出るわけにはいかないさ」

 カビていないだけで綺麗とは言い切れない衣服。
 それでも、三か月間フングラの樹海を裸で駆け回り続けたウォルトにとっては、この衣服が久しぶりに会う友人のように感じられた。

「さて、問題はこの服が入るかどうか……」

 衣服に脚や腕を通していくウォルト。

「ああ、思った通りパッツパツで草」

 三か月間フングラの樹海の草を食い続けたウォルトの体は……見違えるほど大きくなっていた。
 身長は頭一つ分伸び、全体のシルエットも一回り膨らんでいる。

 かつてのウォルトの体形に合わせて作られていた衣服が、張り裂けそうなほどパツパツになるのも当然の結果だ。
 もはや別人と言っていいほどの変わりようだが、顔立ちだけはまだかつての少年の面影を残していた。

「髪も伸びたし、ヒゲも生えちゃったな……。でも、こればっかりは切るものがないし仕方ない」

 樹海に湧き出る水や川で体を定期的に洗っていたが、流石に全身からあふれる野生の雰囲気は消しきれない。
 あまり人前に出られる姿ではないが、それでもウォルトには樹海から出る理由があった。

「父さん、ニール、アストン、それに騎士のみんなに俺はもう一度会いたい。会って……俺が生き残っていることを見せつけてやりたい……! きっと亡霊でも見たかのように驚くだろうなぁ!」

 ウォルトは空に向かって笑顔で叫ぶ。
 フングラの樹海に落とされてどれくらいの時間が経ったか、彼は正確には把握していない。
 この大自然の中にはカレンダーなんて気の利いたものはないし、ウォルトも草を食べるのに夢中で日数を数えていなかった。

 ただ、少なくとも父親や兄弟たちがウォルトは死んだと確信するくらいの時間は経っている。
 それだけはウォルト本人にもわかっていた。

「生きてることを見せつけた後は、どうにかして俺を見捨てたことを後悔させて……いや、そんな復讐じみたことを目的に生きるのは草も生えないな。でも、結果的に生きてたんだから良かったじゃんみたいな軽いノリで流されるのも……」

 正直ウォルトにとっては父親や弟たちに見捨てられるまでがあまりに急な出来事だった。
 すべてを失うまでにスピード感があり過ぎて、未だに事態じたいを完全に飲み込めていない。

 ゆえに復讐を目的に生きるほどの怨みは生まれていない。
 それでいて、笑って許せるような気持ちにもなっていなかった。

「とりあえず、父さんには俺のことをどう思っているかを洗いざらい吐かせて、それから仕返しを決める。ニールとアストンは……絶対に『お兄ちゃん、ごめんなさい』と言わせる! それでいこう!」

 自分がまだ生きていることを知らしめる。
 そして、家族には復讐するのではなく、自分に行った仕打ちを心の底から反省させる。
 ついでにリザルへのお仕置きも考えておく……そうウォルトは心に決めた。

「その後のことはわからないけど、騎士にはもうならないかもな。もっと自由に草を生やしまくって暮らせるような人生を探して、見つからなければまたこの樹海で気ままに暮らすのもいいだろう」

 孤独に三か月生きたことですっかりひとり言が増えたウォルト。
 だが、このフングラの樹海での生活は絶望に叩き落された彼に立ち上がる力をくれた。

 もはやこの樹海に住むの魔獣が、ウォルトに襲いかかって来ることはない。
 草によって手に入れた筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの肉体に秘められた力は、単純なパワーだけではないのだ。 

「さあ、出発だ。目標はボーデン王国の王都……俺の故郷へ!」

 ◆ ◆ ◆

 出発から数時間後――
 ウォルトはフングラの樹海を脱出することに成功していた。

「うん、今日も俺の五感はビンビンに鋭いな」

 上質なキヨウ草を食べまくって高められた感覚は、植物の気配すら捉えることが出来る。
 その感覚で木の気配を感じ取り、木の気配が少なくなっている方向――つまり、樹海の終わりを探し当て全力疾走して来たのだ。

