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2巻
2-1
しおりを挟むプロローグ
俺――ユート・ドライグがヘンゼル王国の田舎から王都に出て来たのは今から2年前、14歳の時だ。
都会への憧れを抑え切れずに、両親と妹の暮らす家を飛び出した俺に仕事を与えてくれたのは、王都を拠点に活動している冒険者ギルド『黒の雷霆』だった。
当時の俺は魔法が使えず――それは今も同じなんだけれど――武術もまったくの素人。王都で生きていくために、ギルドの様々な雑用をがむしゃらにこなしていった。
ある日、ギルドの責任者、ギルドマスターであるヘイズが、幻の魔獣の卵を入手しろという無茶な依頼を、お得意様の貴族・ズール男爵から受けた。
そして貴重な卵がそう簡単に見つかるはずもなく、間違って別の魔獣の卵を届けてしまう。
当然ながらズール男爵は激怒した。ヘイズは許しを請うために、すべての責任を俺に押し付け、なんと追放した。
ギルドから放り出された俺へ手切れ金代わりに渡されたのは、誰からも必要とされていないその卵であった。
そんな卵から生まれて来たのは、紅色のウロコと小さな翼、ひょろ長いしっぽと4本の脚、つぶらな瞳と短い角を持った伝説の魔獣――ドラゴンだ。
従魔契約を交わし、ロックと名付けたそのドラゴンと共に、俺は『キルトのギルド』に入った。その名の通り、キルト・キルシュトルテという女性がギルドマスターを務めているギルドだ。
キルトさんはヘイズとは正反対の人格者にして、凄腕の冒険者。そして、竜の牙から削り出された剣「竜牙剣」を気前良く与えてくれた。
新たな環境と力を手に入れ、俺とロックはキルトさんのもとで色んな依頼をこなしていき、ある時、アルタートゥム遺跡群に立ち入った。
そこは『黒の雷霆』が管理している場所だったのだが、彼らの杜撰な仕事のせいで機械仕掛けの古代兵器「魔鋼兵」が目覚めてしまった!
偶然再会した『黒の雷霆』の女性冒険者、シウル・トゥルーデルと協力しつつ、俺とロックは遺跡中の魔鋼兵を倒して回ることになる。
ドラゴンに対抗すべく作られたと伝わるだけあって、魔鋼兵には苦戦を強いられたけれど、最終的にはキルトさんの力も借りて何とか事態を解決することが出来た。
その後『黒の雷霆』へのペナルティが執行され、彼らは上級ギルド認定を取り消された。
そして、『キルトのギルド』に新たなメンバーがやって来た。
アルタートゥムの遺跡群で行動を共にし、俺の戦いを支えてくれたシウルさんが決意を新たにギルドの門を叩いたのだ。
彼女は亡き父が行っていた魔獣の生態調査および魔獣図鑑の執筆を引き継ぐという、半ば諦めかけていた夢を再び抱き、それを叶えるために『黒の雷霆』も辞めて来た。
そして俺にも変化があった。
上級ギルドの闇を暴き、手にしたC級冒険者の称号。大仕事が終わったタイミングで受け取った、ロックが生まれた時の卵の殻を使った新しい防具。
武器は竜の牙、防具は竜の卵の殻、連れているのは竜の子ども。
ゆえにごく一部の人々は俺のことをこう呼ぶようになった――竜騎士ユート・ドライグと。
第1章 ロックの大追跡
ユートのC級昇格とシウルのギルド加入を祝うバーベキューパーティーの翌日――
パーティーの主役だったユート・ドライグは自室で寝込んでいた。
本人は強がっていたが、やはりアルタートゥムでの戦いの疲れは1日では取れなかったのだ。
高級ポーションを2本服用し、竜牙剣にすべての魔力を注ぎ込んだとなれば、本来3日は寝込んでいなければならない。万全な状態で戦うとなれば、1週間は様子を見たいほどだ。
