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第1章
第7話 世の中荒れ放題で草
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(見たことがない顔の騎士たちだ……。でも、使い込まれた装備を見るに新人ではない。王城や王都周辺に配置された騎士ではなく、地方を守護する騎士だな。まあ、こんな南の果ての村にいるなら当然か……)
ボーデン王国は広く、各地に騎士が配置されている。
ゆえに騎士団団長の息子といえど、全員の顔を見たことがあるわけではない。
大きな用事もないのに地方を守る騎士を王都まで呼び寄せることはなく、実質的に地方では独自の指揮系統が出来上がっている。
(父さんは出来の悪い騎士ほど王都から遠い地域に配置すると言っていた。でも、流石に出来の悪さにも限度がないか!? こんな奴らは騎士ではない! ただの盗賊だ!)
ウォルトは拳を握りしめ、怒りをあらわにする。
(俺が王都にいた頃から、地方の人々はこいつらに苦しめられていたのか……? それとも、俺が樹海を駆け回っている間に騎士団が変わってしまったのか……?)
答えはわからない。
だが、今やるべきことはわかる。
拳を振るってでも、あの騎士とは呼べぬ賊どもの蛮行を止めるのだ。
「おい、お前ら……!」
「死ねッ! クソ騎士団ッ!!」
ウォルトの声をかき消すほどの叫びと共に、オレンジの髪をなびかせた少女が中年の騎士に突撃する。
そして、手に持った鋼鉄の棍棒で騎士の頭をぶん殴った。
「うわ……草」
あまりにも容赦のない一撃は逆に笑いが出る。
殴られた騎士は鉄の兜を被っておらず、頭に直撃をもらっている。
少女の腕力とはいえ、あの勢いで鋼鉄をぶつけられれば致命傷になると思われた。
「うおっと、酔い覚ましには悪くない一撃だな」
その騎士はケロッとしてた。
殴られた箇所から血が出ていないどころか、内出血もしていない。
その肉体の強度は鋼鉄以上ということだ。
「二度死ねッ!」
少女はもう一度棍棒を振り下ろすが、今度は騎士の手で止められてしまった。
「口の悪いお嬢ちゃんだ……。そんな悪い口はおじさんが塞いであげようねぇ~」
中年騎士は少女の顔を掴み、自らの唇を少女の唇へ近づけていく。
腕力の差は歴然……少女が暴れても逃れられない。
「キモ過ぎて草も生えない」
「ぶへらぁっ!?」
キス顔の横っ面をぶん殴られた中年騎士は吹っ飛び、うつ伏せに倒れて地面にキスをした。
拘束から逃れた少女は地面に尻もちをつく。
「キミは下がっていなさい。性根は腐っても騎士は騎士……。訓練されていない人間がかなう能力値ではないよ」
中年騎士を殴り飛ばしたウォルトは、出来る限り優しい口調で少女を諭す。
だが、彼女が立ち上がる前に他の騎士たちがウォルトの存在に気づいた。
「なっ、なんだてめぇ!? ……えっ、本当になんだてめぇ!?」
「明らかにこの村の人間じゃねぇじゃねぇか!」
「貴様……山賊か何かだな!?」
伸び切ったボサボサの髪にヒゲ、カピカピでパツパツの衣服……。
明らかにウォルトの方が不審人物だった。
「俺はウォルト・ウェブスター! ボーデン王国騎士団団長ノルマン・ウェブスターの長子だ!」
その自己紹介を聞いて騎士たちは顔を見合わせる。
「ウォルト・ウェブスター?」
「ノルマンとこの長男って、確か三か月前に飛竜に乗って失踪したって……」
「確か歳は14そこいらって話だったか……?」
その場にいる騎士全員がウォルトの顔をジーッと見つめる。
「……そんなわけあるかボケェ! もう少しマシな嘘をつけやぁ!」
「お前のどこが14歳のガキなんだぁ!?」
「その髪とヒゲは三か月どころじゃねぇだろ!?」
騎士たちはウォルトの自己紹介を信じない。
まあ、当然だろうと本人も思った。
(うん、これは仕方がない。相手がいくら悪党だろうと、今の俺の言葉を信じてくれないことを悪くは言えない!)
