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第2章
第20話 思ったより深刻で草
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「俺には回復魔法と少し違いますが、傷や病気を癒す力があります。その腰痛が何らかの傷や病気が原因ならば、俺が治せるかもしれません」
ウォルトはそう言葉を続ける。
すると、会議室の空気はピンと張り詰めた。
温泉同行隊のメンバーが「それで治ったら報酬が貰えないじゃねーか!」と気づいたのだ。
ウォルトだってバイパーバレーに行く必要がなくなるのは困る。
だが、それでも自分の力で治せるかもしれない人を放置して苦しませ、危険な冒険へといざなうというのは我慢ならなかった。
そんなことをしては父ノルマンを責める権利もなくなるだろう……。
「そういえば、さっきバキバキに砕けた拳を一瞬で治してたわね……! アタシの腰はあらゆる回復魔法を受け付けなかったけど、回復魔法ではない回復の力なら効くかもしれない……!」
「もちろん、確証はありません。そもそもまだその痛みを発し続けるという腰を見てもいませんので……。出来れば腰を見せてもらえませんか?」
再度ローウェに腰を見させるように要求するウォルト。
しかし、ローウェはあまり乗り気ではないようだ。
「その……痛いのは腰の後ろの下の方だから……男の人には恥ずかしくて見せられないわっ!」
「ならば、俺ではなくフロルが確認します」
役目を託されたフロルは乗り気のようで、ガタッと立ち上がった。
「はいはいっ! 見ますともっ! 流石に病気の原因まで探すことは出来ませんけど、腰の様子を見るくらいのことは出来まーす!」
「……わかったわ! でも、見るなら別室でね!」
「了解ですっ!」
ローウェとフロルは会議室を出て、どこかの部屋に向かった。
その間、ウォルトは他の温泉同行隊メンバーたちににらまれることになった。
全員無言ではあるが、言いたいことは伝わって来る。
報酬のために本当はウォルトの治療を妨害したいが、あのローウェの鬼気迫る腰痛改善への想いを聞かされれば下手な口を出せない。
もし「治療なんてどうでもいいからバイパーバレーに行きましょう!」なんて言ってしまえば、間違いなくローウェの怒りを買い、温泉同行隊から追放されてしまうだろう。
(みんなに恨まれてて草……。まあ、せっかく自己アピールまでして勝ち取った仕事をパァにされるかもしれないんだから仕方ないか。ここは甘んじてにらまれよう)
心の中で楽しいことを思い浮かべて草を生やしながら、ウォルトは二人が戻って来るのを待った。
そして、数分後……深刻な顔をしたフロルとローウェが戻って来た。
「もしかして……見ただけでかなり重症なのがわかったとか?」
ウォルトが質問すると、フロルは少し悩んでから首を振った。
「私は医者じゃないし学者でもないから滅多なことは言えないけど……なんか絶対腰に悪い影響を及ぼしてそうなアザが浮かび上がってたよ。ちょっとスケッチしてみるね」
フロルは持って来た紙とペンを円卓に置き、サラサラとスケッチを始めた。
「ほう……」
「美味いものですねぇ」
「一度見ただけのものをよくそこまで描けるものだ」
温泉同行隊のメンバーも感嘆の声を上げるほどフロルのペン捌きは迷いがなく、スパッと線を引いてローウェの腰に浮かんだアザを描き出してく。
「あっ……アタシのお尻は描かないでね……! ちょうどアザはお尻のふくらみ始めくらいのところまで広がってるみたいだけど……」
「もちろん、アザだけを描いてますよっ」
数分でスケッチは終わった。
紙の上に現れたのは、禍々しい模様……まるで絶叫している人の崩れた顔のような姿だった。
「こんなんが腰に浮かび上がるって……ただの病気ってわけじゃなさそうだね。なんか、俺の地元に伝わる呪いの模様に見えちゃうよ」
巨大な弓を背負った少年が、自分の席に座ったままスケッチを見つめて言う。
その言葉に同意したのはウォルトだ。
「ああ、これは呪いだ。それもボーデン王国より遥か東方の国で編み出されたとされる禍害呪術の一つ……呪恨ノ痣さ」
「知ってるの、ウォルト!?」
フロルの問いにウォルトはうなずく。
「お医者さんでは治療出来ないし、一般の回復魔法使いでは理解出来ないのも無理はない……。俺もこの呪術について知ったのは王都の王立図書館にある禁書の棚を覗いた時だからな……」
「えっ、王立図書館って貴族や有力者でもない限り閲覧を制限される場所じゃないかい? それも禁書の棚を覗けるなんて、相当な立場にないと……」
奇術師マジナが意外な知識を披露したので、ウォルトとフロルは慌てる。
ウォルトが王国騎士団長ノルマン・ウェブスターの息子というのは極力隠す方針にしたのだ。
「まあ、今はいいじゃないですか! 俺のことは……!」
「そうそう……! ちょっと訳ありだからって詮索は無用よ!」
強引に押し切り、話をローウェの腰のアザに戻す。
「えっと、まあ呪恨ノ痣というのは他国で生まれた禁断の呪術なので、普通の人は知らなくて当然なんだ。治し方だって普通はわからない。ちなみに俺もわからない」
「そうなんだ……えっ? ウォルトもわからないの?」