さらに昨日は張り切って肉を食べ過ぎてしまったため、ユートの胃は激しくもたれていた。
脂ののった肉を食べ慣れていない人間が、たまにガッツリ食べるとこうなってしまう。
どちらかと言えば、戦いの疲労より胃もたれの方が重症かもしれない……。
「ごめんなさい……。今日は休みます……」
「はい、お大事に~」
無理してでも働こうとしがちなユートも流石にダウン。
彼の自室に様子を見に来たシウルは、とりあえず水だけ置いて部屋を後にした。
「美味しいお肉でお腹を壊すこともあるんだなぁ」
これまで数々の男に取り入り、高いものを飽きるほど食べて来たシウル。
そんな彼女でも昨日のバーベキューは生涯で一番と言えるほど美味しい食事だった。
誰かに媚びてエサのように与えられる食事ではなく、心を許せる相手との楽しい時間……。
今日の彼女はユートと反比例するように絶好調だった。
「さて、お勉強しなきゃね」
1階に降りたシウルは受付に座り、何枚かの紙をカウンターに並べた。
これはキルトから出された宿題である。内容は一般常識や計算能力、魔獣や植物に関する知識などが問われるものだ。
シウルは人に取り入ることで良い立場を得ていた一方で、冒険者としての技量や知識は初心者並である。そのため、今は基礎を固めている最中だった。
宿題を出したキルト自身は朝早くから仕事に出ており、帰って来るのは夕方になる。
なので今日はシウルが受付に座り、宿題をこなす傍らでこのギルドを切り盛りする。
……とはいえ、このギルドに客は滅多に来ない。
いつしかキルトも言っていたが、よほど思い悩んでない限り、このオンボロなギルドの前で立ち止まる人はいないのだ。
ゆえに『キルトのギルド』の主な収入源は、すべての冒険者ギルドのまとめ役であるグランドギルドからキルトへ直接依頼された仕事の報酬ということになる。
一度書類の整理を手伝ったシウルは、上級ギルドであった『黒の雷霆』でも見なかったような高難度の依頼書がわんさか出て来るのを目撃している。
(本当に強いんだなぁ、キルトさんは。でも、恥ずかしがり屋なところもあって、私がジーッと見つめてると思わず視線を逸らしちゃうところとか、かわいいのよねぇ~!)
だが、そんなキルトが今日はいない。ユートも寝込んでいる。
今このギルドを守っているのはシウルとロックなのだ。
「クー……クー……」
今日も朝から自主的に修業をしていたロックは、お昼を前にして居眠りをしている。
場所はちょうど入口近くにあるテーブルなので、暴漢が押し入って来てもロックが退治してくれるだろう。
広いギルドの1階にポツンと1人でいるのが不安だったシウルは、ロックをとても頼りにしていた。
(でも、まだまだ私には懐いてくれないのよねぇ~。何か嫌われるようなことしたかなぁ?)
そんなことを考えているから、宿題は全然進まない。
シウルは髪の毛をわしゃわしゃとかき回して邪念を頭から追い出す。
(集中するのよ私! ユートは優しいから許してくれた。キルトさんは優しいから受け入れてくれた。でも、世の中はそうじゃない。私の居場所はここ以外にないし、私はここにいたい! だから、ちゃんと仕事が出来る人間にならないと!)
シウルが『黒の雷霆』に所属していたのは短期間だが、その間、同じギルドのメンバーや現場で出会った他のギルドのメンバーに横柄な態度を取って来た。
『キルトのギルド』を追い出されれば、次に行く当てなどないことを彼女は自覚していた。
(もう昔の私には戻らないわ……!)
