俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

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第1章

第11話 かくかくしかじか草草

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 秘術覚醒の儀によって授かった謎のギフト【草】。
 意味のわからないギフトに怒り、ウォルトに罵声を浴びせ、言い返されたら絶縁を言い渡した父――ボーデン王国騎士団長ノルマン・ウェブスター。

 強力なギフトを得たがゆえに攻撃的な一面が強まってしまった二人の弟。
 この弟からの罵倒と冷たい視線が一番悲しかったとウォルトは語る。

 そして、団長の野蛮な命令に逆らうことが出来ず、ウォルトをフングラの樹海に振り落とした騎士リザル。
 立場的にいたし方ないとはいえ、彼にも嫌味の一つは言いたいとウォルトは言う。

「ちょ、ちょっと待って……! つまり、ウォルトはお父さんの命令で樹海に捨てられたってこと!?」

 フロルが信じられないといった様子で叫ぶ。

「そう……なります」

「生まれた頃から育てて来た自分の子どもを……気に入らないギフトを授かったって理由だけで見捨てたの!? しかも、子ども一人じゃ決して生き残れないフングラの樹海に……!」

 ウォルトは静かにうなずき、フロルの言葉を肯定する。

「そんなの……許せないッ!」

 フロルはどこからか取り出した鋼鉄の棍棒を怒りのままに振り上げた。

「これっ、フロル! 宿の備品びひんを壊すんじゃないよ!」

 ファムの言葉で我に返り、フロルは棍棒を近くのテーブルに叩きつける前に止まった。
 しかし、心の中で燃え上がる怒りの炎は消え去っていない。

「ウォルトはどうしたいのっ!? もう一回お父さんに会ったら、ボコボコにしてやりたいって思ってるよね!?」

「返答による……かな。一時の感情で息子を捨てたことをすでに後悔していて、俺の生存を喜び、こちらから言わずとも謝罪の言葉が出て来るなら、許しはしなくても手は出さないかもしれません」

「もし捨てたことを当然と思っていて、生きていることを残念に思われたら!?」

「父さんにとって俺はどういう存在だったのか、問いただした後に仕返しを決めます」

「カーッ! 甘い! あまーーーーーーいっ!」

 フロルがオレンジの髪を振り乱して絶叫する。

「でも、ウォルトのことを悪く言いたくないから、甘くて優柔不断じゃなくて……そうだ! 優しくて家族想い過ぎるっ! この孝行こうこう息子でいいお兄ちゃん野郎がっ!」

 罵倒ばとうなのか称賛しょうさんなのかわからない言葉をフロルは並べる。
 ウォルトは驚いて目を丸くする。

「とりあえず、お父さんも弟たちも一発ぶん殴ってから許すか許さないかの話じゃないの!?」

「はたからみると、そうなんだと思います。でも、俺の中ではすべてが突然の出来事過ぎた……。だから、あの時、あの覚醒の間で止まった時間から始める。すべてはそれからです」

「くぅぅぅ~! 納得出来ない! ちょっと外走ってくる!」

 有り余る怒りのエネルギーを発散するため、フロルは宿を飛び出していった。

(わけわからなくて草……! でも、彼女にとっては他人事のはずなのに、本気で怒ってくれるのはなんだか嬉しいな。俺の話を真正面から受け止めてくれたんだ)

 草を生やしつつも、ほっこりするウォルトであった。

「すまないね、あの子は捨て子だったんだ。だから、あの子にとって子を捨てる親というのは何よりもにくくて、許せないものなんだよ」

「え……! ということは、ファムさんの本当のお孫さんでは……」

「ないね。この宿の軒先のきさきに捨てられていた赤子を育てたに過ぎないよ。捨てた親はこの村の人間ではない。田舎だからそういうのはすぐバレるからね。だが、こんな最果ての地に子を捨てに来るなんて……相当なわけありさ」

 フロルの怒りの理由……誰もが納得せざるを得ない。
 彼女もまた自分を捨てた親を探し当て、一発ぶん殴ってやりたいと思っていたのだ。

「でもね、親の理屈なんて子どもには関係ないさ。特に生まれたばかりの子にはねぇ。だから、私が死人からいただいた金で立派に育てたわけだよ……ヒヒヒ。私の実の子どもたちは、こんなへんぴな村からさっさと出て行っちまっててね。ちょうど暇してたところだったのさ」

「俺は殴る親の顔を知ってるだけ恵まれている……か」

「ヒヒヒ……それはそれで苦労があるもんさ。比べるもんじゃないよ。まあ、今のお前さんなら騎士団長の父親に力で従わされることもない。気が済むまで話し合って、気に入らなかったらぶん殴ってやればいいのさ」