ウォルトは納得したように一人でうんうんとうなずいた。
(体は18あるいは20歳くらいになってるだろうし、草の生命エネルギーを摂取しまくって髪とヒゲが伸びまくったからな。それにこいつらは騎士といっても面識はないし、俺のことも伝聞でしか知らないだろう。まあ、かつての俺の顔を知っていても、本人とは思ってくれないだろうが……)
とりあえず、自分をウォルトだと思ってもらうことは諦めた。
そもそも名乗った目的は自己アピールではなく、自分に注意を引き付けて騎士たちの蛮行を止めることにあった。
「まあ、俺のことはこの際どうでもいいんだ!」
「お前から名乗ったんだろうが!」
「うぐ……っ! そんなことより……お前たちは何をしている!? 略奪に暴行など騎士道どころか、人間の道を外れた行いだ! それを咎める権利はこのボーデンの国民ならば誰であろうと持ち合わせている!」
鋭いツッコミにもめげず、ウォルトは騎士たちを問いただす。
暴行を受けていた村人はこの隙に逃げ出している。
見た目からしてインパクト十分のウォルトの乱入は、目論見通り騎士たちの注目を集めた。
「騎士道? 人の道? そんなものでメシが食えるかよ! 俺たちは命を懸けて魔獣を倒している! 犯罪者を捕まえている! だが、王都にふんぞり返っている団長様からはロクな金が支給されねぇ! だから守ってやってる国民から必要なもんをいただくのよぉ!」
そう叫ぶのは騎士の中でも一際大きく、装備も豪華な大男。
彼はずかずかとウォルトの前に立ちはだかる。
「俺の名はウォルト。貴様の名前は?」
「あくまでもウォルトで通すのか……。まっ、どうでもいい。俺はダローム この村も含めた王国最南端の領地、ユーク領の騎士を取りまとめる統領騎士だ!」
統領騎士――領地の治安を維持するため、戦力の差配など大きな権限を持たされた騎士の中でも選ばれし者。
(辺境の領地とはいえ、統領騎士になれる人間はただの無能ではない。それがこんなあからさまな犯罪に手を染めるとは……)
ウォルトの脳裏によぎるのは、父である騎士団長ノルマン。
もしかしたら、目の前の騎士たちが犯罪を犯すほど追い詰められた原因は、父にあるのかもしれない……と。
「そんなに金が貰えないのか? 普段は金を何に使っている?」
「そりゃ酒に女に博打よぉ! こんな僻地じゃ娯楽も少ねぇからなぁ! まあ、酒はマズいし女も地味なのしかいないが、領主の住む街にはそこそこデカい賭場があるのさ! 騎士だからっつってもイカサマはご法度だし、楽しむにはそれだけ大量の軍資金が……ぐはあっ!?」
「少しでも同情しかけた俺が馬鹿だったよ」
ウォルトの拳がダロームのみぞおちにめり込んだ。
その場にいる全員が殴るまでの予備動作を見逃してしまうほどの素早さだった。
「あ、ひぃ、ひえぇ……! 鋼鉄の鎧に穴が空いてるぅ……!?」
騎士の一人がダロームの来ていた鋼鉄の鎧が突き破られていることに気づく。
当然、これはウォルトの拳が突き破ったものだ。
最初から穴の開いた鎧であるわけがない。
「お、お前……本当に何者なんだよ……!?」
「もうお前たちに名乗る必要はない。今すぐ武器を捨てて降参しろ。そうすれば命までは取らない」
「ひっ……ひぃぃぃ……!!」
騎士たちが持っている武器を捨てかけたところで、怒号が響いた。
「ビ、ビビってんじゃねぇ……! 大したことはねぇんだ……。鎧はちょうど脆くなってただけだ……!」
白目をむいて立ったまま気絶していたダロームが目を覚ます。
そして、気丈にふるまって部下を鼓舞する。
「やれぇ……! 全員でこいつを殺せ……ッ! 俺が許可する……!」
かすれ声で命令を出すダローム。
部下たちは震える手で武器を握り、ウォルトに襲い掛かって来た。
「まあ、無抵抗の相手をボコボコにするよりは罪悪感がなくていいか」
拳を握り、ウォルトは迎撃の構えを取った。
ボーデン王国は広く、各地に騎士が配置されている。
ゆえに騎士団団長の息子といえど、全員の顔を見たことがあるわけではない。
大きな用事もないのに地方を守る騎士を王都まで呼び寄せることはなく、実質的に地方では独自の指揮系統が出来上がっている。
(父さんは出来の悪い騎士ほど王都から遠い地域に配置すると言っていた。でも、流石に出来の悪さにも限度がないか!? こんな奴らは騎士ではない! ただの盗賊だ!)