シウルは宿題に打ち込んだ……5分ほど。
その後、息継ぎをするように顔を上げた。
「……ぷはっ! こんなに集中出来るなんて私も成長したなぁ! ちょっとだけ休憩よ!」
人は急には変われない。だが、少しずつでも彼女は変わろうとしていた。
「そろそろお昼か~。何食べようかな~」
「おじゃまします! トカゲさんのご飯を持って来たよ!」
玄関の扉を勢い良く開けて、肉屋の娘リンダ・フライシュが入って来た。
その手には何かの骨や肉片がどっさり入ったバケツが提がっていた。
「あら、いらっしゃいリンダちゃん」
「こんにちは! シウルお姉ちゃん!」
リンダはギガントロールに襲われた馬車に母親と共に乗り合わせ、危ないところをユートとロックに助けてもらったことがある。
その礼として肉屋を営んでいる彼女の両親がギルドに新鮮な肉を提供したことで、昨日のバーベキューパーティーが実現した。
バケツにどっさり入った肉や骨は売り物にならない部位で、人間にとっては価値がないが、バキバキと噛み砕けるドラゴンのロックにはご馳走だ。
それを自分の手でロックに届けたいがために、彼女はギルドへやって来た。
しかし、今日はいつも一緒にいる母親の姿がなかった。
「……1人で来たの?」
「はい! お母さんはダメって言ってたけど、もう私だって1人でお使いくらい出来るもん!」
「そ、そうなの?」
『キルトのギルド』が拠点を構える下町は治安が悪いと聞いていたシウルは、一瞬不安に思った。
ただ、王都の中心街での暮らしが長かった彼女には、下町は危険という知識はあっても実感はまだなかった。
昨日出かけた時もキルトかユートがついて来たので、誰かに襲われた経験もない。
トラブルすら見かけなかったので、下町でも明るい時間は安全なのかも……とシウルは考えた。
「バケツのご馳走、今日もありがとうね。ロックもきっと喜ぶわ」
「ク~!」
お腹を空かせていたロックが目を覚ましてリンダのもとに駆け寄る。
リンダがバケツを床に下ろすと、ロックは早速その中身を食べ始めた。
ユートがダウンした日は狩りに行けないので、リンダが持って来た食べ物は何よりのご馳走だ。
「トカゲさん、いい子いい子~」
まだロックがドラゴンだと知られたくなかった頃にユートがついた嘘を信じ続けているリンダは、ロックのことをトカゲだと思っている。
だが、本当の種族が何だろうと関係なく、リンダはロックのことが大好きだ。
ご飯の時間が終わった後は頭を撫でたり、自分の頭に乗せたり、翼をパタパタさせて風を起こしてもらったりしてロックと一緒に遊ぶ。
そして、本来なら、最後は母親に手を引かれて名残惜しそうに帰っていくはずだった。
今日、母親はいないが、代わりに早めに帰って来るように言い聞かされている。
リンダは一通り遊んで満足した後、やはり名残惜しそうにギルドを去ろうとする。
「待って! 送って行かなくて大丈夫かな?」
幼い子を1人で帰すことに不安を覚えたシウル。
それに対してリンダは少しムッとして言った。
「大丈夫だもん! 1人で帰るまでがお使いだから、最後まで1人で頑張るもん!」
「そ、そう……? じゃあ……気をつけてね。ロックのご飯ありがとう」
「トカゲさん、また来るね!」
「クー!」
すたすたとギルドを後にするリンダを、シウルはただ見送るしかなかった。
「最近の子はしっかりしてるなぁ……。私も頑張らないと!」
やる気がみなぎったシウルは再び宿題に取りかかる。
ロックは腹ごなしとばかりに翼をパタパタさせて飛行の練習をしつつ、正面のストリートが見える窓のヘリに前足をかけた。
この窓は換気のために常に開いており、そこからは道を行く人々がよく見える。
もちろん、今ギルドを出て行ったばかりのリンダが歩く姿も見えた。
ロックはその背中を目で追っていく。
しかし、次の瞬間、リンダは脇道から出て来た屈強な男に捕まり、路地裏へと引きずり込まれてしまった。
「クゥ⁉」
あまりにも一瞬の出来事……。明らかに悪事に慣れた者の動きだった。
目撃者はおらず、いたとしても一目で悪人とわかる男から見ず知らずの子どもを助けようと考える者はそういない。特にこの下町ともなれば……。
「ク、クゥ……」
シウルは宿題に集中している。
悲鳴すら上げさせない一瞬の誘拐に気づいているはずもない。
たとえ気づいていても、彼女の能力で追跡は不可能……。それどころか、見た目の良さが災いして一緒に攫われる可能性の方が高い。
とはいえ、2階にいるユートを頼るにしても彼は絶不調。
しかも事件を伝えに行く間にもリンダは遠くへ離れていく……。
今は匂いで位置が掴めているが、そのうち消えるか、他の匂いに打ち消されるかもしれない。
悩む時間が長くなるほど救出の確率は低くなっていく。
ロックは覚悟を決めた。自分がリンダを助けるんだ……と。
「クゥッ……!」
攫われたリンダを追って、ロックは窓から外へ飛び出した。
勢いそのままにリンダが引きずり込まれた路地裏に飛び込む。
しかし、そこには誰もいなかった。
「クゥ……!」
だが、匂いは確かに残っている。
肉屋の娘のリンダからは肉の匂いがするのだ。
人間には嗅ぎ分けられない微かな匂いだが、犬を遥かに上回る嗅覚を持つドラゴンのロックにはわかる。
リンダは確かにここを通ったのだ。
「クゥ、クゥ、クゥ」
匂いをたどって薄暗い路地裏を進む。
しかし途中で匂いは途切れ、ロックは手がかりを失ってしまった……かに思われた。
「クゥ!」
王都の路地はほとんどが石造りで、あまり使われない路地裏も例外ではない。
ただ、路地裏は手入れが行き届いておらず、敷石にヒビが入ったり汚れたりしている。
そんな中で、匂いが途切れた場所に敷かれている石は妙に小綺麗で妙に大きい……。
ロックは鋭い爪をその石の隙間に差し込み、力いっぱいめくり上げた。
「クォ……!」
路地裏の敷石の下には、成人男性が楽に通れるくらいの大穴が開いていた!
