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第2章
多層世界
しおりを挟むリアムの意識が戻り出し、視界が開け始める
辺りは暗く何もない世界に見えた
白い霧が足元をユラユラと漂う……
辺りを見渡すが……何も無い、ただ地平線までひたすらの
闇の世界リアムは足元の平行感覚を霧に頼り、彷徨い始めた。
あの世なのか?
千切れとんだ肉体の痛みが、否応無しに恐怖を駆り立てる
焦るリアムは叫んでみた、それしか思いつかない程の
深い闇に本能的行動に出る。
「おーいっ!誰か居ないのかぁぁぁああ……」
返答は無い……
暗闇は何事も無いように静まり
言葉をも飲み込むかのように静寂する……
ただ、ひたすらに闇と霧の世界を駆け出すリアム
どれだけ走ったのか、不思議と疲れは感じる事は無かった
出口も無い、月明かりも無い、ひたすらに純粋な闇の世界
焦る心が絶望に変わらぬ様に、ひたすらに自我を保つ
「おれ……には、おれには……まだやる事がある、
ここで終わる訳には……いかねぇんだ」
何があっても、俺は戻るんだと
やがて走り続けて時は三日経ち、膝を折るリアム
昼夜も無く音も光も無い
この世界の矛盾さに思考を働かせるも常識や非常識
という言葉すら当てはまらない
この世界の存在は、彼から考える思考すら奪って行く……
身体を預ける木々も無く、地面すら分からない霧の地面に
背を預け、仰向けになるも空も無い。
その情景にリアムはさらに一晩、体を預た……
ふと、我に帰るリアムは送られた意味を考えた。
精霊達の話した地獄とは何だのだろう……
この無が地獄なのかと……
無は確かに何事にも変えられない地獄であるだろう。
何かをする訳でも無く、何もやれる事もない、視界に映る闇は
己の手の先も見えない程に深い。
それを考える思考すら徐々に奪われる感覚を彼は感じていた
考える事を辞めちゃダメだと本能が彼に訴えかける
(時間を無駄にしちゃいけねぇだ)
彼は身を起こし、唯一ある平行感覚を頼りに鍛錬を始める
足元にある霧が動くたびに渦を作り、彼の体捌きに合わせ
踊る様に波打ち始める。
滴る汗にリアムは無の世界ながらも自分は存在する物質
という概念に確信が持てた
私は闇の一部では無い。
何も無い世界かも知れないが、自分は確かに
此処に存在する事を……
大きく息を吸い込み、彼は誰も居ない前方でもなく
後方でもなく、下でも上でもない
焦りによる狂乱の叫びでも無く
今、居るこの世界自身に向かい大きく叫んだ
「おでの名はリアムっ!おでには!やらねば成らぬ事がある」
世界よ!おでは強くなりに来たっっ!」
「おでに力を貸してくでぇぇぇぇええ!」
……
返答は無かった。
……
五分程時は経ったが、リアムはその場を微動だにせず
前を向いて居た。彼が語りかけたのは、この世界、何処に移動
しようが同じ事、諦める事が出来ないのなら
動揺する事もまた無意味。
彼は物でも人でもなく、この世界自身を信じた。
全てには意味がある、自分がこの世界に来た事も
理由があって精霊達が此処に送ってくれた事
ポケットに握りしめたムウ家族の薬草が
心が、成し遂げなければならない家族への愛が
彼をこの場所に居ながらも
存在する個々としての認識を取り戻させた。
この世界は無ではない……と
そして自分はこの無の一部では無いと
すると声がしばらくして聞こえて来た
謎の声「求める者よ……よく気付いた……」
「この世界は闇に見えるが、闇だけの存在は
理の世界には存在しない」
「闇だけの世界にするかは、己自身なのだ、多くの者はこの闇に
絶望し見えるだけの、この世界に考えることを辞め
己を見失う 己を見失う者は、この世の道理に反する事なのだ」
「やがて反した者は闇と同化し、光と闇の均衡にすら反し
存在自体が 存在しなくなる。」
「求める者よ……お前は存在する事を気付いた。
己の生きる世界で生かされるだけの存在としてでは無く
己自身、自らの 意思で今、まさに存在したのだ」
「では、私の元へ来なさい……今のお前なら私の元へ
辿りつけるであろう」
声は消え、再び闇だけの世界が広がる……
先程までの声が嘘の様に再び音も、光も無い……
ただひたすらに闇の世界が彼を覆う
さらに二日経ち彼は、声の主の場所を彷徨う。
確実に、存在する謎の声の持ち主の元へ向かう為に
時は二日さらに経ち、倒れ込む彼
この世界では、元々彼の身体はこの世界へ誘われた時に
肉体は粉々に崩壊しているからか、魂の存在なのかは
彼自身にも解らずにいたが不思議と
空腹に襲われる事は一度も無かった。
疲労だけが残る修行に彼は倒れ込んだ
飛散する様に倒れ込んだ彼に霧が身体を包み込む
その霧をボーと見つめる彼は気付いた
唯一、闇の中で存在するこの霧に動いていては気付かない程の
静かで緩やかな流れに
彼は飛び起き謎の声の話した『今のお前なら気付く』
と云う言葉の意味を理解した。
個の存在を認識しつつ、個は一つでは無い、そしてそれには
意味がある。
一つの物事と同化する事なく、視野を広める事が目的を
たぐり寄せる事だと
何も無い様に見える闇も、薄く白い霧も自分自身も
さらにその中に動く流れすらも個々に存在する者だと云う事
一見何も無い様に見えるこの世界はとてもシンプルに答えを
導くものであった。
その流れに添い、しばらく歩くとリアムの前に無数の蝋燭に
囲まれた人の形をしたテルテル坊主の様な
ハロウィーンのカボチャにも見える頭に白い布を被り
体には袈裟の様な服を着る者が、座して居た。
謎の声の者「よく来たな……求める者よ、己が道に迷う事なく
ようやくお前自身に会えた様だな。
「私は次元の間に立つ者、名をヌクと申す」
ヌク「ではお前に力を授けよう……と言いたいが、そんな都合の
良い物は有りはせぬ、己の力は己で培うがよい」
「個々存在する物は全てに於いて秘めたる力を持つものだ。
人には頭脳、動物には力、魚には水、鳥には空がある様に
そして、その種の中にも一つ一つ個性があり能力も違う」
「人で言うならば頭の良い者、運動が出来る者
適応性が高いもの昆虫にも糸を操るもの、毒を体内に持つもの
擬似特技を持つもの」
「お前の能力はお前が持ち合わせるもので作り出して行くものだ
力にも様々な力が有る。物理的な力、それを生み出す知識の
力もあれば人を惹きつけ味方にする力もある」
ヌクの言葉が頭にに響く……
正確には言葉を聞くのではなく、脳に直接語りかける
ヌクの言葉はリアムの身体を動けなくしていた。
ヌク「動けるであろう、それは私がお前を動けなくしている
のでは無い。お前自身がこの言葉を聞く必要があると本能で
感じているからだ」
「今はお前自身を信じ、私の言葉に己の心の耳で聞くがよい、
では続けよう……」
「往々にして力を求めるには代償が必要だ。
修行にかかる時間もまた、代償とも言えるであろう
お前は長き時、監禁により時間を殺されたものであろうが
その時間に修行に励んだ事により己を生かしたのだ。
「黒と白がお前を此処へ寄こしたのには訳が有る
この狭間の世界には時間という物が存在しないのだ」
「世界というものは一つでは無い、お前が住む世界の他にも
沢山の世界があるその境界線の一つが此処であるのだ」
「最近はお前の世界に紛れ込んでいる魔物の多くは
他の世界から来たものなのだ、しかしそれは遠い距離の話では
無い実はすぐ側に在るものなのだよ」
「絶対的存在の世界を上とすると、その下にも世界はある
ある世界では酒に比重の違う液体を入れるカクテルという
物がある」
ヌクは手の平をリアムの前に出すと何処からともなく
瓶に入った、その多層になった液体をリアムに見せた。
その不思議な液体は多種にわたる色合いが重なるが、交わらず
重なならぬ事を示していた
「その液体の比重が世界のような物なのだ」
「本来上の層は下と交わらず、その世界に住む者は他の層へと
行く事は出来ぬ様にな」
「また其れを外から見る今のお前の様な世界もまた
このカクテルの様にある訳だ」
「一つでありながら一つでは無いその層は横にも
広がっているのだよ」
「幽霊も魔物も宇宙も、目の見える物も有れば見えないものも
ある層みたいな物なのだ」
「お前を構築する細胞と言われる世界もまた目には見え無いが
存在するものだ」
「人の心も然り、存在は有るのに見えないが人を傷つけ
助けもする」
「目に見える物だけが真実では無い。 むしろ目に見えない
物の影響の方が多いのだ」
「常に人は多層世界の中に存在する」
「しかし近年多層世界はその均衡を崩し始めている
その世界の隔たりを大きく開こうとする存在がいる」
「今その裂け目は簡単に言うと上と下を隔てる層に穴が開き
かけておると言う感じか……」
「縦層には上に行くと、この世を創造した絶対的存在の世界
その世界に近くなる程この世の理に近くなる、それは
その世界との繋がりが深くなるという事」