ウォルトは拳を握りしめ、怒りをあらわにする。
(俺が王都にいた頃から、地方の人々はこいつらに苦しめられていたのか……? それとも、俺が樹海を駆け回っている間に騎士団が変わってしまったのか……?)
答えはわからない。
だが、今やるべきことはわかる。
拳を振るってでも、あの騎士とは呼べぬ賊どもの蛮行を止めるのだ。
「おい、お前ら……!」
「死ねッ! クソ騎士団ッ!!」
ウォルトの声をかき消すほどの叫びと共に、オレンジの髪をなびかせた少女が中年の騎士に突撃する。
そして、手に持った鋼鉄の棍棒で騎士の頭をぶん殴った。
「うわ……草」
あまりにも容赦のない一撃は逆に笑いが出る。
殴られた騎士は鉄の兜を被っておらず、頭に直撃をもらっている。
少女の腕力とはいえ、あの勢いで鋼鉄をぶつけられれば致命傷になると思われた。
「うおっと、酔い覚ましには悪くない一撃だな」
その騎士はケロッとしてた。
殴られた箇所から血が出ていないどころか、内出血もしていない。
その肉体の強度は鋼鉄以上ということだ。
「二度死ねッ!」
少女はもう一度棍棒を振り下ろすが、今度は騎士の手で止められてしまった。
「口の悪いお嬢ちゃんだ……。そんな悪い口はおじさんが塞いであげようねぇ~」
中年騎士は少女の顔を掴み、自らの唇を少女の唇へ近づけていく。
腕力の差は歴然……少女が暴れても逃れられない。
「キモ過ぎて草も生えない」
「ぶへらぁっ!?」
キス顔の横っ面をぶん殴られた中年騎士は吹っ飛び、うつ伏せに倒れて地面にキスをした。
拘束から逃れた少女は地面に尻もちをつく。
「キミは下がっていなさい。性根は腐っても騎士は騎士……。訓練されていない人間がかなう能力値ではないよ」
中年騎士を殴り飛ばしたウォルトは、出来る限り優しい口調で少女を諭す。
だが、彼女が立ち上がる前に他の騎士たちがウォルトの存在に気づいた。
「なっ、なんだてめぇ!? ……えっ、本当になんだてめぇ!?」
「明らかにこの村の人間じゃねぇじゃねぇか!」
「貴様……山賊か何かだな!?」
伸び切ったボサボサの髪にヒゲ、カピカピでパツパツの衣服……。
明らかにウォルトの方が不審人物だった。
「俺はウォルト・ウェブスター! ボーデン王国騎士団団長ノルマン・ウェブスターの長子だ!」
その自己紹介を聞いて騎士たちは顔を見合わせる。
「ウォルト・ウェブスター?」
「ノルマンとこの長男って、確か三か月前に飛竜に乗って失踪したって……」
「確か歳は14そこいらって話だったか……?」
その場にいる騎士全員がウォルトの顔をジーッと見つめる。
「……そんなわけあるかボケェ! もう少しマシな嘘をつけやぁ!」
「お前のどこが14歳のガキなんだぁ!?」
「その髪とヒゲは三か月どころじゃねぇだろ!?」
騎士たちはウォルトの自己紹介を信じない。
まあ、当然だろうと本人も思った。
(うん、これは仕方がない。相手がいくら悪党だろうと、今の俺の言葉を信じてくれないことを悪くは言えない!)