「うん! だって、何年か前に呪術の本を一度読んだだけだから……」
「期待させておいてそれは草」
フロルが笑った後、シーン……と会議室は沈黙に包まれた。
ウォルトはそう言葉を続ける。
すると、会議室の空気はピンと張り詰めた。
温泉同行隊のメンバーが「それで治ったら報酬が貰えないじゃねーか!」と気づいたのだ。
ウォルトだってバイパーバレーに行く必要がなくなるのは困る。
だが、それでも自分の力で治せるかもしれない人を放置して苦しませ、危険な冒険へといざなうというのは我慢ならなかった。
そんなことをしては父ノルマンを責める権利もなくなるだろう……。
「そういえば、さっきバキバキに砕けた拳を一瞬で治してたわね……! アタシの腰はあらゆる回復魔法を受け付けなかったけど、回復魔法ではない回復の力なら効くかもしれない……!」
「もちろん、確証はありません。そもそもまだその痛みを発し続けるという腰を見てもいませんので……。出来れば腰を見せてもらえませんか?」
再度ローウェに腰を見させるように要求するウォルト。
しかし、ローウェはあまり乗り気ではないようだ。
「その……痛いのは腰の後ろの下の方だから……男の人には恥ずかしくて見せられないわっ!」
「ならば、俺ではなくフロルが確認します」
役目を託されたフロルは乗り気のようで、ガタッと立ち上がった。
「はいはいっ! 見ますともっ! 流石に病気の原因まで探すことは出来ませんけど、腰の様子を見るくらいのことは出来まーす!」
「……わかったわ! でも、見るなら別室でね!」
「了解ですっ!」
ローウェとフロルは会議室を出て、どこかの部屋に向かった。
その間、ウォルトは他の温泉同行隊メンバーたちににらまれることになった。
全員無言ではあるが、言いたいことは伝わって来る。
報酬のために本当はウォルトの治療を妨害したいが、あのローウェの鬼気迫る腰痛改善への想いを聞かされれば下手な口を出せない。
もし「治療なんてどうでもいいからバイパーバレーに行きましょう!」なんて言ってしまえば、間違いなくローウェの怒りを買い、温泉同行隊から追放されてしまうだろう。
(みんなに恨まれてて草……。まあ、せっかく自己アピールまでして勝ち取った仕事をパァにされるかもしれないんだから仕方ないか。ここは甘んじてにらまれよう)
心の中で楽しいことを思い浮かべて草を生やしながら、ウォルトは二人が戻って来るのを待った。
そして、数分後……深刻な顔をしたフロルとローウェが戻って来た。
「もしかして……見ただけでかなり重症なのがわかったとか?」
ウォルトが質問すると、フロルは少し悩んでから首を振った。
「私は医者じゃないし学者でもないから滅多なことは言えないけど……なんか絶対腰に悪い影響を及ぼしてそうなアザが浮かび上がってたよ。ちょっとスケッチしてみるね」
フロルは持って来た紙とペンを円卓に置き、サラサラとスケッチを始めた。
「ほう……」
「美味いものですねぇ」
「一度見ただけのものをよくそこまで描けるものだ」
温泉同行隊のメンバーも感嘆の声を上げるほどフロルのペン捌きは迷いがなく、スパッと線を引いてローウェの腰に浮かんだアザを描き出してく。
「あっ……アタシのお尻は描かないでね……! ちょうどアザはお尻のふくらみ始めくらいのところまで広がってるみたいだけど……」
「もちろん、アザだけを描いてますよっ」
数分でスケッチは終わった。
紙の上に現れたのは、禍々しい模様……まるで絶叫している人の崩れた顔のような姿だった。
「こんなんが腰に浮かび上がるって……ただの病気ってわけじゃなさそうだね。なんか、俺の地元に伝わる呪いの模様に見えちゃうよ」
巨大な弓を背負った少年が、自分の席に座ったままスケッチを見つめて言う。
その言葉に同意したのはウォルトだ。
「ああ、これは呪いだ。それもボーデン王国より遥か東方の国で編み出されたとされる禍害呪術の一つ……呪恨ノ痣さ」
「知ってるの、ウォルト!?」
フロルの問いにウォルトはうなずく。
「お医者さんでは治療出来ないし、一般の回復魔法使いでは理解出来ないのも無理はない……。俺もこの呪術について知ったのは王都の王立図書館にある禁書の棚を覗いた時だからな……」
「えっ、王立図書館って貴族や有力者でもない限り閲覧を制限される場所じゃないかい? それも禁書の棚を覗けるなんて、相当な立場にないと……」
奇術師マジナが意外な知識を披露したので、ウォルトとフロルは慌てる。
ウォルトが王国騎士団長ノルマン・ウェブスターの息子というのは極力隠す方針にしたのだ。
「まあ、今はいいじゃないですか! 俺のことは……!」
「そうそう……! ちょっと訳ありだからって詮索は無用よ!」
強引に押し切り、話をローウェの腰のアザに戻す。
「えっと、まあ呪恨ノ痣というのは他国で生まれた禁断の呪術なので、普通の人は知らなくて当然なんだ。治し方だって普通はわからない。ちなみに俺もわからない」
「そうなんだ……えっ? ウォルトもわからないの?」
「うん! だって、何年か前に呪術の本を一度読んだだけだから……」
「期待させておいてそれは草」
フロルが笑った後、シーン……と会議室は沈黙に包まれた。
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