「そして世界は円で出来ており、無数に世界は縦以外にも
存在する……」
「故に世界に存在する風や水、火、諸々と言った力の根源を
理解し、その力と深く干渉でき、その力とるという事なのだ」
「魔物と言われる存在は、お前達の住む世界より上の存在
で、お前達が本来使う力や能力より上の力を使う事が出来る」
「稀にお前達の世界の人間にも居るが、お前達の言葉で言う
魔法と言った所か」
「雑念が少ない虫や動物はその力を持つ者も多いな」
「今はまだ裂け目と呼ぶ穴は小さい、お前達の住む世界の
人間は己が住む世界にのみ目を向け、その異なる世界を
人間自身が干渉を避け、否定することにより、その世界もまた
己らに干渉する事を避けておるな……」
「人は力に頼り自然に感謝せず、個々の利益のみを追求し続けた……
個の欲望は人民の数だけ膨れ上がり大勢の欲望は少数の
理に生きる者を迫害する」
「与えられた命の在り方を軽視するが故の結果が
命を生み出した世界への破壊に繋がっておる」
「木々は語る事をやめ、人は争いに明け暮れ
その意思はやがて個々の命ではなく、大勢の命をも
己の意思関係なく奪い合う戦争へと発展する」
「今は理解出来ぬであろうこの言葉を感じれる様になった時
どの階層世界も平和が訪れるであろう」
「そして今、階層世界全体の未来を揺るがす危険が今
起こりつつある階層世界の隔たりへの破壊である」
「いつか、こういった者が出るであろうとは予測は出来たがな」
「我ら、狭間に住む物はその裂け目を今は何とか進行を
遅らせてはいるももの裂け目は日々大きくなりつつある」
「それにより各世界に本来いるべき場所では無い物が行き来
する様に なっておる。我らは世界の均衡を守る者
お前の世界はお前達が守るのだ」
「そしてこの世界を作った絶対的存在もまた存在する、
しかし 我を含め、お前達に直接力を貸す事は出来ぬ、
それもまた均衡を破る事にもなるのだ」
「世界がその均衡を破り滅びるも慢心や堕落に落ちて滅ぶのも
またお前達自身が決めるものでもある」
「我等お前達求める者に、可能性のある者達に
道を正す力への道に誘おう……」
「我等も含め絶対的存在も、お前達の中に理の中に生きる者達が
いる限り滅亡を望んではいないのだ……」
「既に各世界の均衡が崩れ出している。
お前はお前の世界を守る事が均衡を守る事にも繋がる」
そう言うとヌクは、てるてる坊主にも似た人形の一つを
手に取り首の紐を解いた。
「行けリアムよ、物事には順序という物が有る。
お前は先ず世界を人を見聞きし、自分の中にある
元々、宿る力に目覚めるのだ、どの力に目覚めるかもお前次第
お前が望む力を手に入れるのだ」
「この人形に込めたる世界の狭間の鍵となる力が
お前を必要な世界へと誘うであろう」
「文化も歴史も異なる異世界で、お前が其れを掴み取れるかも
そう……全てはお前次第だ」
「その世界が、お前の存在を認めれば、その世界に存在する
命の源が集まり、その世界へ干渉出来る肉体の
一部を構成するだろう」
「全て身体を取り戻した時、お前は本来あるべき
世界へと肉体を取り戻す」
「諦めればお前の体は、どの世界にも存在しない者として
消えゆくのだ」
リアムの体が徐々に消え意識が遠ざかる中
ヌクの言葉だけが脳へと直接聞こえてくる不思議な感覚の中
リアムは別世界へと旅立ったのであった……
※ 日本にも多層世界に似た概念はある。
天上界、人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界
六道輪廻のそれである。
時間概念においてもスピードが早いものは時間の
流れが遅くなるという相対性理論の考えからも
存在するものかもしれない
人が放つ言葉の受け取り方が違うように、個人の頭の中にある
世界もまた一人一人違い、同じものは無い。
物の考え方や捉え方、多方面に分岐を繰り返す世界の違いは
現実にも人の数だけあると言って間違いは無いと感じる。
《もしあるかも知れない世界》の考え方において、
見に見える物や見えないものは確かに存在する。
物質社会においても、その世界は存在している。
宇宙の中にも人の中にも、微生物や過去、未来といった
時間概念の中にも……
貴方が描いている頭の中の世界も本当は現実に
無数にあるかも知れない。
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