しかも、その穴は奥へ奥へと続いているようだ。
「クゥ!」
ロックは恐れることなく穴の中に飛び込んだ。
穴の中に何がいようと、ドラゴンより恐ろしいわけがない。
「クゥ、クゥ……クー!」
この穴の奥から匂いを感じる。
穴の中は真っ暗だが、竜の瞳は完全な闇をも見通す。
間違いなく人工的に掘られたであろう穴は追っ手を撒くためか、ご丁寧に分かれ道まで作ってあった。
だが、ロックには通用しない。迷うことなく最短ルートで穴の中を駆け抜けていく。
やがて、またもや匂いが途切れる場所にたどり着いた。
穴はまだ先に続いているが、もう匂いは感じない。
「クゥ……クー!」
ロックは脚と翼の力で真上に飛び上がった。
勢い良く頭を天井にぶつけると、天井だと思われていたものが吹っ飛び、青空が見えた。
「ク~!」
穴から抜け出したロックはここが王都の外だと気づいた。
離れたところに王都を囲う白い城壁が見える。
この穴は、悪党が城門を通ることなく外へ出るために作られたものだった。踏み固められて平らになった穴の中の地面は、この抜け道が幾度となく使用されたことを物語っている。
さらにリンダを攫った者はロックに近いスピードで穴を抜けている。
それだけこの穴を使い慣れた熟練の人攫いということだ。
「クゥ……!」
ロックはそんな論理的な思考をしているわけではない。
だが、竜の本能が敵を舐めてかかってはいけないと告げていた。
「クゥ、クゥ……グゥゥゥ⁉」
再び匂いでリンダを追おうとしたロックは顔をしかめる。嗅いだこともないような刺激臭が鼻を襲ったのだ。
これはまさに匂いによる追跡を阻むためのトラップ。
犯罪者を逮捕し裁きにかける憲兵団や、依頼で犯罪者を追うことがある冒険者の中には、鼻の利く魔獣を従えている者がいる。
今回リンダを攫った者はそういう追っ手を想定し対策する能力があった。
しかし、そんな者ですら想定していないことがある。
それは追跡者がドラゴンということだ。
「クゥ~」
初めての刺激臭にビックリしたロックの鼻だったが……すぐに慣れた。
もうこのキツい臭いの中からでもリンダの匂いを判別出来る。
「クゥ、クゥ、クゥ!」
ロックは再び駆け出す。現在地は草があまり生えていない荒野だ。
比較的見通しの良いこの場所で、すでに人攫いの姿が見えないということは、何らかの乗り物に乗った可能性が高い。それもかなり足が速い……。
しかし、ロックの足だってすこぶる速い。
ユートと共に過ごした、短くとも濃厚な戦いの日々がロックを大きく成長させている。
「クウゥゥゥーーーーーーッ‼」
矢のような速さで走るロック。
たとえどんな足の速い生き物に乗っていようと、今のロックから逃れることは出来ない。
やがて、その瞳は前を走る馬車を捉えた。屋根のない、荷馬車にも似た馬車だ。
リンダの匂いは間違いなくあの馬車から流れて来ている。そして同時に、あの馬車からは複数の人間の匂いを感じる。
人攫いは単独犯ではなかったのだ。
だが、ロックにそんなことは関係ない。
リンダを助ける……その一心でロックは馬車に迫って行った。
◇ ◇ ◇
「簡単な仕事でしたねぇ兄貴!」
ロープでぐるぐるに巻かれ、猿ぐつわを噛まされたリンダをポンと叩いて男が言う。リンダは青ざめて目に涙を浮かべていて、そのそばには4人の男がいた。不思議なことに、御者がいないのに馬車は真っすぐ走っている。
「兄貴が来るまでもなかったんじゃないですかい?」
兄貴と呼ばれたのは、伸びた黒髪と無精ヒゲが目立つ男。
彼は「へへっ」と笑いながら答える。
