稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ

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愛の言葉2

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 さぞ真っ赤であろう俺を抱きかかえたセブさんは、女中さんたちに食事を下げるように指示を出すと、食堂を出て二階の一室に向かった。たぶん、今日セブさんが寝室として使っている部屋だ。ちなみに、部屋に向かう間中、俺は羞恥でセブさんの肩に顔面を擦り付け続け、彼はくすくすそれを笑っていた。

「ここで待っていてくれ」

 ゆっくりと下ろされた先は、俺がこの屋敷で使わせてもらっているものより更に大きく立派なベッドで、主のために清潔に整えられていて心地良かった。
 セブさんの体が離れていくのが寂しくて、雛のようにじっと目で追う。日中セブさんが着ていた白い騎士服が掛けられたワードローブの中から、黒革張りの小箱を取り出して、彼はすぐに戻って来てくれた。

「それはなんですか?」

 俺の問いを淡く微笑んで躱すと、彼は俺の隣に腰掛けて俺の顔を覗き込んだ。「口付けていいか」と囁かれて、返事の代わりに俺から唇が触れるだけのキスをする。彼は男くさく喉で笑ってから、舌を挿し入れてじっくり俺の口内を好き放題にした。
 唇が離された時には俺は快感とアルコールの熱のせいで息も絶え絶えで、抵抗らしい抵抗も出来ず、飲み込めなくて口の端を伝った唾液を舐め取られたり、耳の中まで舌を這わされたり、皮膚の薄い首筋を食まれたり、されるがままであうあうと啼いた。

「あっ…ん、ダメ、酷いです」

「…嫌か?」

「気持ちいからダメです…」

「そうか。気持ち良いか」

 意地悪く口の端を持ち上げたセブさんは、俺の背中を部屋着の上から意味深に撫でながら「可愛らしくて堪らない」と色っぽい声を耳に流し込んだ。俺の背筋がぞくりと震えた。彼の全てに反応してしまう体が憎たらしい。

「意地悪…」
 
 手加減して欲しくて睨んだつもりだったのに、彼は堪えた様子もなく、楽しそうにまた喉奥で笑って口付けを仕掛けてくる。不覚にも、意地悪な彼も好きだなんて思ってしまった。

 唇を離して、力の抜けた俺の体が倒れてしまわないよう片腕で背中を支えながら、セブさんが「ハバト」と俺の名を甘ったるく呼んだ。
 俺は閉じていた目を開けて、彼の白金の長い睫毛に縁取られたエメラルドを見つめ返すことで応えた。鼻先の触れる距離に、俺の大好きな優しい笑顔がある。

「ハバト、愛している」

 頬に優しく唇を落とされ、心が歓喜で沸き立つ。
 徐ろに、彼の大きな手が俺の手のひらの上に先程の小箱を乗せた。耳に心地よい低音が、「開けてくれ」と促す。中身に見当のついてしまった俺は、ほんの少し震える指でそっと蓋に手をかけた。それはすんなり開き、中には想像の通り一対の指輪が入っていた。

「どうか私と結婚して欲しい」

 嬉しい。こぼれる涙と嗚咽が邪魔をして言葉が出ない。情けなく裏返った「はい」を補うために強く頷く。

「可愛い私の魔女。絶対に離さない。覚悟してくれ」

 背中にまわされていた腕に力が込められて抱き寄せられる。大きな身体に包まれて、愛おしさと安堵感で満たされる。生まれて初めて感じる強い充足感に、彼が唯一無二だと実感する。
 俺はもう、セブさん以外を愛せない。唐突にそう確信する。

「俺も、あなたが大好きです。セブさんを、あなただけを、愛してます。だから、セブさんも俺だけを愛して。お願い…」

 俺の無様な懇願に、セブさんは顔を優しく綻ばせて「当然だろう」と強く言い切って、より強く抱き締めてくれた。
 嬉しくて涙がとめどなく流れる。泣き続ける俺を煩わしがる素振りなど微塵もなく、セブさんは何度も頭や背を撫でて、時折唇で涙を拭っては幸せそうにキラキラと微笑んだ。


「これ、セブさんが着けてください」

 指輪を差し出してねだると彼は鷹揚に頷いて、一対のうち、内径のやや小さな方を箱から抜き取った。角取りのされた滑らかな白金色の指輪は、飾り気なくすんなりした意匠で美しい。
 彼に恭しく左手を取られ、その様をじっと見届ける。指輪は申し合わせたようにぴたりと俺の薬指にはまった。艷やかな指輪と、それがはまっている俺の指を、彼は合わせて宝物のように包み撫でて口付けた。

「私の分はハバトに頼めるか」

「はい」

 差し出された無骨な騎士の手は、長い指と厚い手のひらをしている。それに指を絡めて一度頬ずりしてから、小箱から取り出した誓いの指輪をそっとその薬指にはめた。
 揃いの様が嬉しくて嬉しくて、お世辞にもキレイとは言えない涙でぐしゃぐしゃな顔で笑うと、彼は「可愛らしさだけで私を殺すつもりか」と血迷ったことを口走って、繰り返し口付けを仕掛けてきた。


 口付けの激しさと、泣き疲れた気怠さと、ふわふわとした酔いが合わさって、俺はいつの間にか彼の腕の中でとろとろと眠気に襲われ、知らぬ間に眠りに落ちた。
 その晩は夢らしい夢は見なかったが、いつまでも愛を囁く彼の声が聞こえていて、ずっとずっと幸せな気分でいられた。
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