「はい、そうしようと思います。俺みたいな変人の話を真剣に聞いていただけて嬉しいです。久しぶりに人と話して、俺の気力値も回復していくのを感じます」

「ん? 気力値が回復……?」

 ファムが首をかしげたところで宿の玄関の扉がバンッと開き、汗だくのフロルが帰って来た。

「村中を走り回って、頭冷やして来たよっ!」

「が、頑張り過ぎで草……! というか、体の方はホカホカで草」

 頬は紅潮こうちょうし、パッと見は冷えているように見えないフロル。
 そのツッコミどころ満載の姿にウォルトが草を連発する。

「ねえ、ウォルトってしゃべる時に『草』って言葉を使うけど、それってどういう意味?」

 フロルが首をかしげる。
 その仕草はファムとそっくりだ。

「そういえば、ギフト【草】については『食べた草の力を何倍にもして溜め込む』ことしか話してなかったかも……。まあ、これはギフトの能力って言っていいのかわかりませんけど、思考や意識の中に『笑い』を意味する言葉として『草』が擦り込まれるんです」

 フロルはタオルで汗を拭きながら、引き続き首をかしげる。
 場の空気は『どういうことなの……』といった感じだ。

「例えば今の場面で言うと『頑張りすぎてて笑っちゃう』とか『頭は冷えても体は熱々で面白い』とか……草はそういう意味になるんだ」

「まあ、理解は出来るよ? 文章の中の笑いに関する部分が草に置き換わるってことでしょ? でも、ギフトを得た途端に頭の中の常識が書き換えられたってのは、ちょっと怖すぎぃ……」

「怖いのはここからなんです。俺は草の深淵しんえんを覗いてしまった……」

「し、深淵……!」

 フロルは生唾をごくりと飲み込む。

「笑いだけじゃない……実のところ草はどんな感情をも表現出来る。つまり、どんな状況のどんな言葉にでも生やせてしまうのだ……!」

「……え、どういうこと?」

「怖すぎて草、ビックリして草、悲しくて草、マズくて草、辛くて草……とても笑える状況じゃなくても、草をつけておけば何となく文章として成り立つ気がしてくる」

「そ、そうかなぁ……?」

「そのまま草を使い続ければ、草なしでは会話出来なくなってくる。文章は短文ばかりに、言葉は陳腐ちんぷなものになっていく。当然そこに込められた気持ちも薄い」

 正直言ってることの半分もわからないけど、ウォルトが深刻そうな顔をして話すものだから、一緒に深刻な顔をして真剣に聞くフロル。
 こうして人に寄り添う姿勢は、誰もが持っているものではない。
 彼女に与えられた稀有けうな才能だ。

「草を使わねばコミュニケーションが取れなくなった人間は……もはや人間ではない」

「えっ……!」

「頭にはモヤがかかり、心はやせ細り、それが気力値の減少となって表れる。だから、俺のように【草】の宿命を背負いし者にとっては、こうして馬鹿にせず真剣に話を聞いてくれるフロルやファムさんが救いだ。心を許せる人との会話は心を癒してくれるんだ」

 変なことをウォルトが晴れやかな顔で言うものだから、フロルも釣られて笑顔になる。
 そして、彼女の心には一つの疑問が浮かび上がった。

「もし、ウォルトの心が草に支配されたら……どうなってしまうの?」

「……正確にはわからない。でも、何に対しても草を連呼するだけの人ならざる化け物になってしまうかもしれない」

「そんな……! 私、嫌だよ!」

「素直な気持ちで人と接することを忘れなければ大丈夫さ。あの騎士たちとの会話だって、俺の本音をぶちまけていたから心はイキイキしていた。今もこうして普通に人としての会話が出来ている。草も適度に使えば愉快な表現なんだ」

「本当に大丈夫……?」

「ああ! そもそも樹海で孤独だった時も……いや、あの頃はちょっと暴走気味だったけど、今も人間性は失っていない。こう見えて幼い頃から鍛錬を続けて来た騎士の卵さ。心が強い人間だって信じてほしい」

「ふふっ、確かに『こう見えて』どころか、どう見たって強そうにしか見えないもんね!」

 フロルはニヤッと笑ってウォルトの背中をバシバシ叩く。
 鋼のような背筋はいきんにとっては、激しいスキンシップも程よい刺激になる。

「あっ、あっ、なんか偉そうな話し方になってすいません……。年上なのにフロルさんのことも呼び捨てにしてて……」

「何言ってんの、私のことは呼び捨てにしなさい! タメ口も全然よし! 見た目的にその方が自然だし、周りからも不審がられないからね。クソ親父や生意気な弟たちにサプライズかましたいなら、下手に目立って情報が伝わらない方がいいもの」

「そうで……そうだね、フロル」

 照れ臭そうにタメ口を使うウォルト。
 その様子を見て満足げにうなずくフロル。
 だが、彼女はすぐに自分の言動に驚いた。

(待って待って……! ウォルトはきっと一週間もしないうちにこの村を出て行く……。なのに私の呼び方とか、目立たないための配慮とか必要ないでしょ……? すでに村の人たちはウォルトを不審がってるし、それこそ一緒に王都を目指さない限りは……)

 自分の本当の気持ちを上手く飲み込めないフロル。
 出会ってまだ数時間も経っていない少年を、どうしても放っておけないという気持ちを……。
 
「おっと、そろそろ本当に風呂に入ってくれないと湯が冷めてしまうよ」

 ファムがウォルトの体を指でつんつんと突く。

「あ! 入ります、今すぐ入ります!」

「じゃあ、こっちにおいで」

 ファムに連れられて宿の奥に向かうウォルトの背中を、フロルはぼんやりと見つめていた。
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