1 / 25
雨宿りさせてください
しおりを挟む
せびり泣く雨に、悲痛の雷鳴は行き場をなくした男の心のようであった。甘ったるい恋人の吐息、見知らぬ男の靴、無我夢中で駆け抜ける夜の街。
誰一人キャリーバックを引く男に振り返ることはない。ネオンの明かりすら彼の心を照らすことはできない。
傘を貸してくれる手もなく、当てなく彷徨う男に一筋の光が目に留まる。
ぎらつく光の中で控えめに輝くランプが深緑色に塗られた木の扉に見覚えがあった。数少ない友人に連れられていく行きつけのバーだ。吸い込まれるようにドアノブに手をかければ、カランコロンとベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
「雨宿りさせてください」
これが彼、雨霧 翔平と晴明 拓哉の同居の始まりである。
「ただいま」
いつもより遅めの帰宅をした雨霧は、恋人の出雲 馨が待つマンションへと足を踏み入れた時違和感を覚えた。いつもなら迎えに来てくれるはずなのに来ない。リビングも暗いままだ。
寝ているのだろうと思い、気にしないようにしたが見かけない靴を見つける。恋人にしては大きく綺麗な革靴に不安が居座り始めた。音を殺して、息を殺して、寝室に耳をすますと、水音と甘い恋人の吐息。笑いあう男たちの囁きを聞いたとき、ぶわりと映像が流れる。感情が追いつく前に体が動いていた。
外はすでに土砂降りの雨であり、涙を流す雨霧を隠す。夜の町は無関心であった。失恋した男などに興味がない。
体も心も冷え切った雨霧は無意識に温もりを求めていた。しかし、慰めてくれる関係の深い友人などいない。親も疎遠気味。誰一人今の雨霧に寄り添うものはいない。
そんな中見つけた捌け口。表面上の友人に連れられよく行くバーレインだけが傷ついた心の拠り所であった。
濡れた雨霧に嫌な顔何一つ見せず、いつもの席に座るように言うバーテンダー晴明は暖かいものでもと季節外れのホットワインを出す。
一口飲むと冷えた心にも染みわたり、塞いでた栓も緩んでいく。
「おれのどこがいけなかったんだよ……。教えてくれよ」
もう子供でもなければ、女でもないのにせびり泣き心の内を明かす雨霧に晴明は困った笑みを見せて相槌をうつ。
止まらなくてはという気持ちは雨霧にもあった。しかし、お酒もあり止まらない。申し訳ない気持ちと抑えられない感情の板挟みに苦しんでいると、晴明が口を開く。
「少し尋ねたいことがあります。雨霧さんは今日泊まる場所はありますか?」
「あっ……」
閉店間際の時間帯。こんな時間に空いてるホテルなどあるわけない。勢いでマンションから出た。これからの行先もない。どうしようもない状況に青ざめた雨霧を、哀れんでか晴明は提案をする。
「もしよろしければ私の家に来ませんか?」
「いいんですか?」
「ええ、このまま路上に迷われては心苦しいですから」
霧雨からしたら願ったりだった。断る理由もない。しかし、心の奥に潜んでいる暗い己が果たしていいのかと囁いているのだ。裏切られないだろうか。大丈夫だろうか。そのような感情が晴明にも伝わったのかグラスを下げながら、控えめに言うのだ。
「勿論、無理には言いません。霧雨さんの自由ですから」
そう穏やかな顔に言うものだからか、霧雨の荒んだ心も静まっていく。
「泊めさせてください」
無意識のうちに声に出ていた。ただ単に寂しかっただけなのかもしれないし、雨宿りをしたかったのかもしれない。雨霧はまだ自分の気持ちが分からなかった。
誰一人キャリーバックを引く男に振り返ることはない。ネオンの明かりすら彼の心を照らすことはできない。
傘を貸してくれる手もなく、当てなく彷徨う男に一筋の光が目に留まる。
ぎらつく光の中で控えめに輝くランプが深緑色に塗られた木の扉に見覚えがあった。数少ない友人に連れられていく行きつけのバーだ。吸い込まれるようにドアノブに手をかければ、カランコロンとベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
「雨宿りさせてください」
これが彼、雨霧 翔平と晴明 拓哉の同居の始まりである。
「ただいま」
いつもより遅めの帰宅をした雨霧は、恋人の出雲 馨が待つマンションへと足を踏み入れた時違和感を覚えた。いつもなら迎えに来てくれるはずなのに来ない。リビングも暗いままだ。
寝ているのだろうと思い、気にしないようにしたが見かけない靴を見つける。恋人にしては大きく綺麗な革靴に不安が居座り始めた。音を殺して、息を殺して、寝室に耳をすますと、水音と甘い恋人の吐息。笑いあう男たちの囁きを聞いたとき、ぶわりと映像が流れる。感情が追いつく前に体が動いていた。
外はすでに土砂降りの雨であり、涙を流す雨霧を隠す。夜の町は無関心であった。失恋した男などに興味がない。
体も心も冷え切った雨霧は無意識に温もりを求めていた。しかし、慰めてくれる関係の深い友人などいない。親も疎遠気味。誰一人今の雨霧に寄り添うものはいない。
そんな中見つけた捌け口。表面上の友人に連れられよく行くバーレインだけが傷ついた心の拠り所であった。
濡れた雨霧に嫌な顔何一つ見せず、いつもの席に座るように言うバーテンダー晴明は暖かいものでもと季節外れのホットワインを出す。
一口飲むと冷えた心にも染みわたり、塞いでた栓も緩んでいく。
「おれのどこがいけなかったんだよ……。教えてくれよ」
もう子供でもなければ、女でもないのにせびり泣き心の内を明かす雨霧に晴明は困った笑みを見せて相槌をうつ。
止まらなくてはという気持ちは雨霧にもあった。しかし、お酒もあり止まらない。申し訳ない気持ちと抑えられない感情の板挟みに苦しんでいると、晴明が口を開く。
「少し尋ねたいことがあります。雨霧さんは今日泊まる場所はありますか?」
「あっ……」
閉店間際の時間帯。こんな時間に空いてるホテルなどあるわけない。勢いでマンションから出た。これからの行先もない。どうしようもない状況に青ざめた雨霧を、哀れんでか晴明は提案をする。
「もしよろしければ私の家に来ませんか?」
「いいんですか?」
「ええ、このまま路上に迷われては心苦しいですから」
霧雨からしたら願ったりだった。断る理由もない。しかし、心の奥に潜んでいる暗い己が果たしていいのかと囁いているのだ。裏切られないだろうか。大丈夫だろうか。そのような感情が晴明にも伝わったのかグラスを下げながら、控えめに言うのだ。
「勿論、無理には言いません。霧雨さんの自由ですから」
そう穏やかな顔に言うものだからか、霧雨の荒んだ心も静まっていく。
「泊めさせてください」
無意識のうちに声に出ていた。ただ単に寂しかっただけなのかもしれないし、雨宿りをしたかったのかもしれない。雨霧はまだ自分の気持ちが分からなかった。
0
あなたにおすすめの小説
お使いはタバコとアイスとお兄さん
秋臣
BL
風景が動いた気がした。
居酒屋でバイトをしている俺はよく客からお使いを頼まれる。
お使い途中の陸橋で見かけるその人はいつも寂しそうな顔をしていて、俺はそれが気になっていた。ある夜、降り出した雨の中佇むその人を放っておけず傘を差し出した俺。
ただの風景だったはずのその人が熱を持った人間だと初めて感じた…
曖昧な関係
木嶋うめ香
BL
笹川蛍(ささがわけい)はリモートワーク勤務の会社員。
高校からの友達である中村拓(なかむらたく)と一緒に暮らしている。
会社支給のパソコンの交換のため久し振りに会社に出ていた蛍は、コンビニで明日の朝食用の食材と一緒に買ったコーヒーとドーナツを車の中で食べながら、拓と暮らす部屋ではドーナツなんて食べたことなかったなと気がついた。
Xのルクイユ・アートフェスティバル(@RecueilArtFest)様の素敵企画『ルクイユのおいしいごはんBL』に参加中です。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
恋文より、先にレポートが届いた~監視対象と監視官、感情に名前をつけるまで
中岡 始
BL
政府による極秘監視プロジェクト──その対象は、元・天才ハッカーで現在は無職&生活能力ゼロの和泉義人(32歳・超絶美形)。
かつて国の防衛システムに“うっかり”侵入してしまった過去を持つ彼は、現在、監視付きの同居生活を送ることに。
監視官として派遣されたのは、真面目で融通のきかないエリート捜査官・大宮陸斗(28歳)。
だが任務初日から、冷蔵庫にタマゴはない、洗濯は丸一週間回されない、寝ながらコードを落書き…と、和泉のダメ人間っぷりが炸裂。
「この部屋の秩序、いつ崩壊したんですか」
「うまく立ち上げられんかっただけや、たぶん」
生活を“管理”するはずが、いつの間にか“世話”してるし…
しかもレポートは、だんだん恋文っぽくなっていくし…?
冷静な大宮の表情が、気づけば少しずつ揺らぎはじめる。
そして和泉もまた、自分のために用意された朝ごはんや、一緒に過ごすことが当たり前になった日常…心の中のコードが、少しずつ書き換えられていく。
──これは「監視」から始まった、ふたりの“生活の記録”。
堅物世話焼き×ツンデレ変人、心がじわじわ溶けていく、静かで可笑しな同居BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる