44 / 83
愛の言葉2
しおりを挟む
さぞ真っ赤であろう俺を抱きかかえたセブさんは、女中さんたちに食事を下げるように指示を出すと、食堂を出て二階の一室に向かった。たぶん、今日セブさんが寝室として使っている部屋だ。ちなみに、部屋に向かう間中、俺は羞恥でセブさんの肩に顔面を擦り付け続け、彼はくすくすそれを笑っていた。
「ここで待っていてくれ」
ゆっくりと下ろされた先は、俺がこの屋敷で使わせてもらっているものより更に大きく立派なベッドで、主のために清潔に整えられていて心地良かった。
セブさんの体が離れていくのが寂しくて、雛のようにじっと目で追う。日中セブさんが着ていた白い騎士服が掛けられたワードローブの中から、黒革張りの小箱を取り出して、彼はすぐに戻って来てくれた。
「それはなんですか?」
俺の問いを淡く微笑んで躱すと、彼は俺の隣に腰掛けて俺の顔を覗き込んだ。「口付けていいか」と囁かれて、返事の代わりに俺から唇が触れるだけのキスをする。彼は男くさく喉で笑ってから、舌を挿し入れてじっくり俺の口内を好き放題にした。
唇が離された時には俺は快感とアルコールの熱のせいで息も絶え絶えで、抵抗らしい抵抗も出来ず、飲み込めなくて口の端を伝った唾液を舐め取られたり、耳の中まで舌を這わされたり、皮膚の薄い首筋を食まれたり、されるがままであうあうと啼いた。
「あっ…ん、ダメ、酷いです」
「…嫌か?」
「気持ちいからダメです…」
「そうか。気持ち良いか」
意地悪く口の端を持ち上げたセブさんは、俺の背中を部屋着の上から意味深に撫でながら「可愛らしくて堪らない」と色っぽい声を耳に流し込んだ。俺の背筋がぞくりと震えた。彼の全てに反応してしまう体が憎たらしい。
「意地悪…」
手加減して欲しくて睨んだつもりだったのに、彼は堪えた様子もなく、楽しそうにまた喉奥で笑って口付けを仕掛けてくる。不覚にも、意地悪な彼も好きだなんて思ってしまった。
唇を離して、力の抜けた俺の体が倒れてしまわないよう片腕で背中を支えながら、セブさんが「ハバト」と俺の名を甘ったるく呼んだ。
俺は閉じていた目を開けて、彼の白金の長い睫毛に縁取られたエメラルドを見つめ返すことで応えた。鼻先の触れる距離に、俺の大好きな優しい笑顔がある。
「ハバト、愛している」
頬に優しく唇を落とされ、心が歓喜で沸き立つ。
徐ろに、彼の大きな手が俺の手のひらの上に先程の小箱を乗せた。耳に心地よい低音が、「開けてくれ」と促す。中身に見当のついてしまった俺は、ほんの少し震える指でそっと蓋に手をかけた。それはすんなり開き、中には想像の通り一対の指輪が入っていた。
「どうか私と結婚して欲しい」
嬉しい。こぼれる涙と嗚咽が邪魔をして言葉が出ない。情けなく裏返った「はい」を補うために強く頷く。
「可愛い私の魔女。絶対に離さない。覚悟してくれ」
背中にまわされていた腕に力が込められて抱き寄せられる。大きな身体に包まれて、愛おしさと安堵感で満たされる。生まれて初めて感じる強い充足感に、彼が唯一無二だと実感する。
俺はもう、セブさん以外を愛せない。唐突にそう確信する。
「俺も、あなたが大好きです。セブさんを、あなただけを、愛してます。だから、セブさんも俺だけを愛して。お願い…」
俺の無様な懇願に、セブさんは顔を優しく綻ばせて「当然だろう」と強く言い切って、より強く抱き締めてくれた。
嬉しくて涙がとめどなく流れる。泣き続ける俺を煩わしがる素振りなど微塵もなく、セブさんは何度も頭や背を撫でて、時折唇で涙を拭っては幸せそうにキラキラと微笑んだ。
「これ、セブさんが着けてください」
指輪を差し出してねだると彼は鷹揚に頷いて、一対のうち、内径のやや小さな方を箱から抜き取った。角取りのされた滑らかな白金色の指輪は、飾り気なくすんなりした意匠で美しい。
彼に恭しく左手を取られ、その様をじっと見届ける。指輪は申し合わせたようにぴたりと俺の薬指にはまった。艷やかな指輪と、それがはまっている俺の指を、彼は合わせて宝物のように包み撫でて口付けた。
「私の分はハバトに頼めるか」
「はい」
差し出された無骨な騎士の手は、長い指と厚い手のひらをしている。それに指を絡めて一度頬ずりしてから、小箱から取り出した誓いの指輪をそっとその薬指にはめた。
揃いの様が嬉しくて嬉しくて、お世辞にもキレイとは言えない涙でぐしゃぐしゃな顔で笑うと、彼は「可愛らしさだけで私を殺すつもりか」と血迷ったことを口走って、繰り返し口付けを仕掛けてきた。
口付けの激しさと、泣き疲れた気怠さと、ふわふわとした酔いが合わさって、俺はいつの間にか彼の腕の中でとろとろと眠気に襲われ、知らぬ間に眠りに落ちた。
その晩は夢らしい夢は見なかったが、いつまでも愛を囁く彼の声が聞こえていて、ずっとずっと幸せな気分でいられた。
「ここで待っていてくれ」
ゆっくりと下ろされた先は、俺がこの屋敷で使わせてもらっているものより更に大きく立派なベッドで、主のために清潔に整えられていて心地良かった。
セブさんの体が離れていくのが寂しくて、雛のようにじっと目で追う。日中セブさんが着ていた白い騎士服が掛けられたワードローブの中から、黒革張りの小箱を取り出して、彼はすぐに戻って来てくれた。
「それはなんですか?」
俺の問いを淡く微笑んで躱すと、彼は俺の隣に腰掛けて俺の顔を覗き込んだ。「口付けていいか」と囁かれて、返事の代わりに俺から唇が触れるだけのキスをする。彼は男くさく喉で笑ってから、舌を挿し入れてじっくり俺の口内を好き放題にした。
唇が離された時には俺は快感とアルコールの熱のせいで息も絶え絶えで、抵抗らしい抵抗も出来ず、飲み込めなくて口の端を伝った唾液を舐め取られたり、耳の中まで舌を這わされたり、皮膚の薄い首筋を食まれたり、されるがままであうあうと啼いた。
「あっ…ん、ダメ、酷いです」
「…嫌か?」
「気持ちいからダメです…」
「そうか。気持ち良いか」
意地悪く口の端を持ち上げたセブさんは、俺の背中を部屋着の上から意味深に撫でながら「可愛らしくて堪らない」と色っぽい声を耳に流し込んだ。俺の背筋がぞくりと震えた。彼の全てに反応してしまう体が憎たらしい。
「意地悪…」
手加減して欲しくて睨んだつもりだったのに、彼は堪えた様子もなく、楽しそうにまた喉奥で笑って口付けを仕掛けてくる。不覚にも、意地悪な彼も好きだなんて思ってしまった。
唇を離して、力の抜けた俺の体が倒れてしまわないよう片腕で背中を支えながら、セブさんが「ハバト」と俺の名を甘ったるく呼んだ。
俺は閉じていた目を開けて、彼の白金の長い睫毛に縁取られたエメラルドを見つめ返すことで応えた。鼻先の触れる距離に、俺の大好きな優しい笑顔がある。
「ハバト、愛している」
頬に優しく唇を落とされ、心が歓喜で沸き立つ。
徐ろに、彼の大きな手が俺の手のひらの上に先程の小箱を乗せた。耳に心地よい低音が、「開けてくれ」と促す。中身に見当のついてしまった俺は、ほんの少し震える指でそっと蓋に手をかけた。それはすんなり開き、中には想像の通り一対の指輪が入っていた。
「どうか私と結婚して欲しい」
嬉しい。こぼれる涙と嗚咽が邪魔をして言葉が出ない。情けなく裏返った「はい」を補うために強く頷く。
「可愛い私の魔女。絶対に離さない。覚悟してくれ」
背中にまわされていた腕に力が込められて抱き寄せられる。大きな身体に包まれて、愛おしさと安堵感で満たされる。生まれて初めて感じる強い充足感に、彼が唯一無二だと実感する。
俺はもう、セブさん以外を愛せない。唐突にそう確信する。
「俺も、あなたが大好きです。セブさんを、あなただけを、愛してます。だから、セブさんも俺だけを愛して。お願い…」
俺の無様な懇願に、セブさんは顔を優しく綻ばせて「当然だろう」と強く言い切って、より強く抱き締めてくれた。
嬉しくて涙がとめどなく流れる。泣き続ける俺を煩わしがる素振りなど微塵もなく、セブさんは何度も頭や背を撫でて、時折唇で涙を拭っては幸せそうにキラキラと微笑んだ。
「これ、セブさんが着けてください」
指輪を差し出してねだると彼は鷹揚に頷いて、一対のうち、内径のやや小さな方を箱から抜き取った。角取りのされた滑らかな白金色の指輪は、飾り気なくすんなりした意匠で美しい。
彼に恭しく左手を取られ、その様をじっと見届ける。指輪は申し合わせたようにぴたりと俺の薬指にはまった。艷やかな指輪と、それがはまっている俺の指を、彼は合わせて宝物のように包み撫でて口付けた。
「私の分はハバトに頼めるか」
「はい」
差し出された無骨な騎士の手は、長い指と厚い手のひらをしている。それに指を絡めて一度頬ずりしてから、小箱から取り出した誓いの指輪をそっとその薬指にはめた。
揃いの様が嬉しくて嬉しくて、お世辞にもキレイとは言えない涙でぐしゃぐしゃな顔で笑うと、彼は「可愛らしさだけで私を殺すつもりか」と血迷ったことを口走って、繰り返し口付けを仕掛けてきた。
口付けの激しさと、泣き疲れた気怠さと、ふわふわとした酔いが合わさって、俺はいつの間にか彼の腕の中でとろとろと眠気に襲われ、知らぬ間に眠りに落ちた。
その晩は夢らしい夢は見なかったが、いつまでも愛を囁く彼の声が聞こえていて、ずっとずっと幸せな気分でいられた。
250
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。
そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。
そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。
そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?
【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話
紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。
理想の彼氏はスパダリよ!
スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。
受:安田陽向
天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。
社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。
社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。
ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。
攻:長船政景
35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。
いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。
妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。
サブキャラ
長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。
抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。
兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。
高田寿也:28歳、美咲の彼氏。
そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。
義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで
月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆
辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。
けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。
孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。
年齢差、身分差、そして心の距離。
不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる