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第1章 ゴーレム大地に立つ

第15話 ゴーレムとパワー!

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 剣を取りに戻るべきか……?
 いや、俺の姿を認識したであろうトロールは、こちらに向かって走り出している。

 門はしっかり閉じて、俺は敵と向き合うべきだ。
 なぁに、剣道やら剣術も習ったことがないから、素手で戦うのとそう大差ない。

 太陽はすっかり沈み、地平線から巨大な月が昇って来た。
 その金色の光が、大地を暖かく照らす――

 ゴーレムは魔獣側に近い存在なんだろうか?
 月が昇ると共に、俺の全身に力がみなぎる……!
 それに明るい月光のおかげで、夜なのに光魔鉱石なしでも戦えそうだ。

《グオ……オ……オ……!》

 数メートル先に迫ったトロールが、地の底から響くような唸り声を上げる。
 もし生身の人間のままだったら、震えあがって動けなかっただろう。

 でも、今の俺はゴーレム。
 体だってトロールと同じくらい大きい。

《グオオオオオオ…………ッ!!》

 トロールが手に持った棍棒を振り上げ、俺に狙いを定める。
 巨体の割に動きが軽快だ。
 ここは回避するよりも受け止める!

「恐れることはない!」

 体の前で両腕をクロスし、振り下ろされた棍棒を受ける。
 衝突の瞬間――木製の棍棒の方が粉々に砕け散った!

《グ……グオオオ……ッ!?》

 あまり知性を感じなかったトロールから、明らかな困惑を感じる。
 これがゴーレムの……岩石の体の硬さなんだ!

「今度はこっちからだ!」

 正しい戦い方なんて知らない俺は、右ストレートで顔面をぶん殴ることにした。

「うおおおっ!」

 右の拳に力を……魔力を込めるイメージ……!

 ゴシャアアアアアアッ――――!

 俺が死ぬ時に聞いたような鈍い音と気味の悪い感触……。
 小細工なしの右ストレートが、トロールの顔面を完璧に捉えたんだ。
 顔が歪んだトロールは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。

「もしかして……一発KO?」

「すごいです、ガンジョーさん! あのトロールを一撃で倒すなんて!」

 見張り台からマホロの声が届く。
 とりあえず、最初の危機は乗り越えられたようで良かった……!
 屑鉄の大剣は忘れてしまったが、やはりゴーレムの強みはこの岩石の体なんだ。

「ありがとう、マホロ! 満月の夜は始まったばかりだけど、朝日が昇って来るまで頑張って戦おうと思う! だから、マホロはもう教会に帰って寝た方が……」

「いえ! 私はガンジョーさんの戦いを見守ります!」

 マホロの目は真剣そのものだった。
 これを説得して寝かしつけるには……それこそ朝までかかりそうだ。

「ガンジョーさん! 地平線に新しい魔獣が!」

「おっと、今度はどんな奴が来るんだ?」

 ◇ ◇ ◇

 満月の夜――狂暴化した魔獣たちは、朝まで絶えず押し寄せて来た。

 マホロいわく、今回は今までにないくらい数が多いとのことだ。
 魔獣の中にはオオカミみたいな奴もいれば、ゴブリンみたいな奴もいた。

 四足歩行の魔獣はすばしっこく、人型の魔獣はずる賢い。
 だが、結局すべてはパワーで解決する。

 襲いかかってきたところをパンチすれば一発だ。
 一番焦ったのは猛禽類に似た飛行魔獣で、こいつは当たり前だが空を飛んで来た。

 事前の情報だと飛行魔獣は夜に狩りをしないとのことだったが、今回は街の夜空に現れた。
 マホロから発想を得た投石で何とか撃ち落したが、空飛ぶ敵への対処はこれからの課題だな。

 まあ、今夜のところは全部撃破出来たから良し!
 戦いの勝利に加えて、少し嬉しい出来事もあった。
 戦闘の音を聞きつけた街の住人たちが見張り台に来て、俺のことを応援してくれたんだ。

 もちろん、この街に住む全員が来てくれたわけじゃない。
 それでも、わずか数人でも、俺のことを信じてくれる人が増えたのは嬉しい。

 この調子でもっと街のため、人のためになることをしよう。
 今回の防壁作りと夜間の戦闘は、かなりみんなに貢献出来たと思う。
 その証拠は……倒した魔獣の数だ。

「夜明けか……」

 東から太陽が昇り、大地を明るく照らす――

 昨日、夕陽で赤く染まっていた大地は今……魔獣の血で赤く染まっている。
 おびただしい数の死骸が瓦礫の上に横たわり、その中心には……俺。
 拳が赤く染まったゴーレムが立っていた。

「ガンジョーさん、お疲れ様です!」

「ああ! マホロもよく朝まで起きてたね」

 マホロは有言実行、俺と一緒に朝まで起きていた。
 飛行魔獣が現れた時はマホロにも危害が及ぶんじゃないかと思いヒヤッとしたが、何とか無事に
朝を迎えることが出来たな。
 眠そうな顔で笑顔を作るマホロを見ていると、戦って良かったと心から思える。

「さあ……後は私たちに任せてください」

「えっ、もう魔獣は全部倒したけど……」

「だからこそです。魔獣からお肉を頂戴しないといけません。皆さん行きましょう!」

 マホロの号令で防壁の中から刃物を持った住人たちが続々と出て来た。
 普段は無気力な人々も、新鮮な魔獣肉を前にして目が輝いている!

 徹夜明けの俺はその熱気にあてられて、少々くらっとしてしまう。
 でもまあ、とりあえず……。

「皆さんの刃物……ボロボロですね? 俺が直しますよ!」
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