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第3章
優しさとは
しおりを挟む意識を取り戻すリアム……
そして其処は、どこかの小さな町の真ん中であった。
小さいながら賑わいを見せる町の風景に彼はしばし呆然とする。
彼自身、自分の姿が最早、人からは異形の姿に見える事を理解
していた彼は自分を怖がらない風景に驚いていた。
すれ違う人の群れ、所々で談笑をする婦人達
婦人の横をすり抜けるかの様に子供達が走ってリアムに
向かってきた時に、彼は今の自分の状態に気が付いた。
誰もリアム本人を見ていない事に……
彼は長い幽閉により、人に恐怖を感じる様になっていた。
ムウ一家の様に優しく接してくれる人は、容易くは居ない
城下町での出来事に子供ですら恐怖を感じるリアムであった。
彼は、恐る恐る側にいた林檎を売る店主に話しかけてみる
リアム「あの……此処は何という町なのでずか?」
店主「……」
目の前に居るリアムの問いに応えようともしない店主
リアム「ずいませ……」
その言葉を遮るかの様にーー
店主「そこの奥さんっ!今日のリンゴは採れたてで甘いよ!」
ふとリアムは店主の顔に手をかざし、視界を遮って見た。
店主は彼の手で遮っているにも関わらず
売れたリンゴを袋に詰め入れた。
そう、彼等にリアムは見えてはいなかったのだ……
動揺するもリアムは人と接することが出来ない状態に
安堵する気持ちもあった。
ふと視線を感じ横を見ると、一人の十歳位の男の子
がリアムの方をジッ……と見つめていた
驚いて躓くリアムに少年は笑った
リアム「おま……え……おれの事が見えるのか?」
少年「お兄さん、なんで仮面被ってるの?ひょっとしてお化け
なの?僕たまに他の人が見えない物、見えちゃうんだ」
「普段は見えないフリするんだけど、お兄ちゃんからは
怖いお化けの独特の色が見えないから」
リアム「色?おまえ……人に色が見えるののか」
少年「うん、怒ってる人は赤、落ち込んでる人は青、悪い事
考える人は黒、の色が煙みたいに体の周りから出てるんだ」
リアム「おまえ……凄いな……おでの色、良かったら教えて
くれ……ないか?」
少年「お兄さんの色はね……光が強すぎて見えないんだ実は……
僕もそういう人初めてだけど仮面被ってても
優しそうだから大丈夫かな?て思ったの」
「 でも感情は分かるよ、とても不思議そうな靄が出てるから
それに凄く困惑しているでしょ?
この町は初めてなの?」
リアム「うん、気が付いたらさっきの場所に立ってた……」
少年「あぁ、お兄さん落ち人なんだね、前もそう言ってた
お兄さんがこの町に来てたよ、凄い弱そうだけど面白くて
僕一杯遊んでもらったんだ!」
ヌクが言っていたソレか…私もその内の一人なのか……
少年「良かったら……町の外れに、僕の家があるからおいでよ」
冷たい視線が少年に向けられる……町人を見ると
少年を気持ち悪そうに見ていた
町の女「また、あの子独り言、囁いてるわよ……気持ち悪い……
本当に化け物が見えているのかしら?」
町の男「最近、噂になってる化け物の話、知ってるか?
町の外で毎日、人が拐われているらしい。
犯人はカエルの頭を持つ大男だと、聞いた事がある」
町の女「何それ?気持ち悪いたら、ありゃしない……あの子
確か町の外の外れにある、汚い小屋に住んでる子でしょ?
あの子が化け物を呼び込んでるんじゃない?」
町の男「確かにあり得る話だな、あいつの親は昔この町で
司祭様に逆らった奴の息子だろ?
確か……祟りで、町外れにある池で溺れたって聞いたぞ」
町の女「それだけじゃ無いわよ、身体中イボイボだらけだった
らしいわよ、この町の川にもいる毒ガエルの粘液が付着すると
そうなるじゃない……あんな身体中イボがあるなんて
おかしいわよ、噂のカエル男の仕業さ、きっと」
一人の女が警備兵に声を掛け、何か少年を指さしてヒソヒソ話
をしていた……
悪意の空気が気になったリアムは、少年の誘いに乗り事にした。
リアムは少年の後を付いて行く、少年は大人の悪意を気にも
留める事無く、鼻歌を歌いながら自宅へと向かった。
少年の自宅に着いたリアムに水を差し出す少年
「何も無くてゴメンね、親が居なくて少し貧乏なんだ、でも
雨風は凌げるから、此処で休んで行きなよ」
「僕も夜ちょっとだけ寂しいからさ」
その屈託のない笑顔にリアムは妹のモアを思い出す
リアム「町で噂を聞いた……おまえ、おと……う様、池で……」
少年「うん、でも僕お父さん信じてるからさ……
それに家族の僕がお父さんの事、信じてあげなきゃねっ!
あ、そうそう……僕の名はネロだよ」
2人は自己紹介を済ませ、リアムは今、自分が実態の無い存在
と言う事も話した、ネロは元々、そういう物が見える事から
怖がる事もなくリアムに接した。
それが嬉しかったリアムは少年と1日中話し込むのであった。
そして楽しいひと時は、あっと言う間に過ぎ、朝を迎えた。
少年は毎日の仕事で町の外れにある馬小屋での仕事に行った
それを見届け、町の噂が気になったリアムは、少年の害に
なるかも知れぬ存在、カエル男の事を調べに1人池へと向かった
森の先にある池迄の道のりは、#鬱蒼____#とした湿度の高い
密林の様な場所にあった。
道のりは町から3時間半程、途中険しい獣道もあり、町からは
さほど遠くは無いが、好んで人が通るとは言えぬ場所に池は
存在する。
リアムがまず目にしたのが池とは思えぬ程に透き通った美しい
淡水に土手の周りは生き物が生活するには多過ぎず、適度な
草木が生え、澄み切った淡水には魚が優雅に泳ぐ姿が映る。
想像していた町人からの噂の池とは思えぬ美しさにしばし
目を奪われるリアム……
風の音が少し変わり鳥の声がピタリと止まる……
リアムはその変化に神経を研ぎ澄ませる……
この世界に存在はしない筈のリアムではあったが、少年の様に
見える物や、化け物、怪物と言われる者、異世界の落ち人と
数多くの存在がいる以上、この姿でも油断は出来ない。
小枝が折れる音がしたその瞬間、リアムの背後から
黒ずくめの噂の男らしき者が背中に飛びかかる。
しかしリアムとその男の身体はぶつかる事無く、すり抜けた。
黒ずくめの男は振り返り、リアムの方をジッと見つめる……
リアムもまた男の方から視線を背ける事無く警戒を解かない。
黒ずくめの男は被っていたフードを取りリアムの方へと
スタスタ歩いてきた、
「おっと失礼しました。貴方、この世界の者ではありませんね?
なら池の水に毒を入れる事も出来ない訳で……
いやはや、私の勘違いで貴公に怪我を負わす所でした。
非礼を心よりお詫びします……」
深々と頭を下げる男はまさしく、カエルの顔を
持つ生き物であった。
リアム「いい、いい……此処は君の住処なのかい?勝手に
踏み込んだ俺が悪かった……この通り、御免なさい」
リアムも彼に敬意を評し深々と頭を下げる。
「実は俺が今、世話になる少年がいて、その少年が……
言いにくい……が、カエルの頭を持つ怪物と繋がりがあって
カエルと少年が結託し悪さすると聞いた
もので調べに来た……と言う次第なのです」
「……その少年、私仲良いですよ?」
「私の話を信じるかは貴方次第でしょう、先に言っておきます」
「生きる者は全て自分が良い様に話を変えるか、
着色をしてしまうモノです」
「片側の話を聞いて物事を全て判断するのは危険というもの
状況や緊急性のある時、貴方はその心で善悪を判断しなければ
なりません……私はこう見えても化け物と言われる存在の一つ
人の寿命より何倍も長生き出来るのです。」
「長く生きた私の人生の今が貴方の善悪にどう映るか
お互いが、確立した個人の善悪が受け入れられない時は、互いの
正義を賭けて戦いましょう」
「あ…実態が無かったのですね、いやはや申し訳無い」
不思議な雰囲気を持つカエル男に戸惑うリアムではあったが
悪い事をする様には見えなかった。
「カエル男「確かに少年とは仲が良いですよ、彼は私達の様な
人でない物も恐れる所か近ずいて来ますからね」
「まぁ簡単に説明致しますと、この池の主をさせて
いただいておりますハグロと申します。
そしてこの池に人間が毒を入れ、私の住処を
汚したので御座います」
「私がこの町を守るために、あるモノと戦っている隙に……
ネロはこの池に大事な思い出があるそうで、池の浄化の手伝いを
自ら進んで手伝って頂いた次第であります」
「あの町は今、魔物に狙われておりますが、私には戦闘能力は
人間達と変わりはしないが、私を育て育んでくれた彼らの先祖の
礼に従い守護しております次第で御座います」
リアム「その魔物ってどんな奴でずか?強いんです……か?」
ハグロ「えぇ強いですよ、今は私の結界で力を弱めて
おる次第ですが何やら、魔物と言う者は人間の悪意に反応して
力を増していくようで、正直申しますと……」
「この町、持って後二日、と言った所で御座います」
「貴方も町人に感じておられたでしょう、先祖の礼を忘れ、人は
人を疑い、誰かが誰かを差別や中傷しないと自我を保てない程
淀んだ空気に、昔は溜まった邪気をこの池に崇拝することにより
私が浄化出来たのですが……」
「最早、参拝に来る者も居らず、溜まった邪気は既に私の手に
余る位にに肥大化しております」
「特にあの町の町長、ネロの父親をも……
ネロの父親は前町長でありました、現町長は彼の母親に目を付け
ておりました、当然、その想いは受け入れられる事はなく
遂には最後にはネロを残し2人を……」
「ネロはその事を知っています。しかし常にあの明るい笑顔を
絶やしません、しかし悲しんでばかりいる事は出来ません
町長を含め彼を邪魔者扱いする者はあの町には多い」
「まぁ私達の様な物と話す子など人間の器量の小さな者
からしたら不気味なのでしょう」
「あの魔物の存在に一番に気づいたのは、ネロなんですよ
それでもまだ子供、力の無い彼は馬屋での仕事で稼いだお金で
解毒剤を買い、毎夜この池にその薬を撒くのですよ」
「力の無い彼は、この池に住む私が町を守護している事に
気が付いていたのでしょう、彼の父との思い出も含め、池を
浄化する事が、私の力となると信じているのでしょう」
「そんな薬、浄化には役には立たないのに……
正直、解毒剤自体も池の毒になりますから、私の仕事が
増えるだけなんですがね」
「しかし私自身、あの町を見限っていたのですがね
あの町が滅び私もまた、池と運命を共にしようと
しかしあの少年を見た時に私は、あの少年が愛するこの町を
守ろうと決めた次第であります」
「彼が行った解毒剤は意味はありませんでしたが、彼の行為
は結果、今、村を守っている訳なんですがね」
「私、人の道はわかりませんが、元凶はあの町長に有ります
あの町長には消えていただく所存で活動しております」
「さぁ全ては話しました、貴方は人を殺めようとする私を悪と
見なし私と敵対するか、それとも時の傍観者としてこの町の
最後を見届けるのか、さぁリアム様、貴方の答えはいかに」
リアム「俺も人だが人の醜悪さは、わかってるつもりだ
しかし……それを見過ごすか傍観するかも今の俺には……」
「覚えておきなさい、傍観者は何もしないのと同じと成り下がる
事もある事を、事が大きくなるまで傍観者だった私も同様
偉そうな事は言えませんが、貴方の人生は貴方だけのもの
見ず知らずの町や数刻過ごし、時が来れば忘れてしまう
人間の為に命をかける事もまた
正解かは私にはわかりかねます」
「しかし私の邪魔をするというなら、私は貴方に
実態が無かろうが、あろうが、私はあらゆる知恵を駆使し
貴方と敵対する存在となる事は理解していただきたい
では、この場は失礼致しまする」
ハグロはフードを被りその場から足早に去った
人が人を殺めようとする……
それを止める為に、人が人を裁いたり……
また、それを阻止する為に殺めあう現状……
リアムは事の重大さを理解して尚、尊厳する命に人だから
と言う矛盾さに混乱した。
命に格差や重さの違いがあるのだろうか?
果たして、それを図る基準は何なのか
優しさは何なのか……
優しさはソレを図る基準と成り得るのか
悪意はそれよりも軽いのか……
お金がある様な商人の方が、何も持ち合わせてはいない
奴隷の命の方が軽いのか……
優しさは損をしやすく悪は得をしやすい……
頭の中に倫理や正義の定義を確立出来ないリアムは自分の
行動に迷う……
その夜はリアムはネロの家に帰ることは無かった
池のほとりで月明かりの中、必死に自分のまだ少ない人生を
振り返り、その答えのない答えを探していた。
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