「いや、こういう簡単な仕事だからこそ、たまには見ておかないとな。簡単なメシの方が料理人の腕前が出るように、簡単な誘拐の方が人攫いの腕前が出る」
「流石はB級指名手配犯……! 部下の育成にも余念がありやせんね!」
「あたぼうよ。でなきゃこの『褐色の鷲』の頭目は務まらない」
王国の……それも王都を中心に暗躍する犯罪集団『褐色の鷲』。
この集団に所属するすべての人間が指名手配犯であり、リーダーである兄貴ことアラドー・ベアはB級指名手配犯に位置づけられている。
冒険者におけるB級はギルドの幹部クラス……。
同様に、犯罪者におけるB級もそれ相応の悪の才能がなければ認定されない。
戦闘能力も当然高く、彼らを正面から捕まえられるチャンスが来たとしても、上位の憲兵や騎士、冒険者がその場にいなければ逆に全滅させられてしまう。
そうして彼らは主に人攫いという犯罪を積み重ね、悪の地位を築いている。
泣く子も攫う『褐色の鷲』の悪名は王国中に轟いているのだ。
だが、そんな彼らもまったく想像していなかった。
まさかこれから、ドラゴンに追いかけられることになろうとは……。
「ところで兄貴! 今回の俺の仕事っぷりは何点くらいっすかね? 俺としては満点の出来栄えだと思ってるんすけど!」
実行犯の男がニコニコ顔で尋ねる。
今回の犯行はすべて彼による計画で、誘拐対象にリンダを選んだのも彼である。
アラドーは抜き打ちテストのような形で犯行に後から参加し、その計画性と仕事っぷりを近くで観察していたのだ。
「ふむ、じゃあ真面目な話をするか」
アラドーは自分のヒゲを撫でながら語る。
「最近繁盛してる肉屋の娘ってのは、軽めの仕事としてはいい狙いだ。身分の高い子どもや金持ちの子どもはそれだけ搾り取れる身代金も多くなるが……ガードが固い。捜査にも力が入る。安易に手を出しても自滅するだけだ」
「もちろん、わかってやす! だから、この程良い娘を選んだんすよ! そこそこ裕福だが身分は高くない。住んでる場所も中心街からは少し遠い。そして何より1人でウロウロしたがる年頃! 誘拐のチャンスはあり過ぎるほどあったっす!」
「だが、誘拐のタイミングは少し減点だな。冒険者ギルドから帰る途中に攫ってしまうと、少なくともそのギルドは責任を感じてしつこく行方を嗅ぎ回るだろう。そうしないと評判が下がってしまうからな。やるんならギルドに行く前にやるべきだった」
「そ、それはその……本来はそういう予定だったんすよ。この娘はほぼ毎日同じ時間帯に店から出て来るんで、そこを狙おうって……。ただ、兄貴が来るっていうことで少し時間がズレて……」
「……それはすまなかった」
馬車の中の空気が微妙な感じになる。
リンダはユートたちと出会う前から外で遊びたい盛りで、何かと理由をつけては忙しい母の制止を振り切り外へ飛び出していた。
彼らはそれを知ったうえで前々から誘拐計画を立てていたのだ。
「ま、まあ、下町の寂れたギルドが本気になったってたかが知れてるさ。この減点は取り消しておくとして、あのギルドについて調査はしてあるのか?」
「えっと……実は何でこの娘があのギルドに用があったのかわかってなくって……」
「まったく調査してないのか?」
「いえ、あのギルド自体は知ってます! いつ見ても人気がなくって、正直空き家なんじゃないかって思うほどなんすけど、掃除はされてるようで建物の前や窓はそこそこ綺麗なんすよ。仲間の話じゃボサッとした雰囲気の女が管理してるみたいっすけど、それ以外の情報が……」
「俺もそれくらいなら知ってるが、確かにそれ以上は知らんな……」
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