「体の方もウォーミングアップにはなったかな」

 人の手が加わっていない自然の地形を数時間全力で走り続けても上がらない息。
 それでも現在地から王都まではかなり距離があるため、一気に走って帰ることは流石に出来ない。

「フングラの樹海は王国の最南端、国内だと王都から最も遠い場所にある。リザルの奴め、面倒なことを……。まあ、騎士としては忠実に任務をこなしただけなんだろうけどさ」

 一人で過ごす時間が長かったウォルトは、あの小憎こにくたらしいリザルでさえも会って話したいと思える状態だった。
 というか、この際誰でもいいから人と話がしたい気分なのだ。

いてはこと仕損しそんじる。まずは一番近くの集落を目指そう」

 ここからも長距離の移動がある。
 未開の地であるフングラの樹海から伸びている街道などはなく、道を切り拓きながら進んでいくしかない。

かすかだが人の気配を感じる……。こりゃまた遠いが、走っていけば太陽が空の真上に来るくらいには着くだろう」

 つまり、正午くらいには気配を感じた場所にたどり着けると予定を立てた。
 進む方角は北西、距離は……100キロメートル以上はありそうだ。

滅多めったに来れない場所なんだ。景色を楽しみながら走ってもバチは当たらないよな」

 ウォルトはその場で軽く足踏みした後、目的地めがけて道なき道を走り始めた。

 ◆ ◆ ◆

 「樹海の外にも珍しい草が生えてて、いちいち食べてたら思ったより時間が……。まさにこれが『道草を食う』……ってね!」

 上機嫌のウォルトだが、予定の正午はとっくに過ぎて今は三時過ぎだ。
 フングラの樹海付近には人が住んでいないため、樹海の外も植物の宝庫だったのが原因だ。

「まさか、平地に赤い薬草『ゴッツ草』の上位種『モノゴッツ草』が群生しているとはなぁ~。おかげでまた筋肉の美しさに磨きがかかってしまった」

 肌ツヤが良くなった二の腕あたりをうっとりと見つめつつ、ウォルトは感覚を研ぎ澄ます。

「樹海を出た時に感じた人の気配は動いていない。数時間経っても動かないってことは、そこに住んでいると考えるのが自然だ。それにその気配は近づくほどに強くなり……増えている。向かう先はそれなりに大きな村なのかもしれない」

 気配が遠かったゆえに一つにしか感じられなかった気配がハッキリし、それが複数の気配だったことが確定した。
 村に行けば自分の体に合う衣服があるかもしれないし、ボサボサで伸び切った髪とヒゲを切って整えることも出来るかもしれない。

「久しぶりに人に会うのはちょっと緊張するけど、それでもワクワクするなぁ~。ずっと独り言を続けて来たから、口の動きは退化していないはずだ。きっとちゃんと話せるはず……!」

 足取り軽く移動を再開し、それから数十分でウォルトは視界に村を捉えた。
 予想通りその村は大きく、結構発展しているように見えた。

「絶対に危ない奴だと思われるだろうけど、ちゃんと誠心誠意説明して……ん?」

 村に近くまで来たウォルトは、人々のざわつきを感じ取った。
 楽しいお祭りの喧騒けんそうではない。これはトラブルの音だ。

「盗賊団か何かか……! 助けに行かないと!」

 姿かたちは変われど、父親から見捨てられようと、ウォルトの中の騎士道精神は生きていた。
 自分がどう見られるかなど関係なく、人々を助けるために村の中へ突入した。

 もうハッキリと聞こえる悲鳴、子どもの鳴き声、怒号どごう……。
 その発生源である商店が立ち並ぶ通りに来た時、ウォルトが見たのは盗賊団ではなかった。

「えっ……!? 王国騎士団か……!?」

 村人に暴行を加え、商店の品物を強奪しているのは……忘れるはずもないボーデン王国騎士団のエンブレムを掲げた騎士たちだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

処理中です...