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第3章 ゴーレム大地を照らす

第32話 ゴーレムと守護神の像

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「こっちに来てください、ガンジョーさん!」

 駆け出すマホロを追っていくと、街の中心の噴水にたどり着いた。
 噴水と言っても水が噴き出しているわけではなく、本来であれば吹き出た水を受け止めるための泉に水を溜めているだけだ。

 少し前までは街の貴重な水源だったけど、水路が通った今となっては水路より高いところにある分、腰に負担をかけずに洗い物が出来る場所って感じだ。
 街のランドマークとしても噴水の中央にあった像が破壊されているため、とっても地味である。

「水の魔礫石は水の流れを操れます。それを利用して、噴水を復活させましょう!」

「おー、なるほど!」

 噴水が動いたからといって明確に生活は楽にならない。
 でも、噴水をボーッと眺めて何だか癒された気分になった経験はある。
 あまり強い力を持たない魔礫石の使い道としては、まさに最適ではないだろうか!

 ……ただ、それを作るとなると気になる部分もある。

「俺……噴水の仕組みとかよく知らないし、中央の水が噴き出す部分をデザインし直すセンスもちょっと……」

「大丈夫です! デザインは考えてありますし、像の中に空洞を作って水に触れさせておけば、後は魔礫石の力で上へと吸い上げることが出来ます」

 確かに噴水の像を乗せる台座には、すでに水を通す穴が空いている。
 あの上に魔礫石を混ぜ込んで作った新しい像を乗せるだけで完成ではあるのか……?

「ちなみに像のデザインはどんな感じなんだい?」

「ズバリ、ガンジョーさんです! ガンジョーさんをモデルにした、その名も『守護神の像』を建てて、この街のシンボルにするんです!」

「……え、俺をシンボルに!?」

「はい!」

 マホロは胸を張って宣言する。
 自分のアイデアがこれ以上ない最高のものだと自信を持っているようだ。

 俺としては自分の存在を誇示こじしているようで、ちょっと微妙かな……。
 なんか自分の像を建てさせてる奴って悪者っぽいし……。

 でも、マホロは『最高のアイデアですよね!?』という目で俺の反応を待っている。
 そんな目で見られたら、俺の答えは一つしかない……!

「い、いいね! 頑張って作ってみるよ……っ!」

「やったー!」

 マホロは両手を挙げて大喜びする。
 そんなに建ててほしいなら、その夢を叶えるのもやぶさかではない。

 まずは像を作る材料である適当な石材を集めて、噴水中央の台座に乗せる。
 これと体内収納ストレージの中の魔礫石を材料にして俺の像を作るんだ。

「ガイアさん、ちょっと注文が多くなりますけど……この台座に合ったサイズの俺の像を作って、その中を空洞にして水を通せる構造にしてくれませんか?」

〈了解、像のポージングを決めてください〉

「ポージングかぁ。棒立ちは味気ないし……」

「私にいいアイデアがあります! 見てください!」

 マホロは脚を左右に開き、左手を握りしめて脇を締め、右手の手のひらを天高く突き出した。

「これです! このポーズがいいです! 右手から水を出せるようにしてください!」

「えっと……だそうです、ガイアさん」

命令実行エグゼキュート――――〉

 ガイアさんにもバッチリ伝わったようで、台座の上にはマホロのポーズそのままの俺の石像が出来上がった。

 自分の姿をまじまじと見たのは、それこそゴーレムとしてこの世界に生まれたばかりの頃、教会の姿鏡で見たくらいだ。
 それでも、この石像は『俺だ!』と本能的にわかるくらい俺の姿そのままだ。