ウォルトは納得したように一人でうんうんとうなずいた。
(体は18あるいは20歳くらいになってるだろうし、草の生命エネルギーを摂取しまくって髪とヒゲが伸びまくったからな。それにこいつらは騎士といっても面識はないし、俺のことも伝聞でしか知らないだろう。まあ、かつての俺の顔を知っていても、本人とは思ってくれないだろうが……)
とりあえず、自分をウォルトだと思ってもらうことは諦めた。
そもそも名乗った目的は自己アピールではなく、自分に注意を引き付けて騎士たちの蛮行を止めることにあった。
「まあ、俺のことはこの際どうでもいいんだ!」
「お前から名乗ったんだろうが!」
「うぐ……っ! そんなことより……お前たちは何をしている!? 略奪に暴行など騎士道どころか、人間の道を外れた行いだ! それを咎める権利はこのボーデンの国民ならば誰であろうと持ち合わせている!」
鋭いツッコミにもめげず、ウォルトは騎士たちを問いただす。
暴行を受けていた村人はこの隙に逃げ出している。
見た目からしてインパクト十分のウォルトの乱入は、目論見通り騎士たちの注目を集めた。
「騎士道? 人の道? そんなものでメシが食えるかよ! 俺たちは命を懸けて魔獣を倒している! 犯罪者を捕まえている! だが、王都にふんぞり返っている団長様からはロクな金が支給されねぇ! だから守ってやってる国民から必要なもんをいただくのよぉ!」
そう叫ぶのは騎士の中でも一際大きく、装備も豪華な大男。
彼はずかずかとウォルトの前に立ちはだかる。
「俺の名はウォルト。貴様の名前は?」
「あくまでもウォルトで通すのか……。まっ、どうでもいい。俺はダローム この村も含めた王国最南端の領地、ユーク領の騎士を取りまとめる統領騎士だ!」
統領騎士――領地の治安を維持するため、戦力の差配など大きな権限を持たされた騎士の中でも選ばれし者。
(辺境の領地とはいえ、統領騎士になれる人間はただの無能ではない。それがこんなあからさまな犯罪に手を染めるとは……)
ウォルトの脳裏によぎるのは、父である騎士団長ノルマン。
もしかしたら、目の前の騎士たちが犯罪を犯すほど追い詰められた原因は、父にあるのかもしれない……と。
「そんなに金が貰えないのか? 普段は金を何に使っている?」
「そりゃ酒に女に博打よぉ! こんな僻地じゃ娯楽も少ねぇからなぁ! まあ、酒はマズいし女も地味なのしかいないが、領主の住む街にはそこそこデカい賭場があるのさ! 騎士だからっつってもイカサマはご法度だし、楽しむにはそれだけ大量の軍資金が……ぐはあっ!?」
「少しでも同情しかけた俺が馬鹿だったよ」
ウォルトの拳がダロームのみぞおちにめり込んだ。
その場にいる全員が殴るまでの予備動作を見逃してしまうほどの素早さだった。
「あ、ひぃ、ひえぇ……! 鋼鉄の鎧に穴が空いてるぅ……!?」
騎士の一人がダロームの来ていた鋼鉄の鎧が突き破られていることに気づく。
当然、これはウォルトの拳が突き破ったものだ。
最初から穴の開いた鎧であるわけがない。
「お、お前……本当に何者なんだよ……!?」
「もうお前たちに名乗る必要はない。今すぐ武器を捨てて降参しろ。そうすれば命までは取らない」
「ひっ……ひぃぃぃ……!!」
騎士たちが持っている武器を捨てかけたところで、怒号が響いた。
「ビ、ビビってんじゃねぇ……! 大したことはねぇんだ……。鎧はちょうど脆くなってただけだ……!」
白目をむいて立ったまま気絶していたダロームが目を覚ます。
そして、気丈にふるまって部下を鼓舞する。
「やれぇ……! 全員でこいつを殺せ……ッ! 俺が許可する……!」
かすれ声で命令を出すダローム。
部下たちは震える手で武器を握り、ウォルトに襲い掛かって来た。
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拳を握り、ウォルトは迎撃の構えを取った。
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