 流石は同じ体に同居するガイアさん。
 ゴーレムの形状はしっかり把握しているというわけだ。

「マホロ、かなりいい出来じゃないかい?」

「うーん……もう少し脚が長くて、こうムキムキな感じだと思うんですけど……。顔ももう少し愛嬌があった方が、ガンジョーさんらしいような……」

 どうやら、マホロには俺の姿が相当美化されて見えているらしい。

「ガイアさん、マホロの意見に合わせて微修正お願いします」

命令実行エグゼキュート――――〉

 目の前の像の形がわずかに変化する。
 俺にとってはそんなに違うようには見えないが、マホロは心底満足したようで「おーっ!」と声を上げていた。

「ガイアさんすごいです! 私が見ているガンジョーさんそのものです!」

〈水の魔礫石を複合していますので、魔力を込めて命令を出せば、右手のひらから水が噴射されます〉

「ガンジョーさん、やってみてください!」

「えっと、像に触れて魔力を込めて命令を出す……か」

 出来たばかりの像にそっと触れ、配合されている水の魔礫石に指示を出す。
 水を吸い上げて、噴き出せ……と。
 すると、すぐに像は反応を見せ、その右手から天高く水を噴射した。

「おーっ!」
「おーっ!」

 マホロと俺の歓声がハモる。
 特に複雑な動きはなく、ただただ一筋の水が上に噴射されているだけだが、その高さと降って来る水は思ったより見応えがある。

 噴水の近くにいた住人たちも感嘆かんたんの声を漏らしながら空を見上げる。
 作る前はそこまで乗り気じゃなかったけど、確かにこれは街に必要な物かもしれないな。

 ただし、問題点もある……。
 それは俺が触れて魔力を込めている間しか動かないということ。
 俺が近くにいない時は、俺の像がポツンとたたずんでいるだけなんだ。

 ガイアさんの造形は見事なので、石像としての見応えはある。
 だけど、噴水として機能させるために、俺の行動時間が削られるのは痛いかも……。

 俺がいなくても一定時間ごとに稼働し、噴き上がる水で人々を癒してくれる仕組みが必要だ。
 ただ、頭の中でそう願っても、ガイアさんが反応しない。
 つまり、今の俺ではその仕組みを作れないということだ。

「いつかは俺がいなくても水が噴き出るようにするさ。でも、今日のところはこれでおしまいにしよう」

 像から手を離すと噴水は当然止まってしまったが、見ていた人たちが拍手をくれた。
 俺の像そのものも結構好評なようだ。

 少しずつ俺もこの街に馴染んで来ている証拠だろうか。
 でも、やっぱり自分自身の像というのは気恥ずかしいな……!

「……あ」

 その時、俺は気づいた。
 俺はもうゴーレムの姿を完全に自分だと思っていることに。
 自分と思っていなければ、あの像はただのゴーレムの像にしか思えないはずだ。

 ゴーレムになってしまったことは最初からわかっていた。
 でも、それを心から受け入れ、岩石の体と魂が一体化したことを改めて自覚した。

 全身に電流が流れたような衝撃が走り、ビクンッと体が震えた――

「……うわっ! ガンジョーさん、手が……っ!」

 マホロの驚いた声で我に返り、自分の右手を見てみる。

「うわっ!? なんじゃこりゃああああああっ!?」

 俺の右手はドリルのように高速回転していた!
 腕はまったく動かず、手首から先だけがぐるぐるしている!

 こんな動き人間の関節ではありえない……。
 でも、いくつかの岩石がくっついて構成されたゴーレムの体なら何も問題ない。

 きっと腕もぐるぐる出来るし、頭だって三百六十度回るだろう。
 自分の体がゴーレムだという、さらなる自覚が新しい動きを目覚めさせたんだ。
 それを肯定するガイアさんの声が聞こえる。

〈魂と体の適応が次の段階へ進みました。引き続き適応を続けます〉

「魂と体の適応って何ですか?」

 マホロがガイアさんに質問する……んっ!?

「マホロ、ガイアさんの声が聞こえるのか!? 今までは聞こえなかったはずじゃ……」

「……あっ!? 確かにさっきから聞こえてます!」

 そういえば、噴水に魔力を込める前もガイアさんの声に反応していたかも……!?
 言われるがまま噴水を直すことで、こんな変化が起こるなんて想像もしていなかった!
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